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第七音
第七音④
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「琴音も大丈夫だといいんだけど……」
『あの子、衣装を作るので出費がいちばんかかってると思うから、心配だよね』
琴音は新衣装を作るための布やレース、その他の小物など、出費がかさんでいるはずだ。これで更に、本選の交通費や滞在費などがプラスされては、その負担は計り知れない。
そんな話をしていると、
『出るの遅くなってごめん!』
琴音がグループ通話に参加してきた。鈴とカノンは先程話した通り、親からの援助で本選に行けることを報告した。すると琴音も、
『ウチも、パパが夜行バスなんて絶対ダメだ! って言い張ってて。ママは夜行バスでもいいんじゃないかって言ってたんだけどね』
だから、琴音の場合は父親が交通費や滞在費を負担することになったそうだ。
これで『ルナティック・ガールズ』は本選に向かうための交通費や滞在費の心配をしなくて済むことになった。加えて、アルバイトもする必要がなくなったため練習に専念することができる。三人はそれぞれガッツポーズをしながら、本選で何の楽曲を披露するのかの相談を始めるのだった。
翌日の学校は終業式だった。
いよいよ夏休みが始まると言うこの日、生徒たちは蒸し暑い体育館に集められ、校長や生徒指導の先生からのありがたい言葉を聞くことになっている。体育館の窓は開けられてはいるものの、七月も半ばを過ぎたこの時期に全校生徒が集まると、その人口密度も相まって暑くなる。
鈴たち生徒は、そのような中であくびをかみ殺しながら夏休みの注意事項を聞いているのだった。
その後、教室に戻った生徒たちには夏休み中の課題と通知表が渡されていく。通知表の中身を確認した生徒たちは、その結果に一喜一憂する。
「期末で赤点を取ってるヤツは、夏休みも補習があるから、学校に来なさいね」
先生からのこの言葉に今回、赤点のない鈴は上機嫌だ。
そのまま授業が終わり、いよいよ夏休みに突入した。鈴は通知表の結果はともかくとして、学校の補習が全くない長期休みにワクワクしながらカノンの教室へと向かった。鈴がカノンの教室の扉を開けたとき、中には既に琴音の姿あった。
「琴音、カノン! 夏休みだよ、夏休み! いよいよ、始まるって感じする~!」
鈴は高鳴る胸の鼓動をそのままに言葉を出す。それを聞いたカノンは、
「鈴、課題も忘れずにやるんだよ?」
「分かってるって! 任せて!」
「鈴ちゃんは、やるときにはやる子だもんね」
心配そうなカノンの言葉に鈴はあっけらかんと答える。琴音はそんな鈴に笑顔だ。
三人はそのまま机を向かい合わせると机の上にペットボトルの飲み物を出してお喋りを開始した。その内容は、夏休みの本選までの予定を考えるものだった。
「やっぱり、スタジオ練習はしっかりしたいけど、祭りも一緒に行きたいよね!」
「お祭り、いいよね」
鈴の言葉に琴音が同調する。カノンも少し考えながら、
「一日くらい、息抜きもいるかもね」
そう言って、祭りに行くことに乗り気になってくれた。
今週の金曜日にはスタジオ練習があり、その後の土日は以前アルバイトをしようとしていた祭りがある。そこへ三人で行こうと話がまとまった。
「やっぱり、浴衣?」
「せっかくだから、浴衣、着たいね」
「私も!」
鈴の言葉にカノンと琴音が続く。この辺りは年頃の女子である。三人が浴衣を着て祭りに行こうと話をしていると、
「なになにー? 何の話してるのー?」
大和がいつの間にか教室の中に入ってきており、鈴たちが集まっている机へと向かってきていた。
「大和」
カノンが声をかける。
「今度の土曜、鈴たちと祭りに行くことにしたの」
「えぇっ!」
カノンの言葉に大和が衝撃を受けている。
「どうして、そういう大事なことに、俺を誘ってくれないかな! この彼女様は!」
「う、うるさいな! 今、決まったことなの!」
カノンが少し顔を赤らめながら反論するも、大和は、
「三人とも、浴衣なの?」
そこが気になったようだ。
「その予定よ」
カノンの返事に、大和が頬を膨らませる。それから、
「絶対、反対! 女の子だけなのに、浴衣とか、ダメ! 絶対!」
「な、なんでよ……」
カノンは大和の剣幕に押され気味だ。問われた大和は何故、浴衣がダメなのかをこんこんと語り出した。
要約すると、夏祭りで浮かれた酔っ払いや男性たちに、女子三人だけだと絡まれるかもしれないから、と言うものだった。
「大和は心配しすぎなのよ……」
「そんなことない! ねっ! 和真!」
カノンの呆れた声に大和は主張を曲げない。更にいつの間にか教室へと来ていた和真を見ながら同意を求めた。和真はジッと鈴を見つめている。
「な、何? 和真くん」
「鈴は、浴衣、だめ」
「えぇっ?」
短い和真の言葉に、鈴は驚きの声を上げる。まさか和真までが大和と同じ理由で駄目だと言ってくるとは思わなかったのだ。
「ほら! 和真もこう言ってるだろ!」
「横暴なんだけど!」
鈴は納得いかない様子だ。そんな鈴の頬に和真はそっと手を伸ばした。
