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選ぶ者・選ばれる者
選ぶ者・選ばれる者Ⅴ
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あの訓練から数日が経ち、平日最後の金曜日。
学校での生活では最城が亮人達とよく行動を共にするようになっていた。
そして、昼休みとなった四人は屋上へと足を運ぶ。
他愛もない話をして盛り上がる亮人に礼火、マリーは最城の前を歩く。
ただ、マリーの足元の影は最城へと細長く影を伸ばしていた。
最城の影へと伸びるマリーの影は連結すると、色濃く太さを増した。
『私の声は届いてますわね?』
足元の影から小型のコウモリが最城の長い髪の毛の中へと潜り込み、喋りかける。
「…………聞こえてる」
小声で話す最城の表情は髪で見えないが、怯えるようなものだった。
目の前に敵対する人間がいること。それも、自分より圧倒的に強い存在が最城を敵と認識した上で喋りかけて来る。
いつ殺されてもおかしくない状況に固唾を吞む。
そんな最城を知らずに亮人と礼火は楽しく会話を弾ませていた。
「そろそろ髪が長くなったし、切りに行かなきゃな」
「私も一緒に切りに行こうかなぁ…………亮人はどれ位の長さが好き?」
「う~ん…………肩にかかる位の長さかな? 礼火なら何でも似合うよ」
「なんか適当感があるけど、短くしてみようかな…………髪が長いといえば、最城くんもだいぶ髪が長いよね? 髪とか切ったりしないの?」
「…………あまり切らない、かな」
「そうなんだ…………折角だし、今度みんなで美容院でも行ってみようよ。みんなが似合う髪型とか伝えて、カットしてもらうの。どんな髪型になるかはお楽しみ……………やってみないっ!?」
『私は長い髪が似合うからあまり切りませんわよ?』
「マリーもやってみようよっ!! 絶対に楽しいって」
『まぁ…………あなたがそこまで言うなら、やってあげても良いわよ』
「俺は良いけど…………最城くんが良かったらの話だな」
「どうかな、最城くんっ!! 一度やってみない?」
自分とはかけ離れた、輝かしい笑顔を向けられる最城。
亮人は子供を見るように礼火へ視線を向け、
「最城くんに任せる」
『私は礼火がどうしてもって言うから切るだけですわ。あなたは無理しなくても良いですわ』
目の前でそっぽを向くマリーだが、最城の耳元からは
『絶対に来なさい…………じゃないと殺しますわ』
と、ドスの効いた声が耳を刺す。
そこに拒否権はなかった。
笑顔を向けるマリーの目元は笑っていなかった。ただ、冷たく視線を向け、従うように静かにさっきを放つ。
首筋からは冷や汗が流れ、背筋は自然と伸びる。
「わかった…………みんなに任せる」
声の抑揚はなく返答をする。
歓喜する礼火に心配そうに最城へと視線を向ける亮人、踵を返し一人階段を上って行く。
『それで良いですわ…………言うことを聞いていれば、殺しませんわ。それと…………』
数秒の間が空いた。
階段を上がる後ろ姿は気分が良くなっているのか、小さくステップを踏んでいるように見える。そんな彼女を追うように礼火は一段飛ばしで階段を駆け上がって行った。
視界から消えた金髪の少女は影を通して一言。
『楽しみなさい』
朗らかな声音で囁いて行った。
その一言の真意がわからない。
敵に対して「楽しみなさい」。この意図も読めない。
どう言うことなんだろうか…………。
足を止める最城は階段へと視線を向ける。
彼女らが駆け上がって行った階段には亮人が佇んだいる。
「ごめんな…………礼火のやつ、言ったらすぐに行動に移すタイプで」
「いや…………大丈夫」
置いて行かれた二人はゆっくりと階段を上る。
「まだこっちでの生活も慣れてないだろうから…………そう言うのも考えて、遊ぼうって誘ってるんだと思うから。嫌だったら、嫌で大丈夫だと思うし」
「嫌ではないけど…………」
マリーのことが引っかかってしまう。
いつの間にか繋がっていた影は切り離され、耳元にいたコウモリも姿を消している。威圧する存在は側からいなくなっていた。
「他人と出掛けるのは…………初めてだから」
階段を上る足は最後の一段へと差し掛かる。目の前にある扉は開き、先には弁当を広げ、二人を待つマリーと礼火がいた。
手招きをする二人と前で振り向き、最城へ微笑む亮人。
その光景は眩しく感じる最城。
普段、目にする光景は色褪せ、薄暗い場所ばかり。ただ、目の前に広がる光景に経験する一つ一つが最城の心に色をつけて行く。
真っ黒に塗りつぶされたキャンパスが白く塗りつぶされ、新しい色が足されて行くかのように。
自分の未経験が目の前に広がり、興味を引く。
最後の一段を登り切ると同時に口にする。
「楽しめると…………良いな」
顔を上げ、長い髪が一瞬靡く。そこから覗く最城の瞳は輝き、一直線に三人を見つめる。
そして、最城は大きく扉の敷居を跨ぐ。
最城の足元の影、そこにいるマリーの影からマリー本体へと伝わる最城の言葉。
マリーは最城の言葉に口元を綻ばせ、再び二人へと手を振った。
自分の人生くらい、自分で選びなさい…………。
自分で選んだ友達、自分で選んだ居場所、自分で選んだ時間、その全てが自分をより良く成長させる要因ですわよ…………。
