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第四章 海底の真相
57.ギャラリー
しおりを挟む「思い出した……。ふたりでよくした遊びのこと。すべて覚えてたなんて嘘だ。……忘れてた。僕らはうそぶいてばかりで、たわむれに死にたがる子供だったから、よく、遺書を書いては贈りあった。冗談みたいに。冗談のつもりで。なあ、それが、君の本心だなんて、一度だって信じられたら……!」
未鳴がつぶやき、暗い画面に光が宿る。
永劫に続きそうなほど長いローディングをぬけて、あるアカウントのホーム画面にたどりついた。トップの名義には〈叶鳴〉とだけ示されている。
投稿欄をスクロールしていくと、水泡が浮かび、弾けては消えていく。
群れをなして泳ぎ去っていく魚影のように、サムネイル画像がいくつもたちあらわれ、海中で隊列を組んで躍りでてきた。
ギャラリーだ。祐城叶鳴が、海底に隠した秘密の画廊。
絵のなかに描かれていたのは、どれも制服を着た少女だった。あきらにも見覚えがある。不機嫌そうな顔をして、写真にうつっていた彼女。この画廊の主にかかると、笑ったり、驚いたり、悲しそうだったり、あどけない表情ばかり見せてくれる。百面相の少女の面影は、唖然としたまま画面を覗きこむ未鳴の横顔にぴたりと重なった。
投稿欄の最終更新日は、去年の二月だった。
「ねえ、未鳴。想いは透明なまま、心の海に沈んで、静かに変化していくのかもしれない。でもきっと、目撃者だっていたんだ。私には……ここに残された絵のすべてが、どんな言葉よりもたしかな証人たちに見える」
控えめに声をかける。
未鳴の頬にはいつの間にか、宝石のような雫がつたっていた。
「僕が……僕であることを忘れて、あの子以外のだれかを好きになれたらよかったのか?」
わなわなと震える腕が、頼りない両の手が、素顔を覆って隠してしまう。
「そうしたら対等な生き物になれたって? なあ、ヒトの存在が代替しがたい奇跡の結果なら、代わりなんていない。居て欲しくもない。どれだけ想っても、あの子はもういない」
静寂のなかで嗚咽をこぼしながら、未鳴が泣いていた。
部屋は薄暗く、窓からさしこむ日差しは弱く頼りない。
町は夜をむかえる準備に忙しく、とうに日没が迫っていた。
「……大人でも泣くんだ」
「うん…………良かった。あの子がいなくなっても泣けなかったから。もう枯れたのかと思ってた」
「いまも叶鳴さんが好き?」
尋ねてから、後悔した。返事はわかりきっている。
「…………好きだよ。きっと生涯」
たぶん、そのひとが優しく告げたことを、あきらは生涯忘れないのだろう、と。
そのときたしかにそう思った。
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