妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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襲撃者

襲撃者XⅢ

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 亮人は目の前からいなくなった麗夜から逃げるように後ろへと飛び退けば、亮人へとジグザグに走り込んでくる一つの物体。それは目にも止まらぬ速さだが、亮人にはそれが麗夜だということが分かる。

 これってシャーリーの力……なのかな。

 動体視力が異常な程によくなっていて、走ってくる麗夜を確実に目で捉えられる。そして、地面をジグザグに走る麗夜に亮人は飛び退く。そして、一気に駆け込んでくる麗夜は、

「慣れたなら、もう本気で殺る……」

 と殺気を孕んだ言葉を口にした。
 亮人は麗夜へと駆け込んだせいで、急停止することは出来ない。どれだけ足を踏ん張ろうと、地面は靴底を擦り減らすだけでなかなか止まる気配はない。

「あんた……もう死ねよ」

 その言葉が耳元に聞こえた瞬間、亮人はもう一度遠くへと吹き飛ばされていた。
 それも地面を何度もバウンドして、やっと止まった時には体中がボロボロで頭からも流血していた。
 夥しい血が頭から顔へと垂れてくる。そして、血は亮人の目へと入ってしまって目を開けられなくなる。辛うじて片方の目には血が入ることはなかったが、あまりの衝撃で視界がぼやけて見える。
 ただ、そのままの状態でいると自分が殺されるというのが分かっている亮人はすぐさま立ち上がり、麗夜との距離を取る。
 どれだけ拭っても止まらない血は、地面へと滴れていく。

「今のは意外と本気でやったんだけどな……」

 亮人へと近づいて来る麗夜の表情は驚きと一緒により黒い感情が渦巻いているようだった。
亮人になぜ、そこまで憤り、拘こだわるのか。
 麗夜は驚きが消えた表情を亮人へと向ける。
 その時の目はまるで人殺しのような眼で、見ているだけで亮人は気が遠退きそうになる。
 

「俺は生きるって決めてるんだ……これから、新しい思い出をみんなで作って行く……楽しい思い出をこれからもずっとッ!!」

「――――ッ!」

 苦虫を噛んだかのような表情をした麗夜が亮人へと距離を縮めて来るなり、今度は殴ってくるわけではなかった。
 麗夜が亮人にしたことは単純だった。

「見てるだけでムカつくっ! 燃え尽きろッ!」

 亮人に触れるなり、今度は手からまるで自分の感情が滾たぎったかのように炎が燃え盛った。
そして、その炎は亮人を包み始める。

「――――――ッッ!!!!」

 亮人が悲鳴を挙げようとしても、それは空気が掠れるような音しか立てず、肺の中をズタボロにするだけだった。
 ただ、そんな時に思い出すのが氷華の力だった。

「……………ッ! (凍れッ!)」

 自分の体を氷に包ませた亮人は知らないうちに氷華の力を使えていた。

「遅いんだよ……使うのが」

 ただ、亮人に炎を移した張本人である麗夜は面白くなってきたからだろうか、笑っていた。
 亮人は全身が悲鳴を挙げていて動くことも嫌なくらいだ。だが、生きるためには麗夜から逃げるか、立ち向かうしかない。

「…………ッ!」

 無理やり体を立ち上がらせる亮人だが、その体は限界を迎えている。動かせば全身に走る激痛。そして、目の前にいる恐ろしい少年。
 正直、そんな彼の前に立っているだけでも足が震えている。それが武者震いと疲労からの両方であるのは理解している。
 氷を使えるようになったと言っても、氷華のように完璧に使いこなせるわけでもない。前に盾を作るぐらいしか亮人には出来ない。
 立ち上がってからも続く麗夜からの攻撃は止むことが無い。九尾が放ってきたような炎を放って来たり、赤々とした巨大な火炎球を飛ばしてくる。
 それを亮人はどうにかして防ぐことしか出来なかった。
 でも、それでも諦めることはない。生きることに貪欲となり、生きる糧となるのは自分を待ってくれている妖魔の二人と、大切な幼馴染であること。亮人はそれだけ理解していれば、諦めることはしなかった。
 だが、そんな希望を持っていたところで今はどうにかすることは出来なかった。

「なぁ、妖魔になんか捕まってウンザリしてるんだろ? 正直に言っちまえよ……そうしたら俺があんたを救ってやるからよ。あの妖魔たちは俺が連れていってやる。正直になれよ……妖魔なんかと会いたくなかったって、無理に笑いたくないって」

