蒼月に舞う六花の恋

彩女莉瑠

文字の大きさ
上 下
1 / 4

一、村のしきたり、生贄

しおりを挟む
 良く晴れた日の昼下がり。この日は日差しが温かく、毎日の寒さも幾分か和らいでいた。世の中は新政府の誕生だの、反政府軍だの、何かと物騒ではあったが、このやまあいの村ではそんな喧騒は届かず、のどかな田園風景が広がっていた。

 さて、そんな穏やかな村で育った宗助は村いちばんのやさおとことして有名だった。外見はもちろんのこと、内面も穏やかで優しく、子供たちから好かれる良き兄のような存在だった。

 そう、村の子供たちにとっては、だ。

 大人たちは宗助のことを腫れ物として扱っていた。幼い頃に流行病で両親を失っていた宗助は、村人総出で育てて貰っていたのだが幼い頃から病弱で、良く風邪を引いては寝込んでいた。
 よわい十六を超えた今でも、一日の大半を床の間で過ごすことが多く、体調が良い場合も庭先までしか出歩くことを許されなかった。村の貴重な男手とはならない宗助だったが、それでもここまで大事に育てて貰ったことには、訳があった。

「雪女?」

 その日、宗助の出た庭先に子供たちが集まり、村の言い伝えを宗助から聞いていた。今日のお題は『雪女』である。
 この村には昔から、雪女伝説が言い伝えられていた。

「蒼い月に狂った雪女はね、この村に恐ろしい吹雪をもたらし、多くの人を凍え死なせるんだよ」
「え……?」

 宗助の優しい声音で語られる壮絶な内容に、子供たちは絶句する。

「でも大丈夫。今度、蒼い月が昇った時は、僕が雪女とお話しして、正気に戻してあげるからね」

 宗助はそう言うとにっこりと微笑む。子供たちはその笑顔に安心したようにその表情を明るくさせるのだった。

 そう、この村にある雪女伝説には続きがあるのだ。

 蒼い月が昇ると、雪女が狂い、正気を失う。それは宗助が子供たちに語った通りなのだが、その正気を失った雪女を元に戻すために村から一人、男を生贄として捧げることになっているのだ。
 この生贄役が、宗助である。
 病弱で畑仕事が満足にできない宗助を村人が大事に育てたのには、次に蒼い月が昇る時の生贄として、宗助を捧げるためだったのだ。

 幼い頃からそう言う使命があることを言い渡されていた宗助は、何の疑問を抱くことなくこの年まで生きていたのだった。
 そして穏やかだった昼間とは一変し、その日の夜、とうとう夜空に蒼い月が姿を現すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...