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少年と狐
少年と狐Ⅱ
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今から七年前の真夏の田舎町。そこには八歳と幼い麗夜が両親と一緒に帰郷していた。
両親に連れられるように車の中で仲睦まじく家族で祖母の家へと訪れようとしていたのだ。
だが、そんな車は祖母の家へと着くことが無かった。
麗夜の祖母が住んでいる家は山の中。道は舗装されていたが、麗夜達が乗っていた車は突然なにかに突き飛ばされるように横転したのだ。
フロントガラスは割れ、そして何かがガラスを外側から剥がす様にバリバリと音を立てながらフロントガラスは空中へと何かに放られた。
そして、次には車を運転していた父親が運転席から熊にでも引きずられるように外へと放り出され、体中から血を流す。
麗夜の母親はその光景を麗夜に見せまいと力一杯抱きしめていた。
ただ、その母親も次には見えない何かに外へと連れて行かれ、麗夜はここで外で何が起こっていたのかを目の当たりにしたのだ。
「―――――――――――」
幼かった麗夜は目の前に広がる光景に声にならない声を上げることしかできなかった。
目の前にある光景に驚き、そして恐怖を抱く事しか出来ず、絶望を目の当たりにした。そして、そんな絶望を目の当たりにしていた麗夜の目の前で何かが暴れるような音と炎が飛び散っていたのだ。
そう。麗夜はその瞬間から、妖魔が見えるようになったのだ。
正直、それは間が悪かった。
九尾と麗夜が出会うには酷く間が悪い瞬間だった。
『…………………』
絶望を目の当たりにした麗夜の目の前にいたのは九尾だ。ただ、その時の姿はあまりにも醜く、それは麗夜に自分の両親を殺したと連想させる原因となった。
本当はこの時、九尾は麗夜の事を救っていたのだ。
それは本当に間が悪かっただけで、九尾は麗夜を守ろうと必死でいた。
この時の九尾の視線の先にはもう一匹、この森の住人ではない妖魔が倒れている。その妖魔は口元からドロドロとした赤い血を流し、それが麗夜の両親の血だというのは九尾にはすぐわかった。
ただ、車の中から見ていた麗夜からは九尾しか視界に入っていない。九尾はそんな怯える麗夜を一度、尻尾の中で眠らせれば急いで車から離れた。急ぐ九尾の後方、そこには麗夜が乗っていた車があったが、車は跡形もなく無くなった。
大きな黒炎を上げながら燃え始め、そして爆音を立てて爆発したのだ。
あの中に麗夜を残していたら、今頃は麗夜も両親と同じ場所へと行っていたかもしれない。だが、九尾には麗夜を守らないといけない義務があった。
『あなたがお婆ちゃんの孫ね……でも、残念だけどお婆ちゃんも……』
九尾はすでに見てきていた。麗夜の祖母がいる家を。
でも、家の中にはあったのは一つの骸だけだった。
『さっきの奴にあなたのお婆ちゃんも殺されてた……助けられなくて、ごめんね』
九尾がなぜ、こうして麗夜を救ったのか。
それは麗夜の祖母に礼を返すため。
麗夜の祖母も実は九尾の事が見えていたのだ。生きることに絶望をした彼女だが、そんな所にいまは亡き麗夜の祖父が現れ、こうして麗夜がいる。
そして、そんな祖母は毎日のように森の中を走る九尾に孫の事を話し、そしていろいろと世話を焼いてくれていた。
「明日は孫が来るから楽しみなのよ……あなたも孫に会えば可愛いって思うわよ?」
昨日までは笑顔を絶やさずにいた麗夜の祖母だが、今はもうその笑顔も見られない。九尾はそんな麗夜の祖母に恩返しをするために、こうして麗夜を守った。
麗夜の勘違いを残しながら、九尾は麗夜とこうして何年間も生きて来たのだ。
「九尾……本当なのか?」
麗夜の信じられないといった声音。それが誰も通らない道路で響いた。
『……本当。ただ、あの時の麗夜の目は私を怯えてたから、そんなことを言っても信じてもらえなかったでしょ……だから、ずっと言わなかったの』
九尾はあの時の事を思い出す様に麗夜から空へと視線を移した。だが、顔を空へと向けた時、瞳に溜まっていた涙が地面へと落ちた。
『いろいろとお世話になったわ……麗夜のお婆ちゃんは……凄く優しかった。妖魔の私にあんなに優しくしてくれるなんて普通、思わなかったから』
そのうち、九尾は姿を人へと変えてボロボロと涙を流し始めた。
『悔しかった……助けられたはずなのに、助けられなくて……凄く悔しかったっ! でも、生き残った麗夜だけは絶対に守るって、私の中で決めたから……』