 地面へと倒れた亮人を麗夜は髪を無理やり持ち上げて耳元で囁いた。
 何度も殴られたことで顔が傷だらけになり、頭からの流血は止まらない。そして、髪を引っ張られた亮人の表情は苦痛に歪み、ただ生きている片方の目だけは諦めたような意志が見られない。

「なんで……君が妖魔を嫌っているのかは、知らない。けど、俺は二人が居てくれて、凄く嬉しいんだよ。君みたいに、俺は妖魔を憎むなんて……出来ない。今だって、二人は俺の事……信じてくれてるんだ……なら、俺も信じるしかないだろ、家族なんだから」

 亮人の目は絶望にはもう染まらない。これから染まるのは希望。これから続くであろう思い出という希望だけが目に浮かぶ。
 苦痛に歪んでいたとしても、その目には希望という光を燈し続けている。
 それとは真逆に黒い瞳の奥には、より黒い絶望という闇を抱えている麗夜。この二人は本当に真逆だ。
 真逆だからこそ、こうやって殺し合う。相容れない存在だからこそ、殺し合う。

「俺はあんたのその目が最初から気に喰わなかったんだよッ! 俺が最初に観察してた時に見せた、その眼ッ! これから嫌なことがあっても絶対に無くならないその眼がッ、俺は見ててムカつくんだッ! 絶望を知らないその眼がッ! 妖魔が見えてるお前がッ!」

「何言ってるんだよ……君は……」

 次々に襲ってくる言葉の数々。それは何故か亮人の心を苦しめるように思えた。
体からはもう力が抜けていて、立とうと思っても意識しないと足で立つこともままならない。
 そして、亮人の髪を引っ張り、亮人へと頭突きをした麗夜は言い放つ。

「妖魔が見える奴は生きることに絶望した奴なんだよッ! なのに、なんでお前は希望があるみたいに目を輝かせてるんだッ! おかしいだろッ! 俺は目の前で九尾に親を殺されたんだよッ! そんなものを見せられて、生きることに絶望したって言うのに、なんでお前はそんな幸せそうなんだよッ! 理不尽だろうがッ! ふざけるなッ!」

 亮人よりも幼い麗夜の表情はさっきまでの憎しみが籠められているようなものではなく、年相応の顔つきに戻っていた。それも涙を瞳に溜めながら、亮人の目を睨んで……。

「俺は九尾の奴が憎いッ! 自分が子孫を残すために、無理やり人に絶望を押し付けてきたあいつがッ! 俺は妖魔を絶対に許さないッ! だから、妖魔は全部、俺が集めるっ! こんな辛い思いを他の奴に背負わせないためにもっ! なのに、何なんだよッ! お前はっ!」

 ボロボロと涙を流し出した麗夜は嗚咽しながら亮人の事を見る。

「なんでお前は妖魔と幸せそうに家族ごっこをしてるんだよッ!」

 感情を一直線にぶつけてくる麗夜に亮人は片方の目で彼の表情を見た。
 麗夜の瞳の奥にあるもの。それは絶望とは少し違うものに亮人は見えたのだ。

「ねぇ……君は九尾と、どれくらい一緒に過ごしてきたの?」

 額から流れてくる血に亮人は四苦八苦しながらも、目の前で泣いている麗夜へと聞いた。心に抱いていた憤りなんかを少しだけ穏やかにして、彼の話を聞くために……。

「なんでいきなりそんな話になるんだよ……」

「いいから教えてくれよ……どれくらいの付き合いなんだ?」

 亮人は苦痛に表情を歪ませながらも、麗夜へと微笑んだ。
 ついさっき自分を殺しに来ていた麗夜に微笑む亮人は異常だ。だが、その異常に麗夜は言葉を失う。

 なんなんだよ……こいつ。なんで俺に微笑んでられるんだよ……。

 おかしな事ばかりが起こっている目の前の状況に麗夜は腰を抜かした。もう、信じられないといった感じに。

「俺は何で氷華やシャーリーの事が見えるのかって不思議に思ったことがあるけど……そんなに俺は深く考えない様にしてるよ」

「……何だよ、いきなり」

 亮人が唐突に麗夜へと話し出した。それは自分なりの妖魔が見える理由。ただ、それは理想であって現実は麗夜が言った通りだ。
 妖魔は生きることに絶望した人間にしか見えない。
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