妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生

容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生ⅩⅠ

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「ただいま、みんな」

「ただいまぁ~」

 亮人達は玄関をあけ、帰宅する。

『おかえり、二人とも。ヴァンパイアからは何もされてない?』

『二人ともおかえり~』

 心配をする氷華とは反対にいつも通りに接するシャーリーは亮人へと抱き付くと亮人の匂いを嗅ぐ。

『お兄ちゃんの匂いは落ち着くなぁ……』

 顔を押し付ける力は緩く、背中へと伸ばされる両手も同様に抱擁するように優しい。

『シャーリーだけズルわいよ、私も』

 匂いを堪能しているシャーリーを剥がす氷華は、亮人の頭へと手を伸ばし、唇を重ねた。

「んっ!!」

 突然の行為に為す術がない亮人は触れる程度に触れた氷華の唇。ひんやりとした魅惑の唇はふわりと柔らかいものだったが、すぐに離れた。

『お楽しみはまた夜にね?』

「…………………………」

 呆然と目の前を見つめることしかできていない亮人は頬を紅く染める。

「亮人のえっち…………」

「えっ!!」

「私だって…………したいもん」

「……………………そっか」

『『ジーーーーー』』

 ジト目で睨みつける二人に礼火は負けじと睨みつける。たった数秒、ただ、数秒後には、

『『「あははははっ!!」』』

 賑やかに、ただ同じように笑い声をあげる三人の姿があった。
 同じ者を好きになり、同じ者に助けられ、同じ者を助けたい。
 同じ気持ち、同じ目的を持つ者同士だからこそ、素直に笑うことができた。

「まったく、不思議でならないな。普通なら牽制し合うだろに」

『あれがあの子達の絆なのよ、麗夜。私達は私達なりの絆があるでしょ?』

「ウルセェ、頭を撫でるなっ!! 頭をっ!!」

『もう……照れちゃって、可愛いわね』

 氷華たちの後ろで二人が入ってくるのを待っていた麗夜たちも賑やかになっていた。

『本当、貴方達は賑やかですわね』

 亮人達の後ろ、そこで佇む金髪長身の女子は呆れたように賑やかな雰囲気を切るように言い放つ。
 そんな彼女に亮人の飼い猫、クロは足元へと擦り寄り、ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝転がる。心を許すかのような仕草に、しゃがみ込むマリーはクロの頭を撫でれば、

『貴方のご主人は人気者ですわね』

「ニャァァァ」

『あら、お返事が出来ますのね。賢い猫は好きですわよ、私』

 喉のゴロ音を一段と大きくし、手を舐めるクロはマリーの周りを歩き回り、家へと誘う。

『お誘い感謝しますわ、クロちゃん』

 周りを無視しながら家へと入るマリー。

『貴方達も早く入りなさい、色々と募る話があるでしょう?』

 口を開ける氷華やシャーリー、睨みつける麗夜達。

『礼火……こっちに来なさい。私のことを伝えに来たんでしょう?』

 賑やかな雰囲気は一瞬にして砕け散り、静寂を呼ぶ。
 マリーの一言に礼火は笑みを消し、真面目な表情を浮かべ亮人から離れる。マリーへと歩みを進める後ろ姿は亮人や氷華、シャーリーが知っている幼さがあるものではなくなっていた。
 一瞬にして別人を思わせる風格に三人は息を飲む。

『ごめんね、ここからは遊びじゃない。みんなに話があるの……マリーのこと、これからのこと。少しだけ時間を貰えないかな?』

 五人の方へと振り返る礼火の瞳。それはこの前見たように、縦長く真紅へと色を変える。そして、彼女から放たれる空気は冷たく、重苦しく、五人に固唾を飲ませる程のものだった。
 ただ、その中でクロだけはリビングへと歩く二人に付いて歩いていた。
 各々が椅子に座り、マリー達へと視線を向ける。
 睨みつけるような剣幕の麗夜達の後ろには蜃気楼のようにモヤがかかる。いつでも戦えるぞ、と言わんばかりの雰囲気を尻目に亮人へと視線を向けるマリー。

