妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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襲撃者

襲撃者Ⅳ

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 亮人はそれが心配から来る怒りだっていう事は、なんとなく分かっている。礼火は意外にも自分の事を大切に思ってくれているって分かっていたから。だが、亮人はそんな言葉の前でも毅然とシャーリーの隣から立ち上がって、礼火がいる場所へと歩いて行く。

「俺は絶対に家族を一人にさせないし、させるつもりもない。俺は世界で一番家族が大切だと思ってるからな」

 真っ直ぐな気持ちを真っ直ぐな瞳で言い放つ。
 その姿は普段の料理が得意で母親のような優しさを持っている亮人ではなく、それは一人の男だった。
 そう、それはまるで家族を守る父親のような存在に見えた。

「だから、もう行かないと……」

 亮人はシャーリーに手を差し伸べると、シャーリーはその手に顎を一度置いて、亮人の横へと歩いて行く。
 そして、シャーリーの背中へと乗った亮人は次に礼火へと手を差し伸べ、

「先に家まで送るよ。途中に家があるんだし、それくらいなら一緒に乗ってもいいだろ?」

 強い信念を持っている亮人に差し伸べられた手を礼火はそっと自身の手を載せ、シャーリーの背中へともう一度乗る。

「シャーリー……氷華を一人にさせない為にも、俺達が一緒に居てやろう。俺たちはもう家族だ。絶対に離れちゃいけないんだ」

『家族……ね。お兄ちゃんの家族になれたことがここまで嬉しいなんて。シャーリーはもう死んでもいいかも』

 冗談交じりの言葉を口にしたシャーリーに亮人が「そういう事を口にするもんじゃない」と頭を優しくポンポンと叩いてから、シャーリーは速度を上げて山を下って行く。

『二人とも、速度上げるから私の体にちゃんと捕まっててっ!』

 シャーリーは道路へと降りれば亮人達に口添えし、二人はシャーリーの体を力強く抱き締める。
 そして、次の瞬間には音が無くなった。
 亮人はゆっくりと眼を開ければ、そこには物凄く綺麗な光景が広がっていた。朝だという事もあって、その綺麗な光景は半分以上も本来の姿を失っているが、それでも綺麗だと言える。

 まるで自分が光になったみたいだ……。

 百キロ以上は軽く出ているシャーリーの速度。そして、その背中に乗っている亮人たち二人の視界も途轍もない速度で流れていたのだ。
 コマーシャルなんかでも、夜の街を撮影してそれを高速再生したものがある。あれを最初見た時は本当に綺麗に思えた。だけど、それは朝であっても見える。
 光は糸を引くように残像を残し、そして自分はそんな残像よりも早く動く。そんなところを亮人達は見ていたのだ。

「…………綺麗」

 シャーリーの体に抱き着いている礼火も、その光景には感嘆の声を漏らしていた。
 こんな綺麗な景色を見られるのも、全部が全部シャーリーのおかげだ。
 シャーリーが亮人たちを背に乗せて道路を走らないと見られなかった。

『礼火の家ってどこら辺なの?』

 シャーリーは亮人の家へと近くなり始めると礼火を降ろす為に家の場所を窺うかがってくる。

「そのまま真っ直ぐに行って。礼火の家はここから五つ目の角を右に行ったところにある」

 亮人が答えれば、そこからより足を速めたシャーリーは角を曲がることはせずに、高く飛び上がり屋根の上を走り始める。屋根の上と上を何度も往復するように飛ぶシャーリーの背中で亮人達は振り落されないように力一杯、シャーリーの体に掴まるだけ。
 そして、一瞬の無重力を体験すると、

『ここでいいんだよね? お兄ちゃん』

 足を止めたシャーリーの顔が向けられている家。そこには奈星と書かれた一軒家がある。

「礼火、家に着いたから早く降りてくれ。これから俺たちは家に戻る」

 危険な目に遭わせないためにも礼火を家に置いて行く。そんな意を分かっているからか、礼火はシャーリーから無言で降りる。そして、そのまま振り返り亮人の唇を自分の唇で塞いだ。

「…………………………」

 今度は驚きもせず、ただ亮人は受け入れた。すべての事象を受け入れられる程の許容量を得る為に。

「亮人……死なないで……」

 頬を赤く染めながら亮人の事を見つめる礼火の瞳は少しだけ潤うるんでいた。
 それが涙だっていうことは亮人にだって分かっていて、

「大丈夫、俺が死ぬと思う?」

 と、力強く口にした。

「死にそうだから、こうやって言ってあげてるのが分からないかなぁ……」

「あはは、手厳しいなぁ……」

 意外にも亮人は礼火から信じられていなかった。
 そんなちょっとした事実が分かって細く微笑みを浮かべる亮人は最後に礼火へと、

「それじゃあ、行ってくるから」

 そう言い残して、シャーリーの体を強く抱きしめる。
 そして、それを合図と受け取ったシャーリーは大きく飛び、屋根の上を飛んで行く。
 そんな光景を見つめながら礼火は、

「絶対に死なないでよ……亮人。それに二人とも……」

 妖魔を嫌いとは思っていても、あの二人はどうしても嫌いにはなれない礼火は、胸の前で祈るように手を組んで曇り始めた空を見上げたのだった。
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