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隠された思い
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店の中は、たくさんの人でごった返している。入り口付近には、四月から放送されているアニメのポスターが張り出されていた。その作品のファンの人たちが、スマートフォンを構えて写真を撮っている。
中に入り、人混みをかき分けてエレベーターへと向かう。七階建てのこの店は、フロアごとに扱っている商品が分けられていた。
「三階だね」
ハルカさんがボタンを押して、エレベーターの現在の位置を確認する。三階で止まっていたエレベーターが、一階へと向けて降っている。
「階段の方が早かったかもね」
背後をチラリと見て、ハルカさんが笑いながら言った。広告でびっしりと埋め尽くされた狭い階段は、それほど人が行き来している様子はない。待っている時間で、三階までたどり着くことができただろう。
「そうですね」
目を合わせることもせずに返答をして小さく笑う。
緊張してしまって、無難な返答しかできない。会話はラリーのように続くことはなく、ハルカさんが投げかけた質問や話題に僕が応じる形で成り立っていた。
エレベーターが到着すると、中から二人組の女性が姿を見せた。二人は僕たちの隣を通り過ぎた後、こちらに聞こえるくらいの大きな声で「今の人、めちゃくちゃイケメンだったね」と黄色い声を発して盛り上がっていた。
ハルカさんが困ったような表情を見せて、エレベーターに乗り込む。操作盤の前に立ち、ボタンを押して他の人たちが乗り込むのを待っていた。
「何階ですか?」
小さな顔を左に向けて、ハルカさんが乗り込んできた三人組の男性に声をかける。三人のうちの一人が「六階です」と小声で言うと、小さく頷いて六階のボタンを指先でそっと押した。
扉が閉まり、エレベーターが音を立てて上昇していく。乗り込んだ五人は誰一人口を開くことをせずに、目的のフロアにたどり着くのをじっと待っていた。
「どうぞ」
動きが止まって扉が開くと、ハルカさんがボタンを押して僕を見た。ホテルマンのように左手を外に向けて降りるのを待っている。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
会釈しながらハルカさんの横を通り、エレベーターを後にする。売り場に出ると、漫画や雑誌を手にして首を捻る人たちの姿が視界に入ってきた。近くのレジでは、指定のエプロンを身につけた店員が二人、会計をしている。
「やっぱりいいな、ここの雰囲気」
ハルカさんは祭りの屋台を眺める子供のように、棚に並ぶ本に目を通していった。
この店の雰囲気がいいと言うのは、なんとなく理解できる気がした。
同じ趣味を持つ人々が、それぞれ違った形で作品を愛して応援している。好みの作品は違えども、この場所にいる人々は皆オタクなのだ。嘘偽りなく作品を楽しむ姿は、アニメ文化そのものを堪能しているようにも感じられる。
「あ、これ」
ハルカさんが立ち止まり、一番上の棚から漫画を一冊取り出した。表紙には、マイクを手にした瞳の大きな女の子が描かれている。出版社を見るに、少女漫画のようだ。
「面白いんですか?」
表紙を眺めるハルカさんに視線を向けて質問をする。僕からハルカさんに投げかけた初めての質問だった。
「……うん。すごく面白くていい漫画だよ」
「そうなんですね」
少女漫画についての知識がなかった僕は、普段見る絵とまったく別の描き方がなされたその表紙を見ながら頷くことしかできなかった。露骨に描かれた大きな瞳や明るめの背景トーンは、少年誌ばかり読んでいる僕にはどこか不安を感じさせる要素になっていた。
それでも、数々の少女漫画を読んできたハルカさんが評価している以上、この作品には何か特別なものがあるのだろう。
「……この本には本当に助けられた」
険しい表情を見せて、漫画を棚に戻しながら呟く。はっきりと聞き取ることができたものの、かける言葉が思いつくことはなかった。整った横顔を見ながら、ハルカさんが発した言葉の裏に隠れている過去を予測することしかできない。
中に入り、人混みをかき分けてエレベーターへと向かう。七階建てのこの店は、フロアごとに扱っている商品が分けられていた。
「三階だね」
ハルカさんがボタンを押して、エレベーターの現在の位置を確認する。三階で止まっていたエレベーターが、一階へと向けて降っている。
「階段の方が早かったかもね」
背後をチラリと見て、ハルカさんが笑いながら言った。広告でびっしりと埋め尽くされた狭い階段は、それほど人が行き来している様子はない。待っている時間で、三階までたどり着くことができただろう。
「そうですね」
目を合わせることもせずに返答をして小さく笑う。
緊張してしまって、無難な返答しかできない。会話はラリーのように続くことはなく、ハルカさんが投げかけた質問や話題に僕が応じる形で成り立っていた。
エレベーターが到着すると、中から二人組の女性が姿を見せた。二人は僕たちの隣を通り過ぎた後、こちらに聞こえるくらいの大きな声で「今の人、めちゃくちゃイケメンだったね」と黄色い声を発して盛り上がっていた。
ハルカさんが困ったような表情を見せて、エレベーターに乗り込む。操作盤の前に立ち、ボタンを押して他の人たちが乗り込むのを待っていた。
「何階ですか?」
小さな顔を左に向けて、ハルカさんが乗り込んできた三人組の男性に声をかける。三人のうちの一人が「六階です」と小声で言うと、小さく頷いて六階のボタンを指先でそっと押した。
扉が閉まり、エレベーターが音を立てて上昇していく。乗り込んだ五人は誰一人口を開くことをせずに、目的のフロアにたどり着くのをじっと待っていた。
「どうぞ」
動きが止まって扉が開くと、ハルカさんがボタンを押して僕を見た。ホテルマンのように左手を外に向けて降りるのを待っている。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
会釈しながらハルカさんの横を通り、エレベーターを後にする。売り場に出ると、漫画や雑誌を手にして首を捻る人たちの姿が視界に入ってきた。近くのレジでは、指定のエプロンを身につけた店員が二人、会計をしている。
「やっぱりいいな、ここの雰囲気」
ハルカさんは祭りの屋台を眺める子供のように、棚に並ぶ本に目を通していった。
この店の雰囲気がいいと言うのは、なんとなく理解できる気がした。
同じ趣味を持つ人々が、それぞれ違った形で作品を愛して応援している。好みの作品は違えども、この場所にいる人々は皆オタクなのだ。嘘偽りなく作品を楽しむ姿は、アニメ文化そのものを堪能しているようにも感じられる。
「あ、これ」
ハルカさんが立ち止まり、一番上の棚から漫画を一冊取り出した。表紙には、マイクを手にした瞳の大きな女の子が描かれている。出版社を見るに、少女漫画のようだ。
「面白いんですか?」
表紙を眺めるハルカさんに視線を向けて質問をする。僕からハルカさんに投げかけた初めての質問だった。
「……うん。すごく面白くていい漫画だよ」
「そうなんですね」
少女漫画についての知識がなかった僕は、普段見る絵とまったく別の描き方がなされたその表紙を見ながら頷くことしかできなかった。露骨に描かれた大きな瞳や明るめの背景トーンは、少年誌ばかり読んでいる僕にはどこか不安を感じさせる要素になっていた。
それでも、数々の少女漫画を読んできたハルカさんが評価している以上、この作品には何か特別なものがあるのだろう。
「……この本には本当に助けられた」
険しい表情を見せて、漫画を棚に戻しながら呟く。はっきりと聞き取ることができたものの、かける言葉が思いつくことはなかった。整った横顔を見ながら、ハルカさんが発した言葉の裏に隠れている過去を予測することしかできない。
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