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選ぶ者・選ばれる者
選ぶ者・選ばれる者Ⅲ
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影から出てきた礼火は大きくため息を吐いた。
「またやっちゃった……」
マリーとの訓練の中でも暴走は何回も起こしていた。単純な感情のコントロールの失敗。怒りや嫉妬が暴走に起因していることはマリーから聞いていた。だからこそ、自分でコントロールする必要性があった。
お互いが亮人のことを本気で好きだということは理解している。だからこそ、彼女に対して焦り、苛立ち、嫉妬もする。
たった二ヶ月ちょっとの間の関係だとしても、礼火よりも濃い時間を過ごした氷華が羨ましかった。
ファーストキスも然り、同棲も然り、何もできなかった時が悔しく、礼火の中で沸々と湧き出るものがあった。
だけど、今は違う。
「私がそばにいるんだから」
振り向き、ゆらゆらと揺れる地面の影。
その中で亮人達は特訓をしている。
『礼火ったら、すぐにむきになったりするのはダメですわよ』
「ごめん、マリー」
『謝る相手が違いますわよ』
「確かに……後でもう一度謝らないと」
『そうですわね』
礼火の後ろから抱きつくマリーは礼火の首筋へと牙を立てる。
『ちょっとだけ貰いますわね』
有無を言わさず、ザクっと首筋へと立てられた牙。そして、吸い出すように礼火の首からは血が肩を伝っていく。
「勝手に吸わないでよ。痛いんだから」
『わかってますわよ』
吸い上げられる力は強められるも、礼火は抵抗をしない。
「マリーも大変だね。血がないと能力が弱まるなんて」
『でも、もう問題ありませんわよ。礼火がいるんですから。そのための眷属ってことですわ』
「はいはい」
礼火はマリーの頭を撫でながら、視線を影へと再度向けた。
ちゃんと話さないとダメだよね……。
氷華に口を滑らせてしまったことについて。
能力を上げる方法。
あの苦痛を亮人に味合わせるわけにはいかない。だからこそ、信頼してるからこそ、氷華に伝える必要性がある。
「マリー、氷華に教えてもいい?」
『ダメですわよ。どうせ、能力を上げる方法についてなのでしょ? あれは、貴方が私の眷属になるからやっただけであって、ほかの種族に教えていい代物ではないですわ。むしろ、あの方法をさせようとするなんて、恋人失格じゃなくて? 死ねって言ってるようなものですわよ』
「……………………そうだよね」
『あんた達、なんの話してるのよ……』
影の中から出てきた氷華の表情は険しく、二人を睨みつける。
『私達は亮人が助けたいって言うから貴方達と戦うの。それも命をかける戦いなのよ。なのに、勿体ぶってる情報があるなら、ちゃんと伝えて貰いたいんだけど』
胸の前で組まれる腕に上から見下ろすように視線を向ける。
「勿体ぶってる訳じゃないっ!! ただ……」
『亮人を苦しませたくないだけですわ。だから、教えないし伝えないわけですわ』
「これを知ったら、また亮人が自分を責めるだけだから」
真剣に氷華を見つめる礼火は目尻に涙を溜める。
「これ以上、無駄なことで亮人を苦しませたくない……それだけだから、言えないの」
『仲間でも?』
「……………………うん」
数秒の間が空き、氷華は踵を返した。
『わかったわよ…………信じる。それと…………さっきはごめん』
上ずるような声で謝罪を述べる氷華。
『正直、私は礼火が羨ましいし、憎くないって言ったら嘘になるわ。私から亮人を奪っていったわけだし、ずるいって思っちゃうわよ。だから、さっきはあんな風に当たったのは……謝るわ』
「……………………ううん、こっちもごめんね。でも、私だって亮人が取られるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだからね」
無邪気な子供のように前屈みになりながらみつめる礼火を後ろ目に氷華は再びマリーの影の中へと潜り込む。
『なんだかんだで、貴方達は仲がいいじゃないですの』
「誰だって、ちゃんと話せば仲良くなれるよ」
『そうですの? 信じられないですわ』
「まぁ、相手にその気があればだと思うけどね」
マリーを背負いながら、礼火は影の中へと潜り込む。
その先にはさっきと同じように絶対零度を憑依化させ、全身白装束の氷華が佇んでいる。
