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襲撃者
襲撃者X
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炎はシャーリーの顔を横切り、壁へと当たる。そして、爆発が起こり衝撃で腕から顎が外れた。
『先にあんたから殺してあげるわよ、そんなに死にたいならねっ!』
ドッと溢れてくる殺意は空気を重くした。まるで重力でも操っているかのようにシャーリーの周りは重くなる。
「九尾もそろそろ本気出せよ? 俺が居なかったら、あの中から抜け出せなかったんだからよ」
『わかってるわよ……さっきはありがとう。麗夜れいやには感謝してるわ』
ドス黒い感情を持ちながらも、麗夜と呼ばれた主人に対して笑みを浮かべた九尾はすぐさまシャーリーの前から消えた。
『シャーリーっ!』
氷華は空へ指を指しながら声を上げる。その指の先、そこには太陽を纏ったかのような九尾が高く飛んでいた。
『天高く昇る太陽よ、神のごとき力を持つ貴君の魂、私の魂に焼きつけなさい……』
呪詛を紡いだ九尾の九本の尾。そこに宿る炎は今までの炎とは燃える勢いが変わった。
九本の尾の先、そこには赤から青へと、そして青から白へと変わった。
それはまるで燈火のような温かい炎だ。見ているだけでも寒い場所でも体を温めてくれるような温かな炎。
だけど、それは見た目だけだった。
九尾はその炎を尻尾からシャーリーへと放つ。ただ、それをシャーリーは難なく避けることができたが、シャーリーが居た場所。そこに大きな変化が起きた。
ボコボコと水が沸騰するように地面が溶けていた。それは水なんかではなく、溶岩のように赤く燃えながら地面が形を変えた。
『私を本気にさせたこと……後悔させてあげるわ……』
その後は過酷な戦闘になった。
シャーリーが前に戦った時は、ただの肉弾戦だけだった。それはシャーリーをなるべく傷つけないようにと配慮をしてだ。だが、今は違う。麗夜と呼ばれた少年はもうシャーリーに興味は無くなって、今度は亮人を殺したいと願っている。
だから、九尾は容赦なんてしない。ただ殺すために本気を出してくる。
九本の尻尾から放たれる白い炎は連続してシャーリーへと降り注ぐ。それはさっき、氷華が九尾に対して使った呪詛のように、雨の如く降り続く。そして、そのうちシャーリーは道路という逃げ場をなくした。
他人の家を壊さないようにと気を配りながら戦っていたことが仇となった。
『あんたが走る道はもう無いわよ……残っているのはあと、屋根の上だけ……だけど、あんたにそれが出来るかしら? あんたのご主人は他に気を配るタイプよね? 自分の妖魔が他人に迷惑でも掛けたら、どんな顔をすることか……簡単に想像できるわ』
九尾の言う通り、亮人は周りに気を使う。だから、もしも他人を巻き添えにしたりでもしたら、悲しい表情を浮かべるのは間違いない。
『だったら、こんなのはどうかしら?』
そんな時に響いた凛とした声。
シャーリーの視線の先、そこにいたのは氷華だ。
氷華は他人の家の屋根へと上れば、そこから地面へと氷の塊を幾重にも叩き落とす。
氷が蒸発する音と同時に、地面は少しずつ形を固定させ始める。それはまるで新しい陸地が出来るが如く。
『シャーリーっ、あんたの背中に私を乗せなさいっ!』
屋根から飛び出した氷華が空中で言い放つと、シャーリーは何故だか自然と体が氷華の元へと飛んでいた。
空中では氷華が氷の足場を作り、シャーリーはその上を転々と飛び続ける。それはまるで自由に空を翔けているかのように。
そして、空中で彷徨っていた氷華を背中に乗せることが出来れば、氷華はすぐさま地面に向けて分厚い氷の板を敷き詰める。
地面は氷のおかげで少しずつ形を留め、そして残った氷の上へとシャーリーは鋭い爪を突き刺して滑らずに走り続けた。
『変な妖魔達ね……相容れない妖魔同士が協力するなんて……それも一人の人間を巡って殺し合いもせずによくも……』
『はっ、私達が亮人の前で殺し合いなんてすると思うっ!? そんな事を思ってる時点でアンタは馬鹿なのよっ!』
『シャーリーたちはお兄ちゃんが幸せで居てくれることを願ってるのっ! 自分たちは二の次でいい。それくらいも分からない九尾になんかシャーリー達は負けちゃいけないんだよっ!』
『戯言ッ!』
灼熱と言える熱と急激に冷える冷気が入り混じる道路。そこをただ単に歩く麗夜が一人、九尾へと呟く。
「俺は先にこいつらの主人を探して殺してくる……」
麗夜がスタスタと歩いている道……そこは未だに途轍もない熱を持っている道路だが、そんな場所を平然と歩いている。
『――ッ! あんたの主人は化け物なの!?』
あり得ない光景に驚きが隠せない氷華。
人があんな危険な場所を歩くなんてことが出来るわけがない。できるはずが無いのだ。九尾は熱に耐性を持っているから、あんな場所を縦横無尽に走っていられるが、主人であってもそんなことは不可能だ。
『貴方達は知らないみたいね……妖魔の主人になるってことがどういう事なのか……』
意味深げな言葉を漏らしながら依然と白い炎を放ってくる九尾に氷華たちは空中で出来る氷の上を走り続けた。
『麗夜……この子たちの主人がムカつくんでしょ? なら、あなたも本気で主人を殺しに行ってきなさいよ?』
「分かってる……言われるまでもない」
そして、九尾の主人である麗夜は人間には出せない速度でシャーリーが来た道を戻るように走り出した。
