妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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襲撃者

襲撃者Ⅷ

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「もう、どうすればいいんだ……俺は頑張ってきた。欲しかった家族があんな形ではあったけど出来て……それで嬉しかった。なのに、なんでだ……凄く重い……家族が重いんだ」

 焦げ臭い公園跡地の前で座り込んだ亮人は膝を抱えるように居た。まるで殻に閉じこもるように、ただ膝を抱えて目の前の光景を見つめていたのだ。
 人ではないけど、理想の家族を手に入れた亮人はこれまで心が満たされていた。少し辛い時もあったりしたが、それでも家族がいると思うだけでもそんなものはなかったかのように消えていたのだ。
 だけど、そんなものは消えたわけじゃなかった。
 亮人の心の奥底、深い部分で亮人が潰れるのを待っていたのだ。亮人が絶望を感じた時に襲い掛かる為に、ひっそりと身を隠しながらそれは待ち構えていたのだ。
 もう、この時の亮人は一時的ではあるが鬱病に近い。何事も嫌になり、全部が絶望に見えてしまう。

「俺が家族なんか欲しいなんて言うからこういう事になったのか……」

 思い出、亮人にとってそれがどれだけ大切なものなのか……。

 亮人は一度事故に遭ったせいで、一部分だが記憶が無くなっている。そして、その部分はおそらく亮人にとって一番大切な記憶だというのは分かる。思い出そうとするだけでも、心の底から微笑みが出てくるのだから。ただ、その内容が思い出せない亮人だから、こうやって大切な思い出は覚えておきたかった。
 形を残しているものは形を残したまま。

「本当は……俺って不幸なのか……?」

 この一ヶ月間は物凄く幸せだった。ただ、たったの一ヶ月。十七年と生きていて、そのうちのたった一ヶ月だけだ、ここまで充実した生活を送れたのは……。
 本当……どうしてなんだ。親は息子よりも仕事を選んで、家では一人でクロと戯たわむれるだけ。そんな生活だった。今思えば、他人からはつまらな過ぎると思えるくらいの人生だ。

「不幸なのかもしれない……」

「不幸なのかもね……」

 そんな亮人が漏らした言葉に反応を見せた人が一人。亮人の横に一緒になって座っていた。
 亮人はその人を見て、何故だか安心した。

「礼火……俺は不幸だな」

「うん、亮人は不幸だよ。物凄い不幸者だよ」

 否定をせず、肯定する礼火は亮人が地面に着けていた手に優しく手をのせると、

「でも、不幸でもいいんじゃない?」

 と、口にしてきた。

「不幸でもいいじゃん。亮人の周りには優しくて可愛い女の子が三人もいるんだからさ」

「それってお前も入ってるよな……」

「入れちゃ悪いの?」

 小さな体にまだ幼さが残る顔。でも、この時だけはその表情が大人びているように見えた。普段は子供のようにしか見えない彼女がこんな時だけ大人っぽく見える。

「亮人は頑張り過ぎなんだよ。あの二人だって亮人が頑張ってるの知ってるんだよ? どれだけ亮人が我慢をしていたのかだって知ってるんだよ?」

 キュッと優しく手を握ってくる礼火。その手は不思議と心を温めてくれているような気がした。亮人の冷え切った心を少しずつだけど、確実に温めていた。

「だから、今だけでも我慢しないで……私だって知ってるんだよ? 亮人が毎日、一番遅くに寝てるの……」

 そう、亮人はこの一ヶ月もの間、一番遅くに眠っていた。それは氷華やシャーリー、そして礼火がちゃんと眠っているかを確認するために。それはまるで仕事帰りの父親が我が子の寝顔を安心しながら見つめるかのように。

その時の亮人はただ嬉しかったのだ。自分にもやっと家族が出来たんだ。ただその思いだけで嬉しかったのだ。
 だから、亮人は氷華たちを見守る為に眠るのを遅くしていた。

「でも、それって逆に亮人はこうも考えてなかった?」

 礼火は亮人の顔を見つめると、少しだけ間を開けるようにして口にする。

―――――失いたくないって。

 それを聞いた亮人は俯いた。それは図星だったから。
 亮人は嬉しいのとは裏腹に、居なくなったら嫌だ……そんな感情を知らないうちに抱いていたのだ。だからこそ、それは過度なストレスになって心の奥底で隠れていたのだ。彼女達を守るために、でもそれと一緒に自分を守る為に。
 二つの想いがあって、それを守る為にする行為は重かった。彼女達をなに不自由なく家で過ごさせる為に朝から昼食も作り、そして昔までは独り分だった料理を今日まで四人分も作っていたのだ。掃除をする頻度だって増えた。普段の亮人のする仕事の範疇はんちゅうを途中から超えた部分もあったりする。
 そんな生活が一ヶ月。それも不満を言う事も無く、ただみんなの為に……そんな気持ちで亮人は頑張っていたのだ。

「確かに俺は失いたくないって思った……やっと出来た家族なんだ……急に誰かが居なくなったりでもしたら、俺……嫌だから……」

 俯いていた顔を礼火の方へと向けて口にした亮人に、

「そんな心配ばっかりしなくていいんだよ。あの二人なら絶対に亮人から離れないし、私だって……その、離れるつもりはないし……」

 最後の方は小声で亮人には聞こえなかったが礼火の頬は赤く染まり、亮人同様に俯いた。
 ただ、礼火のその言葉だけでも亮人は少しだけ救われた気がする。
 暗くなっていた表情は多少だが明るくなり、その瞳にも光を取り戻しつつある。

「亮人は思い出に拘こだわり過ぎなんだよ。思い出はこれからだってたくさん作れるんだよ? 形は無くなっても思い出は思い出。それは実際に起こったことなんだから、無くなるわけじゃない。これからだってあの二人と思い出、作って行くんでしょ?」

 頬はまだ赤いままでいる礼火だが、亮人へと向けた笑顔はとても可愛らしい。まるで亮人の心に光り差す太陽のように。

「亮人だって時々は皆を頼りにしてよ。私たちは仮でも家族……なんでしょ?」

 笑顔を向けた礼火はその温もりを持った手を亮人の手から離し、ゆっくりとその手は亮人の胸へと触れる。

「こうやって触れるんだよ? これからだって、私達は思い出を体に残していくの。このたくさんの記憶を残せる大切な場所に……」

 亮人の胸に触れている礼火の手はまるで熱でもあるかのように熱くて、亮人はそんな手にドキドキと脈を強く打ち始める。

「だから……私達にも甘えて……亮人に甘えるばっかりなのは、私達も嫌なの」

 亮人の胸からスルスルと首へと手を伸ばし、そして礼火は自分の顔へと亮人の顔を近づけさせる。

「今度は亮人からして……私たちに甘えて? もう、我慢しないでいいんだよ……」

 亮人はその優しくて艶めかしい言葉を口にした礼火を見つめた。
 そこには亮人が知っている礼火はいなかった。そこにいたのは、一人の女。まだ誰の物にもなっていない、一人の女がいた。
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