妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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選ぶ者・選ばれる者

選ぶ者・選ばれる者Ⅸ

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美容室の後はハンバーガーショップで持ち帰りにし、公園のベンチで食事を楽しむ四人。

『口元にケチャップが付いてますわよ』

 守護の口元に付いていたケチャップをマリーは指で拭うと舌で舐めとる。
 そんな一つの仕草で守護の胸が再び鼓動を速くした。

「……………………ありがとう」

『どういたしまして』

 理解できない体の変化に守護は内心戸惑うものの、あまり気にする素振りはない。
 守護は自分の胸へと再び手を置く。
 少しの時間が経てば脈も通常通りの動きを取り戻す。

 マリーに何かされたのか…………。

 彼女の能力によって、体に異変が起きている可能性がある。そんな一抹の危機感が守護を襲うが、目の前で美味しそうにハンバーガーを頬張る彼女の姿にそんな印象を持てなくなっていた。

 訳がわからない…………。

 敵であるはずのマリーに敵対心を持てなくなりつつある自分。彼女を殺すために観察し、同時に入学をした。
全ては組織、地獄の栄光インフェルノ・グローリーの悲願のためのものだ。その為に物心着く頃より訓練を受け、時には人を殺して来た守護。そんな自分の努力を濁すかのように、目の前にいる金髪の少女は敵である守護を友達のように受け入れている。
 時折、かけられる言葉の節々に感じる優しさがより一層、守護の組織への忠誠心に影を落とさせる。

『…………なんですの? 私の顔をじっくり見て…………ケチャップでも付いてます?』

「…………いや、何でもない」

『…………何なんですの?』

 訝しげに守護を見つめるマリーはポテトを頬張る度に笑顔になる。
 一つ一つの出来事に笑う彼女の姿は守護には輝くように見える。
 楽しげな姿、笑顔を守護は経験してこなかった。
 だからこそ、彼女の姿が一層に輝いて見えた。

「…………綺麗だ」

 素直な言葉が守護から漏れ出す。
 敵対し、自分の事など一瞬にして殺せてしまう彼女の姿が美しく見えた。

『そんなの当たり前ですわよ』

 ポテトを口に咥えながら守護へと向ける。普段の見下すような表情とは違い、素っ頓狂すっとんきょうな表情を見せられた守護は笑みを浮かべ、

「そうだね」

 と返す。
 単なる会話。
 そんな会話も全て、守護にとっては新しい経験であった。
 これまでの殺伐とした世界とは真逆の世界に守護は足を踏み入れてしまった。

『あなた…………笑ってる方が素敵ですわよ。もっと笑うようにしなさい?』

 マリーから掛けられる言葉は守護の硬い心を少しずつ解していく。

「ありがとう」

 何故か自然と出てきた感謝の言葉。
 ただ、守護は自分でも不思議と勝手に口にしていた事に驚きながらも、食事を進めていく。
 そんな二人のやりとりを目の前で聞いていた亮人と礼火は静かに傍観していた。

「仲良くなってよかったな」

「マリーも変わったねぇ」

 暖かい目で二人を見やるカップルは静かにストローを啜った。

「おいしいなぁ」

「おいしいねぇ」

 年老いた夫婦のようなやり取りをし、二人で見つめ合えば微笑む。

『あなたたち、バカにしてますわよね?』

 机へと肘を立てるマリーは二人を睨み付けるが、亮人と礼火は表情を変えずにマリーを見つめ、「「うん」」

『やっぱりっ!!』

「面白いな…………やり取りが」

『あなたも笑ってないっ!! 私たちをバカにしてるのよっ!!』

「…………そうなのか?」

「バカにはしてないよ? ただ、微笑ましいだけ」

「と、亮人は言ってるぞ?」

『だーかーらーっ!! 二人の顔を見て見なさいっ!! 小馬鹿にしてる顔ですわよっ!! それくらい分かりなさいっ!!』

「…………そうなのか?」

「バカにしてないって…………ぷふっ」

「あ…………これがバカにしてるって事なのか…………」

『やっと分かりましたの? 本当、もう少し感情を読み取りなさい』

「…………わかった」

「マリーがお母さんみたいなのも、少し笑っちゃうねっ!!」

 何気ない一言。
 ただ、たった一言で空気が一瞬だけ変化した。
 笑顔で怒っていたマリーの表情は少し陰り、笑顔は少し寂しげなものに変わる。

「何で…………悲しそうなんだ?」

 素直な質問。
 ただ、その質問を聞いたマリーの表情は更に変わる。
 顔を赤くし、吊り上がった目尻に瞳孔は細く獲物を狩るかのように守護を睨み付ける。
 マリーの影は大きく揺らぎ、地面から細く鋭利な影が手と同時に守護の首筋へと向けられる。
 上がる呼吸数に大きな吐息、吐くたびに白くなる息がマリーが怒りを露わにしていることを守護へと伝えた。

