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新婚期

失せ物

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マリィアンナは指で机をトントンと叩きながら思い出そうとした。


アルベルト様からもらった青い綺麗なしずくの形をしたネックレス…最後に身に着けたのは結婚式で…。
この部屋へ来てドレスへ着替えるとき、アクセサリーボックスに入れたのは覚えてるわ。
その後は…確かテレズが食事を持ってくる前に机の上にあった記憶があるわ。
でも…


少し悩みながらアクセサリーをしまってクローゼットの奥の方へ押し込み、ベルを鳴らしてメイドを呼んだ。
マリィアンナはドアをノックする音のすぐ後、やや食い気味で「入って」と入室許可を出した。
そしてメイドへ間髪入れずに
「すぐにドルトンを呼んで」
と支持を出した。

メイドは少し動揺しながらパタパタと退出し、少ししてドルトンが来た。
「若奥様いかがしましたか?」
「…」
「若奥様?」

「内密に男性を2人この部屋へすぐ呼んでほしいの。その机を動かせるような力がある人を連れてこの部屋へもう一度来なさい」
「その机…ですか?」
「えぇ」

不思議そうにしながらもドルトンは退出し、しばらくして若い男性を2人連れて再び入室した。

「この机の中身をまず全部出して頂戴。引き出しも残らず」
そうマリィアンナが言うと、男性達は次々と引き出しごと引き抜いてソファーテーブルへと並べて行った。

「引き出しの奥に何か詰まってないか確認して頂戴」
「…何も詰まってません」
1人が奥をのぞき込み、確認した。

「次は鏡台を動かして頂戴」
「は、はい」
鏡台を倒さないように慎重に移動させていく。

「引き出しも同じように確認して」
「はい…えっと…何も詰まってません」
高価な香水などが入ってる引き出しを震えながら使用人は持ちあげていた。

「次はこの机を動かして」
2人がかりで少しずつ机をずらしていく。

ずらし終わると、さらに
「うしろや窓際に物が落ちてないか確認して頂戴」

2人は体を必死に挟み込みながら確認した。
「若奥様、何もありません」
「机の脚の下にも何もない?」
「えぇ…ありません」
2人の男性が四つん這いになりながらも隅々まで見た。


マリィアンナは目を閉じて片手を額にあて、ため息をついた。
「…そう…。残念…ね。もういいわ。元に戻して頂戴」

2人は不思議そうな顔をしてお互いを見て、机を元の状態へと戻して退出して行った。

「若奥様、何かあったんでしょうか?」
ドルトンが手のひらを前で組みキュッと握りしめながら言った。

「…えぇ…ちょっとね。このことは内密にね。あの2人にも言い含めておいて頂戴」
「…かしこまりました」

ドルトンが退出した後、マリィアンナは目を細めてアクセサリーボックスを眺めた。


は信頼に値しない人間だわ。


その顔は静かに怒りに満ちていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
窓の外は暗くなり、ドアをノックする音がして入室許可が出る前のメイドが入室してきた。
メイドのトルノだった。
「お食事をお持ちしました」
「…」

マリィアンナは無言でソファーに座ったまま、トルノが皿を並べて行くにを真顔で見つめていた。

「若奥様…?」
「…」
話しかけられてもマリィアンナは無言を貫いた。

トルノは訝しげにマリィアンナを見ながらおずおずと部屋を退出していった。

食事の味も楽しむことなく、マリィアンナは無感情に胃袋へ収めていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜少し遅くに、ドアがノックされた。
マリィアンナがベッドから起き上がり「どうぞ」と許可を出すとアルベルトが部屋へ入ってきた。

マリィアンナは内心ほくそ笑んだ。


思っていた通りね。きっと来る予定はなかったんでしょうけど。
目的を作れば必ず来ると思ったわ。


「あら、お仕事お疲れ様でした。」
「あぁ」
「2日ぶり、ですわね」
「そう…だったな」
アルベルトは少しバツが悪そうに顔を背けた。
「お忙しいようで、体を壊してしまうのではないかと心配でしたわ」
「…」

マリィアンナはチクリとアルベルトに嫌味を言った。
通常、婚姻してすぐは『蜜月期間』があり、2週間程は仕事を休んで寝室で共に過ごす習慣があった。

アルベルトは頭をきながらマリィアンナに背を向けるようにベッドに腰かけた。
「…仕事が急に立て込んでしまってな」
「ふふ、いいんですの。こうして来てくださったのですから。さあ、お休みになってくださいな」

マリィアンナは、ポンと枕を軽くたたいてベッドへ入るよう促した。
するとアルベルトがクルッとマリィアンナに向き合い
「今日はどのように過ごしたのだ?」
と質問してきた。その顔は少し険しい表情がにじみ出ていた。

「…一日中、この部屋で過ごしましたわ」
微笑みながらマリィアンナが答えると、さらに
「そうか…男をこの部屋へ招いたのではないか?」
アルベルトが肩をガシッとつかみながら言い寄ってきた。
「…なぜですの?」

「プティが見たと言っていたぞ」
「…プティというのはメイドですか?」
「とにかくどうなんだ?君は私の妻なのだぞ。まだ日が浅いとはいえー」

眉間に皺をマリィアンナから視線をはずして忌々しそうに言っているアルベルトを遮り、マリィアンナは
「明日の夜、こちらにいらしていただければお話致しますわ」
と、にっこりと笑った。
「…」
アルベルトは、いぶかしげにマリィアンナを見つめた。

話は終わったと安堵あんどしていたマリィアンナの手が急に握られた。
びっくりするマリィアンナをよそに、アルベルトは顔を近づけてキスをしようとしてきた。
よけるわけにもいかず、マリィアンナはアルベルトの唇を大人しく受け入れた。
リップ音が響き、マリィアンナがぼんやりしているとトンと体を押されベッドに横たえられた。
気づいたころにはマリィアンナの上にはアルベルトが覆いかぶさっていた。


え…するの?確かにしないと世継ぎはできないけど…
機嫌が悪そうだった流れで…急に…?


マリィアンナは想定外のことで動揺していたが、アルベルトは初夜よりやや乱暴にマリィアンナを抱いた。
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