妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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Blood X`mas

Blood X`mas ⅩⅢ

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 亮人たちは道中で合流した麗夜たちと自宅へと歩みを進めていた。

「麗夜君、大丈夫?」

「あぁ、さっきは迷惑かけて悪かった」

 頬を掻きながら氷華達へと振り向くと頭を下げる麗夜がそこにいた。

『もういいわよ、けど何があったのかは教えて欲しいわ』

『シャーリーはみんなが元気なら気にしないっ!!』

「助かる……俺も最近になってわかってきた事なんだけどな。妖魔に恋愛感情を持つ様になると、感情の制御が難しくなるらしいんだ。俺の場合は燈が傷つけられる事で感情のコントロールがさっきみたいに難しくなる。感情が爆発したら一時的とは言え、能力は一段と強くなるが、見境がなくなるから厄介なんだ」

「そうなんだ……気をつけるよ。それとさっきの女の子が、『妖魔狩りに家族を殺された』って言ってたんだけど、どう思う?」

「イタリアの妖魔狩りなら知ってる。地獄の栄光インフェルノ・グローリー……異常なまでに妖魔を殺すことに執着してる奴らだ。もしかしたら、アイツらに目を付けられたのか……」

「……………………」

「まぁ、当分の間は俺らが亮人の側で護衛してやる。何かあっても対応できる様にしとくぞ」

「ありがとう」

 重苦しく歩き続ける亮人たちは家に着く。ただ、そこには灯が点り、食欲を唆そそる匂いが漂う。玄関を開けるとそこには礼火がエプロン姿で待っていた。

「帰ってくるって信じてたよ、亮人」

 涙を浮かべた礼火は三人を小さい体で抱きしめ、

「おかえり」

 と、一言だけ伝える。
 次の瞬間、亮人と氷華、シャーリーは力強く抱きかえし、

「『『ただいま』』」

 そこには暖かな『家族』があった。

 ♂     ×     ?

「頑張ってみたけど……どうかな?」

 テーブルに作られた料理の一つ一つから湯気が立ちこめ、食欲を唆る香りは闘った五人には堪らないものだった。

「先に貰うぜっ!!」

『シャーリーも食べるーっ!!』

 子供の様に燥はしゃぐ二人は勢いよく口に頰張ると笑みを浮かべながら、次々に食べ進める。

『礼火って料理が苦手じゃなかった?』

「そりゃ、あれ以来料理の練習したからね。お母さんからも、「もうお嫁に行っても大丈夫」ってお墨付きを貰うくらいには猛特訓したよ」

 腕組みをし、小振りな胸を張らせ、自信満々の表情を浮かべる礼火の姿があった。

「どれもご馳走だね」

「燈の料理も美味いぞ!?」

『ふふ、また今度作ってあげるわね』

 大皿から小鉢へと移した料理を麗夜の口へと入れる燈の表情は幼い弟を甘やかす姉の様に優しく、和やかだ。

「というか……この前の子がいるけど、大丈夫なの?」

 礼火の視線の先にいる麗夜と燈。

「あぁ、この前は悪かったな。色々と迷惑かけた。だけど、いまは安心してくれ。俺たちは亮人たちの味方だ」

『この前は迷惑をかけてごめんなさい。亮人さんのおかげでうちの子が真っ直ぐな子になってくれた事に感謝しかないです』

「いやいや、そんな畏まらなくて大丈夫ですよお姉さんっ!!」

「ちなみに燈は九尾だ、尻尾の通りだけどな」

「えっ、あの時の九尾なんですかっ!?」

 ズボンの後ろからヒョロヒョロと畝うねる九本の尻尾を大きく広げる。

『そんな驚かなくてもいいじゃん、シャーリーだって同じ様なもんだよ?』

「でも、驚くわよっ!! あの時の怖そうな狐がこんな美人なお姉さんなんだから」

『美人だなんて言ってくれるの? 嬉しいです』

 微笑む燈の表情に頬を赤らめる礼火は俯き、小声で、

「あんな風になりたいな……」

 と口ずさんだ。
 そこへ間髪入れずに麗夜は口にする。

「あんたならなれるだろ、亮人の事好きなんだから。好きな奴のためなら女は努力するだろうからな、無理じゃないだろ」

「ブッ!! ゴホッ、ゴホッ」

 料理を頬に溜め込みながら爆弾を口にする麗夜だが、礼火はむせ返える。

「急にっ!! そういうこと言わないでっ!!」

「だけど、事実だろ?」

「……………………うん」

 小さく頷く礼火は亮人の方へと顔を向ける。そこには顔に無数の擦り傷がある亮人が美味しそうに料理を口にしている。ただ、亮人の顔は礼火へと向けられる。いつもの様に朗らかに、優しい表情。昔の色褪せていた瞳は色強く輝き、礼火へと視線は向けられる。

