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暖かい日常
暖かい日常V
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久々の学校を終え、机に突っ伏している礼火がいた。寝息をたてながら笑みを浮かべる彼女の頬を突く亮人。
「礼火……そろそろ帰るよ」
「ふぁぁぁ?」
「ほら、リュック背負って帰るよ?」
「わふぁったぁぁ」
礼火にリュックを背負わせると亮人は自ら礼火の手を引いて教室から出ていく。
「今日はうちに来るの? 来るなら材料買いに行きたいんだけど、どうする?」
「今日も亮人のお家にいく~」
「はいはい、礼火は何が食べたいのかな?」
「う~ん…………オムライスがいいなぁ」
「オムライスね」
礼火は寝ぼけ眼を片手でこすりながら亮人に連れられる。その姿は子供が親に迷子にならないよう手を繋がれているようだ。小さな歩幅で亮人に合わせる礼火は忙しなく歩く。
「亮人歩くの早いよぉ~」
「あっ、ごめんごめん」
「ありがと~、亮人はいつも優しいから嬉しいよ~」
「ほら、氷華たちもご飯待ってるんだから早く帰るよ?」
「はぁ~い」
帰宅途中、氷華と出会った神社の前を通り、濃い二ヶ月を思い出す。
氷華にシャーリー。彼女たちに出会ったからか、色々と考え耽る時間が増えた。
家族のことや生活のこと、自分の今後についても、この一週間の時間の中で自然と考えるようになっていた。
自分が彼女たちにできることがなにか……。
自分にとって家族がなんなのか……。
自分が生活する上で今後、どう立ち回っていく必要があるのか。
麗夜が言っていた妖魔殺し。
これから氷華やシャーリーを襲うかもしれない存在を認識するが、それが杞憂に終われば一番いい。しかし、万が一を考えないといけない。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前には麗夜と氷華が死闘を繰り広げた公園、亮人と家族の思い出があった公園が広がり、立ち止まる。
「…………亮人、まだ気にしてるの?」
「ううん……大丈夫だよ。ただ、いろんなこと考えてて……」
「いろんなこと?」
「そう、いろんなこと」
「……………………そっか」
亮人の手を握っていた礼火の手に力が込められた。
その意味を亮人はわかっている。だから、彼女の手を強く握り返した。そんな状況の中、亮人と礼火の視線の先、公園の中心に一人の男子が立っていた。
周りを見渡しながら、何かを探すような素振りを見せる彼。
「あの人、何か探してるのかな?」
「……どうかな。探してるんだろうけど……」
この時、脳裏には麗夜の言葉が復唱された。
「妖魔殺し……」
このフレーズが思い浮かび、亮人は歩く速度を上げた。彼から逃げるように礼火の手を引っ張りながら。
「あ、亮人?」
「少し静かにして」
「わ、わかった……」
亮人の声音はさっきまでの柔らかなものではなかった。
礼火の手を握る力は少しずつ強まり、公園から100M離れたあたりから弱まっていった。
「どうかしたの?」
不安そうに下から見つめる礼火の瞳には麗夜と戦った時を彷彿とさせるものがあった。亮人の変化に敏感な彼女には、目の前にいる彼が何を考えているのか、何を感じているのかがわかっているのかもしれない。
「いや……思い過ごしだといいんだけどね……ちょっと考えすぎなのかもしれない。気にしないでいいよ」
「でも……」
「大丈夫…………何かあった時は俺が必ずなんとかするから」
「……うん」
笑みを浮かべる亮人に礼火はそれ以上何も言わない。これ以上、無理に聞いても意味がないことは彼女が一番理解していた。
前と同じだよ……亮人……。
そう心で呟いた礼火だが、
「亮人っ!! 早く帰らないと二人が待ってるんでしょ? 急いで買い物しちゃお?」
「あっ、そうだった急いで買い物して帰らないと」
今度は礼火が亮人の手を引くように走り出す。
大丈夫……亮人のことは絶対に守るから。亮人だけに辛い思いさせないから……。
礼火は亮人の手を離さないように再度、力を込めて手を握る。
「礼火っ、手が痛いって」
そんな亮人の言葉は礼火の耳には届かなかった。
ただ、そんな後ろ姿を見つめていた亮人は心なしか安心感を感じた。
そんなに心配しなくて大丈夫だよ。もう、傷つけないから……。
