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プロローグ
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全ての物が眠り、闇が町を、雲一つない空からは月の光が静寂の町を包み込んでいた。
だが、そんな街中に二匹の生き物が攻防を繰り広げていた。
『いい加減に捕まりなさいっ!! じゃないと、本当に殺すわッ!!』
『いやっ、私はお兄ちゃんに会いに来たのッ! なのに、あんたらみたいな奴に掴まりたくないッ!!』
某ビルの屋上。地上から百メートルと高い場所に位置するビルの屋上で、一匹の金色の狼と九本の尾に火を携えている狐。
ただ、この二匹の攻防は一方的なものだ。
『殺されたくなかったら、早く捕まりなさいっ!!』
その言葉と同時に、屋上にいる二匹は炎に包まれた。だが、その中から早くも抜け出したのは、金色の狼だった。
『――――――ッ!!』
体からは体毛が焼け焦げたような異臭を放ちながら、そして野性を感じさせる顔からは苦悶の色を見せる。
『早くお兄ちゃんの所に行かないと……』
『――――――っ、逃がさないッ!!』
金色の狼は苦悶の色を見せながらも走り出そうと構えると、九尾はそれを阻止するように尾の炎を一つに束ね、火炎球として金色の狼へと解き放つ。
放たれた火炎球は地面をも溶かしながら、金色の狼へと急速に接近する。ドロドロに溶けた屋上のコンクリート。その光景が意味するのは、一度でも掠れば、その一部は消える。
金色の狼へと近づいた火炎球は、その場所を木端微塵に爆発させ、そして溶解させた。
『………………………………………………』
九尾は爆発を起こした場所へと視線を向ける。だが、そこにいるはずの金色の狼の姿そのものは、忽然と消え、残っているのは金色の狼の足跡。地面にクッキリと残った血だった。
『ハァ……ハァ……』
金色の狼は百メートルとあるビルの屋上から近くにあるビルの屋上へと一瞬で飛び移れば、九尾に見つからない様に息を潜めながら、屋上を這う。
身体の節々からボタボタと垂れる血。
それを横目で見つめた金色の狼は物陰に隠れて、地面へと伏せた。
『早くお兄ちゃんに会いたいよ……うぅっ』
まだ幼さがあどけなく残っている金色の狼は、少しの休憩を入れる。
金色の狼がいる場所は、さっきのビルよりは低い場所であるが、それでも日本の大都会である東京を一望することが出来た。
綺麗に光る町並みに一瞬だが、身体の痛みを忘れて見入っていれば、無意識のうちに、
『今から会いに行くからね……お兄ちゃん……』
と口にしていた。
身の安全を確保しきれていない金色の狼は地面を抉る程の強靭な力を持つ足で次々にビルの屋上へと飛び移って行く。途中、飛び移るには長すぎるところもあったが、長く強靭な顎でパイプへと咬みついて、壁を全速力で上る。
強靭な身体能力を持つ身体にはさっき受けた傷とは違った古い傷が見える。
また、屋上へと上り切った金色の狼。
この東京という大都会の某ビルの屋上。
そこには一匹の金色の毛皮を纏った狼が一人の人間を求めて大都会を一望する姿がある。
そして、その光を体に受ける金色の狼は一度、目的の人間の匂いを辿るために傷ついた体を軋ませながら大きく息を吸う。
『――――――――――ッ』
体に走る激痛を我慢しながら、微かに香る懐かしい匂い。
『お兄ちゃんじゃないと、私はダメだよ……』
弱気でありながらも、少しだけ覇気のある声。それを溢した金色の狼は夜の東京へとゆっくり歩を進める。
だが、それとは別に九尾は、
『ごめんなさい……また逃げられたわ』
「……気にしなくてもいい。ただ、こうも人が多い所に来られたのは厄介だな……」
東京タワーの展望台。
その声は、展望台の中から聞こえてくるのではなく、天井の上。
そこから落ちれば絶対に死ぬ場所で、九尾と一人の人間が話していた。