『説明は下手だけど、できる限り教えるわ』
「よろしくっ!!」
『私はあっちで燈達と訓練の続きをしますわ……』
後ろ姿に手を振りながら、一瞬にして燈達のところへと飛び去るマリーはすぐに戦闘を開始した。
『こっちはこっちでやるわよ』
「頑張りますっ!!」
目の前で礼火へと手をかざす氷華。その手には徐々に氷刀が形作られていく。
『礼火は影なら簡単に扱えると思うんだけど、同じ要領で氷刀を作ろうとすればいいと思うわよ』
「それだけでいいの?」
『……………………それだけ』
「それなら、さっきあんなことしなくたっていいじゃんかぁあぁああ!!」
両手を地面につけながら項垂れる礼火だが、次の瞬間には地面から氷柱が幾つも生えてくる。
『…………ほら、ね?』
「ほらねじゃないんだヨォおおおお、簡単じゃんかぁぁああ」
『でも、亮人は苦戦してるのよ?』
「そうなんだ……」
礼火は視線を亮人の方へと向ける。
麗夜と近接戦をしている亮人の表情は苦しげだった。
あぁ…………私がマリーの眷属になったからか。
マリーの血を飲み、色濃く妖魔の力を使うことができるようになった。これが礼火が短期間で能力の制御ができるようになった要因だった。
麗夜と亮人は妖魔の血を飲んでいない。そもそも、血を飲むなんてことは考えない。
マリーだけが知っている裏技のようなもの。
『礼火が死ぬほど辛いことをやって、能力をコントロールできるようになったってことはわかったわ。ただ、流石に私の憑依化は真似できないわよね?』
「試してみる…………」
全身へと氷華の力を巡らせる。周囲の空気は冷たく、氷の結晶が宙を舞うが氷華のような変化は現れなかった。
「さすがに無理みたい」
『良かった、流石にこれまでできたら、私の努力まで無駄みたいになっちゃうわよ』
安堵のため息をつく氷華は氷刀を両手に携える。そして、礼火は両手に氷で作った苦無を持ち、腰を高く前屈みになる。
『それじゃ、礼火も刀を持って一緒に訓練するわよ』
「私は苦無にさせてもらうよ」
『まるで忍者みたいね』
「それいい案っ!!」
その言葉と同時に礼火は全身を影で包み、目元のみが見える黒子のような姿となる。
「似合うでしょ?」
『似合うかもね』
お互いが楽しげに微笑見返す。
そこからはお互いを高め合う戦闘が続いていった。
「またやっちゃった……」
マリーとの訓練の中でも暴走は何回も起こしていた。単純な感情のコントロールの失敗。怒りや嫉妬が暴走に起因していることはマリーから聞いていた。だからこそ、自分でコントロールする必要性があった。
お互いが亮人のことを本気で好きだということは理解している。だからこそ、彼女に対して焦り、苛立ち、嫉妬もする。
たった二ヶ月ちょっとの間の関係だとしても、礼火よりも濃い時間を過ごした氷華が羨ましかった。
ファーストキスも然り、同棲も然り、何もできなかった時が悔しく、礼火の中で沸々と湧き出るものがあった。
だけど、今は違う。
「私がそばにいるんだから」
振り向き、ゆらゆらと揺れる地面の影。
その中で亮人達は特訓をしている。
『礼火ったら、すぐにむきになったりするのはダメですわよ』
「ごめん、マリー」
『謝る相手が違いますわよ』
「確かに……後でもう一度謝らないと」
『そうですわね』
礼火の後ろから抱きつくマリーは礼火の首筋へと牙を立てる。
『ちょっとだけ貰いますわね』
有無を言わさず、ザクっと首筋へと立てられた牙。そして、吸い出すように礼火の首からは血が肩を伝っていく。
「勝手に吸わないでよ。痛いんだから」
『わかってますわよ』
吸い上げられる力は強められるも、礼火は抵抗をしない。
「マリーも大変だね。血がないと能力が弱まるなんて」
『でも、もう問題ありませんわよ。礼火がいるんですから。そのための眷属ってことですわ』
「はいはい」
礼火はマリーの頭を撫でながら、視線を影へと再度向けた。
ちゃんと話さないとダメだよね……。
氷華に口を滑らせてしまったことについて。
能力を上げる方法。
あの苦痛を亮人に味合わせるわけにはいかない。だからこそ、信頼してるからこそ、氷華に伝える必要性がある。
「マリー、氷華に教えてもいい?」
『ダメですわよ。どうせ、能力を上げる方法についてなのでしょ? あれは、貴方が私の眷属になるからやっただけであって、ほかの種族に教えていい代物ではないですわ。むしろ、あの方法をさせようとするなんて、恋人失格じゃなくて? 死ねって言ってるようなものですわよ』
