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選ぶ者・選ばれる者
選ぶ者・選ばれる者
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マリーと和解してから早くも一週間。あれから亮人達は人に見られない場所での訓練が行えるようになった。
『貴方はもっとスピードを出すように。死ぬかもと思って私から逃げなさい』
『わかってるよっ……』
周囲は黒く塗り潰されたような空間の中、マリーとシャーリーは対峙している。
その奥では氷華と燈、そして礼火が三人一組で各々の能力の底上げをしていた。
『前回、亮人の暴走で貴方は無謀にも近寄っていったことを忘れたらいけません。あの行動一つで貴方達はピンチになったのですから』
『……………………』
『あの時、捕まった原因はわかってますの?』
『無理やり、氷の中に突っ込んだから……』
真っ黒な地面へと俯くシャーリーは意気消沈する。
あの行動で氷華たちが無理して助けようとしたこと。結果として、全滅しかけたという事実。これだけの結果がシャーリーの行動の浅はかさを露見させる。
『これまで貴方は氷華や亮人といった命令してくれる人の元で動いてきた。だから、貴方の本領は発揮できていたわけですわ。ですが、今回の一件で貴方は分かったはずですわ。まだ経験が足りていないということに』
コクリ、と小さく頷くシャーリーへと向けるマリーの表情は優しいものだ。
クリスマスの戦闘で見せた顔とは違う、余裕が感じられる彼女の表情に安心を覚える。
シャーリーより強いんだから……もっと教えてもらう。
心の底からの覚悟を瞳に灯し、マリーへと顔をあげる。
『ここからは私と燈で貴方を徹底的に鍛え上げますわよ。燈、こっちで私と一緒にシャーリーを追い込みますわよ』
燈を呼び出し、燈とシャーリーは本来の姿へと体を変える。
『本当にスパルタね、マリーは』
『急ピッチで仕上げないと、何があるかわかりませんからね』
『……………………』
そこから始まる訓練は人間には見えない速度で繰り広げられる。
燈が灯す九尾の炎が残像を残すように暗闇の空間を灯す。
『甘いですわよっ!!』
マリーの懐へと入り込むシャーリーは軌道を読まれていたかのように殴り飛ばされ、燈から炎球を幾つも放たれる。
逃げ惑いながらも隙を探す。
速度はシャーリーの方が速いが、それに対応するようにマリーと燈は反撃を繰り返す。
『貴方の弱点は私たちのように応用が利く能力ではないということ。単純な速度と肉体強化ですわ。なら、それを極限まで突き詰めなさいっ!!』
『応用ってことは、これであってるのかなっ!!』
二人からの応酬にシャーリーは亮人の暴走の時に使った鎌鼬をマリーへと放つ。見えない風の刃はマリーの首へと飛んでいく。
『まだ精度が甘いですわ。もっと強く、速く出しなさいっ!!』
見えない鎌鼬を素手で掴み、霧散させるマリーは一気にシャーリーへと肉薄し、肉弾戦へと持ち込む。
尻尾を鞭のように使い、細かい鎌鼬が更にマリーへと襲う。
頬を切り裂かれながら肉弾戦を行うマリーの表情に感情はなかった。ただ、そこに合ったのは殺意のみ。
殺されるっ!!
マリーの殺気に飲み込まれたシャーリーは一気に距離を取るも、燈の炎の応酬が追撃する。
逃げ道は一切ない。
ここで対応しないと殺される。
『クソっ…………負けたくないっ!!』
剥き出される鋭い牙から地面へと血液が落ちる。
その一瞬でも、燈とマリーからの攻撃は恐ろしい程の数が放たれる。
もっと速くっ!!
