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容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生
容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生ⅩⅡ
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あれから数時間、テーブルに並べられた皿は片付けられていく。
「ありがと、これで最後かな?」
「うん、これで最後」
エプロン姿が似合う亮人に礼火は沢山の皿を洗う。
「やっと、棚の皿が全部使えるな」
「役不足感があったもんね」
皿を洗いながら、二人の視線はリビングで寛ぐ五人へと向けられる。
大型のテレビに映し出されるゲーム画面。
燈だけは四人を見守るようにグラスに入った赤ワインを口へと含む。
『こうやって見てるだけでも幸せですね』
画面の前ではしゃぐ四人。
「はっはっはっ!! 嵌められてやんの!!」
『麗夜くんのそういう所嫌いだよっ!!』
『まぁ、今のはシャーリーが勝手に嵌ったようなものじゃない……』
『あなた達はバカですわねっ!! 私が一番ですわよっ!!』
パーティーゲームで遊ぶ姿は子供丸出しで、殺し合いをしたような間柄とは思えぬ程だ。
賑やかに流れる時間に二人は微笑む。
「亮人はこういうのが欲しかったんでしょ?」
微笑みながら見上げる礼火の表情。
そこには前までの幼い少女はいない。一人の華奢で優しい女性がいたのだ。
以前までの雰囲気はどこへ消えたのか。
それでも感じられる礼火の安心感は亮人の心を優しく包み込む。
一呼吸空け、一言。
「そうだな」
小さく口にし、頷いた。
その表情に陰りはなく、晴れ晴れとしていた。
「俺には家族ができたんだ」
「それと、友達だよ」
手を後ろに組みながら顔を近づける礼火の唇は亮人に近く。
「少しくらい……ご褒美が欲しいな」
頬を赤く染め、亮人へと一直線に向けらた視線。
彼女の気持ちと自分の気持ちは同じ。
理解しているからこそ、亮人はゆっくりと礼火の唇へと自分の唇を触れさせた。
たった一瞬のキスだとしても、伝わる気持ちは大きかった。
お互いを知っているからこそ、分かる。
「礼火のことが好きだ」
「私も…………亮人のこと、大好きだよ…………」
もう一度、見つめ合い、キスをしようとする。
静寂に包まれた部屋の中、二人の距離は徐々に接近する。
『ちゃんと言えるじゃないの……おめでとう、礼火』
「やっと実ったか……これから大変そうだな」
『私は諦めないからね…………でも、今は譲る事にするわ』
『シャーリーだって負けないんだからねっ!! お兄ちゃんは私が貰っちゃうんだからっ!!』
『いいものが見れて良かったですよ。麗夜も私と後でキスでもする?』
「っ!! 恥ずかしいことをこんなところで言うんじゃねぇ!! 酔っ払ってるだろっ!!」
『酔っ払ってなんかないわよ。本当に可愛く育ってくれて嬉しいわ』
「んんーーーっ!!」
燈の胸の中で悶える麗夜の頭からは湯気が吹き出し、マリーは腕を組みながらホッと一息ついている。
氷華とシャーリーは礼火を羨むように見つめていた。
「私だって負けないんだからっ!!」
満面の笑みを浮かべる礼火は亮人の首へと手を回し、もう一度キスを交わす。そして、冬の東京に一組のカップルが生まれた。
相馬亮人と奈星礼火は正式なカップルとなった。
♂ × ?
