妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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七つの悪と深紅の姫

七つの悪と深紅の姫Ⅵ

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『任せてください、必ず麗夜の元に帰らないといけないいけないので』

『マリーのこと、絶対助けて上げなさいよっ!!』

 後ろ眼に亮人達を見送る氷華と燈の視線は再び、目の前のオグレスとヘイグへと向き直る。
 腕に付いた氷を振り払うように動かすオグレスは大きな舌打ちをすると、地面を大きく踏みしめる。足先で地面を掴むように抉り、両腕を大きく振り上げ、地面を叩き割る。

『本当、凄い力ですね』

『馬鹿力っていえばいいのに』

 地面は揺れ、地割れのように二人がいる場所は二つに分断される。
 笑みを浮かべながら、飛び上がる二人は左右へと別れれば、お互いに相手と対峙した。

「私と戦うのはあなたですか…………九尾の妖狐さん」

 深々とお辞儀をするヘイグは徐々に姿を変えて行く。

『姿形は可愛いのに……性格がとても勿体無いですね』

 錫杖を地面へと突き立てる燈は溜息を漏らす。

『私の相手はスライム…………合ってますね?』

「ご明察…………私はスライムを殺し、食べた人間。ジョン・ヘイグと申します。どうぞ、お見知り置きを」

『ここで殺す相手を覚えるつもりはありませんよっ!!』

 九本の尾から放たれる白炎はヘイグへと一直線に飛び、爆発する。地面は溶解し、溶岩のように液状化した地面はボコボコと音を立てる。
 白炎が放たれた場所にいたヘイグは姿を消していた。
 ただ、そこにはなかった物体が揺れながら、溶岩の前から静かに燈へと近づく。
 液体のような姿は姿形を変えて燈の前で人型となって佇む。

「危ないじゃないですか…………急に攻撃されても、こちらとしては準備が整っていないので困ってしまいますよ」

 コートを漆黒のコートを羽織り、汚れを落とす素振りは焦りなど一切感じさせない。
 爛れた顔で笑みを浮かべるヘイグの形相に燈の背中からは冷や汗が流れて行く。

 不気味ですね…………。

 心の奥で小さく呟く燈は錫杖を持つ力を強くし、小狐を召喚する。
 可愛らしくも一級品とも言える防御力を誇る小狐は燈の足元を回り、小さく遠吠えのように鳴いた。

「可愛らしいペットですね。おっとっと、また目が落ちてしまいそうですね」

 左目を押さえるように手で覆うヘイグはそのまま、右手を振り抜いた。
 伸びる右手は蜘蛛の糸と同じくらいの細さになり、燈の首元を狙う。

『同じ攻撃をしても無駄ですよ』

 再び爆炎と白炎を混合させた豪炎はヘイグの右手を吹き飛ばす。

「同じだと思われちゃ…………心外ですよ?」

『っ!!』

 燈の足元、スライムの形状となったヘイグは体を鋭く尖らせ、貫こうとする。
 その時のスライムの水面に浮かぶヘイグの笑みは恍惚とし、興奮していた。

『コンっ!!』

 小狐が身を呈してヘイグの攻撃を止めると同時にヘイグの方向へと爆炎を放ち消滅した。

「自爆狐ってところですか…………それにしても、そそりますね。あなたの驚いた顔…………昔を思い出してしまいますよ。生き返らせたい彼女の表情とそっくりだ」

『生き返らせるって…………どういうこと?』

「言葉の意味、そのままですよ…………死んだものを生き返らせる。それがカーティス様が行おうとしている計画です。何も知らない子供達には関係のない話ですがね」

 ヘイグから距離を取る燈は錫杖を再び力強く地面へと突き立て、小狐を召喚する。
 召喚と同時に、九尾の尾に灯っている淡い炎は消え、灯っている数は六個。

「あなたの小狐も数に限りがあるようですが、大丈夫ですか?」

『大丈夫よ、それまでにあなたを倒すから。それと、マリーはなんで殺されなきゃいけないのか、理由を教えてくれますか?』

「いいでしょう、ここで死ぬんですから教えて差し上げますよ。ヴァンパイアは鍵なんですよ、死者を蘇らせる。カーティス様が言うには、昔から存在する鍵。それを壊すことで死者が蘇るとかなんとか。私としては彼女を蘇らせてくれれば、それだけで構いません。ちゃんと、この手で彼女を殺さないと死ねませんから」

