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容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生
容姿端麗性格最低な転校生と無口な転校生Ⅵ
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「はじめに伝えておいたほうがいいよね」
真剣な眼差しでみんなを見詰める礼火は一呼吸入れる。そして、瞬きをしたと同時に彼女の体に変化が生じた。
瞳の虹彩は縦長くなり、色彩も見つめているものを吸いこむかのような真紅色へと変わる。そして、一番大きな変化が現れた時には亮人や氷華、シャーリーの三人は驚きを隠せなかった。
風を切るように開かれたそれは、一つで2mほどの大きさだ。しかし、それは大き過ぎるが故にすぐさま縮められた。
翼膜を持った黒い翼が礼火の背中から生えてきたのだ。
「私は……マリーの眷属になったの。みんなと同じ立場になって、みんなを守れるように強くなるために」
力強く口にする彼女の表情は前の礼火とは違っていた。
どこか寂しげに感じさせる表情を浮かべていた礼火だが、今みんなの前にいる礼火は雰囲気も変化している。無邪気な子供らしさも消え、静けさを備える一人の少女、いや女性になった。
『あの女の眷属になって、どれくらいが経つの?』
胸の前で腕組みをしている氷華。ただ、彼女の足元からは緩やかだが冷気が溢れでていた。
目の前にいる礼火に対する警戒に困惑、そして嫉妬という気持ちが溢れ出るかのように冬のリビングを更に冷やして行く。
「おっ、落ちつていよ、氷華!! 私は操られたりしてないから。マリーとは眷属として主従関係にあるけど、対等に扱ってもらってるんだよ」
両手を前に振りながら笑みを浮かべる礼火。その笑みから覗き込める八重歯は異様に長く発達していた。
「マリーの眷属ね……でも、二人が出会うきっかけなんてなかったと思うんだけど」
「きっかけはクリスマスの夜だよ。傷ついて帰ってきたみんなが、ここで話してる時に外に出たの。その時にコウモリになったマリーが話を持ちかけてくれたの」
クリスマスの夜。
「私は何もできないのかな……ちょっと、悔しいよ」
大粒の涙が頬を伝う時には、礼火は地面へとしゃがみ込み声をあげて泣くことしかできなかった。
仲間の中で唯一の人で、なんの力もない。非力で、亮人のことを助けることなんてできない。
心の奥底ではわかっていた。だけれど、信じたくない気持ちに隠された本音は徐々に大きく膨れ上がっていく。
頬を突き刺すように寒い空気に流れた涙は凍らずに、地面へと滴って行く。そして、涙が地面へと落ちた瞬間だった。
『なら、少しだけ私がお手伝いして差し上げますよ』
「っ!!」
肩に乗った小さな手は礼火を闇の中へと引きずり込んで行った。
声にならない音は闇の中へと引き摺り込まれ、もがこうとするも抵抗は一切無駄だった。
『無理やり引きずり込んでごめんなさいね。私の名前はmalinovyy tsvet printsessaマリーノヴィ・ツヴェート・プリンツェッサ。誇り高き吸血鬼一族の最後の生き残りですの。さっきまであなたのお友達と殺し合いをしていたヴァンパイアですわ』
小さな金髪の少女は頭を下げると、不気味な笑みを浮かべた。鋭い八重歯が見えるその笑みには嬉しいといった感情はない。ただ、目の前にいる餌をどう調理するか、殺人鬼のような雰囲気を漂わせている。
『あの男に変なことを言われて、ちょっと癪に障っているのですわ。無理やり思い出したくないことを思い出させたあの男に嫌がらせをしたくて、あなたを引き摺り込んだのですが……泣いていると、どうもやる気が出ませんわね』
音もない世界の中、マリーはゆっくりと礼火の元へと歩み寄ってくる。
『なんで泣いているんですの?』
礼火と同様にしゃがみ込み、横へと座るマリー。礼火よりも年下に見える彼女の姿とは裏腹に年上のように振る舞うその言葉や動きには気品さを礼火は感じていた。
「相手に言うことなんか……ないもん」
『ないもんって……もう、なんて可愛らしいのかしら、この子っ!! 本当は殺そうと思っていたんですけど、辞めておくことにしますわ。いっそ、私の眷属にしてあげてもいいですわよ』
さっきまでの殺気はどこへ消えたのか、まるで妹を可愛がるかのように接するマリーにれいかは困惑する。ただ、一つだけ引っ掛かった言葉が礼火を突き動かした。
「眷属って……どういうこと?」
目を丸く、目尻には涙を溜めて見つめてくる礼火の姿に、興奮していたマリーは頭を撫でながら口にする。
『簡単なことですわっ!! 私の僕になるということですの。人間をやめて、ヴァンパイアになるってことですわ。今ではヴァンパイアは私だけにですし、眷属にしてあげてもいいですわよ』
