50 / 51
第八音
第八音①
しおりを挟む
地元へと戻った『ルナティック・ガールズ』の三人は夏休みの課題に追われることとなった。しかしその合間にも楽器を持ちだし、スタジオ練習も行いながらバンド活動に力を抜くことはなかった。
いつの間にか梅雨は明け、夏本番のセミの鳴き声と入道雲の下でこの日も鈴は、ギターを担ぎながらスタジオへ向かう。今日はスタジオ練習の後、アップロードされた自分たちのガールズバンドコンテストでの演奏を観ることになっていた。
「おはよう、鈴」
「おはよう、カノン、琴音」
「鈴ちゃん、おはよう」
夏休みと言うこともあり、鈴たちは午前中にスタジオを予約していた。朝からじわじわと暑いが、スタジオの中は冷房が効いていて心地よい。集まった三人はいつものように音を合わせていく。練習時間はきっかり一時間だ。
そうして終わったスタジオ練習の後、すっかり日が高くなった町の中、三人はハンバーガーショップのチェーン店へと入っていった。飲み物やハンバーガーを注文し、席に着く。
「じゃあ、アドレスを送ります!」
鈴は席に着いた後にスマートフォンを取り出しそう言うと、『ルナティック・ガールズ』のメッセージにガールズバンドコンテストの時の様子が映っているアドレスを貼り付けた。それを受け取ったカノンと琴音は、それぞれ鞄の中からイヤホンとスマートフォンを取り出すと、ドキドキした様子でそのアドレスを開く。
「……」
「……」
二人は真剣な表情で自分たちの動画を見入っていた。こうしてデータとして自分たちのライブを観るのは春先の公開ライブ以来だった。
「どう?」
見終わった頃合いに鈴が声をかけてきた。
「もっとお客さんの方を見てもいいかも」
「そうだね、私たちだけで楽しんでるって感じした」
カノンの言葉に琴音も言う。鈴もそれは思ったことではあった。ついでに、と鈴は今回大賞を取ったバンドの動画も送る。その動画を見終わってから、
「やっぱり、お客さんへの意識が違うのかなぁ?」
「演奏技術も私たちより高いのかもしれないけど、見せ方の違いだとしたら、盛り上げ方だよね」
琴音の言葉に鈴も言う。
自分たちの次の課題が見つかったことに、『ルナティック・ガールズ』の三人は気持ちを新たにするのだった。
そうしていると、カノンのスマートフォンが鳴った。
「ごめん」
カノンはそう言うと、スマートフォンの呼び出しに応える。
「あ、大和? 何? ……、あ」
『ひどいっ!』
「ゴメンって。うん、うん、分かった。じゃあね」
どうやら通話の相手は大和だったようだ。大和の声はよく通る。詳細までは聞こえなかったが、大和が何やら『酷い』と言った言葉だけは鈴たちにも漏れ聞こえていた。
「ねぇ、鈴、琴音」
「何?」
「明日、何の日か分かる?」
「明日……?」
急に話を振られた二人は考える。しかし、
「思い当たる節はないなぁ……」
「今日なら、広島の原爆の日でしょ?」
「え? そうなの?」
琴音の言葉に鈴が疑問を返した。そうして、んー、んーと唸る二人に、カノンが正解を言う。
「明日は、浴衣で花火大会の日です」
「あー!」
その言葉に、鈴と琴音は花火大会のことをすっかり忘れていたことに気付いた。そう言えば、大会前にそんな話をしていたな、と思っていると、
「わざわざ、大和がそのことを言うためだけに、連絡してきたみたい」
「大和くん、楽しみにしてたみたいだもんね」
呆れるカノンの言葉に琴音がクスクスと笑う。
「そんなわけで、明日は駅に夕方六時集合って」
「全員浴衣って、楽しみだね」
カノンと琴音の言葉に、鈴もうんうんと頷くのだった。
翌日の夕方。
鈴は母親に手伝ってもらいながら浴衣の着付けを行っていた。セミロングの色素の薄い髪は一つにまとめあげ、メイクもしっかりとしている。外は快晴で、この様子なら花火大会は予定通り開催されることだろう。
「じゃあ、いってきまーす!」
鈴は家を出る。夕暮れの迫った空の下、セミの大合唱が響いていた。
(んー! 夏だなぁ!)
