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Blood X`mas
Blood X`mas ⅩⅠ
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『お姉ちゃん……早くシャーリーも戻るからね……』
「ごめん、シャーリー。一旦、そこの木陰で隠れよう」
氷華から十分以上が経過し、亮人を人のいない木陰へとゆっくりと降ろす。
降りる動作だけで全身に激痛が走るが、さっきほどは痛くなくなっている。
「あれだけやれられも早く治るのは……ありがたい変化だね」
少しずつ人間離れしていることは亮人自身も理解している。
前の麗夜との戦闘の時も同じくらいの傷を負っても、普通の人間と比較したら相当早く治ったのだから。
ただ、呼吸をするたびに肋骨の軋む音が体を駆け巡り、激痛を伴う。
『お兄ちゃん……ごめんね』
「いや、シャーリーが謝ることじゃないよ? 結果として人間じゃなくなってきてるとしても、心は人間のままなんだから」
痛む体に鞭を入れながら、目の前でへたり込む狼姿のシャーリーを撫でる。
『お兄ちゃん、シャーリーはお姉ちゃんのところに戻るね』
「俺ももう少し動けるようになったら、そっちにまた行くから」
『だめだよ!! そんな体じゃどうしようもないよ!!』
「そうだそうだ、狼娘の言う通りだぞ、亮人」
「『えっ……』」
二人の後ろから現れたのはダウンを羽織った小柄な少年とコートの隙間から見える胸を強調するようなタートルネックを着た女性だ。
『クリスマスイブなので遊びに行きたいって言うので来たんですけど……丁度いいタイミングだったんですね』
「ったく、だから早く逃げろって言ってやったのによ。ほら、手出せよ」
少年から差し出された手は異常なほどに熱い。
まるで炎が手の形をしているかのような錯覚をしてしまうほどに。
「どうして…………麗夜君がいるの?」
瞳孔が開くほどに驚く亮人。
今目の前にいる麗夜と樟が希望に見えた。だが、一方の麗夜は亮人の傷つきようをまじまじと見つめると、
「雪女はどうした?」
『私たちを逃がすために一人で戦ってる……』
『また彼女だけで戦ってるのね…………彼女らしいと言ったら彼女らしいけど……今回の様子だと急がないとまずいわね……麗夜』
「あぁ……亮人っ、雪女を迎えに行くぞ」
その言葉に呼応するようにシャーリーは強く頷き、颯爽と走ってきた道を戻る。それと同様に樟は姿を九尾へと変化させ、駆け抜けていく。
「ごめん……こんな状態で……」
亮人の謝罪に麗夜は反応しない。ただ、亮人を軽々と背負う彼は一言。
「今度は俺があんたを助ける番だ」
そう残し、全速力でシャーリーたちを追いかけていく。小柄の彼の背中がとても頼もしく、安心できる状況に亮人は涙が出そうになる。
自分の実力不足が明白な戦いだったことを振り返る。だからこそ、更に悔しさがにじみ出始める。
「んで、今回はどんな奴にやられたんだ?」
そんな亮人を構うことなく、麗夜は力強く地面を蹴る。ただ、その力は徐々に強くなっていく。地面を抉るような破砕音と共に亮人たちの体は道行く人を超えていく。
「掴み所がないような感じなんだ……瞬間移動もするし、地面から襲ってくる。あと、傷がついても血が出ないんだ。それにコウモリが一緒にいたのが印象的だったよ」
「コウモリ……か。ちょっと厄介なのに捕まったんだな、亮人」
「厄介……?」
「あぁ、あいつらは日本でも有名な種族だぞ。聞いたことくらいあるだろ? ヴァンパイア。
あいつらはイタリアでは妖魔の中でも上位中の上位だ。貴族って言われる程にな。だけど、妙だな……」
「なにが……」
「ヴァンパイア一族は妖魔狩りで絶滅したって聞いたことがあるんだ……もしかしたら、最後の生き残りがいたのか……まぁ、厄介な相手だとしても、俺たちがいれば大丈夫だ。俺たちはあいつの天敵だからな」
背負っている亮人のほうへと振り向く麗夜の表情は笑っていた。前に戦った反抗的な少年の面影は、そこにはなかった。
「麗夜君……変わったね」
「誰のせいだよ……誰の」
「俺だね」
「あぁ……感謝してるよ。だから、こうやって助けるんだよ」
目の前の少年の言葉には優しさが含まれている。だからこそ、亮人は一時だけ涙を流した。
「そろそろ着くぞ……」
亮人の視線の先、そこには白い装束を身に纏い、背中から氷の翼を生やしている氷華がいた。そして、彼女の視線の先には金髪の少女が二人、氷華へと翼を広げて飛んでいた。だが、氷華の攻撃をよけ、地面へと逃げた彼女の手が氷華を掴み、地面へと引きずり込もうとする瞬間、燈が引っ張り上げる。
「ありがとう……」
「感謝は家に帰ってから聞かせてもらうぞ。それと旨い飯も頼むわ」
後ろ手にヴァンパイアへと歩みを進める彼の背中からは白々とした炎が広がっていく。見た目には温かく、手を伸ばして暖まりたいと思えるような優しい色の炎。だが、それは氷華が凍てつかせた地面や木々を溶かし、消し炭にしていく。
『私たちが今度は貴方たちを助ける番よ』