「想定してない……」
亮人宅の前で一人佇む最城。
下校中の三人を尾行し、すでに数時間が経過していた。
最城の瞳は暗い夜の中で光を放ち、家の壁を透かして中の様子を観察する。
一部始終を見ていた最城だから理解していた。
全員が結託したと言う事実。
前例がない出来事だった。
妖魔が見える人間自体が少ないと言われる時代、妖魔を従える人間が三人も結託すること自体が異例だった。
最城は懐から携帯を取り出し、履歴から上層部へと掛けると同時に背筋が凍る。
『そのまま掛けていなさい……異常はありませんでしたって上に伝えなさい。そうしないと貴方の命は無くなりますわよ……』
「…………………………」
首筋に立てられる鋭く尖った爪は皮膚を裂き、血が首筋を伝う。
視線の先、亮人宅の中に居たはずのマリーが背後に音もなく目の前に立っていた。
呼び出し音が数度なり、相手は電話に出る。
「今日の報告は、異常なしです」
「了解した……これからも監視対象を見逃すな。我々の目的はヴァンパイアだけだ。それ以外は殺しても構わない。近々、代表が日本に来られる……それまで絶対に見逃すことは許されない」
「わかりました……」
「怪物どもに地獄の栄光を……」
耳に押し当てる携帯を懐へと戻すと、最城の首へと掛けられたマリーの手に力が込められる。
『やっと、尻尾を掴みましたわ……』
憎悪と狂気、歓喜に満ちた表情が満月の光によって垣間見えた。
先ほどまで家の中で無邪気に遊んでいたマリーの姿は消え、冷徹無慈悲の妖魔『ヴァンパイア』としてのマリーがそこにいる。
『今は生かしておきますが……用がなくなれば、殺しますわ』
小柄なマリーの背中には翼が生え、少しだけ空中へと持ち上げられる最城は壁へと投げつけられる。
微笑みながら殺気を隠さないマリー。
『あなたは監視されてることを忘れずにいなさい? 常に、私に見張られてるんですの。もう……逃げられないですわ』
「最初から……知っていた?」
『こそこそと闘ってるところを見られていたのは知ってましたわよ。私はバカじゃありませんの。必ず見張りくらい付けますわ』
地面へと項垂れる最城の足元、街灯の光で作られた最城の影から一匹のコウモリが現れ、最城の肩へと着地する。キキッとなく鳴き声と共に噛みつこうとするも、マリーが静止させた。
『私は亮人達のように甘くありませんわ。彼らは優し過ぎますので、最後には貴方の命は摘ませてもらいますわ。その方が彼らにとって有益ですので』
「……………………わかった」
『わかった…………ですの?』
最城の思わぬ返事にマリーの表情は変化する。
「何の為に生きてるのか…………分からない。生きたいとも考えたこともない。だから、お前に任せる」
地面へと俯いている最城。四肢には力が入らず、抑揚がなく生気を感じられない返事。
『この…………人形風情』
人形風情。
その言葉だけは最城に突き刺さる。前髪に隠された表情に変化をもたらす。
マリーには見えない、悲痛な表情と瞳に溜まる水滴。
「何がしたいんだろう…………」
最城の声に感情が灯る。彼の本音がそこに宿った。
最城へと歩み寄るマリーは俯く彼の襟元を掴み、顔を引き寄せる。
『そんなこと、自分で考えなさい。私は考えて行動しましたわよ』
たった一言、そう言い残しマリーは自身の影の中へと沈み行く。
『まだ…………時間はありますわ』
最後に掛けられた声に殺気は宿っていなかった。
視線の先にいたマリーの言葉の意味は理解できない。ただ、理解できたことは一つ。
「やりたい事…………か」
満月に一つも雲がない満点の星空を見上げる最城守護の胸は酷く締め付けられるような痛みを感じたのだった。
「ありがと、これで最後かな?」
「うん、これで最後」
エプロン姿が似合う亮人に礼火は沢山の皿を洗う。
「やっと、棚の皿が全部使えるな」
「役不足感があったもんね」
皿を洗いながら、二人の視線はリビングで寛ぐ五人へと向けられる。
大型のテレビに映し出されるゲーム画面。
燈だけは四人を見守るようにグラスに入った赤ワインを口へと含む。
『こうやって見てるだけでも幸せですね』
画面の前ではしゃぐ四人。
「はっはっはっ!! 嵌められてやんの!!」
『麗夜くんのそういう所嫌いだよっ!!』
『まぁ、今のはシャーリーが勝手に嵌ったようなものじゃない……』
『あなた達はバカですわねっ!! 私が一番ですわよっ!!』
パーティーゲームで遊ぶ姿は子供丸出しで、殺し合いをしたような間柄とは思えぬ程だ。
賑やかに流れる時間に二人は微笑む。
「亮人はこういうのが欲しかったんでしょ?」
微笑みながら見上げる礼火の表情。
そこには前までの幼い少女はいない。一人の華奢で優しい女性がいたのだ。
以前までの雰囲気はどこへ消えたのか。
それでも感じられる礼火の安心感は亮人の心を優しく包み込む。
一呼吸空け、一言。
「そうだな」
小さく口にし、頷いた。
その表情に陰りはなく、晴れ晴れとしていた。
「俺には家族ができたんだ」
「それと、友達だよ」
手を後ろに組みながら顔を近づける礼火の唇は亮人に近く。
「少しくらい……ご褒美が欲しいな」
頬を赤く染め、亮人へと一直線に向けらた視線。
彼女の気持ちと自分の気持ちは同じ。
理解しているからこそ、亮人はゆっくりと礼火の唇へと自分の唇を触れさせた。
たった一瞬のキスだとしても、伝わる気持ちは大きかった。
お互いを知っているからこそ、分かる。
「礼火のことが好きだ」
「私も…………亮人のこと、大好きだよ…………」
もう一度、見つめ合い、キスをしようとする。
静寂に包まれた部屋の中、二人の距離は徐々に接近する。
『ちゃんと言えるじゃないの……おめでとう、礼火』
「やっと実ったか……これから大変そうだな」
『私は諦めないからね…………でも、今は譲る事にするわ』
『シャーリーだって負けないんだからねっ!! お兄ちゃんは私が貰っちゃうんだからっ!!』
『いいものが見れて良かったですよ。麗夜も私と後でキスでもする?』
「っ!! 恥ずかしいことをこんなところで言うんじゃねぇ!! 酔っ払ってるだろっ!!」
『酔っ払ってなんかないわよ。本当に可愛く育ってくれて嬉しいわ』
「んんーーーっ!!」
燈の胸の中で悶える麗夜の頭からは湯気が吹き出し、マリーは腕を組みながらホッと一息ついている。
氷華とシャーリーは礼火を羨むように見つめていた。
「私だって負けないんだからっ!!」
満面の笑みを浮かべる礼火は亮人の首へと手を回し、もう一度キスを交わす。そして、冬の東京に一組のカップルが生まれた。
相馬亮人と奈星礼火は正式なカップルとなった。
♂ × ?