 右手を鋭い剣のように形状変化させ、光沢を眺めるヘイグは頬を綻ばせる。
 狂気じみた笑みと剣を舐めるヘイグの様子は不気味さを増していく。

『彼女を殺すっていうのは…………どういうことですか?』

「そうですねぇ…………話すのは恥ずかしいですが、教えてあげましょう」

 ゆっくりとその場で右往左往しながら饒舌に喋るヘイグは楽しそうに声は高くなる。

「私が大切に思っていた女性がいました。それは片想いです、どうにかして、この恋という気持ちを伝えたいと思ったわけですが、なんとそれを阻むものがいたのです」

 身振り手振りはヘイグが語っている話を気楽に聞かせるように、楽しげに話を進める。時に大きく、時に悲しそうに演劇のような表現をするヘイグは、彼女と会えるのを楽しみにしている学生のように、言葉を弾ませている。

「なんと、彼女には愛しい恋人が居たのでした。なんと恐ろしい事でしょう。このままでは私の初恋は実らずに終わってしまうではありませんか。そんなことは許しがたい…………だから、私は考えたわけです」

 一拍、間を開けて燈の方へと向き直すヘイグの表情は笑みを浮かべていた。

「殺してしまおう、と。簡単なことでした、恋人を誘拐し、自宅に用意して置いた硫酸の中に漬け込む。死体は見つからなければ犯罪ではありませんから。その後は、彼女を慰めるヒーローの誕生です」

 満面の笑みを浮かべるヘイグの声も話す速度も意気揚々とし、息を荒く天井を見つめる。
 口角から垂れでる唾液は地面へと触れると泡を吹き出しながら、地面を溶かしていく。

「それからというもの、彼女の心を癒した私は晴れて付き合うことができました。ただ、それも長くは続きませんでしたが…………」

 ヘイグは自分の変化した右腕を元に戻すと、再び姿を変化させる。水のように地面に水溜りとなったヘイグは人型へと姿を変えていく。だが、それはさっきまでの爛れた姿ではなく、綺麗なブロンドヘアに華奢な体を持った女性となっていた。

「彼女に恋人を殺してしまったことがバレてしまいました…………それも、ちょっとしたきっかけでしたがね。私がこんなに愛しているというのに、今だに恋人のことを思っていると思うだけで、心の奥から彼女への殺意が芽生えてしまいましたよ」

 綺麗な顔つきの美女の笑顔は歪み、右半分の顔は爛れ始める。

「感情が高ぶってしまうと、どうも体が崩れてしまいますね…………」

『自分の能力をコントロールできてない証拠よ、それは』

「まったく、困ってしまいますね。結局のところ、私から逃げ惑う彼女はスライムに殺されてしまったわけですよ。私が殺したかったのに、なんて残酷なことをするスライムなのでしょうか」

 元の姿へと戻るヘイグは右腕を燈へと向ける。
 その形はボウガンのように形状変化を起こし、矢は自動的に装填され、唐突に燈へと放たれる。

『そんな軌道、簡単に避けれますよ』

 体を半身ズラし避ける燈の横を通っていく矢は真っ直ぐに飛んで行き、外れてしまう。

「そうでしょう、貴方にとってこれくらい避けるのは容易いことです…………ですが、こうなったら驚くのではありませんか?」

 小首を傾げ、笑みを浮かべ続けるヘイグは右腕を振り下ろす。
 単純な動き。
 ただ、それは燈にふくらはぎに激痛を走らせた。

「戻ってくるとしたら…………どうなんでしょうか」

 口元を左手で隠しながら、小馬鹿にするように笑うヘイグ。
 視線を自分のふくらはぎへと向ける燈は苦悶の表情を浮かべた。

『硫酸…………』

「よくわかりましたね…………私はカーティス様と一緒にスライムを殺しました。ただ、私も一緒に死にかけたのですよ。スライムと一緒に硫酸の中に入り、スライムの心臓とも言える核を飲み込むことでスライムの能力を得ました」

『吸収した物体の特性を得る…………それがスライムの能力ってことですか』

「ご名答、説明しなくて済むのはありがたいですね。スライムは一般的に弱い印象を持たれますが、決して弱い存在なわけではありません。社会は倒しやすいという印象操作をしているに過ぎません。本物のスライムは強力な妖魔なんですよ」

