妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

文字の大きさ
上 下
93 / 110
選ぶ者・選ばれる者

選ぶ者・選ばれる者ⅩⅡ

しおりを挟む
 これは十年以上前の話。
 物心ついた頃から薄暗く、湿気が多い地下室の中で生活。
 周りには守護と同じ年代の子供が多くおり、それぞれがナンバリングで呼ばれている。

「No.4、今度はお前の番だ。今日も我々の為に頑張るんだ」

 No.4、それが守護の名前だった。
 この施設に来た時の記憶はない、いつから生活しているのかもわからない。それほどの時間が経過していくと同時に守護の感情は平坦になっていた。
 守護が周りを見渡せば十人以上の少年少女がいるが、怯えるように部屋の隅に座り込んでいる。まだ、感情が残っている彼らが呼び出された先では、常に悲鳴が響き渡る。

「わかりました」

「No4は流石だ」

 素直について行く守護に対する組織の評価は高かった。

「では、これから実験を始める」

 手術台のような所へと寝転び、天井を見つめる。
 カビが生えているような汚い部屋、壁には赤黒い斑点が飛び散り、それが血だということには直ぐに気がつく。
 手足に首と五ヶ所を固定されれば、静脈へと針が刺され、何かが流し込まれる。視界の隅に映る注射器の中には青い液体が入っていた。
 それが何なのかという疑問はなるが、そこから先は考えることをやめる。
 考えれば考えるほど、恐怖がやってくるということが分かっているから。
 血管を通して入ってくる、それは体に入って来た途端に守護を苦しませる。
 手術台の上でのたうち回る小柄な守護。手術台を壊すのではないかという程の力と手足を固定している金具が金属音を激しく立て、一部は破損する。
 この時の記憶はない。ただ、死ぬという恐怖だけが守護を支配していた。
 時間が経てば、痛みは治まり息も落ち着く。

「No4、もう一度入れる」

 胃の中から臓物が出てくるのではないか。そう思わせる苦しみは間髪入れずに再び訪れ、そして守護は意識を失った。
 その後も同じことを何度も繰り返される。
 ただ、その結果として手に入れた力もあった。

「やっと……成功した」

 守護の視線の先、顔がマスクで覆われた男は驚愕する声を出し、何処かへと連絡を入れていた。

「実験がやっと成功しました……能力自体は攻撃性はありませんが」

 受話器越しの声は聞こえない。ただ、男が大きく頷く様子だけはボヤけた視界でも見て取れる。

『実験成功体第一号、No4。これからのお前に期待する』

 耳へと当てられる受話器の先、そこから聞こえる重苦しい声に寒気を感じる。
 物静かな部屋の中、男は守護の枷を外すと強く抱きしめた。
 鼻を啜る目の前の男は更に守護を強く抱きしめ、守護も理由はわからないが小さな体で彼を抱きしめた。
 その後、守護は手に入れた力、千里眼をコントロールできるようにマスクの男と違う人間から指導を受ける。
 身長が高く、細身の女性。足音を一つも立てずに近づく彼女は次の瞬間、守護の前へと移動し、屈み込む。

「私が……能力を教える」

 冷たく、冷淡な声が耳を突き刺す。
 彼女が視線を向けた場所、そこにある物は石へと変化する。

「集中して……目を凝らして」

 何も考えず、指示通りに何度も反復して行う。同じことの繰り返しを何度も行うことで、千里眼も少しずつ安定し始めている事を実感する。
 一定期間が過ぎれば、

「もう、実用できるわ……」

 そう言い残した女は部屋から消え、次には大柄の男が守護の前へと現れた。2mはあるであろう巨漢が守護へと近づくと、地面へと拳を振り下ろす。
 凄まじい衝撃と地響きが施設を揺るがし、地面にはヒビを蜘蛛の巣状に広がっていた。

「お前には戦闘ができるようになってもらう」

 淡々と口にする男は実戦形式で守護は避けながら、近接戦の訓練をさせられる。
 殴られる度に骨は折れ、血反吐を吐く。
 死ぬような訓練は毎日のように続けられた。
 擦り切った心は感情と呼べる物は、守護の中にはなくなりかけていた。ただ、唯一彼を支えてくれるものがあった。

「頑張ったね」

 地下施設にいる他の少年少女たちだった。
 友達とは言えない、歪な彼らとの関係。
 彼らは未だに手術台のある部屋へと連れて行かれ、悲鳴は施設内に反響していた。ただ、お互いを支え合うように声を掛け合う。
 その中でも守護へと積極的に話しかける長い黒髪の少女。
 彼女の眼差しは守護を尊敬するように見つめ、この薄暗い世界の中で笑みを浮かべていた。

「君って凄いね。あれだけの訓練に耐えてるなんて」

 響かないよう、小さな声で話しかけてくる少女は笑みを浮かべながら守護へと話しかけていた。その姿は守護には理解できなかったが、ただ居心地がいいことだけは理解できた。

「そうしないと……生きていけない」

「でも、凄いと思う。私、ここでNo.7っていうけど、元の名前は???っていうの。君の元の名前はなんていうの?」

「僕に名前なんてない……No4。これが名前だよ」

「ここに来る前の名前はないの?」

「ここに来る前の名前?」

「そう、名前」

「……………………わからない。物心ついた時からここにいるから」

「じゃぁ…………名前がないってこと?」

「No4だよ」

 真顔で返事をする守護に少女は首を傾げる。

「なら、私が名前つけてあげるよ」

 守護の肩へと手をのせる彼女は一直線に見つめ、

「守護まもる」

 と口にした。

「私達が生きてられるのも、守護が実験に成功したから。まだ、私達も希望があると思えるの。私たちの希望を守ってくれてるから守護」

「守護……か、僕がみんなを守ってるのかな?」

「守護がいるから、次に繋がってるんだよ。私たちは孤児だから、いつ死んでもおかしくないもん、こうやって生きてられるのも守護が成功したからだよ。私達にとって、守護は希望なんだ」

 そう口にする少女に同調する様に、周りの子供達は視線を守護へと向ける。

 みんなを守ってる……。

 そんな自覚は守護にはなかった。
 ただ、生きていくために何も考えず、何も感じずに熟す。
 死ぬという恐怖から目を逸らすために、何も考えなかった。
 それが、周りの希望になっていたことなんて露しらず。
 擦り切れかけていた心に温もりを感じた瞬間だ。
 それからというもの、守護は訓練が終わる度に彼女と話すようになっていた。彼女と話をする度に、切れかかっていた心が取り戻せるような気がしていた。

「…………………………」

 そんな二人の光景を画面越しに見ていた男は不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...