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選ぶ者・選ばれる者
選ぶ者・選ばれる者Ⅱ
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シャーリー達の訓練が佳境の頃、氷華は礼火に雪女の能力について指南していた。
『私の能力は分かってる通り、氷を操ること。応用も利き易い能力だから、使えるようになるに越したことはないわ』
「せっかく二つも使えるんだから、頑張らないとっ!!」
両手でガッツポーズを取る礼火の前で氷華は自身の能力を発現させる。
白装束を全身に纏い、背中から翼が生えるように氷の刃が出現する。氷華の足元は凍りつき、徐々にその範囲は広がっていく。
『現状、私が使える最大の能力よ。絶対零度の憑依化って私は呼んでるわ』
片手に刀を携え、構える氷華。
息を殺し、隙を突くかのように微動だにしない彼女の姿に見惚れる礼火だが、次の瞬間には焦りの表情となっていた。
一瞬にして距離を縮めてきた氷華は礼火の首元を一直線に切りつけていた。それも容赦など一切ない、本気の一閃。
だが、それを影を纏わせた腕で白刃どりする礼火。
「まずは教えてよっ!!」
氷華の突然の行動に怒りが抑えられない礼火は氷刃を粉砕する。
『見て覚えるっ!! 私はうまく教える自信がないから、実戦で覚えなさいっ!!』
「このっ!! 昔の頭でっかちの教師みたいっ!!」
『世間に疎いから仕方がないわよっ!!』
「自分で言わないっ!!」
そこから繰り広げられる戦闘に周囲は驚いた。
一つは氷華が恐ろしいほどに教えることが苦手だということ。
頼れる姉のような雰囲気を醸し出しているが為に、不器用だという事実が浮き出てこなかった。
もう一つが礼火だった。
『なんなのよっ!! この力っ!!』
「私だって、死ぬほど努力してるんだからねっ!!」
両の瞳は赤く鋭く氷華を睨みつけ、鋭く尖る八重歯が氷華を威圧する。
氷刀で肉薄している氷華は連続して翼のように背後に浮いている氷刀を礼火へと幾重にも飛ばす。
だが、飛んでくる氷刀と振りかざされる一刀を見事に去なす礼火の反応に周囲は教学を隠せなかった。
『一ヶ月でこれだけ強くなれるなんて…………どうやったらいいのか、亮人に教えてあげればいいじゃない』
「言えるわけないし、言わないよっ!! 死ぬほど苦しいことなんか、亮人にさせられるわけがないでしょっ!!」
まるで喧嘩のようにお互いの気持ちをぶつけ合う。
「やっぱり、私のこと怒ってたんだっ!!」
『怒ってないわよっ!! ただっ、悔しいだけよっ!!』
「なら、私が羨むくらいに努力すればいいでしょっ!!」
『やってるわよっ!!』
「全然やってないっ!! 私と比べたらっ!!」
言葉の応酬と繰り出される攻防はぶつかり合う度に衝撃波を生み出す。
感情が渦巻く戦闘は本来の主旨から離れていく。
砕け散る氷は地面へと落ちれば、礼火を襲うように逆立つ氷柱となって心臓を狙う。一直線に伸びる氷柱を避ける礼火だが、避ける先にも氷柱が伸びていた。
空中で一回転する礼火は背中から翼を出し、空中へと飛翔する。同時に四体の分身を作り出せば、氷華へと急降下する。全身を影で覆わせ、体へと当たるものを全て影へと吸収させながら。
氷華が飛ばしてくる氷刀や氷柱、それらは全て礼火の影の中へと吸い込まれ、氷華へと再度飛ばされる。
更に勢いを増した氷刀や氷柱は氷華が認識できるギリギリの速度で接近するが、一瞬にして霧散し、氷華の手を鉤爪へと変化させる。
背中の氷刀は自動で礼火の分身を追尾し、切り裂いていく。
「っち!!」
礼火本体と氷華は再び肉弾戦へと移行する。
鉤爪と影の腕。
礼火の頬を掠める鉤爪は小さな傷を一瞬にして凍結させる。一方の礼火の影の腕は自身へと纏わせ、豪腕のように一振り一振りが巨人の鉄拳のように重く、地響きを鳴らすほど。だが、両腕のみならず、礼火は背中から生やす二対の腕も豪腕となり、六本の腕が氷華を襲う。
切り刻もうと襲い掛かる氷刀は触れる度に粉砕される。しかし、砕けた氷は小さい刀となり、細かな傷を礼火へと負わせていく。
顔や腕、太ももから流れる血は地面を染めていく。
そして、徐々にお互いの実力差が見え始める。