「人間をやめるって、亮人達みたいになれるってこと?」
『亮人っていうのは、あの男のことですか? そうですわね、要するに妖魔の主人になるということですが、私の主人になるなんて事は絶対に許しませんわ。私が主人であなたは眷属要するに奴隷になってもらうって事ですわっ!!』
「っ!!」
目の前にいたマリーは礼火の顔と10cm程度の距離に一瞬で間を詰めてきた。
目の前にいるのは妖魔、ヴァンパイアである事。そして、亮人たち五人を一人で相手するほどの強者である事。
その事を理解しているが、礼火はただただ目の前にいる少女へと両手を伸ばす。
「奴隷にはならないけど、あなたの最初の友達にはなりたいかな。どうかな?」
友達。
たったその一言がマリーに笑みを浮かばせた。
『いつでも殺される状態なのに、そんなことを言うなんて、あの男と同じね、あなたは。良いわよ? 眷属でもあり、友達として私の側にいる事を許してあげるわ。それと貴方が力を欲しいのはわかってますわ。あの男を守りたいのですわよね?』
首を力強く、折れるのではないかと思える力で握り締めている小さな手に礼火は抵抗する。歴然の差があるが、炎を灯しているその瞳からは力に抗おうとする確固たる意志がある。
「私はっ!! もう、無力だなんて思いたくないっ!! 亮人を、みんなが傷付かないよう守りたいっ!! 守れるものは全部、私は死んでも良いから守ってみせるっ!! カハッ」
首から手を離され、礼火の呼吸が再度始まる。荒々しく呼吸をしている礼火を余所に、マリーは礼火の顎を引き上げた。
『良い覚悟ね、気に入ったわよ……弱いのって、辛いわよね』
最後に悲壮感ある表情に言葉を放つマリーは礼火へと口づけをする。優しさが感じられる、その口づけ。一瞬であるが、それだけでも礼火はマリーの気持ちが分かった気がする。
同じ苦しさを知っているんだ。
『あなた、名前はなんて言うの?』
「私の名前は奈星礼火。よろしくね、マリー」
頬を赤く染めているマリーに満面の笑みを浮かべる礼火。そして、もう一つマリーからの提案があった。
『もっと強くなりたいなら、方法があるのですが。やりたいですか?』
「強くなれるなら、私は何でもする覚悟はもう出来てる」
『なら、これは絶対に誰にも言ったらダメですよ。死ぬ程辛く、痛い思いをしないといけませんので』
そう口にしたマリーの手首を切り、血を滴らせる。
そして、礼火は彼女の生き血を飲み込んだ。
そこからは地獄だった事を亮人たちには伝えない。マリーとの約束と、あの苦しみを知って欲しくないから。
そうして、奈星礼火は生まれ変わった。
妖魔、ヴァンパイアの眷属にして、半妖半人の存在へと。
真剣な眼差しでみんなを見詰める礼火は一呼吸入れる。そして、瞬きをしたと同時に彼女の体に変化が生じた。
瞳の虹彩は縦長くなり、色彩も見つめているものを吸いこむかのような真紅色へと変わる。そして、一番大きな変化が現れた時には亮人や氷華、シャーリーの三人は驚きを隠せなかった。
風を切るように開かれたそれは、一つで2mほどの大きさだ。しかし、それは大き過ぎるが故にすぐさま縮められた。
翼膜を持った黒い翼が礼火の背中から生えてきたのだ。
「私は……マリーの眷属になったの。みんなと同じ立場になって、みんなを守れるように強くなるために」
力強く口にする彼女の表情は前の礼火とは違っていた。
どこか寂しげに感じさせる表情を浮かべていた礼火だが、今みんなの前にいる礼火は雰囲気も変化している。無邪気な子供らしさも消え、静けさを備える一人の少女、いや女性になった。
『あの女の眷属になって、どれくらいが経つの?』
胸の前で腕組みをしている氷華。ただ、彼女の足元からは緩やかだが冷気が溢れでていた。
目の前にいる礼火に対する警戒に困惑、そして嫉妬という気持ちが溢れ出るかのように冬のリビングを更に冷やして行く。
「おっ、落ちつていよ、氷華!! 私は操られたりしてないから。マリーとは眷属として主従関係にあるけど、対等に扱ってもらってるんだよ」
両手を前に振りながら笑みを浮かべる礼火。その笑みから覗き込める八重歯は異様に長く発達していた。
「マリーの眷属ね……でも、二人が出会うきっかけなんてなかったと思うんだけど」
「きっかけはクリスマスの夜だよ。傷ついて帰ってきたみんなが、ここで話してる時に外に出たの。その時にコウモリになったマリーが話を持ちかけてくれたの」
クリスマスの夜。
「私は何もできないのかな……ちょっと、悔しいよ」
大粒の涙が頬を伝う時には、礼火は地面へとしゃがみ込み声をあげて泣くことしかできなかった。
仲間の中で唯一の人で、なんの力もない。非力で、亮人のことを助けることなんてできない。
心の奥底ではわかっていた。だけれど、信じたくない気持ちに隠された本音は徐々に大きく膨れ上がっていく。
