妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生

容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生Ⅹ

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「おはよう、礼火」

「おはよう、亮人。昨日はありがとね」

「それはこっちが言うことだろう。ありがとう」

『フフ……仲がいいですわね、二人は。お似合いですわよ』

「なっ、急にそんなこと言われると恥ずかしいからやめてよねっ!!」

 朝の登校時、待ち合わせをして一緒に登校することにした二人に待ち伏せをするかの如く忽然と現れるマリーは悪戯をするかのように笑みを浮かべる。

『あなたは体の調子は如何ですの?』

「二人のお陰で何ともないよ。昨日は助けてくれてありがとう、マリー」

『感謝なら、礼火に言って貰えると助かりますわ。礼火が助けたいと言わなければ、私は手伝ったりしませんので』

 外方そっぽを向くマリーだが、その頬は少し赤く染まっているのが覗ける。

「素直じゃないんだから」

『煩いですわよ、礼火』

「はいはい」

 三人は教室へと足を踏み入れるとクラスメイトが賑やかに談笑をしている。
 亮人が思い描く日常生活。
 失いたくないと思える時間がそこにはある。

「おはよう、亮人」

「おはよう、礼火。昨日のニュースみた? 近所で起きた氷の木のニュースっ!!」

「おっ、おはようございます、マリー様っ!!」

 各々に声をかけるクラスメイト達。
 無邪気さがある、単なる高校生達。
 ただ、それだけだが三人は笑みを浮かべた。

『私をマリー様と呼ぶあなたは僕にしてあげてもいいわね』

 マリーへ頭を垂れる男子は、「ハハッ!!」とノリを楽しんでいた。

「昨日、そんなニュースやってたんだ!! 昨日はすぐ寝ちゃったから全然知らないんだよね」

「またぁ、心も体も子供のままなんじゃないの~」

「なんだってぇぇぇええ」

 教室を走り回る礼火達にクラスメイトたちが笑い、心が温まる。
 ただ一人、転校して来た最城守護だけは外を眺めながら、椅子に座っていた。

「あぁ、最城な。昨日、話しかけてもあまり返事とかしてくれなくて、もう孤立し始めててな。亮人なら話しかけられるだろ?」

「俺なら話しかけられるってどう言うことだよ。まぁ、話せるけど」

「頼む、クラスに馴染ませてやってくれ」

「はいはい、それくらいならやってみるよ」

 賑やかな空気の中に異質な程静かな彼へと歩みを進める。

「最城くん、まだ挨拶してなかったね。俺の名前は相馬亮人。転校して来たばっかだから分からない事とかあると思うし、何かあったら声かけて」

「……………………最城守護です。よろしく」

 前髪で隠されている顔は見えないが、確実に亮人を見つめる彼は外へと視線を戻した。

「私は奈星礼火って言うの!! これからよろしくねっ、守護くん!!」

 外へと向けている視線へと無理やり入り込む礼火に驚きもせず、

「よろしく」

 ただ、一言口にした。

『礼火が話掛けているのに、その態度は許し難いですわね』

「……………………ごめん」

『ふーん……そういう感じですのね』

 昨日の雰囲気とは全く違いますわね……。

 亮人たちを追って来ていた最城の表情とは打って変わった反応。感情を殺した声と窺わせない表情を彼を関わりづらくする。
 教室へと教師が入り、授業が進められる中でも最城は外を眺める。
 僕は何をしているんだろうか……。
 目の前では授業が行われ、真っ当な学生を演じている。
 外から教室へと視線を向ければ、そこには速弁をしている学生や携帯を弄る者、眠りこけているものに真面目に授業を受ける学生が多くいた。

 僕には勿体無い気がするな。

 初めて経験する学生生活。
 他者と触れ合うことなど、組織以外では一切なかった。だからこそ、彼らとの接し方がわからない。生まれて初めての経験なのだから。
 学術や知識、それらは組織で嫌という程に教え込まれた。
 物心ついた時から、僕の居場所は組織だったのだから。
 青く、雲が一切ない空に羽ばたく鳥達は群れを成して遠く彼方へと飛んで行く。

「羨ましいな…………」

 自由。

 感じたことがない、自由、というものを生の中で楽しんでいる周りの学生や鳥達。ただ、それだけで羨んでしまう。
 教室へと再び視線を向けると、視線の先にはマリーと亮人がいた。
 詰まらなそう授業を受けるマリーに、黙々と授業を受ける亮人。教師から指名され、問題に答える姿は普通の学生だった。ただ、その姿とは違い、戦闘時の能力は桁外れであった。

 あの二人は危険だ。

 髪に隠れる表情は険しくなる。
 先に男を殺し、ヴァンパイアは生け捕りにしなければならない。それが、僕がいる組織の目的だ。
 だが、昨夜の戦闘を目の当たりにし、男の危険性は理解している。

 …………懐に入るしかない。

 亮人を油断させた状態で殺すのが妥当である。そう結論づけた最城だが、一つ問題が生じた。

 どうやって懐に入ればいいんだろう……。

 これまで組織内では上司とのコミュニケーションしかしたことがない最城にとって、この学生生活ということが慣れない生活であり、初めての体験。
 分からないことだらけだ。
 そうこうしているうちに時間は過ぎていき、昼休み。