麗夜は自分をこれまで守って来てくれた彼女を見つめた。
九尾が麗夜を守ると決めた時、九尾はまだ十三歳だ。まだ子供で不安もあったはずなのに、麗夜を守ると決めて、そしてここまで育ててきた。
辛かっただろうな……こんな俺だったから。
九尾の肩は震え、そんな一糸纏わぬ彼女に麗夜は自分が来ていたシャツを掛け、
「誰からも見えてないからって裸でいるな、馬鹿。隣にいる俺が恥ずかしいだろ」
麗夜はそんな九尾にいつもの毅然とした態度でいることにした。本当は少し怒ったりしたかったが、九尾が抱えて来てくれたものを考えれば自分が抱いた感情なんかはちっぽけなモノなんだと思えたから。
「九尾…………」
九尾が着替え終わるのを確認した麗夜は九尾を呼び、そして麗夜へと振り返った九尾は驚かされた。
『――――んっ!』
その時、九尾の口は麗夜の口で塞がれた。
九尾は昔に麗夜が眠っているうちに一度だけ内緒でキスをしたが、その時は麗夜が突然起きて怒られた。だが、今は麗夜から九尾へと自らキスをしていた。
九尾の体を麗夜は自分の体へと抱き寄せ、そして背中を擦る。それから数秒と長いキスを止めると、
「あれだ……その、もう気にすんな。これからは俺とずっと一緒にいろ。絶対に俺から離れたりするなよ、絶対に」
頬を赤くしながら照れくさそうにそっぽを向く。
ただそんな麗夜を間近で見ていた九尾は、そんな麗夜を見てより多くの涙を流した。
「なっ! なんでそんなに泣くんだよッ!」
取り乱すように周りをキョロキョロと見る麗夜の前では九尾が涙を流しながら、
『よかった……本当に良かった……麗夜が良い子に育ってくれて、本当に良かったっ!』
そして、今度は九尾が麗夜を求めるようにキスをした。
熱く、そして優しいキス。それは恋人同士がやるような情熱的なキスだった。
「なぁ、九尾……」
『どうかしたの?』
キスを中断した麗夜は九尾の顔を真剣に見つめていて、そんな真剣な麗夜に九尾も真剣な面持ちになる。
これから麗夜が口にする言葉を九尾は何となく予想できた。九尾はそんな言葉の返事だけを心の中で何度も練習する。
そして雲が太陽を隠した時、麗夜は口にした。
「俺の本当の家族にならないか?」
ありったけの勇気を振り絞った言葉。それを聞いた九尾はそれに合う言葉を一拍と間を開けて口にした。
『私からもお願いします……私の家族になってください』
それからもう一度、九尾と麗夜は熱いキスを交わしたのだ。
両親に連れられるように車の中で仲睦まじく家族で祖母の家へと訪れようとしていたのだ。
だが、そんな車は祖母の家へと着くことが無かった。
麗夜の祖母が住んでいる家は山の中。道は舗装されていたが、麗夜達が乗っていた車は突然なにかに突き飛ばされるように横転したのだ。
フロントガラスは割れ、そして何かがガラスを外側から剥がす様にバリバリと音を立てながらフロントガラスは空中へと何かに放られた。
そして、次には車を運転していた父親が運転席から熊にでも引きずられるように外へと放り出され、体中から血を流す。
麗夜の母親はその光景を麗夜に見せまいと力一杯抱きしめていた。
ただ、その母親も次には見えない何かに外へと連れて行かれ、麗夜はここで外で何が起こっていたのかを目の当たりにしたのだ。
「―――――――――――」
幼かった麗夜は目の前に広がる光景に声にならない声を上げることしかできなかった。
目の前にある光景に驚き、そして恐怖を抱く事しか出来ず、絶望を目の当たりにした。そして、そんな絶望を目の当たりにしていた麗夜の目の前で何かが暴れるような音と炎が飛び散っていたのだ。
そう。麗夜はその瞬間から、妖魔が見えるようになったのだ。
正直、それは間が悪かった。
九尾と麗夜が出会うには酷く間が悪い瞬間だった。
『…………………』
絶望を目の当たりにした麗夜の目の前にいたのは九尾だ。ただ、その時の姿はあまりにも醜く、それは麗夜に自分の両親を殺したと連想させる原因となった。
本当はこの時、九尾は麗夜の事を救っていたのだ。
それは本当に間が悪かっただけで、九尾は麗夜を守ろうと必死でいた。
この時の九尾の視線の先にはもう一匹、この森の住人ではない妖魔が倒れている。その妖魔は口元からドロドロとした赤い血を流し、それが麗夜の両親の血だというのは九尾にはすぐわかった。
ただ、車の中から見ていた麗夜からは九尾しか視界に入っていない。九尾はそんな怯える麗夜を一度、尻尾の中で眠らせれば急いで車から離れた。急ぐ九尾の後方、そこには麗夜が乗っていた車があったが、車は跡形もなく無くなった。
大きな黒炎を上げながら燃え始め、そして爆音を立てて爆発したのだ。
