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新婚期

カフェで

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時間つぶしにマリィアンナは一番近くにある可愛らしいカフェへ入ることにした。
看板にはピンクの文字で『ゲーデカフェテリア』と書かれており、内装もレースやリボンで飾られていた。


アンデルの顔、ひきつってるわ。
男の人は入りにくいものね…ふふふっ


いたずら心を隠して疲れたからカフェで休憩をしましょうと誘い,店内へと入って行った。

「私は立っていますので」
アンデルやメイド達はかたくなに案内された個室で席につくのを断った。
「邸宅ならまだしもここはカフェよ。アルベルト様がいらっしゃる時ならまだしも…誰も前にいないのにわたくしだけお茶をするのは嫌だわ」
マリィアンナが不機嫌そうに言うと使用人は渋々席へと着いた。

ピンクのかわいいワンピースを着た若々しい店員が接客へと来た。

「えと…あの…お嬢様、今日のご気分は何でしょうか…!」
「気分?」
「えっと…」
年若い店員はもじもじしながら何か言おうとしていた。しかし、言葉が出てこないようだった。
「そうね…貴方のおススメは?」
「え…私の…おすすめ…」
「そう。わたくし、ほんのり甘いケーキと紅茶がいいわ。貴方がすすめるケーキをお願いしたいわ」
「えっと…では!リンゴのケーキなどどうでしょうか!」
「ではケーキと紅茶を4人分」
「ひゃい!かしゅこまりました!」

年若い店員は噛み倒し、顔を真っ赤にして個室から出て行った。
マリィアンナは微笑ましい店員に心が癒された。


マリィアンナはせっかくの『冒険』なのだから、布屋と家具屋に寄った後にどこかおススメの場所はないかメイドに聞いてみた。
するとメイドのティナは、近くの大公園の並木通りにある大きな木々のあいだから差し込む木漏れ日は綺麗だから行ってみてはどうかと助言をした。
マリィアンナはワクワクして大公園に行くのが楽しみになった頃、ドアを控えめにノックする音がした。
入室の許可を出すと、先ほどの若い店員が入ってきて慎重にケーキや紅茶をテーブルへと並べていく。

マリィアンナはびっくりしながらそれを見ていた。


なんて大きいケーキなの!こんな大きさだとは知らなかったわ…


ケーキはマリィアンナの想像していたケーキの2倍あった。


ヒュッと息を飲む音がしたので顔を上げると…アンデルは目を見開いて驚愕していた。
メイドの顔をチラッと見ると…ティナは顔色をほぼ変えなかったが、口角がピクピク動いており、心なしか嬉しそうに見えた。
テレズはアンデル程ではないが驚いていた。


「それでは…御用がありましたら…なんなりと!」
年若い店員はスッと個室から出て行った。


「すごい大きいわね…」
マリィアンナはびっくりして思わず言った。

そして優雅にフォークを入れ口へと運んだ。


味は悪くない!甘さ控えめで美味しいわ!


マリィアンナが手を付けて、使用人も続いて手を付けた。

ティナは嬉しそうに顔をうなずきながら食べていた。
テレズも目を伏せて味わって食べていた。
アンデルは覚悟を決めたようで眉をピクピクとさせながらも次々と口へと運んでいた。


この店のケーキはすべて大きいのかしら?次は気を付けなくては…


小食のマリィアンナはケーキをなんとか完食し、紅茶を飲みながらお腹をコッソリさすった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食後に人が言いあう声が聞こえた後、店長の中年男性がマリィアンナの下へ挨拶へと来た。
「お嬢様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。店長のゲーデでございます。私の作ったケーキはいかがでしたでしょうか!」
「わたくし既婚ですの。この度コルディ家に嫁ぎましたマリィアンナ・コルディと申しますの。このケーキ、貴方が作ったの?美味しかったわ」
「あぁ!領主様の御嫡男様の!それは知らずに!申し訳ございませんでした!」
「いいのよ。これから街へ出掛けたらここに寄ることもあるでしょう。これからよろしくね」
「はい!是非!何なりと!」
「先ほどの年若い店員も可愛いかったわ」
「店員…メリリですね!」
「メリリというの?」
「はい!あの子は父が早くに亡くなって母親は病気がちで…まだ10歳なんですが」
「そうなの…」
「未熟者でして…申し訳ありません!私が調理に忙しくホールがおろそかになり申し訳ございませんでした…」
ゲーデはうなだれて謝罪の言葉を口にした。

「いえ、気にしてないわ。一生懸命でわたくし癒されたわ」
「そう言っていただけると…うれしゅうございます!」
ゲーデは今にも泣きそうに答えた。
「そろそろわたくし達は行くわ。お代はこちらに」
「なんと!これほどの!」
「残りは店員で美味しいものでも食べるといいわ。忙しいとお昼も抜きそうな勢いだもの」
ふふっと笑ってマリィアンナは席を立った。

「ありがとうございます!若奥様!!」
店を出ようとしたとき、店先にいたメリリと目が合った。
メリリは目を見開き、顔を紅潮させて勢いよく頭を下げた。

一生懸命なメリリを見てマリィアンナは癒され微笑んだ。
その時、ふと視線を感じた。誰にも気づかれないようそっと周りをみるとメリリを見ている少女がいた。
マリィアンナは店を出て、ガラス越しにその少女を眺める。少女はトレーに乗った食器を持ちながらメリリを見ていた。
その目は、この数か月マリィアンナが見慣れた目をしていた。


あの目…わたくしは知っているわ…
嫉妬している目…


ようやく癒されたマリィアンナの心がほんの少しだけ、沈んでしまった。
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