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「天使の髪飾り」

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 結局2人共、何も買わずに本屋を後にした。

「良かったのですか、MORION∴Ψさん?」

心配そうな眼差しを向けるARISA໒꒱に対し、

「大丈夫だ、何か参考になればと
思って見に来ただけだからな。」

と彼女の気遣いを無にしたくない想いで答えた。
そして俺は、ふと思い付いた事をそのままARISA໒꒱に
打ち明けた。

「なぁ、ARISA໒꒱…まだ時間あるか…?」

「えっ、どうしたんですか?」

少し戸惑った様子の彼女が、俺の次の言葉を待つ。

「もし良ければなんだが、このまま俺の行きつけの
天然石の店に行かないか…?」

今の俺には精一杯の言葉を吐き出し、彼女の答えを
待つ。ほんの一瞬の沈黙がとても長く感じられた…
いくら何でも急過ぎたかと後悔したその時、

「良いんですか、是非(笑)!」

と彼女のキラキラ輝く瞳を見て、俺は内心安堵した。

「良かった、ちょっと作ってみたいモノが
思い浮かんでさ。」

そう話す俺の言葉を遮る様に、

「さっ、早く行きましょ(笑)」

と弾む声で意気揚々と話す笑顔のARISA໒꒱の姿が
そこにはあった。

「ところで、何を作るんです…?」

天然石の店に向かいながら、ARISA໒꒱が
問い掛けた。

「あぁ、かんざしを一本な。」

ARISA໒꒱は目を皿の様に丸くして

「えっ、かんざしですか!?すごーい(笑)!」

と感嘆の声を上げた。

「そんなに驚かなくても…(笑)」

彼女の大袈裟にも見えるリアクションに
少し笑いを堪えていると、

「笑わないで下さいよ、もぅ…(照)!」

と肩をバンバン叩いて来た。

「あっ、ゴメンなさい…」

やり過ぎたかと申し訳なさそうに謝る彼女に
俺は心配するなとの想いを込め、
笑みを浮かべ思わず頭を撫でていた。

「は、恥ずかしいです…(照)」

顔を赤らめる彼女に

「あぁ、悪い…」

とその手を退ける。

「い、いえ…(照)」

頬を赤らめながら照れるARISA໒꒱を
今にも抱き締めたい気持ちを必死に抑えながら、
天然石の店に歩を進める。

「着いたぞ、ここだ。」

 ARISA໒꒱の目の前に現れたのは木目を基調とした
デザインのこじんまりとした建物。

「可愛らしいですね、物語に出てくるお家
みたいです!」

その声のトーンから、ARISA໒꒱が
胸を躍らせウキウキしているのは明らかだった。

店内に入ると、彼女の目は一層光り輝いた。

そこには色とりどりの様々な天然石がカラー毎に
所狭しと並べられ、ガラスのショーケースには原石や
ブレスレットが存在感を放っていた。

「スゴい綺麗です(笑)!」

嬉しそうに喜ぶ彼女を尻目に、3人の女性スタッフが
俺をイジリ倒してくる…

「おっ、今日は女連れ!?」

「どうする、記念にお揃いの
オリジナルブレスレット作る?
質の良いホタル玉あるよ(笑)?」

「よし、馴れ初め聞かせろ、飲み行くぞ!」

それぞれのスタッフに俺がツッコミを入れるのを
ARISA໒꒱は優しく見守っていた。

「あぁ、悪い(笑)早速なんだけど、ARISA໒꒱に
選んで欲しい物があってさ。」

「えっ、私に…?」

驚く彼女に、俺は説明を始めた。

「かんざしに使う天然石を選んで欲しいんだ。
天然石の種類は決めてあるから、ARISA໒꒱が
これって思える物を選んで欲しい。」

「そんな、私が選んで良いんですか…!?」

驚き、申し訳なさそうに話す彼女に

「今回はARISA໒꒱に選んで欲しいんだ。
ARISA໒꒱の選んだ物で、作ってみたい…」

と説得した。すると彼女は意を決した様に

「分かりました、頑張ります!」

と答えてくれた。

俺は早速、ハート型のルチルクォーツ、
天使の羽根の形をした水晶とローズクォーツ、
丸い形のエンジェライトを目の前に並べ、
各種類を一つずつARISA໒꒱に選んで貰った。