鈴はそんなことを思いながら、待ち合わせの駅までゆっくりと歩いて行くのだった。
花火大会の会場近くになる駅は、多くの人でごった返していた。しかし、
「あ、和真くん!」
背の高い和真は待ち合わせの場所でも目立っており、鈴はすぐに見付けることができたのだった。
「よう」
鈴の声に和真が振り返る。その傍には人混みに紛れて大和とカノン、琴音の姿もあった。どうやら鈴が最後だったようだ。
「すっごい人だな!」
大和の言葉に、黒地に朝顔柄の浴衣を着ているカノンがイヤそうに顔を歪める。
「人混み、嫌い……」
そう呟くカノンの手を大和はぎゅっと握る。
「これで、はぐれないだろ!」
「ちょっ! バカ!」
カノンが焦っている様子に、白地に金魚柄の浴衣を着ている琴音が、
「ごちそうさまです」
そう言って笑った。
鈴はと言うと、濃い青地に天の川をイメージした星空柄の浴衣だ。それぞれがそれぞれに似合った色の浴衣を着ているなと、和真はそっと思っていた。
そんな和真の浴衣は黒字に縞模様の定番のものだ。白の帯を締めている。大和は生成りに黒猫柄で、帯は藍色だった。
いつの間にか梅雨は明け、夏本番のセミの鳴き声と入道雲の下でこの日も鈴は、ギターを担ぎながらスタジオへ向かう。今日はスタジオ練習の後、アップロードされた自分たちのガールズバンドコンテストでの演奏を観ることになっていた。
「おはよう、鈴」
「おはよう、カノン、琴音」
「鈴ちゃん、おはよう」
夏休みと言うこともあり、鈴たちは午前中にスタジオを予約していた。朝からじわじわと暑いが、スタジオの中は冷房が効いていて心地よい。集まった三人はいつものように音を合わせていく。練習時間はきっかり一時間だ。
そうして終わったスタジオ練習の後、すっかり日が高くなった町の中、三人はハンバーガーショップのチェーン店へと入っていった。飲み物やハンバーガーを注文し、席に着く。
「じゃあ、アドレスを送ります!」
鈴は席に着いた後にスマートフォンを取り出しそう言うと、『ルナティック・ガールズ』のメッセージにガールズバンドコンテストの時の様子が映っているアドレスを貼り付けた。それを受け取ったカノンと琴音は、それぞれ鞄の中からイヤホンとスマートフォンを取り出すと、ドキドキした様子でそのアドレスを開く。
「……」
「……」
二人は真剣な表情で自分たちの動画を見入っていた。こうしてデータとして自分たちのライブを観るのは春先の公開ライブ以来だった。
「どう?」
見終わった頃合いに鈴が声をかけてきた。
「もっとお客さんの方を見てもいいかも」
「そうだね、私たちだけで楽しんでるって感じした」
カノンの言葉に琴音も言う。鈴もそれは思ったことではあった。ついでに、と鈴は今回大賞を取ったバンドの動画も送る。その動画を見終わってから、
「やっぱり、お客さんへの意識が違うのかなぁ?」
「演奏技術も私たちより高いのかもしれないけど、見せ方の違いだとしたら、盛り上げ方だよね」
琴音の言葉に鈴も言う。
自分たちの次の課題が見つかったことに、『ルナティック・ガールズ』の三人は気持ちを新たにするのだった。
そうしていると、カノンのスマートフォンが鳴った。
「ごめん」
カノンはそう言うと、スマートフォンの呼び出しに応える。
「あ、大和? 何? ……、あ」
『ひどいっ!』
「ゴメンって。うん、うん、分かった。じゃあね」
どうやら通話の相手は大和だったようだ。大和の声はよく通る。詳細までは聞こえなかったが、大和が何やら『酷い』と言った言葉だけは鈴たちにも漏れ聞こえていた。
「ねぇ、鈴、琴音」
「何?」
「明日、何の日か分かる?」
「明日……?」
急に話を振られた二人は考える。しかし、
「思い当たる節はないなぁ……」
「今日なら、広島の原爆の日でしょ?」
「え? そうなの?」
琴音の言葉に鈴が疑問を返した。そうして、んー、んーと唸る二人に、カノンが正解を言う。
「明日は、浴衣で花火大会の日です」
「あー!」
その言葉に、鈴と琴音は花火大会のことをすっかり忘れていたことに気付いた。そう言えば、大会前にそんな話をしていたな、と思っていると、
「わざわざ、大和がそのことを言うためだけに、連絡してきたみたい」
「大和くん、楽しみにしてたみたいだもんね」
呆れるカノンの言葉に琴音がクスクスと笑う。
「そんなわけで、明日は駅に夕方六時集合って」
「全員浴衣って、楽しみだね」
カノンと琴音の言葉に、鈴もうんうんと頷くのだった。
翌日の夕方。
鈴は母親に手伝ってもらいながら浴衣の着付けを行っていた。セミロングの色素の薄い髪は一つにまとめあげ、メイクもしっかりとしている。外は快晴で、この様子なら花火大会は予定通り開催されることだろう。
「じゃあ、いってきまーす!」
鈴は家を出る。夕暮れの迫った空の下、セミの大合唱が響いていた。
(んー! 夏だなぁ!)
鈴はそんなことを思いながら、待ち合わせの駅までゆっくりと歩いて行くのだった。
花火大会の会場近くになる駅は、多くの人でごった返していた。しかし、
「あ、和真くん!」
背の高い和真は待ち合わせの場所でも目立っており、鈴はすぐに見付けることができたのだった。
「よう」
鈴の声に和真が振り返る。その傍には人混みに紛れて大和とカノン、琴音の姿もあった。どうやら鈴が最後だったようだ。
「すっごい人だな!」
大和の言葉に、黒地に朝顔柄の浴衣を着ているカノンがイヤそうに顔を歪める。
「人混み、嫌い……」
そう呟くカノンの手を大和はぎゅっと握る。
「これで、はぐれないだろ!」
「ちょっ! バカ!」
カノンが焦っている様子に、白地に金魚柄の浴衣を着ている琴音が、
「ごちそうさまです」
そう言って笑った。
鈴はと言うと、濃い青地に天の川をイメージした星空柄の浴衣だ。それぞれがそれぞれに似合った色の浴衣を着ているなと、和真はそっと思っていた。
そんな和真の浴衣は黒字に縞模様の定番のものだ。白の帯を締めている。大和は生成りに黒猫柄で、帯は藍色だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる