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少年と狐
少年と狐
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亮人たちが家へと帰って行った後、麗夜はずっと地面に座って考え込んでいた。
「親を殺したのにも理由がある……か。どんな理由があれば人の親を殺すんだ?」
さっきの亮人が残した言葉がどうしても気になった。
九尾はただ、俺の両親を殺して自分の事を見せようとした……。
麗夜にはそんな解釈しかできなかった。でも、亮人はそれにも何か事情があるかもしれないと口にしたのだ。それも全てを信じているような眼差しで。
「………………ほんとに訳がわかんない奴だったな、あいつ」
両手を地面へと着き、空を見上げる麗夜。
氷華が作った雨雲たちは空を転々と渡って行き、それは消えるようにして視界の隅へと過ぎ去っていく。
と、そこに何かが歩いてくるような音が聞こえてきた。
『麗夜……わたし、負けた』
麗夜へと近づいて来たのは九尾だ。ただ、その九尾が纏っていた空気は負けたからといって、暗いものではなかった。どこか清々しいと言ってもいいくらいの物だ。
「九尾は負けて、俺は勝って……でも、なんか腑に落ちない。あいつと話してるうちに殺す気なんか失せたし、逆に何で殺そうとしてるんだって思えた」
九尾を見ることなく不貞腐ふてくされるように空を見始めた麗夜の隣に座り込む九尾。
二人はそれから少しの間、無言だった。
九尾は麗夜と一緒に空を見上げ、そして空を流れる雲を見つめる。流れる雲を頭の中で数え始めた九尾の横にいる麗夜はいつの間にか、疲れたからか地面に両手を着きながら目を瞑っている。
そして、不意に言葉を漏らした。
「なんか疲れたよな……今日は……」
『そうね……私も疲れたわ。久しぶりに本気を出したから』
「俺もだ……久しぶりに本気で人とぶつかった気がした……不思議な気持ちだよ」
ぶつぶつと漏らす様に口にする麗夜は頭の中でもう一度、亮人の事を思い出す。
殺そうとしてる相手に話しかける亮人の様子がどうも麗夜には面白く映る。それに、亮人が説教でもするようにして話してきた言葉が麗夜の頭で響く。
今なら聞けるかもな……。
麗夜はふと、そんな考えに至れば一緒になって空を見つめている九尾に体ごと向けて聞いていた。
最初は言葉が出し辛かったが、九尾も麗夜の方へと向いたことで面と向かって話ができる。
麗夜の両親を殺したかもしれない九尾は、麗夜を自分の弟のように優しく接して来たり、時には厳しく接して来たりと、いろんな思い出もある。それは楽しい思い出でもあって、悲しい思い出でもある。時に思い出せば笑いかけたり、苦しくなったり。
そんな両方の気持ちを抱えながら九尾と一緒にいたことを考える。
『麗夜、気になることがあるなら聞いて良いのよ? なんでも答えてあげるから』
悩んでいるような知らないうちに浮かべていた麗夜に優しい声音で話しかけてきた九尾だが、今から麗夜が聞こうとしていることは九尾を苦しませるかもしれない。
これまで一緒に居た彼女を悲しませることを麗夜は無意識のうちに躊躇っていた。でも、麗夜は気になったのだ。
なんで九尾は麗夜の親を殺したのか……。
そして、麗夜は目の前にいる姉のような彼女に知らないうちに聞いていた。
「九尾は何で俺の両親を殺したんだ……?」
『………………………………』
そう麗夜が口にした時、九尾の表情は苦痛に歪んだ。
ただ、それは彼女自身もいずれは聞かれるだろうと思っていたことだった。
目の前にいる自分よりも小さな少年の瞳は無垢むくだった。真実を知りたいといった感情の籠こもった瞳は昔の彼を知っている九尾に両親が殺される前の麗夜を連想させた。
だから、九尾は一度だけ深く呼吸を吸い込んで吐き出した。そして、重たい記憶を口から紡ぎだした。