「最城くん、一緒にご飯食べない?」

「…………相馬亮人」

「名前覚えてくれたんだ。どう、一緒にご飯食べない?」

「昼飯を持って来ていないんだ」

 常に尾行ができるよう、普段から一日一食の生活をしている最城は無表情に答える。
 そんな最城を気にも止めることなく、

「なら、購買に行こうか」

 と、亮人は話を進めて行く。

「なら、私も購買に行こうかなっ!!」

『購買とはなんですの?』

 続々と集まる標的が最城に緊張を持たせる。
 表面上に表さないが、彼らの力を知っているからこそ慎重になる。
 目の前で賑やかに話し出す彼らは組織の敵。
 ただ、目の前にいる彼らは一切、敵には見えない。
 単なる高校生。
 そんな彼らが最城へと笑みを浮かべながら、声をかける。
 たったそれだけだが、心の奥底で何かが膨れ上がった感じがした。

「…………買いに行く」

 小さく呟くように返事をした。最城を連れ出して行く三人の後ろ姿に羨ましさを感じた。和気あいあいと歩いて行く彼らの気の知れている間柄は最城にはいない。

「友達……」

 とは、なんなのか。
 知識にはある。だが、実際にいたことがない「友達それ」を最城は感じ取れない。分からないのだから。
 小さく呟いた言葉。

「そう、友達。俺らも友達になろうよ、最城くん」

 足を止め、振り向いて視線を向けてくる亮人の瞳に陰りはなかった。輝く瞳に嘘偽りはないと言わんばかりに最城へと視線は向けられる。

「友達になったら楽しいこと増えるよっ!!」

『私は友達になどなりませんわよ。下僕としてなら扱ってもいいですが』

 満面の笑みを浮かべる礼火に本気で言っているであろうマリーが続け様に口にする。

「楽しいことって……例えばどんな?」

 純粋な質問。分からないことへの探求。
 そんな返答にあたふたする礼火だが、亮人は一言。

「笑っていられるってことだよ」

 と返事をした。

「笑っていられる……」

 言葉にしたことを僕はしたことがあるのだろうか。
 強制的に笑ったことはある。だけど、本当に笑ったことはあるのだろうか。
 自問自答を永遠とも言えるほどにする最城の肩へと置かれた手。

「ゆっくり慣れればいいんだよ。転校して来たばかりなんだから、無理はしない方がいいぞ」

「そうそう、無理はしないしない」

『私を見習いなさい』

「「無理でしょ」」

『なんでですの!!』

 賑やかに歩みを進める彼らの後ろを付いて歩く。
 初めての体験に初めての気持ち。

 楽しいとは、何なのだろうか。

 疑問は更に疑問を呼び、思考が纏まらなくなる。

「それで、何を買うんだ?」

「えっ」

 多くの学生がガヤガヤと集まる購買。亮人と最城の目の前では礼火が、「私のご飯んぅぅぅううう」とごった返す集団の中を掻き分けながら前へと進んで行く。

『私のために道を開けなさい……』

 マリーに至っては、半ば強制的に道を開けさせ、昼食を買っていた。

「俺たちも飯買わないと無くなるぞ」

「あっ………………ああ」

 引っ張られるように前へと進む。ただ、それだけだが最城の目には、その光景が輝いて見えた。
自分が知らなかった光景。

「これが……楽しいっていうのか」

 自然と口にしていた言葉。そして、前髪で見えない最城の口角は少し、見ても分からない程度に上がっていたことに、自身でも気づいていなかった。
 屋上に上がり、三人で四人で昼食を食べながら談笑を始める。
 他愛もない話。
 マリーも人間の話にできる限り合わせるよう相槌を入れる。

「マリーの出身地はどこなんだ?」

『私はイタリアの田舎ですわ。でも、ちゃんと白で暮らしていたのですわよ?』

「城で住んでたなんて凄いな。最城くんはどこに住んでたの?」

「俺は…………」

言葉に詰まる最城は手に持っていたパンを一度置き、空を見上げる。
見上げた際に微かに見えた最城の表情は亮人達に何処か儚げに感じさせた。影があるその面影に、

「無理に言わなくていいよっ!!」

 両手をあたふたさせながら声をかける礼火。彼女が手に持っていた水筒からはお茶が盛大に溢れ、それに更に慌てる。

「忙しないなぁ、もう……変わってなくてよかった」

「……うん、本当に変わってないよ。大丈夫」

 片付けながら亮人と礼火の手は触れ合った。
 暖かく感じられる、人肌の温もりが変わらずにあった。

「二人は…………付き合ってる?」

 自発的に出した質問。だが、その事自体に最城は驚く。

 他人に興味を持つなんて……。

 命令以外で他人に興味を持ったことがなかった。だからこそ、驚きを感じる。
 今日一日で体験する、一つ一つが最城を突き動かしていく。

「付き合ってないけど…………説明するのは難しいな」

「つっ、付き合ってないよっ!! ただ、付き合いたいとは思ってるけど、けど、それはまだ早いっていうか、私が
亮人を守れるようになってからというかっ!!」

『はぁ…………感情ダダ漏れですわよ、礼火』

「はうぅぅぅ」

「俺が礼火を守れるようになるから」

「私だってっ!!」

 お互いに見つめ合っている二人の顔は徐々に赤面していき、互いに視線を逸らした。

「これが……照れてる?」

『そうですわ…………照れてるってことですわ』

 二人の姿に呆れながら紅茶を飲み込むマリーは最城へと一言。

『やっと人間らしさが出ましたわね』

 と、不敵に笑い三人の元から去って行く。
 ただ、その一言だけで最城は冷や汗が溢れ出す。
 ゾッとするプレッシャーだけが、最城を襲ったのだった。
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