妖魔のCHILDREN〜孤独な少年は人外少女たちの子作りの為に言い寄られながら彼女らを守る〜

将星出流

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襲撃者

襲撃者Ⅱ

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 朝、礼火にビンタされたところがまだ痛むのだろう。手で押さえているからご飯に手をつけていない。

「礼火がシャーリーにビンタするから……」

 まるで母親が怒るように亮人は礼火にジト目を向ければ、

「私…………何かしたの?」

 小首を傾げながらご飯を箸で食べていた。

 まあ、礼火はわざとやったわけじゃないからこうなっちゃうのも仕方がないけど……女の子ならもう少し寝相をよくした方がいいんじゃないかな……将来的に。

 亮人は頭の中で未来の礼火を想像すると、残念な光景が目に浮かんでしまった。

「居た堪れないや……」

『お兄ちゃん……ご飯食べたいよ……』

「わかったよ、口開けて?」

 自然と茶碗を取って、その中にある温かい白いご飯をシャーリーの口元へと持って行くと、シャーリーはパクリと口に含みちゃんと十回以上噛んで飲み込み、もう一度口を開ける。
 亮人は手が掛かることだが、まぁいっか。と頭の中で解決させると、今度は焼き鮭をシャーリーの口元へと持って行き食べさせる。

『「…………………………ずるい」』

 食卓を挟んで向こう側。そこには箸を口に含みながらシャーリーと亮人を睨んでいる二人がいた。
 ただ、そんな二人に睨まれているシャーリーは、

『羨ましいでしょぉ~』

 二人を挑発するようなことを小声で口にしていた。その時は頬から手を放して。
 シャーリーは考えていた。いかに自分が亮人の横を取れるかを。そして、今日の朝考えたのが、この方法。
 痛いと礼火に叩かれた(本当に礼火に叩かれた)頬を擦りながら亮人の元へと近寄り、一緒にご飯を食べる。そして、痛い振り(本当に痛い)をしてご飯を食べさせてもらう。この幼稚でありそうで、意外にも効果がある作戦を亮人へと行ったのだ。
 二人のジトっとした視線を向けられているシャーリーは誇らしく、亮人はどうすればいいの? といった風に挙動不審になり、朝から何とも楽しそうな光景が亮人の家では広がっていた。

『ウェアウルフ……あんたにはもう用が無くなったらしいわよ?』


 ただ、そんな光景をぶち壊す光景が窓の外から襲ってきた。

『―――――――っ! お兄ちゃんっ、逃げてっ!』

「えっ…………」

 シャーリーが亮人へと声を掛けた時、その時には何かが窓を溶かして亮人の顔へと飛んで来ていた。

 それはメラメラと燃え上がる球体。何を原理で飛んで来ているのかが理解できないそれは、一直線に亮人の顔へと飛んでくる。ただ、その炎の球体は普通とは違っていた。

「――っ! 何で青いのっ!」

 そう、燃えている球体は全体が青い。それも純度の高い青色。普通の火力なんかよりも何十倍と熱を持った炎が亮人の元へと飛んで来ていたのだ。

『お姉ちゃんっ!』

『分かってるわよっ!』

 シャーリーは亮人へと飛びつき、氷華は亮人と炎の間に分厚い氷壁を作ることに全力を注ぎ込む。まだ朝七時といった朝に亮人の家へと攻撃を放った張本人は氷壁があって窺うことが出来ない。ただそいつが四足歩行をしていたというところは見えた。

『(噂をすればなんとやらとはよく言ったけど……本当に来るのは厄介ね……)』

 この状況での第一声を聞いた氷華はすぐにシャーリーを追っていた妖魔だっていうことは理解できた。ただ、もう用が無くなったという言葉の意味だけが理解できない。
 今は全力で亮人を守ることに尽力を尽くす。
 飛んできたのが一つだけだったから今のはなんとか防げた。が、今のが何発と飛んで来るようだったら、流石の氷華でもキツイ。
 そして、亮人と礼火を背中に乗せて外を全力で走っているシャーリーは息を切らしながら

『ごめんなさい』

 と何度も言って、なんだか遣る瀬無い。

「氷華を置いて来ちゃったけど大丈夫なのっ!?」

 こんな状況には当たり前の反応を見せる礼火と言えば、その顔は蒼白ではなく真っ赤に染め上がり怒っているようにも見える。ただ、そんな彼女の瞳を見た亮人は彼女が氷華のことを心配していることが分かって、心苦しくなる。

