The Three Sounds

彩女莉瑠

文字の大きさ
上 下
46 / 51
第七音

第七音④

しおりを挟む
「琴音も大丈夫だといいんだけど……」

『あの子、衣装を作るので出費がいちばんかかってると思うから、心配だよね』

 琴音は新衣装を作るための布やレース、その他の小物など、出費がかさんでいるはずだ。これで更に、本選の交通費や滞在費などがプラスされては、その負担は計り知れない。
 そんな話をしていると、

『出るの遅くなってごめん!』

 琴音がグループ通話に参加してきた。鈴とカノンは先程話した通り、親からの援助で本選に行けることを報告した。すると琴音も、

『ウチも、パパが夜行バスなんて絶対ダメだ! って言い張ってて。ママは夜行バスでもいいんじゃないかって言ってたんだけどね』

 だから、琴音の場合は父親が交通費や滞在費を負担することになったそうだ。
 これで『ルナティック・ガールズ』は本選に向かうための交通費や滞在費の心配をしなくて済むことになった。加えて、アルバイトもする必要がなくなったため練習に専念することができる。三人はそれぞれガッツポーズをしながら、本選で何の楽曲を披露するのかの相談を始めるのだった。



 翌日の学校は終業式だった。
 いよいよ夏休みが始まると言うこの日、生徒たちは蒸し暑い体育館に集められ、校長や生徒指導の先生からのありがたい言葉を聞くことになっている。体育館の窓は開けられてはいるものの、七月も半ばを過ぎたこの時期に全校生徒が集まると、その人口密度も相まって暑くなる。
 鈴たち生徒は、そのような中であくびをかみ殺しながら夏休みの注意事項を聞いているのだった。
 その後、教室に戻った生徒たちには夏休み中の課題と通知表が渡されていく。通知表の中身を確認した生徒たちは、その結果に一喜一憂する。

「期末で赤点を取ってるヤツは、夏休みも補習があるから、学校に来なさいね」

 先生からのこの言葉に今回、赤点のない鈴は上機嫌だ。
 そのまま授業が終わり、いよいよ夏休みに突入した。鈴は通知表の結果はともかくとして、学校の補習が全くない長期休みにワクワクしながらカノンの教室へと向かった。鈴がカノンの教室の扉を開けたとき、中には既に琴音の姿あった。

「琴音、カノン! 夏休みだよ、夏休み! いよいよ、始まるって感じする~!」

 鈴は高鳴る胸の鼓動をそのままに言葉を出す。それを聞いたカノンは、

「鈴、課題も忘れずにやるんだよ?」
「分かってるって! 任せて!」
「鈴ちゃんは、やるときにはやる子だもんね」

 心配そうなカノンの言葉に鈴はあっけらかんと答える。琴音はそんな鈴に笑顔だ。
 三人はそのまま机を向かい合わせると机の上にペットボトルの飲み物を出してお喋りを開始した。その内容は、夏休みの本選までの予定を考えるものだった。

「やっぱり、スタジオ練習はしっかりしたいけど、祭りも一緒に行きたいよね!」
「お祭り、いいよね」

 鈴の言葉に琴音が同調する。カノンも少し考えながら、

「一日くらい、息抜きもいるかもね」

 そう言って、祭りに行くことに乗り気になってくれた。
 今週の金曜日にはスタジオ練習があり、その後の土日は以前アルバイトをしようとしていた祭りがある。そこへ三人で行こうと話がまとまった。

「やっぱり、浴衣?」
「せっかくだから、浴衣、着たいね」
「私も!」

 鈴の言葉にカノンと琴音が続く。この辺りは年頃の女子である。三人が浴衣を着て祭りに行こうと話をしていると、

「なになにー? 何の話してるのー?」

 大和がいつの間にか教室の中に入ってきており、鈴たちが集まっている机へと向かってきていた。

「大和」

 カノンが声をかける。

「今度の土曜、鈴たちと祭りに行くことにしたの」
「えぇっ!」

 カノンの言葉に大和が衝撃を受けている。

「どうして、そういう大事なことに、俺を誘ってくれないかな! この彼女様は!」
「う、うるさいな! 今、決まったことなの!」

 カノンが少し顔を赤らめながら反論するも、大和は、

「三人とも、浴衣なの?」

 そこが気になったようだ。

「その予定よ」

 カノンの返事に、大和が頬を膨らませる。それから、

「絶対、反対! 女の子だけなのに、浴衣とか、ダメ! 絶対!」
「な、なんでよ……」

 カノンは大和の剣幕に押され気味だ。問われた大和は何故、浴衣がダメなのかをこんこんと語り出した。
 要約すると、夏祭りで浮かれた酔っ払いや男性たちに、女子三人だけだと絡まれるかもしれないから、と言うものだった。

「大和は心配しすぎなのよ……」
「そんなことない! ねっ! 和真!」

 カノンの呆れた声に大和は主張を曲げない。更にいつの間にか教室へと来ていた和真を見ながら同意を求めた。和真はジッと鈴を見つめている。

「な、何? 和真くん」
「鈴は、浴衣、だめ」
「えぇっ?」

 短い和真の言葉に、鈴は驚きの声を上げる。まさか和真までが大和と同じ理由で駄目だと言ってくるとは思わなかったのだ。

「ほら! 和真もこう言ってるだろ!」
「横暴なんだけど!」

 鈴は納得いかない様子だ。そんな鈴の頬に和真はそっと手を伸ばした。

「鈴。浴衣は帯を締めるだろう? まだ土曜だと傷が治ってない。本番前に傷がぶり返したりしたら大変だ。だから、浴衣は今回、諦めて欲しい」
「うっ……」

 丁寧な和真の言葉に鈴は言葉が詰まってしまう。和真はいつも、鈴のことを考えてくれているのだ。鈴はそこに思い至って顔を赤らめてしまう。

「分かった……」

 鈴はそう渋々返す。和真はその返答を聞いて表情を柔らかくするのだった。

「大和とは、全然違う理由だったわね」

 カノンにじとっと横目で見られて、大和は焦ったように声を上げる。

「俺だって、『ルナティック・ガールズ』が変な男に絡まれたらって、心配したんだし!」
「はいはい」
「その目は、信じてないなっ?」

 食ってかかる勢いの大和へ、あ、とカノンが声を上げた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...