『学校では楽しくお話をしましたけど、外に出れば話は別ですわ。和解をしたわけではありませんので、そこだけは理解して置いて欲しいのですけど……宜しいです?』

 醸し出されるプレッシャーは地面へと広がるマリーの影からも亮人達の肌を突き刺す。ただ、亮人はそれを気にもせず、笑みを浮かべながらマリーへと視線を向けた。

『まったく…………その笑顔はやめれませんの? 調子が狂うのですわ』

「だって、マリーが俺達の事を殺す事なんてないのは分かってるから。そんなに気にしなくてもいいかなって思ってるだけだよ」

『…………そうですの』

 地面へ広げていた影は収束し、マリーの元へと帰っていく。

「マリー、亮人を試しても無駄だよ? お人好しの塊みたいなんだから」

『嫌になりますわね、こんな奴に頼むなんて』

「まぁ、そう言わずにね。ここにいるみんななら、助けてくれるから」

『はぁ…………わかりましたわよ』

 大きく溜息を吐くマリーは醸し出していたプレッシャーを収める。

『今日来たのは、私が貴方達に危害を加えるつもりはない事を伝えに来ましたの。礼火に伝えるようにお願いしましたのに、昨日の仕返しとか言われて、しょうがなく来てあげましたのよ。感謝しなさい?』

 大きな胸を弾ませるように突き出し、腰に手を当てるマリーはそっぽを向く。

「それだけの為に来たのかよ……」

『警戒して損したわね』

 蜃気楼を出していた麗夜は溜息をつき、机へと頬杖を付いた。

「んで、お前は何で日本にいるんだ? ヴァンパイアはヨーロッパ周辺を拠点にしてただろ。何でこんなところまで来てんだよ」

『貴方、意外と物知りなんですわね』

 粗暴な素振りが多い麗夜の博識さに、マリーは驚くように目を見開く。

「そりゃ、どうも」

 頬杖をつきながら、面倒臭そうにマリーの方へと向く麗夜は興味がなさげに話を聞く。

『私の本来の目的は下僕を作る事ですわ。それに関しては礼火がなってくれましたので、よしとしますの』

「ちょっとっ!! 下僕じゃないでしょっ!? 友達っ!! 友達だからねっ!!」

『五月蝿いのは放っておいて、もう一つは一族を根絶やにした組織を見つけ出すこと』

 マリーの横で騒ぐ礼火を余所に話は進められる。

「地獄の栄光《インフェルノ・グローリー》か」

『本当に物知りですのね、どこで知ったんですの? 私ですら、あの組織を見つけ出すのに苦労したっていうのに……貴方達のことは見下さないことにしますわ』

「ヴァンパイアに認められるとは、光栄なもんだ」

 憎まれ口を叩きながら、麗夜はお菓子を大きく開いた口へと頬張る。

「それで、地獄の栄光《インフェルノ・グローリー》を探し、仇を討つってことか? 要するにお前が今、俺たちに言いたいのは地獄の栄光インフェルノ・グローリーを壊滅する為に手助けをしてほしいってことだろ?」

『話が早くて助かりますわね。簡単に言えば、そういうことですの。私一人では正直、無理だと思ってますの。私の父、ヴァンパイア一族の王ですら倒されてるんですから』

 王というワードに麗夜達は驚きながら、呆気にとられた。

「王族かよ……そりゃ、強いわけだ」

『凄い話になってきたわ』

「麗夜くん、どういうことか説明できる?」

 いまいち話に参加できない亮人。
 話の規模が大きく、要点が見えないでいた。

『亮人、要するに私たちの数十倍も強い妖怪の王が地獄の栄光《インフェルノ・グローリー》? っていう組織に殺されたってことよ』

『お兄ちゃん……私でも分かったよ?』

「ごめん」

 苦笑いを浮かべると礼火がマリーの前に立つ。

「マリーが私を眷属にしたのも、助けが必要だったってことも一因してるの。ただ、私自身も強くなりたかったから、ちょうどよかったし……だから、マリーの事は責めないで欲しいの」