頬を突き刺すように寒い空気に流れた涙は凍らずに、地面へと滴って行く。そして、涙が地面へと落ちた瞬間だった。
『なら、少しだけ私がお手伝いして差し上げますよ』
「っ!!」
肩に乗った小さな手は礼火を闇の中へと引きずり込んで行った。
声にならない音は闇の中へと引き摺り込まれ、もがこうとするも抵抗は一切無駄だった。
『無理やり引きずり込んでごめんなさいね。私の名前はmalinovyy tsvet printsessaマリーノヴィ・ツヴェート・プリンツェッサ。誇り高き吸血鬼一族の最後の生き残りですの。さっきまであなたのお友達と殺し合いをしていたヴァンパイアですわ』
小さな金髪の少女は頭を下げると、不気味な笑みを浮かべた。鋭い八重歯が見えるその笑みには嬉しいといった感情はない。ただ、目の前にいる餌をどう調理するか、殺人鬼のような雰囲気を漂わせている。
『あの男に変なことを言われて、ちょっと癪に障っているのですわ。無理やり思い出したくないことを思い出させたあの男に嫌がらせをしたくて、あなたを引き摺り込んだのですが……泣いていると、どうもやる気が出ませんわね』
音もない世界の中、マリーはゆっくりと礼火の元へと歩み寄ってくる。
『なんで泣いているんですの?』
礼火と同様にしゃがみ込み、横へと座るマリー。礼火よりも年下に見える彼女の姿とは裏腹に年上のように振る舞うその言葉や動きには気品さを礼火は感じていた。
「相手に言うことなんか……ないもん」
『ないもんって……もう、なんて可愛らしいのかしら、この子っ!! 本当は殺そうと思っていたんですけど、辞めておくことにしますわ。いっそ、私の眷属にしてあげてもいいですわよ』
さっきまでの殺気はどこへ消えたのか、まるで妹を可愛がるかのように接するマリーにれいかは困惑する。ただ、一つだけ引っ掛かった言葉が礼火を突き動かした。
「眷属って……どういうこと?」
目を丸く、目尻には涙を溜めて見つめてくる礼火の姿に、興奮していたマリーは頭を撫でながら口にする。
『簡単なことですわっ!! 私の僕になるということですの。人間をやめて、ヴァンパイアになるってことですわ。今ではヴァンパイアは私だけにですし、眷属にしてあげてもいいですわよ』
「人間をやめるって、亮人達みたいになれるってこと?」
『亮人っていうのは、あの男のことですか? そうですわね、要するに妖魔の主人になるということですが、私の主人になるなんて事は絶対に許しませんわ。私が主人であなたは眷属要するに奴隷になってもらうって事ですわっ!!』
「っ!!」
目の前にいたマリーは礼火の顔と10cm程度の距離に一瞬で間を詰めてきた。
目の前にいるのは妖魔、ヴァンパイアである事。そして、亮人たち五人を一人で相手するほどの強者である事。
その事を理解しているが、礼火はただただ目の前にいる少女へと両手を伸ばす。
「奴隷にはならないけど、あなたの最初の友達にはなりたいかな。どうかな?」
友達。
たったその一言がマリーに笑みを浮かばせた。
『いつでも殺される状態なのに、そんなことを言うなんて、あの男と同じね、あなたは。良いわよ? 眷属でもあり、友達として私の側にいる事を許してあげるわ。それと貴方が力を欲しいのはわかってますわ。あの男を守りたいのですわよね?』
首を力強く、折れるのではないかと思える力で握り締めている小さな手に礼火は抵抗する。歴然の差があるが、炎を灯しているその瞳からは力に抗おうとする確固たる意志がある。
「私はっ!! もう、無力だなんて思いたくないっ!! 亮人を、みんなが傷付かないよう守りたいっ!! 守れるものは全部、私は死んでも良いから守ってみせるっ!! カハッ」
首から手を離され、礼火の呼吸が再度始まる。荒々しく呼吸をしている礼火を余所に、マリーは礼火の顎を引き上げた。
『良い覚悟ね、気に入ったわよ……弱いのって、辛いわよね』
最後に悲壮感ある表情に言葉を放つマリーは礼火へと口づけをする。優しさが感じられる、その口づけ。一瞬であるが、それだけでも礼火はマリーの気持ちが分かった気がする。
同じ苦しさを知っているんだ。
『あなた、名前はなんて言うの?』
「私の名前は奈星礼火。よろしくね、マリー」
頬を赤く染めているマリーに満面の笑みを浮かべる礼火。そして、もう一つマリーからの提案があった。
『もっと強くなりたいなら、方法があるのですが。やりたいですか?』
「強くなれるなら、私は何でもする覚悟はもう出来てる」
『なら、これは絶対に誰にも言ったらダメですよ。死ぬ程辛く、痛い思いをしないといけませんので』
そう口にしたマリーの手首を切り、血を滴らせる。
そして、礼火は彼女の生き血を飲み込んだ。
そこからは地獄だった事を亮人たちには伝えない。マリーとの約束と、あの苦しみを知って欲しくないから。
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