だから、もう一度亮人からも礼火の手を握り返した。その力は礼火の潰すような力ではなく、感謝からくる優しさの力だった。
「礼火……そろそろ帰るよ」
「ふぁぁぁ?」
「ほら、リュック背負って帰るよ?」
「わふぁったぁぁ」
礼火にリュックを背負わせると亮人は自ら礼火の手を引いて教室から出ていく。
「今日はうちに来るの? 来るなら材料買いに行きたいんだけど、どうする?」
「今日も亮人のお家にいく~」
「はいはい、礼火は何が食べたいのかな?」
「う~ん…………オムライスがいいなぁ」
「オムライスね」
礼火は寝ぼけ眼を片手でこすりながら亮人に連れられる。その姿は子供が親に迷子にならないよう手を繋がれているようだ。小さな歩幅で亮人に合わせる礼火は忙しなく歩く。
「亮人歩くの早いよぉ~」
「あっ、ごめんごめん」
「ありがと~、亮人はいつも優しいから嬉しいよ~」
「ほら、氷華たちもご飯待ってるんだから早く帰るよ?」
「はぁ~い」
帰宅途中、氷華と出会った神社の前を通り、濃い二ヶ月を思い出す。
氷華にシャーリー。彼女たちに出会ったからか、色々と考え耽る時間が増えた。
家族のことや生活のこと、自分の今後についても、この一週間の時間の中で自然と考えるようになっていた。
自分が彼女たちにできることがなにか……。
自分にとって家族がなんなのか……。
自分が生活する上で今後、どう立ち回っていく必要があるのか。
麗夜が言っていた妖魔殺し。
これから氷華やシャーリーを襲うかもしれない存在を認識するが、それが杞憂に終われば一番いい。しかし、万が一を考えないといけない。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前には麗夜と氷華が死闘を繰り広げた公園、亮人と家族の思い出があった公園が広がり、立ち止まる。
「…………亮人、まだ気にしてるの?」
「ううん……大丈夫だよ。ただ、いろんなこと考えてて……」
「いろんなこと?」
「そう、いろんなこと」
「……………………そっか」
亮人の手を握っていた礼火の手に力が込められた。
その意味を亮人はわかっている。だから、彼女の手を強く握り返した。そんな状況の中、亮人と礼火の視線の先、公園の中心に一人の男子が立っていた。
周りを見渡しながら、何かを探すような素振りを見せる彼。
「あの人、何か探してるのかな?」
「……どうかな。探してるんだろうけど……」
この時、脳裏には麗夜の言葉が復唱された。
「妖魔殺し……」
このフレーズが思い浮かび、亮人は歩く速度を上げた。彼から逃げるように礼火の手を引っ張りながら。
「あ、亮人?」
「少し静かにして」
「わ、わかった……」
亮人の声音はさっきまでの柔らかなものではなかった。
礼火の手を握る力は少しずつ強まり、公園から100M離れたあたりから弱まっていった。
「どうかしたの?」
不安そうに下から見つめる礼火の瞳には麗夜と戦った時を彷彿とさせるものがあった。亮人の変化に敏感な彼女には、目の前にいる彼が何を考えているのか、何を感じているのかがわかっているのかもしれない。
「いや……思い過ごしだといいんだけどね……ちょっと考えすぎなのかもしれない。気にしないでいいよ」
「でも……」
「大丈夫…………何かあった時は俺が必ずなんとかするから」
「……うん」
笑みを浮かべる亮人に礼火はそれ以上何も言わない。これ以上、無理に聞いても意味がないことは彼女が一番理解していた。
前と同じだよ……亮人……。
そう心で呟いた礼火だが、
「亮人っ!! 早く帰らないと二人が待ってるんでしょ? 急いで買い物しちゃお?」
「あっ、そうだった急いで買い物して帰らないと」
今度は礼火が亮人の手を引くように走り出す。
大丈夫……亮人のことは絶対に守るから。亮人だけに辛い思いさせないから……。
礼火は亮人の手を離さないように再度、力を込めて手を握る。
「礼火っ、手が痛いって」
そんな亮人の言葉は礼火の耳には届かなかった。
ただ、そんな後ろ姿を見つめていた亮人は心なしか安心感を感じた。
そんなに心配しなくて大丈夫だよ。もう、傷つけないから……。
だから、もう一度亮人からも礼火の手を握り返した。その力は礼火の潰すような力ではなく、感謝からくる優しさの力だった。
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