 騒いでいた礼火はマリーの手を握ると片方の瞳は人間へと戻り、

「私を助けてくれたマリーの手助けをしたいの。私の我儘なのは分かってるけど……マリーを助けてっ!!」

 さっきまでの冷徹な雰囲気は消え、優しく朗らかな普段の礼火は目尻に涙を浮かべながら、五人へと頭を下げた。

「私の大切な友達を助けてくださいっ!!」

 礼火の後ろに立っているマリーは、亮人達とクリスマスの夜のように、目尻に涙を浮かべながらゆっくりと頭を下げる。

『……………………助けて』

 切実な言葉だった。
 それが亮人達が感じた印象だ。

「ただ、敵が敵だからな……どうするかは、亮人次第だろ」

『私達は亮人さんのお手伝いをさせて貰うだけです。麗夜が亮人さんに付いて行くというなら、私も努力させてもらいます』

 燈は麗夜を後ろから抱き締めながら亮人の方へとほほえみながら視線を向ける。

『私達も同じよ。亮人が決めた事ならどこまでも付いていく。亮人は必ず守ってみせるから、亮人の好きにしていいわよ』

『シャーリーも、お兄ちゃんがやりたい事叶えてあげたい。その為に力がいるならもっと特訓するからさっ!! だから、お兄ちゃんは好きにしていいよっ!!』

 シャーリーは亮人の正面から抱きつき、上目遣いで話しかける。

『大丈夫……何があっても、シャーリー達が助けるから……』

 顔を埋めながら口にした言葉は意気揚々としたものではなかった。
 覚悟を決め、抱きしめるその力は一瞬だけ強まる。

『大丈夫よ、シャーリー…………シャーリーのことも私が守ってあげるから』

『お姉ちゃん……』

 シャーリーの頭を優しく撫でる氷華の表情は優しいものだった。見ているだけで不安だった心が安らぐのをシャーリーは感じていた。そして、その目尻には小さな水滴が浮かび、氷華が拭う。
 部屋は静まり返り、全員の視線は亮人の方へと向けられる。
 目の前で不安に心を染めていたシャーリー。
 亮人に付いて行くと決めた氷華。
 亮人のことを信頼し、手助けをすると言った麗夜達。
 友達のために頭を下げる礼火。
 そして、不器用ながらも助力を求めたマリーがそこにいた。
 ただ、亮人の中では答えはもう決まっている。

「マリー…………俺たちはもう友達なんだ。困ってたら助けるに決まってるだろ?」

 たったそれだけの言葉。
 それだけの言葉だが、マリーは俯くと同時に肩を震わせた。
 助けてくれる人がいる。
 そう思えるだけで、マリーの心に張り詰めていた緊張が解れていく。
 約十年間、一人孤独に耐えながら生き延び、仇を討つためだけに努力をしてきた。
 時には死ぬと覚悟をした時もあった。いつ襲われるかも分からない不安の中で、一人耐え抜いてきた。ただ、礼火に声を掛けた事で大きな変化が訪れた。

 友達。

 それがどんなものなのか……。

 マリアがベズドナと話すきっかけ。
 これまで理解できなかった「友達」が、マリーの人生を大きく変えた。

 お母様……今ならわかるかもしれませんわ。

 俯いていたマリーは顔をあげると同時に姿形は少女へと変貌する。

『友達になってくれて、ありがとうっ!!』

 目を赤く腫らせながらも、満面の笑顔を向けるマリーに初めての仲間ができた瞬間だった。
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