「まぁ、あいつは絶対に俺が貰う……絶対に、だ。俺は妖魔なんか認めない……」
憎しみを込めて口にした人間は、そのまま夜の東京を一望した。
だが、そんな街中に二匹の生き物が攻防を繰り広げていた。
『いい加減に捕まりなさいっ!! じゃないと、本当に殺すわッ!!』
『いやっ、私はお兄ちゃんに会いに来たのッ! なのに、あんたらみたいな奴に掴まりたくないッ!!』
某ビルの屋上。地上から百メートルと高い場所に位置するビルの屋上で、一匹の金色の狼と九本の尾に火を携えている狐。
ただ、この二匹の攻防は一方的なものだ。
『殺されたくなかったら、早く捕まりなさいっ!!』
その言葉と同時に、屋上にいる二匹は炎に包まれた。だが、その中から早くも抜け出したのは、金色の狼だった。
『――――――ッ!!』
体からは体毛が焼け焦げたような異臭を放ちながら、そして野性を感じさせる顔からは苦悶の色を見せる。
『早くお兄ちゃんの所に行かないと……』
『――――――っ、逃がさないッ!!』
金色の狼は苦悶の色を見せながらも走り出そうと構えると、九尾はそれを阻止するように尾の炎を一つに束ね、火炎球として金色の狼へと解き放つ。
放たれた火炎球は地面をも溶かしながら、金色の狼へと急速に接近する。ドロドロに溶けた屋上のコンクリート。その光景が意味するのは、一度でも掠れば、その一部は消える。
金色の狼へと近づいた火炎球は、その場所を木端微塵に爆発させ、そして溶解させた。
『………………………………………………』
九尾は爆発を起こした場所へと視線を向ける。だが、そこにいるはずの金色の狼の姿そのものは、忽然と消え、残っているのは金色の狼の足跡。地面にクッキリと残った血だった。
『ハァ……ハァ……』
金色の狼は百メートルとあるビルの屋上から近くにあるビルの屋上へと一瞬で飛び移れば、九尾に見つからない様に息を潜めながら、屋上を這う。
身体の節々からボタボタと垂れる血。
それを横目で見つめた金色の狼は物陰に隠れて、地面へと伏せた。
『早くお兄ちゃんに会いたいよ……うぅっ』
まだ幼さがあどけなく残っている金色の狼は、少しの休憩を入れる。
金色の狼がいる場所は、さっきのビルよりは低い場所であるが、それでも日本の大都会である東京を一望することが出来た。
綺麗に光る町並みに一瞬だが、身体の痛みを忘れて見入っていれば、無意識のうちに、
『今から会いに行くからね……お兄ちゃん……』
と口にしていた。
身の安全を確保しきれていない金色の狼は地面を抉る程の強靭な力を持つ足で次々にビルの屋上へと飛び移って行く。途中、飛び移るには長すぎるところもあったが、長く強靭な顎でパイプへと咬みついて、壁を全速力で上る。
強靭な身体能力を持つ身体にはさっき受けた傷とは違った古い傷が見える。
また、屋上へと上り切った金色の狼。
この東京という大都会の某ビルの屋上。
そこには一匹の金色の毛皮を纏った狼が一人の人間を求めて大都会を一望する姿がある。
そして、その光を体に受ける金色の狼は一度、目的の人間の匂いを辿るために傷ついた体を軋ませながら大きく息を吸う。
『――――――――――ッ』
体に走る激痛を我慢しながら、微かに香る懐かしい匂い。
『お兄ちゃんじゃないと、私はダメだよ……』
弱気でありながらも、少しだけ覇気のある声。それを溢した金色の狼は夜の東京へとゆっくり歩を進める。
だが、それとは別に九尾は、
『ごめんなさい……また逃げられたわ』
「……気にしなくてもいい。ただ、こうも人が多い所に来られたのは厄介だな……」
東京タワーの展望台。
その声は、展望台の中から聞こえてくるのではなく、天井の上。
そこから落ちれば絶対に死ぬ場所で、九尾と一人の人間が話していた。
「まぁ、あいつは絶対に俺が貰う……絶対に、だ。俺は妖魔なんか認めない……」
憎しみを込めて口にした人間は、そのまま夜の東京を一望した。
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