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第七音
第七音⑥
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それからの一週間は、鈴はギターに集中し、ボイストレーニングにも専念していた。更に、ステージでの立ち振る舞いを『ルナティック・ガールズ』のグループ通話でカノンや琴音と相談し、ステージの見せ方も研究していく。
カノンはそんな真剣な鈴の姿勢に、色々と案を出していく。どうにかして最高のステージにしようと、そればかりを考えて過ごしていた。
琴音も最高のステージにするため、その彩りになるよう、空いた時間にせっせと衣装を作っていく。
それぞれがそれぞれの想いを乗せて一週間を過ごし、いよいよ本番直前の、最後のスタジオ練習の日がやって来た。
この日、琴音はベースを担ぐとともに大荷物を持ってきていた。
「琴音っ? どうしたの、その大荷物!」
「あ、鈴ちゃん! 完成したの、衣装!」
「うそっ!」
カノンと鈴が琴音に駆け寄り、荷物を手分けして持つ。
「今日が最後のスタジオ練習でしょ? だから、本番さながらで練習したくって、急いで作りました!」
笑顔を浮かべる琴音の目の下には、うっすらクマが見え隠れしている。昨夜は徹夜したのかもしれない。
鈴たちはありがたく琴音からの新衣装を受け取った。その衣装は『不思議の国のアリス』がモチーフになった衣装のようで、
「鈴ちゃんがアリス、カノンちゃんがいかれた帽子屋、私はチェシャ猫だよ!」
琴音はそう言って衣装を見てみるように促したのだった。
最後のスタジオ練習が終わった三人はいよいよ迫ってきた本選に向けて、それぞれで調整を行っていく。そうして、本選当日は朝イチの新幹線に乗って東京の会場へと向かっていた。昼前には到着出来る予定だ。
会場で待ち合わせをしていた三人は、一緒に来てくれた親と別れを告げると本選の流れについての説明を受けるべく集まっていた。
「いよいよ本番だね……」
「鈴、顔が引きつってる」
「だって、緊張する~……」
「そう? 私は楽しみだけどなぁ!」
そう言うカノンの表情は笑顔だ。対する鈴は、先程も指摘されたように引きつっていた。琴音はと言うといつものニコニコとした笑顔をたたえていた。
「二人とも、鋼の心臓の持ち主……」
鈴はそう呟くが、
「鈴ちゃん、そんな引きつってたら、衣装に負けちゃうよ? それに、そんな顔でお客さんの前には出られないでしょ?」
琴音のこの言葉に鈴は、確かに、と納得する。
琴音が作ってくれたアリスの衣装は可愛らしく、半袖で水色のワンピースエプロンドレスがメインになっていた。その上にフリルのレースが満載の白のエプロンを身につけ、腰の部分にある黒のベルトがウエストマークになっている。スカートの裾部分には五線譜のプリントがされており、頭にはそんなエプロンドレスと同じ生地で作られたお揃いのヘッドドレスをつける。
完全に『不思議の国のアリス』のアリスになりきることができ、白のニーハイソックスと黒のローファーで完成となる。
そんな衣装を身につけて、演奏し、歌うことになるのだ。琴音の言う『衣装に負ける』と言う事態もあながちないとは言い切れない。鈴はそんな事態を避けるために両手でその両頬をパチンと叩いた。
「うん! あの可愛い衣装に負けないために、気持ち切り替えるよ!」
鈴の言葉に、カノンと琴音が微笑む。そうしていると今回の大会運営者と思われる大人が現れた。手には拡声器を持っていた。
「みなさん、こんにちは! ようこそ、ガールズバンドコンテストの本戦へ!」
そう言って始まった大会の説明はこうだ。
今回は客も入れてのライブ形式での大会となる。盛り上げ方、曲の精度、その他で採点され、大賞、準大賞、そして審査員特別賞が決定することとなる。また、今回の大会の様子は後日、動画サイトにアップされることになる。
「以上、メールでも説明はしておりましたが、今回こんな感じですので皆さん、ベストを尽くしてくださいね」
大会運営者はそう言うと、楽屋への道を空けてくれる。その場に集まっていた女子高生たちがゾロゾロと列を進め、用意された集合の楽屋へと入っていった。
鈴たちも楽屋へ入ると、早速衣装に着替え、メイクを開始する。今回の楽曲はさわやかなロックの曲である。それに合うように作られた『不思議の国のアリス』の衣装に身を包んでいく。
鈴の衣装は前述した通りであるが、カノンのいかれた帽子屋の衣装は深緑の生地で作られたロングドレスであった。所々を白のフリルが彩り、頭には小さめのシルクハットをヘアピンで固定する。そしてそのシルクハットから出ているリボンを顎の下で結ぶことで多少頭を揺らしてもシルクハットはびくともしなくなる。斜めに取り付けるそのシルクハットはいかれた帽子屋の象徴のように思えた。
琴音のチェシャ猫の衣装は、鮮やかなピンクと青紫のボーダーワンピースだ。腰から下はパニエによって膨らませ、広げる。スカートの長さも膝丈よりも少し短いミニ丈になっており、そこから伸びる足には衣装と同じようなピンクと青紫のボーダー靴下を履かせる。肩口にはフードが付いており、そのフードには猫耳がついている。本番ではこのフードを目深に被ることとなる。最後にお尻から出ている尻尾には針金が入っており、形を自由に変えることができた。その針金の尻尾を、鈴はいたずら心からハートの尻尾にしてしまう。
「ちょっと、鈴ちゃんっ?」
「いーじゃん、いーじゃん! こっちの方が可愛いって! ねぇ? カノン」
