The Three Sounds

彩女莉瑠

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第七音

第七音⑤

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「じゃあさ、本選が終わった後の八月七日の花火大会、みんなで行かない? 大会も終わってるし、今から二週間あるし、鈴のケガも治って、みんな浴衣で来られると思うの!」
「花火大会! いいね!」

 カノンの提案に鈴が思わず声を上げた。しかしそっと和真を見上げる。

「和真くん、花火大会に浴衣なら、いいよね?」

 恐る恐る尋ねる鈴に、和真は横目で鈴を見ると、

「まぁ、その頃なら、いいんじゃないか」

 そう返した。

「じゃあ、みんなで浴衣!」

 カノンの言葉に、夏休みの計画がどんどん膨らみ、その膨らみとともに胸の内も膨らんでくる。高揚感とともに、今後の夏休みの計画を立てていると、

「おい、お前たち」

 突然、廊下から声をかけられた。鈴たちが顔を巡らすと、そこには木村が立っていた。

「ちょっといいか?」
「私たちですか?」

 琴音の返答に木村が頷く。鈴たちは何事だろうと顔を見合わせると、揃って教室の扉の方へと歩いて行った。

「まずは、本選出場、おめでとう」

 木村の元へと向かった『ルナティック・ガールズ』の三人に、木村がねぎらいの言葉をかけてきた。鈴たちは顔を一瞬見合わせたものの、

「ありがとうございます」

 カノンがそう言って頭を下げる。

「それで、お前たちはどうやって東京まで行くつもりだ?」
「えっと……」

 急な問いかけに、一瞬だけカノンが口ごもる。それからスッと息を吸い込むと、

「新幹線で向かいます。親が、滞在費や交通費を負担してくれることになっています」
「そうか」

 カノンの言葉に木村は一瞬だけホッとしたような表情をしたのだが、すぐにいつもの仏頂面になると、

「当日は先生も応援に行くから、悔いのないように楽しみなさい」

 そう言って木村はカノンの教室を後にするのだった。

「木村、なんて?」

 席に戻った三人に大和が尋ねる。

「なんか、応援してくれてるっぽい」
「マジか! 木村、いい先生だったんだな!」

 カノンの返答に大和のテンションが上がる。それから、

「今年の夏も、楽しむぞー!」

 大和がそう叫ぶのに、その場にいた全員が苦笑するものの誰も大和を責めたりはしないのだった。



 その週の金曜日、本番前に二回あるうちの一回目のスタジオ練習の日がやって来た。
 鈴たちはスタジオに現地集合し、中に入った。
 鈴はギターが弾けるまで回復していたが、まだ立ったままでは弾き語りができなかったため、この日の練習はパイプ椅子に座っての弾き語りとなった。
 本選本番で演奏する楽曲は三人が初めて合わせた曲にすることが決まり、それぞれがそれぞれの家で練習を重ねている。毎日個人練習を重ね、その集大成をスタジオ練習の一時間に詰め込む。
 外の日は延び、三人がスタジオ練習後に帰宅してもまだ日が暮れることはない。雨空も減ってきており、間もなく梅雨も終わり夏本番を迎えるだろう。

 そんなスタジオ練習を終えた日の夜。
 鈴は久しぶりに生配信を開始した。
 学校が忙しかったことと、やはり傷が癒えていない状態ではなかなかリスナーとの交流も難しいと判断した結果、しばらく配信を休んでいたのだ。
 鈴が生配信の枠を取ってすぐ、パラパラとリスナーが集まってくる。

「今日はお久しぶりな配信です!」

 鈴は来てくれたリスナーへと挨拶をする。

「私のこと、忘れないでいてくれて、ありがとう! そんなみんなに、私から嬉しいお知らせがあります!」

 鈴はそう言うと、ギターをジャーンとかき鳴らした。そして、たっぷり間を置いてから、

「私たち、『ルナティック・ガールズ』はこのたび、ガールズバンドコンテストで本選出場が決定しましたーっ!」

 そう言う鈴に、コメント欄が『おぉっ!』と湧いている。中には『やると思っていた!』と言うコメントもあり、鈴はそれを見て嬉しくなった。

「本選は東京で行われます! 私たちは夏休みに入ったので、今はその本選に向けて必死に練習しています! お暇な人は是非、本選会場まで応援に来てくださいね!」

 鈴の言葉に何人かのリスナーから『行きたい!』と声が上がった。そんな声に鈴は日頃の応援に感謝する。更に、今まで配信出来なかった期間があったことを謝罪した。

『まぁ、鈴ちゃんも年頃だし、色々あるよな』
『なんだ? 男か?』
『なんでもいいよ、またこうして配信が観れて良かった』

 色々なコメントが流れるのを見つめながら、鈴はギターを鳴らす。それから、個人練習の一環となっている弾き語り配信を進めて行くのだった。

 翌日の土曜日はカノンと琴音、鈴の三人で祭りへと出かけた。三人は浴衣姿を本選後の花火大会に回し、今回は私服だ。
 日の高い時間に祭り会場の最寄り駅に集合した三人は、そのまま会場まで歩いて行く。市をあげての大きな祭りのため、出店も多く、催し物もたくさんあった。
 三人は夕暮れが近付く頃まで目一杯、その祭りを堪能していく。
 別れ際、カノンが琴音に、

「ねぇ、琴音。衣装、大丈夫?」
「衣装? うん、問題なく作れてるよ! どうして?」
「琴音の負担になっていないか、心配になって……」

 カノンの心配そうな言葉に琴音は笑顔を見せた。

「ありがとう、カノンちゃん! 大丈夫! 今回も可愛い衣装にしちゃうから、期待してて!」

 琴音の弾んだ声に、カノンもホッと胸をなで下ろす。そうして三人は祭りの会場を後にし、それぞれの日常を過ごしていくのだった。
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