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襲撃者
襲撃者XⅣ
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氷華たちはそれを知らなかったようだが、それはおそらく、彼女達の親が教えなかったのだろう。彼女たちの親が生きることに絶望をしていたことと、これから恋をする相手が絶望していることを。
「俺はさ、昔から両親が育児放棄みたいに俺の事を家に一人で居させて、それで今思い出せば、父さん達は五年も帰って来てないんだよ……ただ、そんな家族であっても家族じゃない俺に神様が家族になれる人たちをくれたチャンスなんだって思ってるんだ」
亮人は全身の力を抜いて、仰向けで空を見つめながら続ける。
「だから、俺はこのチャンスをものにするって思ったんだよ。だから、氷華たちにウンザリとかいなくなって欲しいとか、そんなことは思ったことが無いんだよ」
快晴となった空を頭から血を流しながらも笑顔で見上げた。
そんな亮人に麗夜も自然と釣られるように空を見上げた。
「なんで九尾が君の両親を殺したのはかは知らないけど……ただ、九尾にも子供が欲しかったからってだけの理由だけで人を殺さないと思うんだよ。九尾にだって九尾なりの何かがあって、嫌々殺したっていう可能性だってあるんだよ?」
さっきまで殴られ、燃やされ、殺されかけた亮人は空から亮人の横で空を見つめている麗夜へと視線を移すと、
「九尾にちゃんと聞いてみなよ……なんで九尾が君の両親を殺したのか。ちゃんと話せば教えてくれるんじゃないかな?」
「…………………不思議だな、あんた」
「えっ……」
唐突の言葉に亮人は意表を突かれた。
「さっきまで殺したくて仕方がなかったのに、今は殺す気なんかまったく無くなった。ただ、何故だかあんたが言ってることが正しいんじゃないかって思えてくるよ……」
殺意が滲み出ていた瞳。それはさっきまで絶望と何か他の物が入り混じっていたが、それは変わっていた。
絶望と一緒にあった感情もの。それはおそらく、ちょっとした願いだ。
麗夜は九尾とは相当の時間を一緒に過ごしてきた。そして長い間、一緒にいるうちに心の隅で両親を殺したとは思えなくなっていたのだ。
何かの間違えがあったんじゃないか……。
今の麗夜の心には、そんな願いという希望が産まれていたのだ。絶望なんかよりもよっぽど綺麗で、絶望なんかよりもずっと強い意志を。
「それと君って言うのはやめろよ。俺の名前は麗夜……伊里神麗夜って名前があるんだよ」
「麗夜……か。良い響きだね」
亮人の口調はもういつも通りに戻っていた。それは警戒する必要が無くなったことを表していて、麗夜もそんな亮人にはもう殺意を向けていない。
ただ、そんな所に、
『お兄ちゃんっ! よくもお兄ちゃんを傷つけたな……』
『シャーリーっ! 亮人を安全な場所に運んでっ!』
という聞きなれた声が突然聞こえてきたのだ。
その声の主は警戒心が丸出しの氷華とシャーリーだ。でも、二人が警戒心を抱くのは仕方がない。
亮人と麗夜が戦う前に、恐ろしい程の力量を見せたのだから。
だが、今の状況ではそんなことは不要だ。
「二人とも……もう終わったんだよ。俺はもう大丈夫だからさ」
『大丈夫って言ったってっ! さっきまで亮人を殺そうとしてた奴なのよっ!? なのに、そんな簡単に終わらせていいの!?』
「いいんだって……俺と麗夜君はもう殺し合いなんかしないよ……それよりも、九尾はどこにいるの? 九尾に質問しないといけないことがあるんだ……」
「そんなことまでしなくていいから……九尾には後でちゃんと自分で聞く」
「そう……? ならいいけど」
『『………………どういうことなの?』』
氷華とシャーリーは亮人と麗夜がなぜ、ここまで普通に話をしているのかが理解できずにいた。
「いろんなことがあったんだよね?」
「うん……まあ、いろいろとあったんだよな。なんか嫌なもんを吐き出せた感じがして、今は凄くスッキリした気分だ」
「それでいいんだよ……まだ、俺よりも子供なんだから」
「はは、そうかも……」
亮人と麗夜は顔を見合わせれば、大きく笑い始めた。それも楽しそうな笑顔で。
『どういう事なのよ……もう』
『シャーリーもどうなってるのか、分からないよ……』
ただ困惑している二人を置いて、亮人たちは笑う。楽しそうに、何かを分かち合えた気がして笑う。
「悪かったな、そこの二人。俺のせいで怪我とかいろいろさせて」
子供の無邪気な笑みを浮かべながら氷華たちの方へと顔を向けた麗夜は口調が悪いながらも謝る。そして、氷華たちはそんな行動に小首を傾げることしかできなかった。
氷華たちがここに来るまでの間に、どんなことがあったのか。それを理解しようとしても、氷華たちに理解できるのかは定かではない。
ただ、人間である二人はぶつかった。真逆の意志を持った二人がぶつかりあって、話し合えた。