『ちょっ! 待ちなさいよっ!』
氷華は麗夜へと氷の槍を投げつけるが、そんなものも一瞬で意味が無くなる。
「邪魔……」
『先にあんたから殺してあげるわよ、そんなに死にたいならねっ!』
ドッと溢れてくる殺意は空気を重くした。まるで重力でも操っているかのようにシャーリーの周りは重くなる。
「九尾もそろそろ本気出せよ? 俺が居なかったら、あの中から抜け出せなかったんだからよ」
『わかってるわよ……さっきはありがとう。麗夜れいやには感謝してるわ』
ドス黒い感情を持ちながらも、麗夜と呼ばれた主人に対して笑みを浮かべた九尾はすぐさまシャーリーの前から消えた。
『シャーリーっ!』
氷華は空へ指を指しながら声を上げる。その指の先、そこには太陽を纏ったかのような九尾が高く飛んでいた。
『天高く昇る太陽よ、神のごとき力を持つ貴君の魂、私の魂に焼きつけなさい……』
呪詛を紡いだ九尾の九本の尾。そこに宿る炎は今までの炎とは燃える勢いが変わった。
九本の尾の先、そこには赤から青へと、そして青から白へと変わった。
それはまるで燈火のような温かい炎だ。見ているだけでも寒い場所でも体を温めてくれるような温かな炎。
だけど、それは見た目だけだった。
九尾はその炎を尻尾からシャーリーへと放つ。ただ、それをシャーリーは難なく避けることができたが、シャーリーが居た場所。そこに大きな変化が起きた。
ボコボコと水が沸騰するように地面が溶けていた。それは水なんかではなく、溶岩のように赤く燃えながら地面が形を変えた。
『私を本気にさせたこと……後悔させてあげるわ……』
その後は過酷な戦闘になった。
シャーリーが前に戦った時は、ただの肉弾戦だけだった。それはシャーリーをなるべく傷つけないようにと配慮をしてだ。だが、今は違う。麗夜と呼ばれた少年はもうシャーリーに興味は無くなって、今度は亮人を殺したいと願っている。
だから、九尾は容赦なんてしない。ただ殺すために本気を出してくる。
九本の尻尾から放たれる白い炎は連続してシャーリーへと降り注ぐ。それはさっき、氷華が九尾に対して使った呪詛のように、雨の如く降り続く。そして、そのうちシャーリーは道路という逃げ場をなくした。
他人の家を壊さないようにと気を配りながら戦っていたことが仇となった。
『あんたが走る道はもう無いわよ……残っているのはあと、屋根の上だけ……だけど、あんたにそれが出来るかしら? あんたのご主人は他に気を配るタイプよね? 自分の妖魔が他人に迷惑でも掛けたら、どんな顔をすることか……簡単に想像できるわ』
九尾の言う通り、亮人は周りに気を使う。だから、もしも他人を巻き添えにしたりでもしたら、悲しい表情を浮かべるのは間違いない。
『だったら、こんなのはどうかしら?』
そんな時に響いた凛とした声。
シャーリーの視線の先、そこにいたのは氷華だ。
氷華は他人の家の屋根へと上れば、そこから地面へと氷の塊を幾重にも叩き落とす。
氷が蒸発する音と同時に、地面は少しずつ形を固定させ始める。それはまるで新しい陸地が出来るが如く。
『シャーリーっ、あんたの背中に私を乗せなさいっ!』
屋根から飛び出した氷華が空中で言い放つと、シャーリーは何故だか自然と体が氷華の元へと飛んでいた。
空中では氷華が氷の足場を作り、シャーリーはその上を転々と飛び続ける。それはまるで自由に空を翔けているかのように。
そして、空中で彷徨っていた氷華を背中に乗せることが出来れば、氷華はすぐさま地面に向けて分厚い氷の板を敷き詰める。
地面は氷のおかげで少しずつ形を留め、そして残った氷の上へとシャーリーは鋭い爪を突き刺して滑らずに走り続けた。
『変な妖魔達ね……相容れない妖魔同士が協力するなんて……それも一人の人間を巡って殺し合いもせずによくも……』
『はっ、私達が亮人の前で殺し合いなんてすると思うっ!? そんな事を思ってる時点でアンタは馬鹿なのよっ!』
『シャーリーたちはお兄ちゃんが幸せで居てくれることを願ってるのっ! 自分たちは二の次でいい。それくらいも分からない九尾になんかシャーリー達は負けちゃいけないんだよっ!』
『戯言ッ!』
灼熱と言える熱と急激に冷える冷気が入り混じる道路。そこをただ単に歩く麗夜が一人、九尾へと呟く。
「俺は先にこいつらの主人を探して殺してくる……」
麗夜がスタスタと歩いている道……そこは未だに途轍もない熱を持っている道路だが、そんな場所を平然と歩いている。
『――ッ! あんたの主人は化け物なの!?』
あり得ない光景に驚きが隠せない氷華。
人があんな危険な場所を歩くなんてことが出来るわけがない。できるはずが無いのだ。九尾は熱に耐性を持っているから、あんな場所を縦横無尽に走っていられるが、主人であってもそんなことは不可能だ。
『貴方達は知らないみたいね……妖魔の主人になるってことがどういう事なのか……』
意味深げな言葉を漏らしながら依然と白い炎を放ってくる九尾に氷華たちは空中で出来る氷の上を走り続けた。
『麗夜……この子たちの主人がムカつくんでしょ? なら、あなたも本気で主人を殺しに行ってきなさいよ?』
「分かってる……言われるまでもない」
そして、九尾の主人である麗夜は人間には出せない速度でシャーリーが来た道を戻るように走り出した。
『ちょっ! 待ちなさいよっ!』
氷華は麗夜へと氷の槍を投げつけるが、そんなものも一瞬で意味が無くなる。
「邪魔……」
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