「うーん…」

途中で何度も見比べて頭を抱えていたが、
ようやく霧が晴れたのか、

「決まりました(笑)!」

と笑顔でこちらを向いた。

会計を済ませ、店を出ると辺りは
すっかり暗くなっていた。

「もう、帰ろうか…?」

伺う様な眼差しの俺に対し、
ARISA໒꒱も同じ考えだった様で、

「そうですね…(笑)」

と苦笑いしながら答えた。

「すっかり暗くなりましたね…(笑)」

「悪い…」

申し訳なさそうに謝る俺に対し突然ARISA໒꒱が
叫んだ。

「あっ!夕飯どうしましょ…?」

「あっ、楽し過ぎて忘れてた…(笑)」

互いに顔を見合せ、気付けば自然と笑い合っていた。

「どうする、夕飯も外食にする程、金銭的余裕は
ないだろ…?」

俺が悩んでいるとARISA໒꒱が恐る恐る口を開いた…

「あの…!MORION∴Ψさんの部屋で食べませんか…?」

思わぬ申し出に俺は高まる心を抑え込むのに
必死だった…

「で、でも食材はどうする…?
ここからじゃ市場は遠いし…」

「大丈夫ですよ、私の部屋にもありますし、
食堂のも使えます(笑)」

そう言って微笑むARISA໒꒱の笑顔は
瞬く間に俺の不安を払拭した。

 屋敷に戻ると、食堂やARISA໒꒱の部屋にあった食材を
掻き集めて料理を始めた。

「夕飯、何にするんですか…?」

不思議そうに尋ねるARISA໒꒱に対し、俺は

「今日は雑穀米とローストチキンのプレートに
しようと思う。」

と告げた。途端に彼女は

「えっ、そんなオシャレなの作れるんですか!?」

と驚いていた。何度見ても彼女の驚く顔は
可愛くて見飽きない。

「何だよ、意外か…?」

「スゴく意外です…って失礼ですね、すみません…」

平謝りする彼女に

「じゃあお詫びに、手伝ってくれよ…?」

と、本心をひた隠す様に頼んだ。

「分かりました、何すれば良いですか(笑)?」

素直に受け入れてくれる彼女に手伝わせるのが
少し忍びないのだが、

「それじゃあプレートに盛るクルトンサラダと
目玉焼きを2つ焼いてくれ。」

とお願いした。すると彼女は元気よく

「はい(笑)!」

と返事をし、サラダに取り掛かった。

「しかしMORION∴Ψさん、よく雑穀米なんて
持ってましたね…?」

と質問してきたARISA໒꒱に対し、

「あぁ、前に旅の途中で助けた爺さんがくれたんだ。」

と俺は昔話を始めた。

「助けた…?その方も悪魔なのですか?」

「いや、その爺さんは天使だったな。」

「天使を悪魔が助けるなんて、珍しい…」

物珍しそうにARISA໒꒱は話に聞き入っていた。

「まぁそうかもな。今でこそ天使と悪魔は共生関係に
あるが、その意義を理解せずに天使に乱暴をする悪魔も
未だに居てな、そいつらから助けた時にさ…」

「そうなんですね、やっぱりMORION∴Ψさんは
優しいです(笑)!」

「ふふっ、そうか…?流石に米だから最初は俺も
断ったが、その爺さんがしつこくてな…
若いモンこそ沢山食べて、力付けろ!ってな(笑)」

「そうなんですね、それだけ感謝してる
って事ですよ(笑)」

「なら良いが…(笑)」

「はい(笑)!」

話に夢中になっていると、あっという間に雑穀米が
炊きあがり、チキンも程良く焼けてきた。

「ARISA໒꒱、目玉焼きとサラダはどうだ?」

「大丈夫ですよ(笑)」

クルトンサラダを添え、ローストチキンに目玉焼きを
被せ、ドーム状に雑穀米を盛り付けた。

夕食の用意が整い、それをカートに乗せて
俺の部屋へと運び、テーブルへと並べた。

「それじゃあ、頂きます。」

ARISA໒꒱は料理を口に運び、

「美味しい~(笑)」

と満面の笑みで楽しんでいた。

俺も一口。

「ほう、この雑穀米美味いな。様々な穀物の
豊かな風味が互いを干渉する事無く、
肉汁溢れ塩胡椒の効いたローストチキンや
白身と黄身のバランスが絶妙な目玉焼き、
クルトンのカリカリ食感にシーザードレッシングの
クセある風味とベビーリーフ、レタスの
シャキシャキ食感に寄り添い演出してくれる…」

と気付いたら語っていた…

それを見たARISA໒꒱は大爆笑…

「そんなに笑うなよ、恥ずかしい…(照)」

「だって急に真面目な顔して語るんですもん(笑)」

恥ずかしそうにうつ向く俺に、ARISA໒꒱は
慰める様に

「大丈夫ですよ(笑)」

と励ましていたが、目の奥は笑っていた。

食後、並んで洗い物をしていると
それまで晴れていた空に次第に暗雲がたちこめ、
突如雷鳴が轟いた…

「キャ!」

どうやらARISA໒꒱は雷が苦手らしく、その場に
しゃがみ込んだ…

「おいおい、大丈夫か…?」

そう声掛けた俺に対し、ARISA໒꒱は

「大丈夫です。」

と答えたが、その笑顔は引きつっている。

「雷、苦手なのか…?」

「はい…」

地獄にて育った悪魔である俺にとっては
聴き慣れた音だが、
天上で育った天使であるARISA໒꒱にとっては
聴き慣れない、恐怖の音の様だ…

「あ、あの…一つお願いがあります…」

突然の申し出だ、一体何だろうか…?