ただ、それを聞いていた麗夜は自分が大きな勘違いをしていたことに気が付くのだった。
「親を殺したのにも理由がある……か。どんな理由があれば人の親を殺すんだ?」
さっきの亮人が残した言葉がどうしても気になった。
九尾はただ、俺の両親を殺して自分の事を見せようとした……。
麗夜にはそんな解釈しかできなかった。でも、亮人はそれにも何か事情があるかもしれないと口にしたのだ。それも全てを信じているような眼差しで。
「………………ほんとに訳がわかんない奴だったな、あいつ」
両手を地面へと着き、空を見上げる麗夜。
氷華が作った雨雲たちは空を転々と渡って行き、それは消えるようにして視界の隅へと過ぎ去っていく。
と、そこに何かが歩いてくるような音が聞こえてきた。
『麗夜……わたし、負けた』
麗夜へと近づいて来たのは九尾だ。ただ、その九尾が纏っていた空気は負けたからといって、暗いものではなかった。どこか清々しいと言ってもいいくらいの物だ。
「九尾は負けて、俺は勝って……でも、なんか腑に落ちない。あいつと話してるうちに殺す気なんか失せたし、逆に何で殺そうとしてるんだって思えた」
九尾を見ることなく不貞腐ふてくされるように空を見始めた麗夜の隣に座り込む九尾。
二人はそれから少しの間、無言だった。
九尾は麗夜と一緒に空を見上げ、そして空を流れる雲を見つめる。流れる雲を頭の中で数え始めた九尾の横にいる麗夜はいつの間にか、疲れたからか地面に両手を着きながら目を瞑っている。
そして、不意に言葉を漏らした。
「なんか疲れたよな……今日は……」
『そうね……私も疲れたわ。久しぶりに本気を出したから』
「俺もだ……久しぶりに本気で人とぶつかった気がした……不思議な気持ちだよ」
ぶつぶつと漏らす様に口にする麗夜は頭の中でもう一度、亮人の事を思い出す。
殺そうとしてる相手に話しかける亮人の様子がどうも麗夜には面白く映る。それに、亮人が説教でもするようにして話してきた言葉が麗夜の頭で響く。
今なら聞けるかもな……。
麗夜はふと、そんな考えに至れば一緒になって空を見つめている九尾に体ごと向けて聞いていた。
最初は言葉が出し辛かったが、九尾も麗夜の方へと向いたことで面と向かって話ができる。
麗夜の両親を殺したかもしれない九尾は、麗夜を自分の弟のように優しく接して来たり、時には厳しく接して来たりと、いろんな思い出もある。それは楽しい思い出でもあって、悲しい思い出でもある。時に思い出せば笑いかけたり、苦しくなったり。
そんな両方の気持ちを抱えながら九尾と一緒にいたことを考える。
『麗夜、気になることがあるなら聞いて良いのよ? なんでも答えてあげるから』
悩んでいるような知らないうちに浮かべていた麗夜に優しい声音で話しかけてきた九尾だが、今から麗夜が聞こうとしていることは九尾を苦しませるかもしれない。
これまで一緒に居た彼女を悲しませることを麗夜は無意識のうちに躊躇っていた。でも、麗夜は気になったのだ。
なんで九尾は麗夜の親を殺したのか……。
そして、麗夜は目の前にいる姉のような彼女に知らないうちに聞いていた。
「九尾は何で俺の両親を殺したんだ……?」
『………………………………』
そう麗夜が口にした時、九尾の表情は苦痛に歪んだ。
ただ、それは彼女自身もいずれは聞かれるだろうと思っていたことだった。
目の前にいる自分よりも小さな少年の瞳は無垢むくだった。真実を知りたいといった感情の籠こもった瞳は昔の彼を知っている九尾に両親が殺される前の麗夜を連想させた。
だから、九尾は一度だけ深く呼吸を吸い込んで吐き出した。そして、重たい記憶を口から紡ぎだした。
ただ、それを聞いていた麗夜は自分が大きな勘違いをしていたことに気が付くのだった。
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