屋上で四人で集まり弁当を食べる時間に尊さを感じるマリーだった。
学校での生活では最城が亮人達とよく行動を共にするようになっていた。
そして、昼休みとなった四人は屋上へと足を運ぶ。
他愛もない話をして盛り上がる亮人に礼火、マリーは最城の前を歩く。
ただ、マリーの足元の影は最城へと細長く影を伸ばしていた。
最城の影へと伸びるマリーの影は連結すると、色濃く太さを増した。
『私の声は届いてますわね?』
足元の影から小型のコウモリが最城の長い髪の毛の中へと潜り込み、喋りかける。
「…………聞こえてる」
小声で話す最城の表情は髪で見えないが、怯えるようなものだった。
目の前に敵対する人間がいること。それも、自分より圧倒的に強い存在が最城を敵と認識した上で喋りかけて来る。
いつ殺されてもおかしくない状況に固唾を吞む。
そんな最城を知らずに亮人と礼火は楽しく会話を弾ませていた。
「そろそろ髪が長くなったし、切りに行かなきゃな」
「私も一緒に切りに行こうかなぁ…………亮人はどれ位の長さが好き?」
「う~ん…………肩にかかる位の長さかな? 礼火なら何でも似合うよ」
「なんか適当感があるけど、短くしてみようかな…………髪が長いといえば、最城くんもだいぶ髪が長いよね? 髪とか切ったりしないの?」
「…………あまり切らない、かな」
「そうなんだ…………折角だし、今度みんなで美容院でも行ってみようよ。みんなが似合う髪型とか伝えて、カットしてもらうの。どんな髪型になるかはお楽しみ……………やってみないっ!?」
『私は長い髪が似合うからあまり切りませんわよ?』
「マリーもやってみようよっ!! 絶対に楽しいって」
『まぁ…………あなたがそこまで言うなら、やってあげても良いわよ』
「俺は良いけど…………最城くんが良かったらの話だな」
「どうかな、最城くんっ!! 一度やってみない?」
自分とはかけ離れた、輝かしい笑顔を向けられる最城。
亮人は子供を見るように礼火へ視線を向け、
「最城くんに任せる」
『私は礼火がどうしてもって言うから切るだけですわ。あなたは無理しなくても良いですわ』
目の前でそっぽを向くマリーだが、最城の耳元からは
『絶対に来なさい…………じゃないと殺しますわ』
と、ドスの効いた声が耳を刺す。
そこに拒否権はなかった。
笑顔を向けるマリーの目元は笑っていなかった。ただ、冷たく視線を向け、従うように静かにさっきを放つ。
首筋からは冷や汗が流れ、背筋は自然と伸びる。
「わかった…………みんなに任せる」
声の抑揚はなく返答をする。
歓喜する礼火に心配そうに最城へと視線を向ける亮人、踵を返し一人階段を上って行く。
『それで良いですわ…………言うことを聞いていれば、殺しませんわ。それと…………』
数秒の間が空いた。
階段を上がる後ろ姿は気分が良くなっているのか、小さくステップを踏んでいるように見える。そんな彼女を追うように礼火は一段飛ばしで階段を駆け上がって行った。
視界から消えた金髪の少女は影を通して一言。
『楽しみなさい』
朗らかな声音で囁いて行った。
その一言の真意がわからない。
敵に対して「楽しみなさい」。この意図も読めない。
どう言うことなんだろうか…………。
足を止める最城は階段へと視線を向ける。
彼女らが駆け上がって行った階段には亮人が佇んだいる。
「ごめんな…………礼火のやつ、言ったらすぐに行動に移すタイプで」
「いや…………大丈夫」
置いて行かれた二人はゆっくりと階段を上る。
「まだこっちでの生活も慣れてないだろうから…………そう言うのも考えて、遊ぼうって誘ってるんだと思うから。嫌だったら、嫌で大丈夫だと思うし」
「嫌ではないけど…………」
マリーのことが引っかかってしまう。
いつの間にか繋がっていた影は切り離され、耳元にいたコウモリも姿を消している。威圧する存在は側からいなくなっていた。
「他人と出掛けるのは…………初めてだから」
階段を上る足は最後の一段へと差し掛かる。目の前にある扉は開き、先には弁当を広げ、二人を待つマリーと礼火がいた。
手招きをする二人と前で振り向き、最城へ微笑む亮人。
その光景は眩しく感じる最城。
普段、目にする光景は色褪せ、薄暗い場所ばかり。ただ、目の前に広がる光景に経験する一つ一つが最城の心に色をつけて行く。
真っ黒に塗りつぶされたキャンパスが白く塗りつぶされ、新しい色が足されて行くかのように。
自分の未経験が目の前に広がり、興味を引く。
最後の一段を登り切ると同時に口にする。
「楽しめると…………良いな」
顔を上げ、長い髪が一瞬靡く。そこから覗く最城の瞳は輝き、一直線に三人を見つめる。
そして、最城は大きく扉の敷居を跨ぐ。
最城の足元の影、そこにいるマリーの影からマリー本体へと伝わる最城の言葉。
マリーは最城の言葉に口元を綻ばせ、再び二人へと手を振った。
自分の人生くらい、自分で選びなさい…………。
自分で選んだ友達、自分で選んだ居場所、自分で選んだ時間、その全てが自分をより良く成長させる要因ですわよ…………。
屋上で四人で集まり弁当を食べる時間に尊さを感じるマリーだった。
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