『はぁ……はぁ……』
額から流す汗は地面へと落ちる前に結晶となって割れる。
氷刀を地面へと突き刺し、礼火へと向ける表情は苦悶となっていた。
氷華へと近づく礼火の視線に含まれる殺気は確実に氷華を殺しに掛かっている。
「私も亮人を本気で守りたいの……氷華もそうだとしても、覚悟が違い過ぎるの……わかる?」
屈み込む氷華へと礼火は二対の腕を一本に集約し、巨人の腕が振り下ろされた。
『もう…………何やってるのですのっ!!』
次の瞬間には礼火の姿は地面を数回跳ねながらうな垂れるように座り込む。
『なんで貴方まで力に飲み込まれるんですの? 亮人やれいやといい、礼火ももっと感情をコントロールできるようにならないとダメですわよ? ついでに、氷華も感情もそうですけど、冷静さが掛けると隙だらけですわよ』
礼火を投げ飛ばしたマリーは氷華の肩へと手を乗せる。ただ、その乗せられた手は優しく、そっと離れていく。
『氷華も燈と一緒に私に鍛えられないとダメですわね』
まるで教えがいのある生徒が来たとでも言わんばかりに、楽しそうに笑みを浮かべるマリー。以前の殺伐とした彼女の姿はなくなっていた。
『貴方もいつまでくたばっているんですの? 起きなさい』
頬を叩かれる礼火の瞳は人間に戻り、光を取り戻す。
「私……何してたの・」
『また、力に飲み込まれたのですわよ……能力を使ってる最中は感情をコントロールしなさいってあれだけ言ってるでしょうに』
「ごめんごめん、私何か言ってた?」
『もう……氷華を殺そうとしてたわよ』
ため息ひとつと手を氷華の方へと向けるマリーに、礼火の視線は同じように氷華へと向けられる。
息を切らし、礼火を睨む彼女の姿。白装束が所々汚れ、破れている彼女の姿に礼火は驚く。
「ごめん氷華っ!! 私、ここまでやるつもりはなかったのに」
『いいわよ……別に。私の方が弱かっただけ、それだけだから』
杖代わりに氷刀を地面に突きながら移動する氷華。
苛立ちに悔しさが感じられる彼女の背中に、礼火はこれ以上何も声をかけることができなかった。
「氷華には俺から言っておくから」
「ごめん……亮人」
礼火を横切り、亮人は氷華へと駆け寄ると亮人は軽く殴られ、笑みを浮かべる。
そんな二人のやりとりに礼火は遣る瀬無い気持ちが生まれ、一人影の中から地上へと出た。
『私の能力は分かってる通り、氷を操ること。応用も利き易い能力だから、使えるようになるに越したことはないわ』
「せっかく二つも使えるんだから、頑張らないとっ!!」
両手でガッツポーズを取る礼火の前で氷華は自身の能力を発現させる。
白装束を全身に纏い、背中から翼が生えるように氷の刃が出現する。氷華の足元は凍りつき、徐々にその範囲は広がっていく。
『現状、私が使える最大の能力よ。絶対零度の憑依化って私は呼んでるわ』
片手に刀を携え、構える氷華。
息を殺し、隙を突くかのように微動だにしない彼女の姿に見惚れる礼火だが、次の瞬間には焦りの表情となっていた。
一瞬にして距離を縮めてきた氷華は礼火の首元を一直線に切りつけていた。それも容赦など一切ない、本気の一閃。
だが、それを影を纏わせた腕で白刃どりする礼火。
「まずは教えてよっ!!」
氷華の突然の行動に怒りが抑えられない礼火は氷刃を粉砕する。
『見て覚えるっ!! 私はうまく教える自信がないから、実戦で覚えなさいっ!!』
「このっ!! 昔の頭でっかちの教師みたいっ!!」
『世間に疎いから仕方がないわよっ!!』
「自分で言わないっ!!」
そこから繰り広げられる戦闘に周囲は驚いた。
一つは氷華が恐ろしいほどに教えることが苦手だということ。
頼れる姉のような雰囲気を醸し出しているが為に、不器用だという事実が浮き出てこなかった。
もう一つが礼火だった。
『なんなのよっ!! この力っ!!』
「私だって、死ぬほど努力してるんだからねっ!!」
両の瞳は赤く鋭く氷華を睨みつけ、鋭く尖る八重歯が氷華を威圧する。
氷刀で肉薄している氷華は連続して翼のように背後に浮いている氷刀を礼火へと幾重にも飛ばす。
だが、飛んでくる氷刀と振りかざされる一刀を見事に去なす礼火の反応に周囲は教学を隠せなかった。
『一ヶ月でこれだけ強くなれるなんて…………どうやったらいいのか、亮人に教えてあげればいいじゃない』
