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襲撃者
襲撃者Ⅵ
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急に起きた出来事が理解できずにいる九尾は尻尾を体から退けるとすぐさま空を見上げ、そして、九尾は驚愕の色を表情に出した。
『間違いなく死ぬじゃないのっ!』
声を大にして九尾は叫び上げた。
なぜ九尾が驚いたのか、それは至極簡単なことだ。
遊具からは甲高い金属音が何回も鳴り響き、そして九尾はすぐさま身を守れる屋根のある遊具へと必死に駆け込んだ。
『死ぬかと思った……これで足止めは成功したわけね……クソッ』
さっきまでの余裕はどこへ行ったのか、九尾の表情は焦りと憤りが入り混じった表情になり、そんな中でも外からは金属音が連続して続いていた。九尾がいる遊具の屋根からも屋根が壊れるんじゃないかと思える程の轟音が鳴り響いて、九尾は耳を塞がないといけなくなる。
この遊具の中は絶対に安全とは言えないが、おそらく他の遊具なんかよりは安全と言い切れるかもしれない。壊れるんじゃないかと思うほどの音がしていても尚、壊れることがないからだ。
ほんの少しだけホッと息をついているが、こんな状況は予想もしていなかった。
『こんな外に居たら絶対に死んでたわね……私』
遊具の入り口から外を見れば、そこは白い死神がいるんじゃないかと思える光景だ。
空から降ってくるそれは金属で出来た遊具の形を歪ませ、木製の椅子なんかは見るも無残な姿へと変わっていた。
空から降ってくるそれ……それは。
『こんな大きな雹が降ってきたら誰だって死ぬわよ……』
大きさがテニスボールよりも少し大きい雹。それが空から勢いよく降ってくるのだ。その破壊力は天災の中でも一位二位を争うかもしれない。
重さにして五百グラムを超える雹は空から降ってくる途中で重力によって速度を上げて、破壊力を増す。そして、それは軟やわな家なら穴を簡単に開ける程の危険度を持っている。
『これが止むまで私があの子の所に行くのは無理ね……』
途中で殺すのを止めるんじゃなかったと、今頃になって後悔する九尾は溜息をつきながら入り口から雹が降り止むのを待つことしか出来なかった。
後悔先に立たず、その言葉が身に染みている九尾である。
そして、その間にも氷華は亮人が帰ってくるかもしれないと思って家へと帰っていたのであった。
『九尾が出てくるまで、恐らくは十分弱……その間に亮人を守れる万全の態勢にしておかないと……』
氷華は一部溶けていた窓に応急処置として氷を代用しておくと、すぐさま家のインターホンが鳴り響いた。
『もう帰ってきたのかしら……まあ、早いに越したことはないわね』
氷華は呟きながら玄関へと急いで駆けて行き、そしてドアを開いた。
『亮人、早かったじゃな……い』
氷華はそこで一瞬だが言葉を詰まらせた。何故ならそこには亮人より小さな子供がいたのだから。
「やぁ、雪女。君のご主人はどこにいるのか教えてくれないか?」
そして、その少年は雪女に途轍もない殺気を浴びせながら笑顔で佇んでいたのである。そして、その少年の横には……。
『さっきはよくもやってくれたわね……雪女……』
殺意が滲み出ている九尾が九本の尻尾に爆発でもするかのような炎を携えて少年の横に佇んでいたのだった。
『お兄ちゃん、あそこ……』
屋根の上を転々と飛び回っていたシャーリーが亮人を背中に乗せながら家の方角へと向かっていると、顔を家とは少し離れた場所を見ていた。
そして亮人も一緒になってその方角を見つめると、そこだけ天気が荒れていた。
『あそこにお姉ちゃんがいるかもしれない……』
シャーリーはそう口に漏らすと体の向きを変え、そして天気が荒れている場所へと向かい始めた。
「シャーリー、今からあそこに行くつもりなんだね……」
冷静な亮人はシャーリーの首に手を巻いて耳元で声に出した。亮人は今から危険な死地へと向かおうとしていると言うのに、何故だか心は冷静でありながら、昂たかぶっていた。