『ごめんね、シャーリーのせいでこんなことになっちゃって……シャーリーがあいつらを連れてきちゃったみたいだから……』

 亮人と礼火の二人を背負っていると言うのに、普通車よりも速い速度を出しているシャーリーは近くの山へと駆け登って行く。

『ここなら……少しぐらい、なら時間を稼げるかな』

 息をするのも辛そうなシャーリーは呼吸を整える為に少しだけ亮人達の周りを歩き、そして呼吸を整えようとする。

「シャーリー……さっきのがなんなのか、教えてくれるか?」

 呼吸を正常に戻したシャーリーに亮人は真剣な眼差しで見つめた。その表情はこれまでのような優しい物ではなく、険しい表情だ。
 それは怒っているようで、そうは見えない表情。ただ、そんな表情を浮かべていた亮人はこれからの事を考えようとしていた。

 シャーリーを追って来ていた妖魔……それが今、他の誰かを狙っている。

 突飛な話だが、氷華がさっき氷壁を作ってくれていなかったら多分、亮人自身は死んでいた。それだけは確実に言える。

『さっきの妖魔は九尾って……日本の妖怪だけど、たぶん妖魔。それで、シャーリーがアメリカにいる時に襲ってきた奴なの。私なんかよりもずっと強くて、多分だけど……お姉ちゃんよりも強いと思う……』

 カタゴトのように口にするシャーリーの額には汗がにじみ始め、それは頬を伝って土の地面へと落ちる。

「で、要するにどういう事なの? そもそも強いってどういう事?」

 現状が未だに理解できない亮人としては、本当に理解するために追求しないといけない。辛いとは分かっているけど、亮人はどうしても聞かないといけなかった。

『シャーリーたち妖魔は普通、慣れ合わないの……それはどうしてかって言えば、妖魔を見れる人を見つけたら普通なら殺し合いになるから……』

「…………………」

『でも、シャーリーとお姉ちゃんはお兄ちゃんみたいな優しい人の前で殺し合いなんかしたくないし、なんか一緒にいると楽しいからそんなことが起こらなかったの……』

「…………………………」

「亮人……危ないよっ、こんなの!」

『でも、さっきみたいに妖魔にもいろいろいるの……妖魔自体を獲物みたいにする妖魔とか、人を従える妖魔。そんな妖魔の中でも一番危ないのが……人に絶対服従の妖魔』

 少しずつ見えてくる真実と言葉。
 亮人はそれらを一つ一つ受け止めていく。ただ、一瞬だけ重くなる時もある。そんな時は、今日までの楽しい思い出を胸に抱いて堪える。

『あの妖魔は人に仕える妖魔。一番危ない奴……アメリカにいた時に追ってきたのもあの妖魔で逃げてる最中に人とすれ違えば、すぐに殺して、また追いかけて……来た』

 震え始めるシャーリーの言葉に亮人は言う言葉はなかった。でも、一つだけできることがあった。
 亮人の前でお座りの状態でいるシャーリーへと歩み寄り、横へと座れば、

「大丈夫だよ、俺がどうにかしてあげるから。絶対にシャーリー達を傷つけさせないから……な?」

 シャーリーの頭を亮人は抱き寄せて、優しく撫でる。不安を拭うように頭を優しく撫でていれば、そのうちシャーリーは嗚咽し始め、涙を流し始める。身体は金色の狼であろうと、心はまだ十四歳の子供だ。怖い記憶を思い出したのだ。
 だから思いっ切り泣かせてやらないといけない。

「亮人っ、私はさっきまで妖魔でも亮人の事をちゃんと考えてる二人なら一緒に居させてもいいかなって思ってたけど……さっきみたいなことがあったから一緒にいるのは反対だよっ!! 妖魔になんか関わってたら危ないよ、絶対っ!!」

 目に恐怖の色を浮かべた礼火が涙を瞳に溜めて力強く声にして言ってくるが、今の亮人にとってそれは何の意味も成さなかった。

「礼火……俺は二人を家族だって思ってるんだ。だから、途中で投げ出すようなことは絶対にしない。それに、俺を守ってくれた氷華は今も危ない目に遭ってるかも知れないんだ。だったら、俺は二人を守らないといけない……」

 亮人はシャーリーの頭を優しい笑顔で撫でながら口にした。だが、

「私たちは人は妖魔みたいな力はないんだよっ!? それなのに、あんな危ない妖魔に立ち向かうつもりなのっ!?」

 今度の礼火は怒声だった。
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