あの中に麗夜を残していたら、今頃は麗夜も両親と同じ場所へと行っていたかもしれない。だが、九尾には麗夜を守らないといけない義務があった。
『あなたがお婆ちゃんの孫ね……でも、残念だけどお婆ちゃんも……』
九尾はすでに見てきていた。麗夜の祖母がいる家を。
でも、家の中にはあったのは一つの骸だけだった。
『さっきの奴にあなたのお婆ちゃんも殺されてた……助けられなくて、ごめんね』
九尾がなぜ、こうして麗夜を救ったのか。
それは麗夜の祖母に礼を返すため。
麗夜の祖母も実は九尾の事が見えていたのだ。生きることに絶望をした彼女だが、そんな所にいまは亡き麗夜の祖父が現れ、こうして麗夜がいる。
そして、そんな祖母は毎日のように森の中を走る九尾に孫の事を話し、そしていろいろと世話を焼いてくれていた。
「明日は孫が来るから楽しみなのよ……あなたも孫に会えば可愛いって思うわよ?」
昨日までは笑顔を絶やさずにいた麗夜の祖母だが、今はもうその笑顔も見られない。九尾はそんな麗夜の祖母に恩返しをするために、こうして麗夜を守った。
麗夜の勘違いを残しながら、九尾は麗夜とこうして何年間も生きて来たのだ。
「九尾……本当なのか?」
麗夜の信じられないといった声音。それが誰も通らない道路で響いた。
『……本当。ただ、あの時の麗夜の目は私を怯えてたから、そんなことを言っても信じてもらえなかったでしょ……だから、ずっと言わなかったの』
九尾はあの時の事を思い出す様に麗夜から空へと視線を移した。だが、顔を空へと向けた時、瞳に溜まっていた涙が地面へと落ちた。
『いろいろとお世話になったわ……麗夜のお婆ちゃんは……凄く優しかった。妖魔の私にあんなに優しくしてくれるなんて普通、思わなかったから』
そのうち、九尾は姿を人へと変えてボロボロと涙を流し始めた。
『悔しかった……助けられたはずなのに、助けられなくて……凄く悔しかったっ! でも、生き残った麗夜だけは絶対に守るって、私の中で決めたから……』
麗夜は自分をこれまで守って来てくれた彼女を見つめた。
九尾が麗夜を守ると決めた時、九尾はまだ十三歳だ。まだ子供で不安もあったはずなのに、麗夜を守ると決めて、そしてここまで育ててきた。
辛かっただろうな……こんな俺だったから。
九尾の肩は震え、そんな一糸纏わぬ彼女に麗夜は自分が来ていたシャツを掛け、
「誰からも見えてないからって裸でいるな、馬鹿。隣にいる俺が恥ずかしいだろ」
麗夜はそんな九尾にいつもの毅然とした態度でいることにした。本当は少し怒ったりしたかったが、九尾が抱えて来てくれたものを考えれば自分が抱いた感情なんかはちっぽけなモノなんだと思えたから。
「九尾…………」
九尾が着替え終わるのを確認した麗夜は九尾を呼び、そして麗夜へと振り返った九尾は驚かされた。
『――――んっ!』
その時、九尾の口は麗夜の口で塞がれた。
九尾は昔に麗夜が眠っているうちに一度だけ内緒でキスをしたが、その時は麗夜が突然起きて怒られた。だが、今は麗夜から九尾へと自らキスをしていた。
九尾の体を麗夜は自分の体へと抱き寄せ、そして背中を擦る。それから数秒と長いキスを止めると、
「あれだ……その、もう気にすんな。これからは俺とずっと一緒にいろ。絶対に俺から離れたりするなよ、絶対に」
頬を赤くしながら照れくさそうにそっぽを向く。
ただそんな麗夜を間近で見ていた九尾は、そんな麗夜を見てより多くの涙を流した。
「なっ! なんでそんなに泣くんだよッ!」
取り乱すように周りをキョロキョロと見る麗夜の前では九尾が涙を流しながら、
『よかった……本当に良かった……麗夜が良い子に育ってくれて、本当に良かったっ!』
そして、今度は九尾が麗夜を求めるようにキスをした。
熱く、そして優しいキス。それは恋人同士がやるような情熱的なキスだった。
「なぁ、九尾……」
『どうかしたの?』
キスを中断した麗夜は九尾の顔を真剣に見つめていて、そんな真剣な麗夜に九尾も真剣な面持ちになる。
これから麗夜が口にする言葉を九尾は何となく予想できた。九尾はそんな言葉の返事だけを心の中で何度も練習する。
そして雲が太陽を隠した時、麗夜は口にした。
「俺の本当の家族にならないか?」
ありったけの勇気を振り絞った言葉。それを聞いた九尾はそれに合う言葉を一拍と間を開けて口にした。
『私からもお願いします……私の家族になってください』
それからもう一度、九尾と麗夜は熱いキスを交わしたのだ。
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