「……………………そうだよね」
『あんた達、なんの話してるのよ……』
影の中から出てきた氷華の表情は険しく、二人を睨みつける。
『私達は亮人が助けたいって言うから貴方達と戦うの。それも命をかける戦いなのよ。なのに、勿体ぶってる情報があるなら、ちゃんと伝えて貰いたいんだけど』
胸の前で組まれる腕に上から見下ろすように視線を向ける。
「勿体ぶってる訳じゃないっ!! ただ……」
『亮人を苦しませたくないだけですわ。だから、教えないし伝えないわけですわ』
「これを知ったら、また亮人が自分を責めるだけだから」
真剣に氷華を見つめる礼火は目尻に涙を溜める。
「これ以上、無駄なことで亮人を苦しませたくない……それだけだから、言えないの」
『仲間でも?』
「……………………うん」
数秒の間が空き、氷華は踵を返した。
『わかったわよ…………信じる。それと…………さっきはごめん』
上ずるような声で謝罪を述べる氷華。
『正直、私は礼火が羨ましいし、憎くないって言ったら嘘になるわ。私から亮人を奪っていったわけだし、ずるいって思っちゃうわよ。だから、さっきはあんな風に当たったのは……謝るわ』
「……………………ううん、こっちもごめんね。でも、私だって亮人が取られるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだからね」
無邪気な子供のように前屈みになりながらみつめる礼火を後ろ目に氷華は再びマリーの影の中へと潜り込む。
『なんだかんだで、貴方達は仲がいいじゃないですの』
「誰だって、ちゃんと話せば仲良くなれるよ」
『そうですの? 信じられないですわ』
「まぁ、相手にその気があればだと思うけどね」
マリーを背負いながら、礼火は影の中へと潜り込む。
その先にはさっきと同じように絶対零度を憑依化させ、全身白装束の氷華が佇んでいる。
『説明は下手だけど、できる限り教えるわ』
「よろしくっ!!」
『私はあっちで燈達と訓練の続きをしますわ……』
後ろ姿に手を振りながら、一瞬にして燈達のところへと飛び去るマリーはすぐに戦闘を開始した。
『こっちはこっちでやるわよ』
「頑張りますっ!!」
目の前で礼火へと手をかざす氷華。その手には徐々に氷刀が形作られていく。
『礼火は影なら簡単に扱えると思うんだけど、同じ要領で氷刀を作ろうとすればいいと思うわよ』
「それだけでいいの?」
『……………………それだけ』
「それなら、さっきあんなことしなくたっていいじゃんかぁあぁああ!!」
両手を地面につけながら項垂れる礼火だが、次の瞬間には地面から氷柱が幾つも生えてくる。
『…………ほら、ね?』
「ほらねじゃないんだヨォおおおお、簡単じゃんかぁぁああ」
『でも、亮人は苦戦してるのよ?』
「そうなんだ……」
礼火は視線を亮人の方へと向ける。
麗夜と近接戦をしている亮人の表情は苦しげだった。
あぁ…………私がマリーの眷属になったからか。
マリーの血を飲み、色濃く妖魔の力を使うことができるようになった。これが礼火が短期間で能力の制御ができるようになった要因だった。
麗夜と亮人は妖魔の血を飲んでいない。そもそも、血を飲むなんてことは考えない。
マリーだけが知っている裏技のようなもの。
『礼火が死ぬほど辛いことをやって、能力をコントロールできるようになったってことはわかったわ。ただ、流石に私の憑依化は真似できないわよね?』
「試してみる…………」
全身へと氷華の力を巡らせる。周囲の空気は冷たく、氷の結晶が宙を舞うが氷華のような変化は現れなかった。
「さすがに無理みたい」
『良かった、流石にこれまでできたら、私の努力まで無駄みたいになっちゃうわよ』
安堵のため息をつく氷華は氷刀を両手に携える。そして、礼火は両手に氷で作った苦無を持ち、腰を高く前屈みになる。
『それじゃ、礼火も刀を持って一緒に訓練するわよ』
「私は苦無にさせてもらうよ」
『まるで忍者みたいね』
「それいい案っ!!」
その言葉と同時に礼火は全身を影で包み、目元のみが見える黒子のような姿となる。
「似合うでしょ?」
『似合うかもね』
お互いが楽しげに微笑見返す。
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