 付着していた硫酸を白炎で蒸発させ、皮膚も一時的に炎で焼いて止血をする。
 激痛が走る足は膝折れしそうになるも、足を力強く叩き、踏ん張らせた。
 痛みで歪む表情を浮かべる燈を見ているヘイグは再び恍惚と笑みを浮かべ、歩み寄る。

「まるで彼女のようです…………彼女がスライムに殺される瞬間も、同じような苦しみの表情を浮かべていました。なんて、素晴らしい光景なんでしょうか。心の底からゾクゾクしてしまいます」

 両手をボウガンに変えたヘイグは乱発するように燈へと矢を放つ。
 連射される矢は避ける度に方向を変えて、燈を追尾する。何本、何十本と放たれた矢は次第に燈の逃げ道を無くしていく。
 爆炎と白炎を混合させた豪炎で溶かし切ろうとするも、溶かしきれない矢は燈へと突き刺さろうとする。
 小狐はその度に燈を守る為に身を呈して、爆発し消えていく。
 それでも止まない矢は燈を取り囲うように渦巻いていく。
 竜巻の中心にいるかのように、いくら豪炎で吹き飛ばそうも、連射される矢の方が圧倒的に数を増やしていく。

「貴方が苦しむ姿を私に見せてください。復活させる彼女と同じように、苦しみ、踠き、涙を流す姿をっ!! このジョン・ヘイグに見せてくださいっ!!」

 矢の嵐で見えないヘイグの姿だが、高ぶっている感情が聞いて取れる声と同調するように矢が不規則に揺れ動き、互いにぶつかり合う。

『気色が悪い貴方に見せる顔なんて、どこにも持ち合わせてません』

「その強情な所も、彼女にそっくりですっ!!」

 数百と増えた矢は向きを変え、一直線に燈へと降り掛かる。
 豪炎に再び呼び出した五匹の小狐達の防御によって、燈には一つも傷がつくことはなかった。しかし、尾に灯る炎は最後の一つとなってしまう。
 吹き荒れていた矢は全て消え去り、燈の目の前にいるヘイグは人の形を保つことができずに、スライム状に地面に佇んでいた。
 液体の表面に浮かぶヘイグらしき顔は息を荒々しく行い、水面も激しく揺れる。

『やっぱり、能力をコントロールできていないじゃないですか』

 顎へと手をやる燈は溜息を吐くなり、錫杖を地面へと叩きつける。

『貴方は単なる殺人者です。スライムの能力を自分の能力だと勘違いしている、烏滸がましい存在なのはよくわかりました。聞きたい情報も聞けましたので、ここから本気で行かせてもらいますっ!!』

「何を言っているのか、手足も出なかった貴方が私を倒せるはずがありませんよ」

『それは、やってからのお楽しみですね』

 錫杖と共に現れた最後の小狐はヘイグを見ると、燈の後ろへと隠れるように姿を隠し、震えてしまう。
 小刻みに震える姿に手を差し伸べる燈は微笑みながら口にした。

『大丈夫ですよ、私が倒しますし、あなたも一緒に戦ってくれるのを期待してますから』

 羨望の眼差しを向ける小狐はその震えていた小さな体で力強く地面を踏みしめた。一生懸命にも見えるその可愛らしい姿はヘイグと対峙するように姿勢を低く身構える。

「最後の可愛らしい小狐は臆病者で役に立たない様子ですが、大丈夫なんですか?」

『えぇ、凄く優しくて可愛い子なんですよ。ただ、これまでの子と違って物凄く強いので、安心してください』

「それは期待ができますね」

 その言葉がヘイグから紡がれると同時に変化は訪れる。
 ヘイグへ身構えていた小狐は急速に大きくなり、剥き出しとなった犬歯から滴る唾液と大地を揺るがすような唸り声は、さっきまでの可愛らしい姿ではなくなっていた。
 そこにいるのは凶暴な妖狐だった。
 血走った眼で睨まれるヘイグは依然として、

「大きく成長しましたね」

 と余裕を醸し出しながら微笑んでいた。

『行きましょうか…………あいつを倒しに』

 大きく唸る妖狐と共にヘイグと激戦を繰り広げる。
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