妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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Blood X`mas

Blood X`mas Ⅹ

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『強すぎるでしょ、あんたっ!!』

『イタリアだと、これくらい強くないと簡単に殺されるんですよっ!!』

 インファイトが続く氷華だが、少女のほうが肉薄している状態だった。
 徐々に詰められる氷華の衣服は彼女の鋭い爪によって切り裂かれていき、切り口からは血が流れる。
 氷華の氷爪も少女の洋服を裂いていくが、彼女の体は傷つくことはない。

『さっきから当たってるはずなのにっ!!』

 確かな手応えは感じる。少女を洋服の上から傷つける感覚はある。だが、目の前の少女は何もないかのように立ち振る舞いながら迫ってくる。

『私の種族が分からないようですから、教えてあげましょうか?』

 小柄な少女は息を切らすことなく氷華の腹を殴り、吹き飛ばす。
 吹き飛ばされる氷華は地面を氷爪で抉りながら、速度を落とす。

『これだけ強いってことは上位の妖魔なんでしょうね……ただ、ごめんなさいね。私は日本でした生きたことがないから、貴方の種族は一切知らないわっ!!』

 態勢を低くし、全速力で少女へと走りこむ。墓石を盾にジグザグに走りこむ氷華の姿は徐々に数を増やしていく。

『へぇ…………こんな芸当もできるなんて、器用ですね』

 少女の前を走る氷華は五人に増える。それぞれが氷華と同じように息をし、足音も同じように立てる。そして、五人が一斉に少女へと接近する。空へと手を伸ばす五人の氷華は空から氷柱と雹を降り注がせる。そして、彼女を囲うように一気に詰めていく。

『ただ、同じような戦法しかないのが惜しいですね』

 溜息交じりに少女は五人の氷華を一度に相手にする。
 空から降り続ける氷柱と雹。それらが少女に当たれば、初めて血が流れた。ただ、彼女の表情に変化はない。苦痛がないかのように、氷華たちと接近戦を続ける。
 氷華たちの体は殴られる度に一部が破砕していく。だが、降り続く氷柱を体の一部として再利用し、連続した攻撃を続ける。

『ッチ……ちょっと厄介に感じてきました』

 どれが本当の氷華なのかは判別できない。それだけ巧緻に作られた氷華たちは徐々に少女を劣勢に追いやっていく。
 少女は視線を遠くへと向けた。
 その次の瞬間、インファイトをしていた空間から消える。

『いったい……どういったからくりなのよ』

 見渡す氷華たち。
 ただ、一体ずつその姿は消えていく。

『一体ずつ倒せば、関係ないですね』

 周囲を囲む木々から少女の声が聞こえてくる。同時にガラスが割れるような音と共に。

『これだけ緻密に作っていると、流石に体への負担も強いですよね。そろそろ出てきたらどうですか』

 最後の一体が墓地から消えると、地面から少女が浮かび上がってくる。

『力の差が分かっていて、ここまで戦ったことは称賛します。ただ、もう私も十分に堪能したので終わりにしますね』

『いや、まだ終わらせないわよ?』

 墓石の裏で隠れていた氷華が少女の前へと姿を現す。ただ、さっきと同じように五人の氷華たちが少女へと近づいていく。

『今度は本体も一緒にいるんですか?』

『さぁ? それは戦って確かめなさいよ』

『なら、お言葉通りにっ!!』

 氷華たちの手には氷刀が握り締められる。
 肉弾戦と剣戟、同時に行われる少女の腕に、足に切り傷が増えていく。そして、氷華は氷華ごと少女を蹴り飛ばす。

『そういうこともできますねっ!!』

 少女と共に吹き飛ばされた氷華は空中でも追撃をする。

『グハッ!!』

 追撃の氷刀が少女の左の肺を突き刺し、夥しい鮮血を流しながら木へ突き立てられる。そして、氷華たちは氷槍を少女へと投擲した。突き刺さっていく氷槍は小柄な彼女の体に穴を空けていく。
 その光景はまるで処刑のようだ。
 ぐったりと項垂れる少女。

『流石に……やりすぎたかな……』

 一人の氷華は少女へと近づき、顔を覗き込む。口から流れる赤黒い血液は地面へとゆっくりと落ちていく。可愛らしい少女の顔は寝ているように息をしていない。まるで人形のように整えられた顔は氷華と殺しあっていたものとは思えないほど、美しかった。