尻尾をいじられたことに気付いた琴音が慌てるのを、鈴は満足そうに尻尾を触りながらカノンに同意を求めた。カノンはそれを見て、
「あ、可愛い!」
そう言う。琴音は大きくため息を吐き出すと、
「もう……」
と、諦めたようだ。
カノンはそんな真剣な鈴の姿勢に、色々と案を出していく。どうにかして最高のステージにしようと、そればかりを考えて過ごしていた。
琴音も最高のステージにするため、その彩りになるよう、空いた時間にせっせと衣装を作っていく。
それぞれがそれぞれの想いを乗せて一週間を過ごし、いよいよ本番直前の、最後のスタジオ練習の日がやって来た。
この日、琴音はベースを担ぐとともに大荷物を持ってきていた。
「琴音っ? どうしたの、その大荷物!」
「あ、鈴ちゃん! 完成したの、衣装!」
「うそっ!」
カノンと鈴が琴音に駆け寄り、荷物を手分けして持つ。
「今日が最後のスタジオ練習でしょ? だから、本番さながらで練習したくって、急いで作りました!」
笑顔を浮かべる琴音の目の下には、うっすらクマが見え隠れしている。昨夜は徹夜したのかもしれない。
鈴たちはありがたく琴音からの新衣装を受け取った。その衣装は『不思議の国のアリス』がモチーフになった衣装のようで、
「鈴ちゃんがアリス、カノンちゃんがいかれた帽子屋、私はチェシャ猫だよ!」
琴音はそう言って衣装を見てみるように促したのだった。
最後のスタジオ練習が終わった三人はいよいよ迫ってきた本選に向けて、それぞれで調整を行っていく。そうして、本選当日は朝イチの新幹線に乗って東京の会場へと向かっていた。昼前には到着出来る予定だ。
会場で待ち合わせをしていた三人は、一緒に来てくれた親と別れを告げると本選の流れについての説明を受けるべく集まっていた。
「いよいよ本番だね……」
「鈴、顔が引きつってる」
「だって、緊張する~……」
「そう? 私は楽しみだけどなぁ!」
そう言うカノンの表情は笑顔だ。対する鈴は、先程も指摘されたように引きつっていた。琴音はと言うといつものニコニコとした笑顔をたたえていた。
「二人とも、鋼の心臓の持ち主……」
鈴はそう呟くが、
「鈴ちゃん、そんな引きつってたら、衣装に負けちゃうよ? それに、そんな顔でお客さんの前には出られないでしょ?」
琴音のこの言葉に鈴は、確かに、と納得する。
琴音が作ってくれたアリスの衣装は可愛らしく、半袖で水色のワンピースエプロンドレスがメインになっていた。その上にフリルのレースが満載の白のエプロンを身につけ、腰の部分にある黒のベルトがウエストマークになっている。スカートの裾部分には五線譜のプリントがされており、頭にはそんなエプロンドレスと同じ生地で作られたお揃いのヘッドドレスをつける。
完全に『不思議の国のアリス』のアリスになりきることができ、白のニーハイソックスと黒のローファーで完成となる。
そんな衣装を身につけて、演奏し、歌うことになるのだ。琴音の言う『衣装に負ける』と言う事態もあながちないとは言い切れない。鈴はそんな事態を避けるために両手でその両頬をパチンと叩いた。
「うん! あの可愛い衣装に負けないために、気持ち切り替えるよ!」
鈴の言葉に、カノンと琴音が微笑む。そうしていると今回の大会運営者と思われる大人が現れた。手には拡声器を持っていた。
「みなさん、こんにちは! ようこそ、ガールズバンドコンテストの本戦へ!」
そう言って始まった大会の説明はこうだ。
今回は客も入れてのライブ形式での大会となる。盛り上げ方、曲の精度、その他で採点され、大賞、準大賞、そして審査員特別賞が決定することとなる。また、今回の大会の様子は後日、動画サイトにアップされることになる。
「以上、メールでも説明はしておりましたが、今回こんな感じですので皆さん、ベストを尽くしてくださいね」
大会運営者はそう言うと、楽屋への道を空けてくれる。その場に集まっていた女子高生たちがゾロゾロと列を進め、用意された集合の楽屋へと入っていった。
鈴たちも楽屋へ入ると、早速衣装に着替え、メイクを開始する。今回の楽曲はさわやかなロックの曲である。それに合うように作られた『不思議の国のアリス』の衣装に身を包んでいく。
鈴の衣装は前述した通りであるが、カノンのいかれた帽子屋の衣装は深緑の生地で作られたロングドレスであった。所々を白のフリルが彩り、頭には小さめのシルクハットをヘアピンで固定する。そしてそのシルクハットから出ているリボンを顎の下で結ぶことで多少頭を揺らしてもシルクハットはびくともしなくなる。斜めに取り付けるそのシルクハットはいかれた帽子屋の象徴のように思えた。
琴音のチェシャ猫の衣装は、鮮やかなピンクと青紫のボーダーワンピースだ。腰から下はパニエによって膨らませ、広げる。スカートの長さも膝丈よりも少し短いミニ丈になっており、そこから伸びる足には衣装と同じようなピンクと青紫のボーダー靴下を履かせる。肩口にはフードが付いており、そのフードには猫耳がついている。本番ではこのフードを目深に被ることとなる。最後にお尻から出ている尻尾には針金が入っており、形を自由に変えることができた。その針金の尻尾を、鈴はいたずら心からハートの尻尾にしてしまう。
「ちょっと、鈴ちゃんっ?」
「いーじゃん、いーじゃん! こっちの方が可愛いって! ねぇ? カノン」
尻尾をいじられたことに気付いた琴音が慌てるのを、鈴は満足そうに尻尾を触りながらカノンに同意を求めた。カノンはそれを見て、
「あ、可愛い!」
そう言う。琴音は大きくため息を吐き出すと、
「もう……」
と、諦めたようだ。
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