「マリーっ!! どうしたのっ!?」

「マリー…………やめろ」

 二人の関係を知らない亮人と礼火は手を掴めば、動きは止まった。
 荒々しい呼吸は続くも、時間が経つと我に戻ったかのようにマリーは、

『ごめんなさい…………』

 と、手と影を戻した。

「……………………ごめん」

 目の前の出来事を飲み込めない二人。そして、守護自身も何故、首を握られ掛けたのかを把握できずにいた。

『私の家族は殺されたんですのよ…………』

 その一言で守護は理解した。
 殺したのは組織だということを。

 それはそうだ。

 ヴァンパイアを殺すということは、以前にマリーの家族を殺している可能性がある。
 失念していた考えが守護の脳内で渦を巻くように巡り巡っていく。
 一瞬だけみせた彼女の悲しげな顔。
 強気で楽しそうに笑みを常に浮かべている彼女の弱さが垣間見えた瞬間だった。
 胸には先程とは違った痛みが走る。
 酷く苦しく、冷たい気持ち。胸を抉られるような痛みが初めて守護を襲う。
 これまでの任務で感じた痛みとは比べ物にならない痛みが胸を傷つけていく。
 目の前にいるマリーの悲しげな表情は俯き、見えなくなる。

 あぁ…………マリーの事を傷つけたんだ。

 初めての友人、初めての馴れ合い。
 それらは他愛もない事なのかもしれないが、守護にとっては全てが未経験であり、想像できないものであった。

 これが罪悪感…………なのかな。

 申し訳なさや心苦しい気持ちが初めて守護を襲った。
 なぜ罪悪感を抱いたのかは分からない。ただ、目の前で悲しむマリーを見るだけで守護の心は締め付けられていく事だけが理解できた。
 守護自身も自然と俯いてしまった。
 沈黙が四人を支配するが、それは一瞬にして消え去った。

「殺されたかもしれない…………でしょ?」

 マリーの手を優しく包み込む礼火は笑みを浮かべて口にした。

「諦めずに家族を探すんでしょ? 殺されてないかもしれないんだから、決めつけないの」

「そうだよ、その為に助け合うって決めたんだろ?」

 マリーの額へ人差し指を突き出す亮人も礼火同様に微笑んでいる。
 目尻に浮かべるマリーの涙。ただ、涙は流れなかった。

『そうでしたわね…………失念していましたわ』

 目尻と頬は紅く染めながら顔をあげたマリーは笑った。

『まだ…………可能性はゼロじゃありますわ』

 目尻に溜まった涙を拭えば、守護へと顔を向けるマリーは力強く口にした。

『私の家族は生きてますわ…………だから、諦めませんの』

 大きな胸を張り、堂々とする彼女はいつも通りのマリーに戻っていた。

「…………わかった」

 顔を上げ、守護の小さな返事はマリーに伝わるかわからない程にか細いものだった。

『あなたは俯かないっ!! あなたに直接関係があるわけじゃないんですから』

 俯いている守護の頭を少し強めに叩くと、ゴンっという音とともに勢い余って机へと額が当たった。

「だ、大丈夫?」

「マリーっ!! そんなに強く叩いたらダメでしょっ!!」

『そんなに力を入れたつもりは無いですわっ!!』

 慌てふためく四人の姿は俯いているから見えない守護だが、容易に想像ができた。
 肩を震わせ、何も口にしない守護に三人は未だに慌てていた。

「マリーっ!! 謝らないとダメだよっ!!」

『わっ、悪かったですわねっ!!』

「そんなんじゃダメに決まってるでしょっ!!」

 親に怒られる子供のような光景に亮人は笑っていた。

『ごっ、ごめんなさいっ!!』

 慌てながら謝るマリー。
 ただ、横に座り誤っている彼女の雰囲気は俯いていてもわかる。
 マリーの楽しげな雰囲気と声音を聞くだけで、守護の心が安らいでいた。
 マリーの方へゆっくりと顔を上げる守護。

 本当は僕の方が謝らないといけないのに…………。

 そう考えている守護だが、その表情とは裏腹に普段の無表情とは真逆のものがそこにはあった。

「大丈夫だよ」

 そう口にした守護の表情は満面の笑みだった。
 三人へと見せる初めての満面の笑み。
 自分なりに笑えていると思っている守護。ただ、それ以上に三人は驚いていた。

「守護くんっ!!」

「守護っ!! お前、血が出てるぞっ!!」

 亮人は慌てていたからか、名前を呼び捨てていた。

『あら、美味しそうな匂い…………』

 一人、血の匂いで興奮しかけている者もいたが、ある意味で賑やかな昼が過ぎていった。
 残念ながら、初めて見せた守護の満面の笑みは出血によって、三人の記憶から掻き消されてしまった。
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