『どうしよう…………殺しちゃった』

 目の前で倒れている少女は一切体を動かすことはない。
 ソワソワと氷華は慌てる。
 殺すつもりはなかった。ただ、実際に殺してしまったことの恐怖に氷華は慌てふためく。
 五体の氷華は彼女から氷槍を引き抜くと地面へと少女を優しく置く。いまだに流れる少女の血に動揺が隠し切れない氷華。
そこに彼女のもとへ一匹のコウモリが鳴きながら近寄る。彼女を慕うように鳴くコウモリだが、少女の体の中へと吸収されていく。
いままで降り注いでいた雹と氷柱は霧散させた氷華だが、次の瞬間には動揺は恐怖に変わった。

『いつまで私の体を見てるんですか?』

 雹が収まった瞬間、少女の両腕は氷華たちを掴み、墓石へと投げ飛ばされる。

『キャッ!!』

 投げ出された氷華は本体へと直撃する。

『流石に死ぬかと思いましたよ……まぁ、死にませんが……ちょっと想定外でした』

 首の骨を鳴らしながら、歩みを進める少女。体には穴が開いているにも関わらず、歩いてくる少女の姿に氷華の心は恐怖に支配される。

『こんなにも傷つけられるのは、あいつらと戦って以来ですね』

 氷華へと近づく少女の体へと滴った血液が時間を遡るように体の中へと吸収されていく。欠損した体の部位も治っていく。

『こんなの…………反則じゃないの』

『妖魔な時点で世界からは反則じゃないですか?』

 完全に治った四肢に体、洋服すらも戦闘が始まる前と同じように傷一つなくなっていた。少女は微笑みながら氷華へと近づいていき、

『ここまで私を傷つけた貴方に敬意を評して、種族名を教えてあげます』

 コートをヒラリと靡かせ、お辞儀をした。

『私の種族は高貴なヴァンパイア…………不死の存在です』

 顔を上げた少女の表情は微笑みから、邪悪な笑みへと変わり姿を消す。

『貴族の私をここまで追い込んだんですから、もっと楽しませてくださいね?』

『っ!!』

 ここからは氷華が防戦一方となった。
 さっきまでの肉弾戦に引き続き、遠距離での戦闘も展開される。
 墓石を片手で投擲する彼女は墓石と共に接近し、避けるにも避けられない。数体の氷華を新たに作り出すも次々に粉々に破壊されていく。
 さっきまで本気ではなかったかのように、一気に詰め寄ってくる。
 氷華の心の中に抱かれた恐怖心は目の前の少女を大きく見せるかのように。
 次元の違う生き物。
 心の隅で感じた恐怖が目の前の可愛らしい少女から逃げろと叫び始める。

 今の私じゃ勝てる相手じゃない……。

 弱気な心が表へと出てくる。
 切迫する戦いの中で劣勢になっている現状。
 自分の全力でも何とか生きているのが精一杯の状況。

 ちゃんと逃げ切れたかな……。

 亮人とシャーリーを逃がしてから二十分以上が経過していた。ここまで奮闘できたのも二人を生きて逃がすため。
あわよくば自分も逃げられたら……なんて甘い考えもあったが、状況が状況で逃げ切れるなんて考えられないな。

『何を考えてるんですか?』

 迫りくる少女は氷華を殴り続ける。速度も徐々に速くなり、氷華の体は重くなっていく。

『っ!! どうやったら、あんたから逃げられるか考えてるのよっ!! このっ!!』

 重たい体で牽制するも簡単に避けられる。

『もう、疲れ切ってるじゃないですか。そろそろ一息に殺してあげますよ?』

『誰が……殺されるもんですか……』

 氷華は右手を強く握り締める。その掌には小さな氷の結晶が握りこまれ、徐々に氷華の周りを凍結させていく。

 もう、流石に使うしかないわね……。

 絶対零度。
 どんな物体でも凍らせることができる雪女に代々引き継がれていた結晶。
 ただ、それは以前よりも小さく、握りこめるほどの大きさになっていた。

 亮人たちを守るためなら……。

 今はいない親の形見である絶対零度は使用回数も残り少ない。

 ただ、今の大切なものを守るために……。

 そして、氷華は絶対零度をより強い力で握り締める。
 次の瞬間、氷華の背中には氷で出来た六枚の翼が生える。そして、着ていた衣服は白い袴へと変化していった。

『ふーん……そんなものまで隠していたんですね』

 少女の前にいる氷華の姿は精霊を彷彿させる風格。
静かに、煌びやかに氷の結晶が氷華の周りに飛散し、氷華の周りをクリスタルが包み込み、一歩踏み出せば、地面は凍結し空気中にも氷柱を無数に生成する。

