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襲撃者
襲撃者XⅡ
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「雪女とウェアウルフのクソご主人、初めまして」
亮人が家へと向かっている途中で前から走ってきた少年が突然止まって、いきなりそんなことを口にしてきた。
亮人はこの状況が分からず、目の前にいる口の悪い少年を見つめていた。
「その……俺は君の事を知らないんだけど……何で俺の事を知ってるの?」
率直な質問だ。
目の前にいるのは会ったことが一度もない少年なのだ。見覚えがあるようだったら少しでも記憶の片隅で引っ掛かる部分があるはずだ。
それと亮人は一つだけ気になったことがある。
「君……氷華たちの事を知ってるみたいだよね……?」
「知ってるも何も、俺はあのウェアウルフを追いかけてこの町に来たんだよ。ただ、誤算だったのが、あんたみたいなヘボヘボな人間が妖魔を見れているってことだけだ。あんたがウェアウルフを家に招き入れたせいで、俺はあいつを手に入れることが出来なかったんだからな……」
言葉を紡ぐうちに徐々に出てくる殺意が亮人へと向けられていた。
流石の鈍感な亮人でも、その殺気だけは気が付いた。
「なんで君は俺のところに来たのかな? シャーリーを自分のものにするため?」
「それもあったんだけどな……昨日のあんたを見ていて無性にイラついた。だから、俺はあんたを殺せればそれで十分だよ。ウェアウルフも諦めるし、雪女も欲しかったけど諦めるさ」
身振り手振りをする麗夜の顔は笑っている。ただ、亮人を見る目だけが殺意で滲んでいる。
そんな麗夜を亮人は今の状況から考えて、この自分よりも年下の少年がいま起こっている事態の張本人だというのだけはなんとなくだが理解できた。
「俺はあんたが妖魔を家族みたいに思っている部分が異様に腹が立つんだよ……妖魔はあくまで最悪な存在だ……そんな事実も理解できずにいるあんたが異様にムカつく……」
眉間に青筋を浮かばせながら麗夜は亮人へと近づいて行く。ただ、亮人が一歩だけ踏み出した瞬間にその姿は亮人の視界から消え、いつの間にか亮人の目の前で喉へと手を伸ばしていた。
「――――ッ!」
「驚くなよ……あんただってあいつらとキスぐらいしたんだろ?」
下から覗きこむように睨んでくる麗夜に亮人は動揺が隠せない。
「俺たち人間は妖魔と一度キスするだけで、そこでもう体の作りが変わるんだよ。全部が全部、内側だけ変わるんだよ。外見は人に見えたって、俺たちの運動神経なんか普通の人間が比較できないくらいに変わる……たとえば、こんな風にな」
麗夜は亮人にお手本でも見せるかのように飛んでみせる。ただ、それは普通の人が飛ぶのとは違って、地面から人の家の屋根に登るように飛んだのだ。
「あんたもやってみろよ。少しでも俺に対抗できるくらいの力が無いとすぐに死ぬからな……俺のことを少しは楽しませてくれよ?」
不気味に笑みを浮かべた麗夜に背筋から冷や汗が流れてくる。そのせいで、冬も近づいてきていると言うのに、背中は汗で凄い事になって来ていた。
ただ、亮人は目の前にいる彼が自分の事を殺しに来ていることだけは理解できた。
それからなんとなくだが、言われた通りに飛んでみると亮人も麗夜と同様に高く飛び上がることが出来た。そして、地面へと着地した亮人は続いて走ってみる。
「…………本当に変わってるな」
亮人は自分の体がいつの間にか変わっていたことに気が付くなり、少しだけ顔を笑顔へと変えた。
なんで笑顔になったのか。
亮人は自分の体を確認するように手を開いたり閉じたりする。
「それとまだ教えてなかったことが一つ。あんたの場合は雪女だからな……俺とやり方は似てるかもしれないけど、これだけは覚えておけ」
麗夜はただ立っているだけ。