「もし良かったら、今夜MORION∴Ψさんの部屋に
泊めて貰えませんか…?
雷鳴る中で一人寝るのは怖いです…」

まさかの申し出に少し躊躇った、
何故姉の様に慕うROSE໒꒱ではなく
出逢って間もない俺にそんな事を頼むのか…
確認も兼ねて、質問を投げ掛けた。

「それなら、俺よりもROSE໒꒱が
良いんじゃないか…?」

恐る恐る問い掛けた俺に対し、
彼女から返ってきた答えは

「ROSE໒꒱姉さんにはいつも御迷惑掛けてますし…
それに…MORION∴Ψさんが、良いんです…」

突然舞い降りた幸運に内心戸惑いながらも
小さくガッツポーズ。
だがARISA໒꒱が俺を好きだという保証は
何処にも無いのだ、この想いが知られて彼女との
関係が崩れるのも怖かった…
心境が顔に出ていたのだろう、ARISA໒꒱が

「あの、もし御迷惑なら…」

と申し訳なさそうに聞いてきたが、

「大丈夫だ、俺で良ければ歓迎だ。」

声が上擦っていないか心配したが、彼女の
ホッとした様子から察するに大丈夫だろう。

「本当ですか!?有難う御座います(笑)」

ARISA໒꒱はつい先程まで雷にビクついていたとは
思えない程の明るい笑顔を俺に向けてきた。

「じゃ、残りは俺がやっとくから、
先に風呂入ってきて良いぞ。」

館に風呂は一つしかないので、皆それぞれ
タイミングを見ながら入っているのだ。

ARISA໒꒱が入浴している間、俺は天然石店で
買った天然石を使って作業を始めた…

ARISA໒꒱が入浴中、浴室のドアに映る人影。

「おや、誰か入ってるの…?」

声の主はパスタ店で別れたROSE໒꒱だ。

「あっ、ROSE໒꒱姉さん。」

「ARISA໒꒱、帰ってたのかい…(笑)
あの男に何も変な事されなかった…?」

「疑い過ぎですよ、MORION∴Ψさんは
とてもお優しい方ですよ…?」

「そっか…あっ、今夜は雷スゴいけど大丈夫…?
ARISA໒꒱苦手だろ…?」

「これ位なら大丈夫ですよ…(笑)」

この時のARISA໒꒱は、動揺を悟られない様に
するので精一杯だっただろう…

「なら良いんだけど、無理ならすぐに飛び込んで来て
良いからね…?」

そう言うとROSE໒꒱は脱衣場を後にした。

「ふぅ…ROSE໒꒱姉さんに初めて嘘を
ついてしまいました…」

心の中でARISA໒꒱はそう呟いた…

ROSE໒꒱に気付かれない様にMORION∴Ψの部屋に
戻ると、MORION∴Ψは窓際に座って雷雨の空を
眺めていた…

「すみません、お風呂お先に頂きました…(照)」

「あぁ、おかえり(笑)」

そういうとMORION∴ΨはARISA໒꒱に近付いて行き、
そっと頭を撫でた…

「な、何ですか…!?」

戸惑うARISA໒꒱が頭に手をやると、
そこには一本のかんざし、そしてそれには
ARISA໒꒱の選んだ天然石があしらわれていた…

「えっ、これって…!?」

「今日の御礼だ…」

「そ、そんな…頂けませんよ…」

慌てて取ろうとするARISA໒꒱の手を止め、
MORION∴Ψは続けた…

「良いんだ、俺がARISA໒꒱に渡したいんだ。
受け取って欲しい…」

ARISA໒꒱はその想いを受け止める様に、
外したそのかんざしを胸の中に
そっと包み仕舞い込んだ…

「有難う御座います、大切にします…」

そしてそのかんざしを傍にあった一輪挿しの花瓶に
そっと差した…



「じゃあ、風呂行ってくる…」

そう言うとMORION∴Ψは部屋を出て、
浴室へ向かった…

「あっ、はい、いってらっしゃい。」

その姿をARISA໒꒱は優しく見守っていた…

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