四肢に込められる力は地面を抉るように、しかし無駄を無くすように。
シャーリーの動きは徐々に洗練されていく。
無駄に大きい足音も、体力を使うような無駄な動きも、この戦闘で徐々に消えていく。
『上達してるじゃないの、シャーリー』
シャーリーの動きの変化に気づく燈の視線には、実際にシャーリーの実像は見えなくなりつつあった。
『そう、その調子ですわ。あとはもっと応用を利かせなさい』
殺意の中に込められた笑みは不気味にシャーリーへと向けられる。
地面から生えてくる蔦がシャーリーを襲う。
クリスマスの時と同じように、徐々にシャーリーをドーム状に囲う。そして、その大きさは縮小していく。蔦から生える花弁からは無数のレイピアが剥き出され、アイアンメイデンの様にシャーリーを串刺しにしようとする。
マリーと燈は足を止め、目の前の光景を見つめる。
『どうなるか、見ものですわ』
『頑張りなさい、シャーリー』
逃げ道はなくなり、鎌鼬を使うもすぐに再生されてしまう。
冷や汗が額から流れ出す。
逃げられなかったら、確実に死ぬ。
さっきまでのマリーの様子を見る限り、シャーリーのことを殺しに掛かってる。
不気味な笑みを浮かべていた表情に悪寒を感じるほどに、彼女との差が圧倒的だった。
だが、シャーリーの瞳には諦めなどない。
マリーに言われた事実、亮人や氷華に甘えていたこと。
『私は負けないっ!! お姉ちゃん達を守るんだからっ!! 突破口くらい、作ってみせるよ!!』
覚悟を決め、シャーリーはその場で急速に円を描く様に走り出す。始めは二次元的に動き、徐々に速度を増せば、蔦を利用し三次元の動きとなる。
密閉された空間で渦巻く空気の流れは、その場で滞留する。そして、風を作っているシャーリー自身にも傷が入る。
蔦から伸びるレイピアは風の球体へと触れれば、一瞬にして切り刻まれる。
触れるもの全てを一瞬にして切り刻む球体は時間経過とともに大きさを増していき、その中心にはシャーリーが佇む。
『弾けて』
一言、呟く様に口にした瞬間に風球は拡散した。
拡散する無数の鎌鼬は防御にも、攻撃にも転じる強力な技となる。
覆い囲う蔦は迫り来る鎌鼬により、切り刻まれ霧散する。
『凄いわね』
『やっと一皮剥けましたわ』
二人の視線の先にいるシャーリーの姿は神々しく映る。
風に全身の毛は靡き、天を仰ぐように佇む彼女の毛は金色から所々にメッシュが掛かったように緑色が入っていた。佇むだけで周囲には風が吹き荒び、鎌鼬が彼女を包み込む。
『鎌鼬城ウィンドキャッスルなんて技の名前が良さそうですわね』
『技に名前なんかいらないでしょ』
『雰囲気が出るから、名前をつけるのもいいものですわよ?』
『そんな、子供みたいな』
『でも、意外と楽しいですわよ?』
『………………そうなの』
『そうですわ』
人型に戻った燈は顎に指をかけながら、目の前のシャーリーへと目を向ける。数秒ののちに、
『私に合う技名も決めて貰ってもいい?』
『それくらい、造作もないですわ』
『よろしく』
拳を合わせる二人へと近づくシャーリーの足取りは重く辿々しい。
『これで…………いいんだよね』
燈同様に人型に戻ったシャーリーは笑みを浮かべながら問いかける。
満身創痍とも言える状態の彼女の姿は以前の状態とは異なっていた。
シャーリーの髪は獣状態と同様に所々に緑色のメッシュが入り、体は以前より筋肉質になっている。そして、彼女の側では微風が漂うようになっている。
『少し、予想外ですわ。こんなに変化が出るなんて』
