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別れ
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メイドカフェを出てから、色々な店に入った。
表通りにある大きなゲームショップやグッズ専門店はもちろん、裏通りにある中古ショップや家電量販店など、一人ではけっして足を運ばない店も見て回った。
誰かと巡る秋葉原がこれほど楽しいとは思いもしなかった。パソコンの部品や知らない作品のグッズを見ているだけでも、他愛のない話が生じてその度僕らは声を上げて笑った。
一通り店を見終えた後、リズムゲームがしたいと提案した結果、解散するまでの時間をゲームセンターで潰すことになった。駅から一番近い場所にあるゲームセンターに足を運んだ僕たちは、様々なゲームをして楽しんだ。二人ともそれほどうまくはなかったが、スコアを競い合って一喜一憂するだけでも十分に楽しめた。
螺旋状の真っ赤な階段を降り、ゲームセンターを後にする。休むことなくゲームをやり続けていたせいか、指先や肩の付け根がヒリヒリと痛んだ。
「……楽しかったですね」
「うん」
気がつけば、空は真っ赤に染まっていた。
空を飛ぶカラスが、人々を見下ろして鳴いている。高架鉄道が秋葉原を出発して、次の駅へとたくさんの人々を運んでいった。
「信号、間に合わなそうですね」
高架下の信号がチカチカと点滅して、歩行者を急かす。横断歩道を駆け抜ける人もいれば、悠長に周囲を見回して歩いている人もいた。
僕たちは横並びになって、信号機の色が変わるのを待った。
右側を見上げると、凛とした表情で正面を見つめるハルカさんの姿がある。
整った顔を見ていると、左瞼の先にうっすらと線が入っているのがわかった。
「どうしたの?」
視線に気がついたハルカさんが、僕を見て言った。
「何でもないですよ」
「変なの」
会話が終わると、僕たちはそれぞれ別の信号機に目線を移した。ハルカさんが正面の信号機を、僕が左側にある信号機を見ている。視線の先にある信号機が青いランプを点滅させて、横断中止の合図をした。
「色、変わったよ」
ハルカさんが僕の肩を叩いた。
数え切れないほどの人々が一斉に足を踏み出して、横断歩道を渡る。栓が抜かれて流れ込む水のように、向かい側の通りへと歩いていった。
ハルカさんは僕とは違って人混みに飲み込まれることもなく、飄々とした様子でゆっくりと進んでいた。行く手を阻むものは一人もおらず、前を歩く人たちはみんな道を開けた。
横断歩道を渡って左折すると、すぐさま駅が目に入った。視界の左側には、安値を掲げた看板を手にした男性が客引きをする様子があった。この時間になると、あの店は必ずセールをやっているらしい。以前、一人で秋葉原に来た時も、同じ看板を持って声を張り上げる男性の姿を見たことがあった。
黒い街灯が、駅の改札に繋がる道を照らしている。街灯には、金髪の女性が描かれたゲームアプリのポスターがぶら下がっていた。広告を見ても反応しないことから、ハルカさんがそのゲームに詳しくないことがわかった。
言葉を交わすこともなく、つま先から伸びる自分の影を追うように道を進んだ。ハルカさんと僕とでは、影の大きさが頭一つ分違っている。
デパートの裏口を過ぎると、アイドルカフェが視界に入った。リュックを背負った男性二人組が、店の壁に設置されたメニュー表を見ながら話している。僕自身はアイドルに詳しくなかったが、二人が趣味を通じて楽しげに会話するその横顔は僕たちと重なる部分があった。
店を正面に右に曲がると、駅の改札にたどり着いた。
「またね」
ハルカさんが立ち止まる。
「帰らないんですか?」
改札を通るそぶりを見せず、背中を向けたハルカさんに疑問を投げかけた。
「行かなきゃいけない所があるんだよね」
顔だけこちらに向けて、ハルカさんが言った。
「……そうですか」
小さく笑顔を作ったが、内心、寂しい気持ちでいっぱいだった。くだらない世間話をもっとしたいと思えたのはいつぶりだろうか。過ぎ去った時間を思い返すと、笑顔で話す過去の自分が羨ましく思える。
クラスメイトたちとは違って、ハルカさんといる時は心から会話を楽しむことができた。他愛もない話で盛り上がっているうちに、自身の心が開いていったのがわかった。メイドカフェに行くまで他人行儀だったものの、リズムゲームをやる時には冗談を言い合える仲になっていた。