『私だって命が掛かってるんだから……本気で行くわよ』

 ゆっくりと時間を掛け、氷華は息をする。
 彼女が呼吸をするだけで半径一メートルが凍てつく。

『やっと、対等って感じですね』

 そう口にした少女も一歩ずつ氷華へと近づく。彼女が踏みしめる地面は黒く色を染めていく。それはまるで闇そのもののように黒く、深淵を覗くように墓地全体へと広がっていく。

『私も本気で行きます……』

 小柄な彼女の姿は黒く染められた地面へと消える。そして、再び地面から浮き上がってくれば、

『『あなたしかできないと思っていたらだめですよ??』』

 少女は二人となって氷華の前へと現れる。

『分身もできるのね……』

『いえ? 分身ではないですよ……一時的とはいえ私たちは本物です』

 そう口にした少女は翼を羽撃かせ、距離を詰めてくる。二人が近づくにつれて、地面の闇は氷華をも包み込もうとする。

『飛べるのはアンタだけじゃないわよ』

 氷の翼を広げ、氷華は二人と迫撃していく。氷華の周りを浮遊する無数の結晶は自動で二人を捉えれば、弾丸のように一直線に放たれる。無数の結晶は二人の頬を掠める。同時に二人は地面を支配する闇の中へと潜り込み、氷華の足元を掴み引きずり込もうとする。

『……無理よ』

 氷華は一言、地面へと言い放つと近づいてきた二人は手先から凍り付く。氷華の足を掴んだ手は使い物にならなくなる。しかし、お構いなしと二人は強引に闇の中へと氷華を引きずり込む。

『嘘でしょっ!?』

 ドプッという音と共に闇の中へと引きずり込もうとする二人の表情は、亡者のようだ。
闇の中へと引きずり込まれながら、地上へ出ようとする氷華は踠き続ける。腕先から地上へ蔦を這わせるように氷を繋げるも引きずり込む勢いは収まらず、腕は氷の蔦が食い込んで血を滲ませる。

もう……ダメかも……。

視線の先には一筋の光が見えるも、それは徐々に薄く弱まっていく。遠ざかる光を見つめながら、今日のデートを走馬灯のように思い出す。そこには常に亮人が笑顔を浮かべながら、手を引いてくれている光景。煌びやかに楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

あぁ、楽しかった……もっと側にいたいなぁ……。

浮かび上がる光景に目尻から流れる水滴は一瞬で凍りついていく。そして、それは闇によって押し潰され、粉々になる。息もできず、押し潰される感覚は強まり、体も動かせなくなる。
蔦を握る力も弱まり、闇に引き摺り込まれるようにスルリと抜け落ちかけた瞬間、視界は瞬く間に光に包まれた。重力を感じながら空中へと放り出された氷華を受け止める狼の姿がそこにはあった。

『お姉ちゃんは連れて行かせないよっ!!』

 シャーリーの声と共に氷華の腕を引っ張り上げている手は燃えるように熱く、氷華の周りの結晶を溶かしていく。
 燃える手の先へと視線を向ける氷華は驚く。

『この前のお返しをしに来たわよ』

 九本の尾の先には轟轟と燃え盛る炎を携え、前とは違った優しい笑みを向けてくれる彼女。

『私たちが今度は貴方たちを助ける番よ』

「今度の敵はそいつか……やるぞ、あかりっ!!」

 更にもう一人、彼女の後ろから現れた一人の少年。彼を囲うように白い炎が闇を照らし、氷華が凍結させた地面を溶かしていく。
 前とは印象が違う彼の姿は頼もしく見える。
 少女のほうへと歩みを進める二人の後ろ姿。

『ありがとう……』

 氷華の頬を伝う涙は希望に満ちる。

『まだ、礼を言うには早いです。みんなで家に帰ってから礼を言ってくださいね』

「そうだ、あそこでくたばってるお前らの主人と一緒に帰ってから言えよ」

 氷華の前で振り向きざまに口にする彼ら、
 伊里神麗夜いりがみれいやと樟燈くすのきあかりは笑みを浮かべながら、目の前の少女と対峙する。
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