優しく笑みを浮かべたマリーは近寄ってきたシャーリーを抱き寄せる。マリーよりも大きいシャーリーの体を優しく抱きかかえると、シャーリーは意識を失った。
『今度は燈の番ですわよ?』
『わかってるわ…………こっちも強くなりたい気持ちで一杯なのよ』
隠していた九本の尻尾の先には白く灯る炎を携え、マリーとの戦闘が始まった。
『貴方はもっとスピードを出すように。死ぬかもと思って私から逃げなさい』
『わかってるよっ……』
周囲は黒く塗り潰されたような空間の中、マリーとシャーリーは対峙している。
その奥では氷華と燈、そして礼火が三人一組で各々の能力の底上げをしていた。
『前回、亮人の暴走で貴方は無謀にも近寄っていったことを忘れたらいけません。あの行動一つで貴方達はピンチになったのですから』
『……………………』
『あの時、捕まった原因はわかってますの?』
『無理やり、氷の中に突っ込んだから……』
真っ黒な地面へと俯くシャーリーは意気消沈する。
あの行動で氷華たちが無理して助けようとしたこと。結果として、全滅しかけたという事実。これだけの結果がシャーリーの行動の浅はかさを露見させる。
『これまで貴方は氷華や亮人といった命令してくれる人の元で動いてきた。だから、貴方の本領は発揮できていたわけですわ。ですが、今回の一件で貴方は分かったはずですわ。まだ経験が足りていないということに』
コクリ、と小さく頷くシャーリーへと向けるマリーの表情は優しいものだ。
クリスマスの戦闘で見せた顔とは違う、余裕が感じられる彼女の表情に安心を覚える。
シャーリーより強いんだから……もっと教えてもらう。
心の底からの覚悟を瞳に灯し、マリーへと顔をあげる。
『ここからは私と燈で貴方を徹底的に鍛え上げますわよ。燈、こっちで私と一緒にシャーリーを追い込みますわよ』
燈を呼び出し、燈とシャーリーは本来の姿へと体を変える。
『本当にスパルタね、マリーは』
『急ピッチで仕上げないと、何があるかわかりませんからね』
『……………………』
そこから始まる訓練は人間には見えない速度で繰り広げられる。
燈が灯す九尾の炎が残像を残すように暗闇の空間を灯す。
『甘いですわよっ!!』
マリーの懐へと入り込むシャーリーは軌道を読まれていたかのように殴り飛ばされ、燈から炎球を幾つも放たれる。
逃げ惑いながらも隙を探す。
速度はシャーリーの方が速いが、それに対応するようにマリーと燈は反撃を繰り返す。
『貴方の弱点は私たちのように応用が利く能力ではないということ。単純な速度と肉体強化ですわ。なら、それを極限まで突き詰めなさいっ!!』
『応用ってことは、これであってるのかなっ!!』
二人からの応酬にシャーリーは亮人の暴走の時に使った鎌鼬をマリーへと放つ。見えない風の刃はマリーの首へと飛んでいく。
『まだ精度が甘いですわ。もっと強く、速く出しなさいっ!!』
見えない鎌鼬を素手で掴み、霧散させるマリーは一気にシャーリーへと肉薄し、肉弾戦へと持ち込む。
尻尾を鞭のように使い、細かい鎌鼬が更にマリーへと襲う。
頬を切り裂かれながら肉弾戦を行うマリーの表情に感情はなかった。ただ、そこに合ったのは殺意のみ。
殺されるっ!!
マリーの殺気に飲み込まれたシャーリーは一気に距離を取るも、燈の炎の応酬が追撃する。
逃げ道は一切ない。
ここで対応しないと殺される。
『クソっ…………負けたくないっ!!』
剥き出される鋭い牙から地面へと血液が落ちる。
その一瞬でも、燈とマリーからの攻撃は恐ろしい程の数が放たれる。
もっと速くっ!!