表通りにある大きなゲームショップやグッズ専門店はもちろん、裏通りにある中古ショップや家電量販店など、一人ではけっして足を運ばない店も見て回った。
誰かと巡る秋葉原がこれほど楽しいとは思いもしなかった。パソコンの部品や知らない作品のグッズを見ているだけでも、他愛のない話が生じてその度僕らは声を上げて笑った。
一通り店を見終えた後、リズムゲームがしたいと提案した結果、解散するまでの時間をゲームセンターで潰すことになった。駅から一番近い場所にあるゲームセンターに足を運んだ僕たちは、様々なゲームをして楽しんだ。二人ともそれほどうまくはなかったが、スコアを競い合って一喜一憂するだけでも十分に楽しめた。
螺旋状の真っ赤な階段を降り、ゲームセンターを後にする。休むことなくゲームをやり続けていたせいか、指先や肩の付け根がヒリヒリと痛んだ。
「……楽しかったですね」
「うん」
気がつけば、空は真っ赤に染まっていた。
空を飛ぶカラスが、人々を見下ろして鳴いている。高架鉄道が秋葉原を出発して、次の駅へとたくさんの人々を運んでいった。
「信号、間に合わなそうですね」
高架下の信号がチカチカと点滅して、歩行者を急かす。横断歩道を駆け抜ける人もいれば、悠長に周囲を見回して歩いている人もいた。
僕たちは横並びになって、信号機の色が変わるのを待った。
右側を見上げると、凛とした表情で正面を見つめるハルカさんの姿がある。
整った顔を見ていると、左瞼の先にうっすらと線が入っているのがわかった。
「どうしたの?」
視線に気がついたハルカさんが、僕を見て言った。
「何でもないですよ」
「変なの」
会話が終わると、僕たちはそれぞれ別の信号機に目線を移した。ハルカさんが正面の信号機を、僕が左側にある信号機を見ている。視線の先にある信号機が青いランプを点滅させて、横断中止の合図をした。
「色、変わったよ」
ハルカさんが僕の肩を叩いた。
数え切れないほどの人々が一斉に足を踏み出して、横断歩道を渡る。栓が抜かれて流れ込む水のように、向かい側の通りへと歩いていった。
ハルカさんは僕とは違って人混みに飲み込まれることもなく、飄々とした様子でゆっくりと進んでいた。行く手を阻むものは一人もおらず、前を歩く人たちはみんな道を開けた。
横断歩道を渡って左折すると、すぐさま駅が目に入った。視界の左側には、安値を掲げた看板を手にした男性が客引きをする様子があった。この時間になると、あの店は必ずセールをやっているらしい。以前、一人で秋葉原に来た時も、同じ看板を持って声を張り上げる男性の姿を見たことがあった。
黒い街灯が、駅の改札に繋がる道を照らしている。街灯には、金髪の女性が描かれたゲームアプリのポスターがぶら下がっていた。広告を見ても反応しないことから、ハルカさんがそのゲームに詳しくないことがわかった。
言葉を交わすこともなく、つま先から伸びる自分の影を追うように道を進んだ。ハルカさんと僕とでは、影の大きさが頭一つ分違っている。
デパートの裏口を過ぎると、アイドルカフェが視界に入った。リュックを背負った男性二人組が、店の壁に設置されたメニュー表を見ながら話している。僕自身はアイドルに詳しくなかったが、二人が趣味を通じて楽しげに会話するその横顔は僕たちと重なる部分があった。
店を正面に右に曲がると、駅の改札にたどり着いた。
「またね」
ハルカさんが立ち止まる。
「帰らないんですか?」
改札を通るそぶりを見せず、背中を向けたハルカさんに疑問を投げかけた。
「行かなきゃいけない所があるんだよね」
顔だけこちらに向けて、ハルカさんが言った。
「……そうですか」
小さく笑顔を作ったが、内心、寂しい気持ちでいっぱいだった。くだらない世間話をもっとしたいと思えたのはいつぶりだろうか。過ぎ去った時間を思い返すと、笑顔で話す過去の自分が羨ましく思える。
クラスメイトたちとは違って、ハルカさんといる時は心から会話を楽しむことができた。他愛もない話で盛り上がっているうちに、自身の心が開いていったのがわかった。メイドカフェに行くまで他人行儀だったものの、リズムゲームをやる時には冗談を言い合える仲になっていた。
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