その体の周りは少しずつ靄もやが掛かっているかのように歪んでいく。
次に麗夜が一歩踏み出した時、その体からは爆炎が噴き出していた。
「俺たちは人間であっても人間じゃない。こんな風に妖魔と同じようなことが出来るんだからな……」
その時の麗夜の表情は苦しいものでも思い出すかのようなものだった。
「……なぁ、何で殺すつもりでいる君が俺にそんなことを教えるんだ? おかしいだろ」
「そんなの決まってるだろ。あんたと本気で殺し合いがしたいからに決まってる。妖魔を家族みたいに思ってるあんたと、妖魔を憎んでいる俺……そんな正反対な奴を見てるだけで殺したくなるのは当たり前のことだろ」
「憎んでるってどういうこと……?」
「無駄口叩くぐらいなら、早く俺と殺し合いするぞ……俺はあんたを見てるだけでもイライラするんだ……早く殺させてくれ」
そう口にした麗夜に亮人は呆気に取られるだけだ。ただ、その言葉は本気で麗夜は足を一歩前へと踏み出した時には亮人の目の前にいた。
「……本気でやらないと死ぬぞ」
麗夜が口にした瞬間に亮人は立っていた場所から一気に後ろへと吹き飛ばされた。
胸に走る激痛。亮人の胸へと当てられていたのは、ただの拳。
たった一発の打撃がここまで威力がおかしい事になっていた。それも亮人を殴ったのは、自分よりも身長が低い少年だ。
「ほらっ、どうしたよ。あんたもまだ普通に立てるだろう?」
挑発でもするかのような口ぶりだが、そんなものは気にしない。ただ、冷静に目の前で起こったことを整理していた。
俺もあんなことが出来るんだな……でも、相手は俺よりも小さな子供だ……本気でなんか殴れない。
こんな状況だと言うのに、亮人は未だに自分を見失わないでいる。痛みだって相当のもので、普通の人なら、肋骨ろっこつが全て折れていたかもしれない。だが、そんな亮人の体はただ鈍痛しかなく、骨が折れたような痛みは一切ない。
「今度は容赦しないからな……」
握り拳には赤々と燃え盛る炎を携え、そして視界から消える。
それは一瞬だ。
亮人が家へと向かっている途中で前から走ってきた少年が突然止まって、いきなりそんなことを口にしてきた。
亮人はこの状況が分からず、目の前にいる口の悪い少年を見つめていた。
「その……俺は君の事を知らないんだけど……何で俺の事を知ってるの?」
率直な質問だ。
目の前にいるのは会ったことが一度もない少年なのだ。見覚えがあるようだったら少しでも記憶の片隅で引っ掛かる部分があるはずだ。
それと亮人は一つだけ気になったことがある。
「君……氷華たちの事を知ってるみたいだよね……?」
「知ってるも何も、俺はあのウェアウルフを追いかけてこの町に来たんだよ。ただ、誤算だったのが、あんたみたいなヘボヘボな人間が妖魔を見れているってことだけだ。あんたがウェアウルフを家に招き入れたせいで、俺はあいつを手に入れることが出来なかったんだからな……」
言葉を紡ぐうちに徐々に出てくる殺意が亮人へと向けられていた。
流石の鈍感な亮人でも、その殺気だけは気が付いた。
「なんで君は俺のところに来たのかな? シャーリーを自分のものにするため?」
「それもあったんだけどな……昨日のあんたを見ていて無性にイラついた。だから、俺はあんたを殺せればそれで十分だよ。ウェアウルフも諦めるし、雪女も欲しかったけど諦めるさ」
身振り手振りをする麗夜の顔は笑っている。ただ、亮人を見る目だけが殺意で滲んでいる。
そんな麗夜を亮人は今の状況から考えて、この自分よりも年下の少年がいま起こっている事態の張本人だというのだけはなんとなくだが理解できた。
「俺はあんたが妖魔を家族みたいに思っている部分が異様に腹が立つんだよ……妖魔はあくまで最悪な存在だ……そんな事実も理解できずにいるあんたが異様にムカつく……」
