妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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襲撃者

襲撃者Ⅴ

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 亮人達が家へと戻ってくるまでの間、氷華は死に物狂いで九尾と攻防を繰り返していた。

『驚いたわ……私の炎がそんな氷で邪魔されるなんて』

『私の氷を甘く見てたらあんた……氷漬けになって死ぬわよ?』

 今は亮人の家ではなく、家の近くの公園だ。休日という事もあって、人も多いが場所が狭いと氷華は不利になる。
 氷華は広い場所であればある程、自分の力を発揮できる。現に空模様は変わり始め、空気は一気に下がり始めている。
 そんな天気の移り変わりに公園で遊んでいた子供や親たちは急いで家へと帰って行き、今の公園は氷華と九尾が相対するように中心で睨み合っていた。

『あんたの目的は何? ウェアウルフだったりするわけ?』

『ウェアウルフなんて、もうどうでもいいわよ。私の主人はそんなのよりも、ムカつく奴がいるから、私はそいつを殺すお手伝い』

 九尾は色が変わり始めた空を見つめれば一度だけ深く息を吸うと、

『そろそろ主人があなたたちの主人に会う頃かしら? あの子ったら、貴方達の主人がどうしてもムカつくみたいで殺したいって昨日から殺気が凄かったのよ?』

『亮人が狙いだったのね……ならっ!』

 氷華は一度手を振り上げれば、何か呪詛のようなものを口にし始める。それから数十秒と掛からずに空からは白く冷たいものが降ってくる。
 また、それは少しずつ勢いを増していき五分と経たないうちに公園を中心とした半径一キロ圏内は吹雪と化した。
 吹雪の中は暴風が巻き起こり、所々からは何かが壊れるかのような音まで聞こえてくる。

『雪女って天候も操れるの。あんたの主人はこの吹雪で倒れて貰わないといけないからね』

 右手に巨大な氷柱を持ち、そして左手は氷で出来た鉤爪を。

『私はここであんたを食い止める。あんたを亮人たちの所に行かせるわけには行かないっ!』

 そして、次の瞬間に氷華はこの吹雪の中を九尾に向かって走って行く。
 先に槍のように長い巨大な氷柱を九尾へと投げつけて時間を稼ぐ。でも、その稼げる時間と言っても、ほんの数秒だけ。だが、氷華にとってその数秒が大きなものになる。
 九尾は投げつけられた氷柱を何個もの青い炎で溶かしきると、続いて何個もの炎を氷華へと飛ばしてくる。

『私の炎はそんな氷に負けるわけがないわよ?』

 余裕を持っている九尾はそれだけ口にすると、身体を屈めて一気に氷華目がけて走り抜けてくる。その動きはまるでシャーリーのように俊敏で、氷華もその速さには驚いた。

『なんでこれくらいで驚いてるのかしら……あなたは』

 余裕からか、九尾は真剣な表情から一変して笑みが溢れてきた。ただ、その笑みは楽しそうな笑みではなく、瞳の奥に危険な物を抱えているような黒い笑みだ。

『まずは一撃目……』

 そう言った九尾は氷華へと突進するような形で全身を赤い炎に包ませる。
 そして、九尾はそのまま氷華へと突進してきた。
 ただ、氷華もただやられるわけにはいかない。少しでも九尾に傷を負わせる為に九尾が突進する前に大きな突起付の巨大な氷壁を自分の前へと作ることが出来た。
 そんな氷壁が出来たとしても、九尾は足を止めることがなくそのまま氷壁へと突進を続けて、そして九尾は氷壁へとぶつかる。
 氷壁の先端にある突起は一瞬にして溶かされたが、氷壁の大部分である分厚い氷は未だに溶かされることなく氷華の前に佇んでいる。

『意外と分厚いわね……これ。もう少し火力あげなきゃダメなのかしら?』

 ただ淡々と口にした九尾はその言葉通り、自分が纏っている赤い炎を轟々と燃え盛らせ、そして氷は一気に蒸発していく。

『―――――ッ!』

 自分の全力を注いで作った氷壁がみるみるうちに溶かされて行く様を氷華はただ見守ることしか出来ずにいた。

 本気で作った壁がこんな簡単に溶かされるなんて……九尾の方が上位種だったわけね。

 上位種、それが意味するのは妖魔たちの強さ。妖魔の中では強いものは上位種と位置付けられ、そして他の妖魔たちはそんな上位種の妖魔たちには攻撃を仕掛けない。ただ、上位種であろうと、上位種の中でも上には上がいる。
 氷華と九尾は互いに上位種であっても、九尾の方が位は高い。

『私も久しぶりに少しだけ本気になったけど、ウェアウルフと同じくらいね、あなたは』

 氷を溶かしきった九尾は一度立ち止まると、失望でもしたかのような表情で氷華の事を見つめてきた。

『本気でやればいつでも殺せそうだから、私はあの子の所に戻ろうかしら……』

 ただつまらなそうに口にした九尾は踵を返すなり、吹雪が吹き荒れている街中へと足を向けた。
 その行動を見た氷華は憤りを感じた。

 目の前に敵がいるのに背中を向けるなんて、嘗なめてくれるじゃないの……。

 額に青筋を浮かべる氷華はもう一度手を天高く振り翳かざすと、氷華の口からは、さっきよりも長い呪詛を口にしていた。

『天高く冴える雪の生命いのち。混在している赤き存在を姫巫女の為に潰したまえ……』

 その言葉は重くも軽くもなく、ただ祈るような心が籠っている言葉だ。
 それからと言うもの、空から降ってくる白く軽い雪は吹雪から変わり一度は降り止む。そして、それからもう一度何かが降り始める。

『九尾のあんたでも流石にこれはきついんじゃないかしら? 流石の私でも少しの間、ここから逃げさせてもらうくらいなんだから……』

 その言葉と同時に氷華は景色に溶け込むように公園から姿を消した。
 九尾は後ろから聞こえてきた言葉を聞き流す程度で歩いていたが、肩にチクリとした痛みが走ることで周りを見渡す。
 見渡したところで遊具以外何もないのだが、ただ一つだけこの公園にふさわしくないものがある。

『囲まれてたのね、私は……やるじゃない』

 公園を囲んでいたのは氷柱の壁。何十本と地面に突き刺さり九尾の行く手を遮っていた。
 そして、チクリと痛んだ肩の原因はすぐさま分かった。

『雹……ね』

 空から降ってくる鋭く尖った氷の結晶。雹が空から何粒と降って来ていたのだ。九尾の体のあちこちは雹によって傷つき、そして赤々とした血が微量だが流れてくる。
 ただ、小さな雹は尾の炎を使ってしまえば一瞬で溶けてしまうものだ。九尾は自分の尻尾を傘のように広げて公園の入り口を塞いでいる巨大な氷柱を溶かし始めた。

『すぐに痛い思いをするわよ……九尾』

 どこからともなく山びこのように響いてきた氷華の声は九尾の耳へと届き、そして九尾の尻尾からは神経を通して、刺されたような痛みが九尾を襲っていた。

『――ッ!』

 あまりの痛みに余裕に浸っていた九尾の表情は苦痛で歪んだ。
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