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第三章 瑞凪少女誘拐事件
28.ヒミツ
しおりを挟むネモ:なるほど。それはやりすぎだね!
アキラ:やっぱりか……。
深夜――。〈テラリウム〉の底。
チャットルームでネモに相談をもちかけると、返事は明快だった。美術部部長としては失格だとは思いつつ、学校での出来事についてだれかに懺悔がしたくなったのだ。
真木を傷つけたかったわけじゃない。ただ、立場がある。あきらには部の運営に責任があり、部員同士のいさかいで、居心地の悪い場所にするのは不本意だ。
部活動にトラブルはつきものだ。美術部だって例外ではなく、去年は綱渡りだった。プライドが高くて我が道をすすむ夏織と、頑として正道を信じるあきらとでは、衝突は避けられなかったのだ。一年生の頃は、ぶつかってばかりだった。
大(おお)事(ごと)にならなかったのは、部長の乙戸辺の仲裁が適切だったからだ。原色の絵具に柔かなニュアンスを加味する画用液みたいに、中和してくれた。
自分にもできるはずだと信じたのは、思い上がりだったのだろうか。
アキラ:私、傲慢かな。Mの触れられたくない秘密に近づきすぎてるのかも。
ネモ:ははぁ、いかにも繊細な悩みだなぁ
アキラ:ネモなら。打ち明けられないことで、悩むことってない?
ネモ:僕かぁ……。そうだな、まあ、あるにはあるか
アキラ:Mの、打ち明けられないことって、なんだろう。
ネモ:どうしようもない現実の、どうしようもない真実
ネモ:ってとこだろうね。推察するに、おそらく。メイビー
それならあきらにもわかるような気がする。
両親の離婚事情や父子家庭の寂しさを、だれかにすなおに伝えられるほど器用じゃない。自分の中にある埋まらない空白に対して、なにかを描き続けることだけが応えてくれるはずだと、そう信じてもいる。
きっと同じように、真木にも事情があるのだろう。そうやって忖度ができるかぎり、いまは待ちたい。
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