怖いはずなのにな……まったく怖くない……逆に楽しみにしてるって言えばいいのかな? なんだか、気分がいい。
シャーリーの背中では自分も知らないうちに笑顔を浮かべていた亮人。ただ、そんな亮人を背負っているシャーリーは依然と屋根を飛び続けている。
そんな矢先に天候が荒れていた場所は突然晴れ始めたのだ。
それもただ自然と晴れたわけじゃない。荒れていた中心部あたりから爆炎が荒れていた空を掻き消すかのように覆ったのだ。
『…………お姉ちゃん』
「氷華……」
亮人達は自然と氷華の事を口にしていた。もしからしたら、あそこに氷華がいたんじゃないか、そんな拭いきれない心配からか、シャーリーは飛ぶ速度を一気に速め、亮人は振り落されない様にシャーリーに思いっ切りしがみついたのだ。
それはもう一瞬だ。何物にも捉われない程の速度で屋根の上を転々と飛んで行くシャーリーは爆炎が上がっていた場所へと辿りついた。
なんでそこが爆炎の上がった場所だと分かったのか。
そんなのは一目瞭然だった。
「……………………………」
亮人の表情は無表情だったが、妖魔であるシャーリーは深刻そうな表情を浮かべていた。
二人の目の前にあるのは大きな空き地。それも焦げ臭い空き地だ。
亮人はここがどんな場所だか知っている。ここは亮人にとって、思い出が沢山詰まった場所だ。幼い頃に礼火と一緒にここに来ては、おままごとをして遊んで、ブランコに一緒に乗って笑って、そして一番心の奥で隠してあった記憶。
本当にまだ亮人が五歳くらいの時に両親と一度だけ遊んだ場所。
大切な場所。本当にまだ幼い頃、まだ亮人が両親を嫌う前に両親と一緒に笑顔で遊んだ場所だ。
「あぁ……無くなったんだ、俺の思い出……」
氷華たちと出会う直前、一度だけ懐かしむように足を踏み入れたが、亮人にとっては大事な思い出の場所。そして、それが消えていた。
亮人は何か大切なものを失ったことで心の昂りが違うものに変わっていた。
大切な物を失った悲しみは少しずつ、心の中で違うものへと変換されて行く。
「……………………………」
顎に力を入れ、歯が砕ける程に感情は荒れる。
そんな亮人の横にいるシャーリーは亮人の表情を見て、驚いた。
『間違いなく死ぬじゃないのっ!』
声を大にして九尾は叫び上げた。
なぜ九尾が驚いたのか、それは至極簡単なことだ。
遊具からは甲高い金属音が何回も鳴り響き、そして九尾はすぐさま身を守れる屋根のある遊具へと必死に駆け込んだ。
『死ぬかと思った……これで足止めは成功したわけね……クソッ』
さっきまでの余裕はどこへ行ったのか、九尾の表情は焦りと憤りが入り混じった表情になり、そんな中でも外からは金属音が連続して続いていた。九尾がいる遊具の屋根からも屋根が壊れるんじゃないかと思える程の轟音が鳴り響いて、九尾は耳を塞がないといけなくなる。
この遊具の中は絶対に安全とは言えないが、おそらく他の遊具なんかよりは安全と言い切れるかもしれない。壊れるんじゃないかと思うほどの音がしていても尚、壊れることがないからだ。
ほんの少しだけホッと息をついているが、こんな状況は予想もしていなかった。
『こんな外に居たら絶対に死んでたわね……私』
遊具の入り口から外を見れば、そこは白い死神がいるんじゃないかと思える光景だ。
空から降ってくるそれは金属で出来た遊具の形を歪ませ、木製の椅子なんかは見るも無残な姿へと変わっていた。
空から降ってくるそれ……それは。
『こんな大きな雹が降ってきたら誰だって死ぬわよ……』
大きさがテニスボールよりも少し大きい雹。それが空から勢いよく降ってくるのだ。その破壊力は天災の中でも一位二位を争うかもしれない。
重さにして五百グラムを超える雹は空から降ってくる途中で重力によって速度を上げて、破壊力を増す。そして、それは軟やわな家なら穴を簡単に開ける程の危険度を持っている。
『これが止むまで私があの子の所に行くのは無理ね……』
途中で殺すのを止めるんじゃなかったと、今頃になって後悔する九尾は溜息をつきながら入り口から雹が降り止むのを待つことしか出来なかった。