四肢に込められる力は地面を抉るように、しかし無駄を無くすように。
シャーリーの動きは徐々に洗練されていく。
無駄に大きい足音も、体力を使うような無駄な動きも、この戦闘で徐々に消えていく。
『上達してるじゃないの、シャーリー』
シャーリーの動きの変化に気づく燈の視線には、実際にシャーリーの実像は見えなくなりつつあった。
『そう、その調子ですわ。あとはもっと応用を利かせなさい』
殺意の中に込められた笑みは不気味にシャーリーへと向けられる。
地面から生えてくる蔦がシャーリーを襲う。
クリスマスの時と同じように、徐々にシャーリーをドーム状に囲う。そして、その大きさは縮小していく。蔦から生える花弁からは無数のレイピアが剥き出され、アイアンメイデンの様にシャーリーを串刺しにしようとする。
マリーと燈は足を止め、目の前の光景を見つめる。
『どうなるか、見ものですわ』
『頑張りなさい、シャーリー』
逃げ道はなくなり、鎌鼬を使うもすぐに再生されてしまう。
冷や汗が額から流れ出す。
逃げられなかったら、確実に死ぬ。
さっきまでのマリーの様子を見る限り、シャーリーのことを殺しに掛かってる。
不気味な笑みを浮かべていた表情に悪寒を感じるほどに、彼女との差が圧倒的だった。
だが、シャーリーの瞳には諦めなどない。
マリーに言われた事実、亮人や氷華に甘えていたこと。
『私は負けないっ!! お姉ちゃん達を守るんだからっ!! 突破口くらい、作ってみせるよ!!』
覚悟を決め、シャーリーはその場で急速に円を描く様に走り出す。始めは二次元的に動き、徐々に速度を増せば、蔦を利用し三次元の動きとなる。
密閉された空間で渦巻く空気の流れは、その場で滞留する。そして、風を作っているシャーリー自身にも傷が入る。
蔦から伸びるレイピアは風の球体へと触れれば、一瞬にして切り刻まれる。
触れるもの全てを一瞬にして切り刻む球体は時間経過とともに大きさを増していき、その中心にはシャーリーが佇む。
『弾けて』
一言、呟く様に口にした瞬間に風球は拡散した。
拡散する無数の鎌鼬は防御にも、攻撃にも転じる強力な技となる。
覆い囲う蔦は迫り来る鎌鼬により、切り刻まれ霧散する。
『凄いわね』
『やっと一皮剥けましたわ』
二人の視線の先にいるシャーリーの姿は神々しく映る。
風に全身の毛は靡き、天を仰ぐように佇む彼女の毛は金色から所々にメッシュが掛かったように緑色が入っていた。佇むだけで周囲には風が吹き荒び、鎌鼬が彼女を包み込む。
『鎌鼬城ウィンドキャッスルなんて技の名前が良さそうですわね』
『技に名前なんかいらないでしょ』
『雰囲気が出るから、名前をつけるのもいいものですわよ?』
『そんな、子供みたいな』
『でも、意外と楽しいですわよ?』
『………………そうなの』
『そうですわ』
人型に戻った燈は顎に指をかけながら、目の前のシャーリーへと目を向ける。数秒ののちに、
『私に合う技名も決めて貰ってもいい?』
『それくらい、造作もないですわ』
『よろしく』
拳を合わせる二人へと近づくシャーリーの足取りは重く辿々しい。
『これで…………いいんだよね』
燈同様に人型に戻ったシャーリーは笑みを浮かべながら問いかける。
満身創痍とも言える状態の彼女の姿は以前の状態とは異なっていた。
シャーリーの髪は獣状態と同様に所々に緑色のメッシュが入り、体は以前より筋肉質になっている。そして、彼女の側では微風が漂うようになっている。
『少し、予想外ですわ。こんなに変化が出るなんて』
優しく笑みを浮かべたマリーは近寄ってきたシャーリーを抱き寄せる。マリーよりも大きいシャーリーの体を優しく抱きかかえると、シャーリーは意識を失った。
『今度は燈の番ですわよ?』
『わかってるわ…………こっちも強くなりたい気持ちで一杯なのよ』
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