「言えるわけないし、言わないよっ!! 死ぬほど苦しいことなんか、亮人にさせられるわけがないでしょっ!!」
まるで喧嘩のようにお互いの気持ちをぶつけ合う。
「やっぱり、私のこと怒ってたんだっ!!」
『怒ってないわよっ!! ただっ、悔しいだけよっ!!』
「なら、私が羨むくらいに努力すればいいでしょっ!!」
『やってるわよっ!!』
「全然やってないっ!! 私と比べたらっ!!」
言葉の応酬と繰り出される攻防はぶつかり合う度に衝撃波を生み出す。
感情が渦巻く戦闘は本来の主旨から離れていく。
砕け散る氷は地面へと落ちれば、礼火を襲うように逆立つ氷柱となって心臓を狙う。一直線に伸びる氷柱を避ける礼火だが、避ける先にも氷柱が伸びていた。
空中で一回転する礼火は背中から翼を出し、空中へと飛翔する。同時に四体の分身を作り出せば、氷華へと急降下する。全身を影で覆わせ、体へと当たるものを全て影へと吸収させながら。
氷華が飛ばしてくる氷刀や氷柱、それらは全て礼火の影の中へと吸い込まれ、氷華へと再度飛ばされる。
更に勢いを増した氷刀や氷柱は氷華が認識できるギリギリの速度で接近するが、一瞬にして霧散し、氷華の手を鉤爪へと変化させる。
背中の氷刀は自動で礼火の分身を追尾し、切り裂いていく。
「っち!!」
礼火本体と氷華は再び肉弾戦へと移行する。
鉤爪と影の腕。
礼火の頬を掠める鉤爪は小さな傷を一瞬にして凍結させる。一方の礼火の影の腕は自身へと纏わせ、豪腕のように一振り一振りが巨人の鉄拳のように重く、地響きを鳴らすほど。だが、両腕のみならず、礼火は背中から生やす二対の腕も豪腕となり、六本の腕が氷華を襲う。
切り刻もうと襲い掛かる氷刀は触れる度に粉砕される。しかし、砕けた氷は小さい刀となり、細かな傷を礼火へと負わせていく。
顔や腕、太ももから流れる血は地面を染めていく。
そして、徐々にお互いの実力差が見え始める。
『はぁ……はぁ……』
額から流す汗は地面へと落ちる前に結晶となって割れる。
氷刀を地面へと突き刺し、礼火へと向ける表情は苦悶となっていた。
氷華へと近づく礼火の視線に含まれる殺気は確実に氷華を殺しに掛かっている。
「私も亮人を本気で守りたいの……氷華もそうだとしても、覚悟が違い過ぎるの……わかる?」
屈み込む氷華へと礼火は二対の腕を一本に集約し、巨人の腕が振り下ろされた。
『もう…………何やってるのですのっ!!』
次の瞬間には礼火の姿は地面を数回跳ねながらうな垂れるように座り込む。
『なんで貴方まで力に飲み込まれるんですの? 亮人やれいやといい、礼火ももっと感情をコントロールできるようにならないとダメですわよ? ついでに、氷華も感情もそうですけど、冷静さが掛けると隙だらけですわよ』
礼火を投げ飛ばしたマリーは氷華の肩へと手を乗せる。ただ、その乗せられた手は優しく、そっと離れていく。
『氷華も燈と一緒に私に鍛えられないとダメですわね』
まるで教えがいのある生徒が来たとでも言わんばかりに、楽しそうに笑みを浮かべるマリー。以前の殺伐とした彼女の姿はなくなっていた。
『貴方もいつまでくたばっているんですの? 起きなさい』
頬を叩かれる礼火の瞳は人間に戻り、光を取り戻す。
「私……何してたの・」
『また、力に飲み込まれたのですわよ……能力を使ってる最中は感情をコントロールしなさいってあれだけ言ってるでしょうに』
「ごめんごめん、私何か言ってた?」
『もう……氷華を殺そうとしてたわよ』
ため息ひとつと手を氷華の方へと向けるマリーに、礼火の視線は同じように氷華へと向けられる。
息を切らし、礼火を睨む彼女の姿。白装束が所々汚れ、破れている彼女の姿に礼火は驚く。
「ごめん氷華っ!! 私、ここまでやるつもりはなかったのに」
『いいわよ……別に。私の方が弱かっただけ、それだけだから』
杖代わりに氷刀を地面に突きながら移動する氷華。
苛立ちに悔しさが感じられる彼女の背中に、礼火はこれ以上何も声をかけることができなかった。
「氷華には俺から言っておくから」
「ごめん……亮人」
礼火を横切り、亮人は氷華へと駆け寄ると亮人は軽く殴られ、笑みを浮かべる。
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