後悔先に立たず、その言葉が身に染みている九尾である。
そして、その間にも氷華は亮人が帰ってくるかもしれないと思って家へと帰っていたのであった。
『九尾が出てくるまで、恐らくは十分弱……その間に亮人を守れる万全の態勢にしておかないと……』
氷華は一部溶けていた窓に応急処置として氷を代用しておくと、すぐさま家のインターホンが鳴り響いた。
『もう帰ってきたのかしら……まあ、早いに越したことはないわね』
氷華は呟きながら玄関へと急いで駆けて行き、そしてドアを開いた。
『亮人、早かったじゃな……い』
氷華はそこで一瞬だが言葉を詰まらせた。何故ならそこには亮人より小さな子供がいたのだから。
「やぁ、雪女。君のご主人はどこにいるのか教えてくれないか?」
そして、その少年は雪女に途轍もない殺気を浴びせながら笑顔で佇んでいたのである。そして、その少年の横には……。
『さっきはよくもやってくれたわね……雪女……』
殺意が滲み出ている九尾が九本の尻尾に爆発でもするかのような炎を携えて少年の横に佇んでいたのだった。
『お兄ちゃん、あそこ……』
屋根の上を転々と飛び回っていたシャーリーが亮人を背中に乗せながら家の方角へと向かっていると、顔を家とは少し離れた場所を見ていた。
そして亮人も一緒になってその方角を見つめると、そこだけ天気が荒れていた。
『あそこにお姉ちゃんがいるかもしれない……』
シャーリーはそう口に漏らすと体の向きを変え、そして天気が荒れている場所へと向かい始めた。
「シャーリー、今からあそこに行くつもりなんだね……」
冷静な亮人はシャーリーの首に手を巻いて耳元で声に出した。亮人は今から危険な死地へと向かおうとしていると言うのに、何故だか心は冷静でありながら、昂たかぶっていた。
怖いはずなのにな……まったく怖くない……逆に楽しみにしてるって言えばいいのかな? なんだか、気分がいい。
シャーリーの背中では自分も知らないうちに笑顔を浮かべていた亮人。ただ、そんな亮人を背負っているシャーリーは依然と屋根を飛び続けている。
そんな矢先に天候が荒れていた場所は突然晴れ始めたのだ。
それもただ自然と晴れたわけじゃない。荒れていた中心部あたりから爆炎が荒れていた空を掻き消すかのように覆ったのだ。
『…………お姉ちゃん』
「氷華……」
亮人達は自然と氷華の事を口にしていた。もしからしたら、あそこに氷華がいたんじゃないか、そんな拭いきれない心配からか、シャーリーは飛ぶ速度を一気に速め、亮人は振り落されない様にシャーリーに思いっ切りしがみついたのだ。
それはもう一瞬だ。何物にも捉われない程の速度で屋根の上を転々と飛んで行くシャーリーは爆炎が上がっていた場所へと辿りついた。
なんでそこが爆炎の上がった場所だと分かったのか。
そんなのは一目瞭然だった。
「……………………………」
亮人の表情は無表情だったが、妖魔であるシャーリーは深刻そうな表情を浮かべていた。
二人の目の前にあるのは大きな空き地。それも焦げ臭い空き地だ。
亮人はここがどんな場所だか知っている。ここは亮人にとって、思い出が沢山詰まった場所だ。幼い頃に礼火と一緒にここに来ては、おままごとをして遊んで、ブランコに一緒に乗って笑って、そして一番心の奥で隠してあった記憶。
本当にまだ亮人が五歳くらいの時に両親と一度だけ遊んだ場所。
大切な場所。本当にまだ幼い頃、まだ亮人が両親を嫌う前に両親と一緒に笑顔で遊んだ場所だ。
「あぁ……無くなったんだ、俺の思い出……」
氷華たちと出会う直前、一度だけ懐かしむように足を踏み入れたが、亮人にとっては大事な思い出の場所。そして、それが消えていた。
亮人は何か大切なものを失ったことで心の昂りが違うものに変わっていた。
大切な物を失った悲しみは少しずつ、心の中で違うものへと変換されて行く。
「……………………………」
顎に力を入れ、歯が砕ける程に感情は荒れる。
そんな亮人の横にいるシャーリーは亮人の表情を見て、驚いた。
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