「今度の敵はそいつか……やるぞ、あかりっ!!」
二人は炎を携え、目の前のヴァンパイアと対峙した。
「ごめん、シャーリー。一旦、そこの木陰で隠れよう」
氷華から十分以上が経過し、亮人を人のいない木陰へとゆっくりと降ろす。
降りる動作だけで全身に激痛が走るが、さっきほどは痛くなくなっている。
「あれだけやれられも早く治るのは……ありがたい変化だね」
少しずつ人間離れしていることは亮人自身も理解している。
前の麗夜との戦闘の時も同じくらいの傷を負っても、普通の人間と比較したら相当早く治ったのだから。
ただ、呼吸をするたびに肋骨の軋む音が体を駆け巡り、激痛を伴う。
『お兄ちゃん……ごめんね』
「いや、シャーリーが謝ることじゃないよ? 結果として人間じゃなくなってきてるとしても、心は人間のままなんだから」
痛む体に鞭を入れながら、目の前でへたり込む狼姿のシャーリーを撫でる。
『お兄ちゃん、シャーリーはお姉ちゃんのところに戻るね』
「俺ももう少し動けるようになったら、そっちにまた行くから」
『だめだよ!! そんな体じゃどうしようもないよ!!』
「そうだそうだ、狼娘の言う通りだぞ、亮人」
「『えっ……』」
二人の後ろから現れたのはダウンを羽織った小柄な少年とコートの隙間から見える胸を強調するようなタートルネックを着た女性だ。
『クリスマスイブなので遊びに行きたいって言うので来たんですけど……丁度いいタイミングだったんですね』
「ったく、だから早く逃げろって言ってやったのによ。ほら、手出せよ」
少年から差し出された手は異常なほどに熱い。
まるで炎が手の形をしているかのような錯覚をしてしまうほどに。
「どうして…………麗夜君がいるの?」
瞳孔が開くほどに驚く亮人。
今目の前にいる麗夜と樟が希望に見えた。だが、一方の麗夜は亮人の傷つきようをまじまじと見つめると、
「雪女はどうした?」
『私たちを逃がすために一人で戦ってる……』
『また彼女だけで戦ってるのね…………彼女らしいと言ったら彼女らしいけど……今回の様子だと急がないとまずいわね……麗夜』
「あぁ……亮人っ、雪女を迎えに行くぞ」
その言葉に呼応するようにシャーリーは強く頷き、颯爽と走ってきた道を戻る。それと同様に樟は姿を九尾へと変化させ、駆け抜けていく。
「ごめん……こんな状態で……」
亮人の謝罪に麗夜は反応しない。ただ、亮人を軽々と背負う彼は一言。
「今度は俺があんたを助ける番だ」
そう残し、全速力でシャーリーたちを追いかけていく。小柄の彼の背中がとても頼もしく、安心できる状況に亮人は涙が出そうになる。
自分の実力不足が明白な戦いだったことを振り返る。だからこそ、更に悔しさがにじみ出始める。
「んで、今回はどんな奴にやられたんだ?」
そんな亮人を構うことなく、麗夜は力強く地面を蹴る。ただ、その力は徐々に強くなっていく。地面を抉るような破砕音と共に亮人たちの体は道行く人を超えていく。
「掴み所がないような感じなんだ……瞬間移動もするし、地面から襲ってくる。あと、傷がついても血が出ないんだ。それにコウモリが一緒にいたのが印象的だったよ」
「コウモリ……か。ちょっと厄介なのに捕まったんだな、亮人」
「厄介……?」
「あぁ、あいつらは日本でも有名な種族だぞ。聞いたことくらいあるだろ? ヴァンパイア。
あいつらはイタリアでは妖魔の中でも上位中の上位だ。貴族って言われる程にな。だけど、妙だな……」
「なにが……」
「ヴァンパイア一族は妖魔狩りで絶滅したって聞いたことがあるんだ……もしかしたら、最後の生き残りがいたのか……まぁ、厄介な相手だとしても、俺たちがいれば大丈夫だ。俺たちはあいつの天敵だからな」
背負っている亮人のほうへと振り向く麗夜の表情は笑っていた。前に戦った反抗的な少年の面影は、そこにはなかった。
「麗夜君……変わったね」
「誰のせいだよ……誰の」
「俺だね」
「あぁ……感謝してるよ。だから、こうやって助けるんだよ」
目の前の少年の言葉には優しさが含まれている。だからこそ、亮人は一時だけ涙を流した。
「そろそろ着くぞ……」
亮人の視線の先、そこには白い装束を身に纏い、背中から氷の翼を生やしている氷華がいた。そして、彼女の視線の先には金髪の少女が二人、氷華へと翼を広げて飛んでいた。だが、氷華の攻撃をよけ、地面へと逃げた彼女の手が氷華を掴み、地面へと引きずり込もうとする瞬間、燈が引っ張り上げる。
「ありがとう……」
「感謝は家に帰ってから聞かせてもらうぞ。それと旨い飯も頼むわ」
後ろ手にヴァンパイアへと歩みを進める彼の背中からは白々とした炎が広がっていく。見た目には温かく、手を伸ばして暖まりたいと思えるような優しい色の炎。だが、それは氷華が凍てつかせた地面や木々を溶かし、消し炭にしていく。
『私たちが今度は貴方たちを助ける番よ』
「今度の敵はそいつか……やるぞ、あかりっ!!」
二人は炎を携え、目の前のヴァンパイアと対峙した。
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