そして、麗夜の目を見ていた亮人は忽然こつぜんと大胆なことを口にした。
「ねぇ、麗夜君……突然だけど、俺の家で一緒に住まない?」
「『『…………は?』』」
三人は口を開けて茫然とした。
「俺はさ、昔から両親が育児放棄みたいに俺の事を家に一人で居させて、それで今思い出せば、父さん達は五年も帰って来てないんだよ……ただ、そんな家族であっても家族じゃない俺に神様が家族になれる人たちをくれたチャンスなんだって思ってるんだ」
亮人は全身の力を抜いて、仰向けで空を見つめながら続ける。
「だから、俺はこのチャンスをものにするって思ったんだよ。だから、氷華たちにウンザリとかいなくなって欲しいとか、そんなことは思ったことが無いんだよ」
快晴となった空を頭から血を流しながらも笑顔で見上げた。
そんな亮人に麗夜も自然と釣られるように空を見上げた。
「なんで九尾が君の両親を殺したのはかは知らないけど……ただ、九尾にも子供が欲しかったからってだけの理由だけで人を殺さないと思うんだよ。九尾にだって九尾なりの何かがあって、嫌々殺したっていう可能性だってあるんだよ?」
さっきまで殴られ、燃やされ、殺されかけた亮人は空から亮人の横で空を見つめている麗夜へと視線を移すと、
「九尾にちゃんと聞いてみなよ……なんで九尾が君の両親を殺したのか。ちゃんと話せば教えてくれるんじゃないかな?」
「…………………不思議だな、あんた」
「えっ……」
唐突の言葉に亮人は意表を突かれた。
「さっきまで殺したくて仕方がなかったのに、今は殺す気なんかまったく無くなった。ただ、何故だかあんたが言ってることが正しいんじゃないかって思えてくるよ……」
殺意が滲み出ていた瞳。それはさっきまで絶望と何か他の物が入り混じっていたが、それは変わっていた。
絶望と一緒にあった感情もの。それはおそらく、ちょっとした願いだ。
麗夜は九尾とは相当の時間を一緒に過ごしてきた。そして長い間、一緒にいるうちに心の隅で両親を殺したとは思えなくなっていたのだ。
何かの間違えがあったんじゃないか……。
今の麗夜の心には、そんな願いという希望が産まれていたのだ。絶望なんかよりもよっぽど綺麗で、絶望なんかよりもずっと強い意志を。
「それと君って言うのはやめろよ。俺の名前は麗夜……伊里神麗夜って名前があるんだよ」
「麗夜……か。良い響きだね」
亮人の口調はもういつも通りに戻っていた。それは警戒する必要が無くなったことを表していて、麗夜もそんな亮人にはもう殺意を向けていない。
ただ、そんな所に、
『お兄ちゃんっ! よくもお兄ちゃんを傷つけたな……』
『シャーリーっ! 亮人を安全な場所に運んでっ!』
という聞きなれた声が突然聞こえてきたのだ。
その声の主は警戒心が丸出しの氷華とシャーリーだ。でも、二人が警戒心を抱くのは仕方がない。
亮人と麗夜が戦う前に、恐ろしい程の力量を見せたのだから。
だが、今の状況ではそんなことは不要だ。
「二人とも……もう終わったんだよ。俺はもう大丈夫だからさ」
『大丈夫って言ったってっ! さっきまで亮人を殺そうとしてた奴なのよっ!? なのに、そんな簡単に終わらせていいの!?』
「いいんだって……俺と麗夜君はもう殺し合いなんかしないよ……それよりも、九尾はどこにいるの? 九尾に質問しないといけないことがあるんだ……」
「そんなことまでしなくていいから……九尾には後でちゃんと自分で聞く」
「そう……? ならいいけど」
『『………………どういうことなの?』』
氷華とシャーリーは亮人と麗夜がなぜ、ここまで普通に話をしているのかが理解できずにいた。
「いろんなことがあったんだよね?」
「うん……まあ、いろいろとあったんだよな。なんか嫌なもんを吐き出せた感じがして、今は凄くスッキリした気分だ」
「それでいいんだよ……まだ、俺よりも子供なんだから」
「はは、そうかも……」
亮人と麗夜は顔を見合わせれば、大きく笑い始めた。それも楽しそうな笑顔で。
『どういう事なのよ……もう』
『シャーリーもどうなってるのか、分からないよ……』
ただ困惑している二人を置いて、亮人たちは笑う。楽しそうに、何かを分かち合えた気がして笑う。
「悪かったな、そこの二人。俺のせいで怪我とかいろいろさせて」
子供の無邪気な笑みを浮かべながら氷華たちの方へと顔を向けた麗夜は口調が悪いながらも謝る。そして、氷華たちはそんな行動に小首を傾げることしかできなかった。
氷華たちがここに来るまでの間に、どんなことがあったのか。それを理解しようとしても、氷華たちに理解できるのかは定かではない。
ただ、人間である二人はぶつかった。真逆の意志を持った二人がぶつかりあって、話し合えた。
そして、麗夜の目を見ていた亮人は忽然こつぜんと大胆なことを口にした。
「ねぇ、麗夜君……突然だけど、俺の家で一緒に住まない?」
「『『…………は?』』」
三人は口を開けて茫然とした。
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