「大丈夫だよ……今のまま、ありのままの礼火が一番可愛いからね」

 頭を撫でる亮人の手はゴツゴツとしているも、優しさを感じられる様に礼火を撫でる。
 たったそれだけで礼火の心は落ち着く。

『何をイチャイチャしてるのよ、あんた達……』

『シャーリー達を忘れないでよっ!!』

「まぁ、いいんじゃないか? こうやって楽しく過ごせてるんだから」

『こういう楽しい時間は大切にしないとですよ』

「そうだね……ごめん、ちょっとトイレ」

 亮人以外の五人はそのまま料理を食べながら談笑し、亮人はトイレには行かずにゆっくりとした足取りで自分の部屋へと向かう。ただ、足取りは重く、徐々に力が抜けていく様なものになる。
 さっきまでの楽しげな空間とは違う、亮人が漂わせる空気は重苦しく、息苦しさを感じさせるほどに悍ましい。息遣いも早く、階段の手すりを辛うじて掴む手の力はなくなる。
 視界が徐々に赤く、黒く染められていく様子に恐怖を覚える。

『そんなんじゃないかと思ってきたけど……来てよかったわ』

「ごめん……」

『いいわよ……これからだって、ずっとこうしてあげるわよ』

 亮人に肩を貸すその姿からは冷気が漂い、さっきまで亮人を覆っていた悍ましい空気は亮人の中へと吸い込まれていく。

『何があっても、私たちがあんたを守って見せるから』

 その言葉の後、亮人の視界は消えた。ただ、彼女の冷たい体から伝わる優しさだけが亮人の心に余韻を残して。

 ♂     ×     ?

「見つけた」

 雪が降り続ける街の一角、高級住宅街の中にある亮人の家の前に佇む一人の青年の瞳は朧げに家へと向けられる。生気を感じさせない瞳が明かりが点いている部屋を一点に見つめる。

「六人……」

 見えないはずの家の中を見透かすかの様に言い当てる青年は片手に携帯を取り出す。そこに映し出される番号へと通話をする。

「ヴァンパイアと戦闘をした妖魔達を見つけました。様子を伺い、随時報告します」

「第一優先はヴァンパイアだ……奴を見つけろ、我らの悲願の為に」

 電話越しに聞こえる声はノイズ掛かり、ブツンと切れる。
 耳元から降ろされる腕は携帯を握りながら脱力する。

「…………僕にとっての願いって何ですか」

 青年の声は機械の様に抑揚なく放たれるも、何処か悲しげに口にする。
雪が降る空を見上げる彼の頬に付いた雪は溶け、頬を伝いながら地面へと落ちた。それはまるで彼の気持ちを表すかの様に。
 踵きびすを返して闇夜の中へと青年の背中は小さく、寂しげに消えて行く。
 その光景は一匹のコウモリに見られていたとは知らずに……。

 ♂     ×     ?

「氷華……亮人は?」

 リビングへと戻って来た氷華へ四人の視線が向けられた。

『気を失うみたいに部屋で寝てるわよ……今日はもう起こさないほうがいいわ』

 髪を靡かせながら、椅子に座れば料理を摘む。ただ、そこに座っている氷華の表情に笑顔はない。

『今後、今回みたいに私たち以外の妖魔が襲ってくるようになってくる可能性が増えてくるかもしれないわね。アンタたちが話してた地獄の栄光インフェルノ・グローリーって組織がみてたかもしれないんでしょ?』

「いや、あそこかは決まってないけどな。ただ、可能性は高いだろうな……あそこはヴァンパイアと抗争してたって聞いたこともあるからな」

『なら、注意しないといけないね……お兄ちゃんにこれ以上負担はかけられないよ』

『なら、今度から鍛錬しないとダメね。まだあなた達は戦い慣れてから』

 静寂に包まれるリビング。
 これから始まるだろう戦いを前にする四人は天井を見つめた。
 その視線に含まれる感情は各々違う。
 そこにあるのは、心配、信頼、友情、感謝。
 それぞれが抱く気持ちはここにいる四人の気持ちを一つにする。

「『『『私たち、俺たちが守る』』』」」

 そんな彼らを傍らに見つめる礼火は席を外す。一人家から出て、空を見つめる彼女の目尻からは涙が流れる。
 スカートをギュッと握りしめ、口角を噛み締める彼女はただ、そこに佇むことしかできなかった。ただの女子高生の礼火には何もできない。できるのは料理を作って、亮人たちを見送ることだけ。一緒に戦うことはできない。
 何もできないもどかしさが胸を苦しめる。

「私は何もできないのかな……ちょっと、悔しいよ」

 大粒の涙が頬を伝う時には、礼火は地面へとしゃがみ込み声をあげて泣くことしかできなかった。

『なら、少しだけ私がお手伝いして差し上げますよ』

 肩に乗った小さな魔の手が礼火を一歩前へと前進させたことを四人は知らない。

 ♂     ×     ?

「亮人のことは私が守ってあげるよ」

 亮人の耳元で囁かれる言葉の主は頭元に何かを置けばドアを開け、階段を降りていく。

『いつもありがと……私達で亮人のこと守ってみせるから』

 頭を撫でるその手はヒンヤリとし、疲れた体を癒す。

『お兄ちゃんのために頑張るからね』

 額へとキスをした彼女は階段を降りていく。

『メリークリスマス……亮人』

 頬へとキスをした冷たい唇は他の二つと同様に階段を降りる。ただ、その足取りはゆっくりと、時折振り返っているかのように足音は止まる。
 朧げな意識の中で亮人は頭元に置かれた物を抱きしめ、夢を見る。
 暖かな、優しい夢。

「これが……家族なんだ」

 自分の理想が詰まった夢に目尻から涙を流しながら笑顔の亮人がいた。
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