「想定してない……」
亮人宅の前で一人佇む最城。
下校中の三人を尾行し、すでに数時間が経過していた。
最城の瞳は暗い夜の中で光を放ち、家の壁を透かして中の様子を観察する。
一部始終を見ていた最城だから理解していた。
全員が結託したと言う事実。
前例がない出来事だった。
妖魔が見える人間自体が少ないと言われる時代、妖魔を従える人間が三人も結託すること自体が異例だった。
最城は懐から携帯を取り出し、履歴から上層部へと掛けると同時に背筋が凍る。
『そのまま掛けていなさい……異常はありませんでしたって上に伝えなさい。そうしないと貴方の命は無くなりますわよ……』
「…………………………」
首筋に立てられる鋭く尖った爪は皮膚を裂き、血が首筋を伝う。
視線の先、亮人宅の中に居たはずのマリーが背後に音もなく目の前に立っていた。
呼び出し音が数度なり、相手は電話に出る。
「今日の報告は、異常なしです」
「了解した……これからも監視対象を見逃すな。我々の目的はヴァンパイアだけだ。それ以外は殺しても構わない。近々、代表が日本に来られる……それまで絶対に見逃すことは許されない」
「わかりました……」
「怪物どもに地獄の栄光を……」
耳に押し当てる携帯を懐へと戻すと、最城の首へと掛けられたマリーの手に力が込められる。
『やっと、尻尾を掴みましたわ……』
憎悪と狂気、歓喜に満ちた表情が満月の光によって垣間見えた。
先ほどまで家の中で無邪気に遊んでいたマリーの姿は消え、冷徹無慈悲の妖魔『ヴァンパイア』としてのマリーがそこにいる。
『今は生かしておきますが……用がなくなれば、殺しますわ』
小柄なマリーの背中には翼が生え、少しだけ空中へと持ち上げられる最城は壁へと投げつけられる。
微笑みながら殺気を隠さないマリー。
『あなたは監視されてることを忘れずにいなさい? 常に、私に見張られてるんですの。もう……逃げられないですわ』
「最初から……知っていた?」
『こそこそと闘ってるところを見られていたのは知ってましたわよ。私はバカじゃありませんの。必ず見張りくらい付けますわ』
地面へと項垂れる最城の足元、街灯の光で作られた最城の影から一匹のコウモリが現れ、最城の肩へと着地する。キキッとなく鳴き声と共に噛みつこうとするも、マリーが静止させた。
『私は亮人達のように甘くありませんわ。彼らは優し過ぎますので、最後には貴方の命は摘ませてもらいますわ。その方が彼らにとって有益ですので』
「……………………わかった」
『わかった…………ですの?』
最城の思わぬ返事にマリーの表情は変化する。
「何の為に生きてるのか…………分からない。生きたいとも考えたこともない。だから、お前に任せる」
地面へと俯いている最城。四肢には力が入らず、抑揚がなく生気を感じられない返事。
『この…………人形風情』
人形風情。
その言葉だけは最城に突き刺さる。前髪に隠された表情に変化をもたらす。
マリーには見えない、悲痛な表情と瞳に溜まる水滴。
「何がしたいんだろう…………」
最城の声に感情が灯る。彼の本音がそこに宿った。
最城へと歩み寄るマリーは俯く彼の襟元を掴み、顔を引き寄せる。
『そんなこと、自分で考えなさい。私は考えて行動しましたわよ』
たった一言、そう言い残しマリーは自身の影の中へと沈み行く。
『まだ…………時間はありますわ』
最後に掛けられた声に殺気は宿っていなかった。
視線の先にいたマリーの言葉の意味は理解できない。ただ、理解できたことは一つ。
「やりたい事…………か」
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