あの花の咲く頃に

彩女莉瑠

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再会

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 それは突然起きた。

『僕だけど……』

「いっちゃん?」

 本当に唐突に、樹から電話がきた。結唯は驚きの声を隠せずに電話に出る。言いたいことは山ほどあった。しかし久々に聞いた樹の声は変わらず穏やかで、安心感を与えてくれる。
 気づけば溢れる涙を結唯は抑えることが出来なかった。

『完成したんだ。新薬』

「え……?」

『結唯ちゃんを治す、新薬』

 どうしてそれを?それよりも新薬とは?
 結唯は溢れる言葉を口にすることが出来なかった。

『明日、この前の橋の上で会いたい』

「うん、うん……」

 涙で嗚咽が出てくる結唯に断る理由はなかった。



 翌日。
 4年前に別れたあの橋の上に結唯は来ていた。
 相変わらず4年前と変わらない夕日が山の端を照らしていた。遠く電車の音が聞こえてくる。川のせせらぎも変わらない。
 変わったことと言えば、川辺に群生していたコスモス畑が満開になっていることだろうか。
 初秋の橋の上から見るコスモス畑が結唯は好きだった。

「待たせた、かな……?」

 橋の上からコスモス畑を眺めていた結唯の背中に懐かしい声が降ってくる。ゆっくりと振り向いた結唯の視界には、4年前と変わらずボサボサ頭の樹の姿。

「いっちゃん……」

 大きく目を見開いた結唯に、樹はにっこりと微笑んだ。それだけで結唯の胸はいっぱいになる。

「もう、もう!」

 結唯は溢れる涙を堪えることもせず、樹の胸の中へと飛び込んだ。そしてぽかぽかと樹の胸を叩く。

「ごめんね、結唯ちゃん……」

 少し困ったような声を出す樹だったが、そのままぎゅっと結唯を抱きしめる。それだけで胸がいっぱいになった結唯は、今度は樹を力いっぱい抱きしめ返すのだった。
 優しい初秋の夕日が2人を照らす。



 樹は結唯が落ち着くのを待ち、ゆっくりと話しだした。
 自分が予知夢を見てしまったこと。それによって結唯の命が危ないと知ったこと。しかしどうしても結唯を助けたいと願ったこと。願うだけではなく、行動に移したこと。

「それで、結唯ちゃんに寂しい思いをさせてしまったことは、本当に申し訳ないと思ってるよ」

 結唯は静かに樹の言葉を聞いていた。あれから4年、樹も立派な研究者になったのだ。なんだか感慨深い。

「こんな僕だけど、結唯ちゃん、結婚しよう?」
「えっ?」

 突然の告白に、結唯は目を白黒させる。
 本当に、この年下の彼氏は自分を振り回してくれる。しかし、そんな彼を嫌だとは思わなかった。

「駄目、かな…?」

 不安そうな表情の樹に、結唯はゆっくりと微笑む。
 そしてゆっくりと樹の唇にキスを落とした。

「結婚、しよう」

 にっこりと微笑んで、結唯はそう言った。
 


 この先も、ずっと2人で幸せを築いていこう。
 樹と一緒なら、大丈夫。



 結唯はそう確信するのだった。



 優しい夕日はとっくに沈み、大きな満月が2人を照らしていた。
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