眉間に青筋を浮かばせながら麗夜は亮人へと近づいて行く。ただ、亮人が一歩だけ踏み出した瞬間にその姿は亮人の視界から消え、いつの間にか亮人の目の前で喉へと手を伸ばしていた。
「――――ッ!」
「驚くなよ……あんただってあいつらとキスぐらいしたんだろ?」
下から覗きこむように睨んでくる麗夜に亮人は動揺が隠せない。
「俺たち人間は妖魔と一度キスするだけで、そこでもう体の作りが変わるんだよ。全部が全部、内側だけ変わるんだよ。外見は人に見えたって、俺たちの運動神経なんか普通の人間が比較できないくらいに変わる……たとえば、こんな風にな」
麗夜は亮人にお手本でも見せるかのように飛んでみせる。ただ、それは普通の人が飛ぶのとは違って、地面から人の家の屋根に登るように飛んだのだ。
「あんたもやってみろよ。少しでも俺に対抗できるくらいの力が無いとすぐに死ぬからな……俺のことを少しは楽しませてくれよ?」
不気味に笑みを浮かべた麗夜に背筋から冷や汗が流れてくる。そのせいで、冬も近づいてきていると言うのに、背中は汗で凄い事になって来ていた。
ただ、亮人は目の前にいる彼が自分の事を殺しに来ていることだけは理解できた。
それからなんとなくだが、言われた通りに飛んでみると亮人も麗夜と同様に高く飛び上がることが出来た。そして、地面へと着地した亮人は続いて走ってみる。
「…………本当に変わってるな」
亮人は自分の体がいつの間にか変わっていたことに気が付くなり、少しだけ顔を笑顔へと変えた。
なんで笑顔になったのか。
亮人は自分の体を確認するように手を開いたり閉じたりする。
「それとまだ教えてなかったことが一つ。あんたの場合は雪女だからな……俺とやり方は似てるかもしれないけど、これだけは覚えておけ」
麗夜はただ立っているだけ。
その体の周りは少しずつ靄もやが掛かっているかのように歪んでいく。
次に麗夜が一歩踏み出した時、その体からは爆炎が噴き出していた。
「俺たちは人間であっても人間じゃない。こんな風に妖魔と同じようなことが出来るんだからな……」
その時の麗夜の表情は苦しいものでも思い出すかのようなものだった。
「……なぁ、何で殺すつもりでいる君が俺にそんなことを教えるんだ? おかしいだろ」
「そんなの決まってるだろ。あんたと本気で殺し合いがしたいからに決まってる。妖魔を家族みたいに思ってるあんたと、妖魔を憎んでいる俺……そんな正反対な奴を見てるだけで殺したくなるのは当たり前のことだろ」
「憎んでるってどういうこと……?」
「無駄口叩くぐらいなら、早く俺と殺し合いするぞ……俺はあんたを見てるだけでもイライラするんだ……早く殺させてくれ」
そう口にした麗夜に亮人は呆気に取られるだけだ。ただ、その言葉は本気で麗夜は足を一歩前へと踏み出した時には亮人の目の前にいた。
「……本気でやらないと死ぬぞ」
麗夜が口にした瞬間に亮人は立っていた場所から一気に後ろへと吹き飛ばされた。
胸に走る激痛。亮人の胸へと当てられていたのは、ただの拳。
たった一発の打撃がここまで威力がおかしい事になっていた。それも亮人を殴ったのは、自分よりも身長が低い少年だ。
「ほらっ、どうしたよ。あんたもまだ普通に立てるだろう?」
挑発でもするかのような口ぶりだが、そんなものは気にしない。ただ、冷静に目の前で起こったことを整理していた。
俺もあんなことが出来るんだな……でも、相手は俺よりも小さな子供だ……本気でなんか殴れない。
こんな状況だと言うのに、亮人は未だに自分を見失わないでいる。痛みだって相当のもので、普通の人なら、肋骨ろっこつが全て折れていたかもしれない。だが、そんな亮人の体はただ鈍痛しかなく、骨が折れたような痛みは一切ない。
「今度は容赦しないからな……」
握り拳には赤々と燃え盛る炎を携え、そして視界から消える。
それは一瞬だ。
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