「鈴。浴衣は帯を締めるだろう? まだ土曜だと傷が治ってない。本番前に傷がぶり返したりしたら大変だ。だから、浴衣は今回、諦めて欲しい」
「うっ……」
丁寧な和真の言葉に鈴は言葉が詰まってしまう。和真はいつも、鈴のことを考えてくれているのだ。鈴はそこに思い至って顔を赤らめてしまう。
「分かった……」
鈴はそう渋々返す。和真はその返答を聞いて表情を柔らかくするのだった。
「大和とは、全然違う理由だったわね」
カノンにじとっと横目で見られて、大和は焦ったように声を上げる。
「俺だって、『ルナティック・ガールズ』が変な男に絡まれたらって、心配したんだし!」
「はいはい」
「その目は、信じてないなっ?」
食ってかかる勢いの大和へ、あ、とカノンが声を上げた。
『あの子、衣装を作るので出費がいちばんかかってると思うから、心配だよね』
琴音は新衣装を作るための布やレース、その他の小物など、出費がかさんでいるはずだ。これで更に、本選の交通費や滞在費などがプラスされては、その負担は計り知れない。
そんな話をしていると、
『出るの遅くなってごめん!』
琴音がグループ通話に参加してきた。鈴とカノンは先程話した通り、親からの援助で本選に行けることを報告した。すると琴音も、
『ウチも、パパが夜行バスなんて絶対ダメだ! って言い張ってて。ママは夜行バスでもいいんじゃないかって言ってたんだけどね』
だから、琴音の場合は父親が交通費や滞在費を負担することになったそうだ。
これで『ルナティック・ガールズ』は本選に向かうための交通費や滞在費の心配をしなくて済むことになった。加えて、アルバイトもする必要がなくなったため練習に専念することができる。三人はそれぞれガッツポーズをしながら、本選で何の楽曲を披露するのかの相談を始めるのだった。
翌日の学校は終業式だった。
いよいよ夏休みが始まると言うこの日、生徒たちは蒸し暑い体育館に集められ、校長や生徒指導の先生からのありがたい言葉を聞くことになっている。体育館の窓は開けられてはいるものの、七月も半ばを過ぎたこの時期に全校生徒が集まると、その人口密度も相まって暑くなる。
鈴たち生徒は、そのような中であくびをかみ殺しながら夏休みの注意事項を聞いているのだった。
その後、教室に戻った生徒たちには夏休み中の課題と通知表が渡されていく。通知表の中身を確認した生徒たちは、その結果に一喜一憂する。
「期末で赤点を取ってるヤツは、夏休みも補習があるから、学校に来なさいね」
先生からのこの言葉に今回、赤点のない鈴は上機嫌だ。
そのまま授業が終わり、いよいよ夏休みに突入した。鈴は通知表の結果はともかくとして、学校の補習が全くない長期休みにワクワクしながらカノンの教室へと向かった。鈴がカノンの教室の扉を開けたとき、中には既に琴音の姿あった。
「琴音、カノン! 夏休みだよ、夏休み! いよいよ、始まるって感じする~!」
鈴は高鳴る胸の鼓動をそのままに言葉を出す。それを聞いたカノンは、
「鈴、課題も忘れずにやるんだよ?」
「分かってるって! 任せて!」
「鈴ちゃんは、やるときにはやる子だもんね」
心配そうなカノンの言葉に鈴はあっけらかんと答える。琴音はそんな鈴に笑顔だ。
三人はそのまま机を向かい合わせると机の上にペットボトルの飲み物を出してお喋りを開始した。その内容は、夏休みの本選までの予定を考えるものだった。
「やっぱり、スタジオ練習はしっかりしたいけど、祭りも一緒に行きたいよね!」
「お祭り、いいよね」
鈴の言葉に琴音が同調する。カノンも少し考えながら、
「一日くらい、息抜きもいるかもね」
そう言って、祭りに行くことに乗り気になってくれた。
今週の金曜日にはスタジオ練習があり、その後の土日は以前アルバイトをしようとしていた祭りがある。そこへ三人で行こうと話がまとまった。
「やっぱり、浴衣?」
「せっかくだから、浴衣、着たいね」
「私も!」
鈴の言葉にカノンと琴音が続く。この辺りは年頃の女子である。三人が浴衣を着て祭りに行こうと話をしていると、
「なになにー? 何の話してるのー?」
大和がいつの間にか教室の中に入ってきており、鈴たちが集まっている机へと向かってきていた。
「大和」
カノンが声をかける。
「今度の土曜、鈴たちと祭りに行くことにしたの」
「えぇっ!」
カノンの言葉に大和が衝撃を受けている。
「どうして、そういう大事なことに、俺を誘ってくれないかな! この彼女様は!」
「う、うるさいな! 今、決まったことなの!」
カノンが少し顔を赤らめながら反論するも、大和は、
「三人とも、浴衣なの?」
そこが気になったようだ。
「その予定よ」
カノンの返事に、大和が頬を膨らませる。それから、
「絶対、反対! 女の子だけなのに、浴衣とか、ダメ! 絶対!」
「な、なんでよ……」
カノンは大和の剣幕に押され気味だ。問われた大和は何故、浴衣がダメなのかをこんこんと語り出した。
要約すると、夏祭りで浮かれた酔っ払いや男性たちに、女子三人だけだと絡まれるかもしれないから、と言うものだった。
「大和は心配しすぎなのよ……」
「そんなことない! ねっ! 和真!」
カノンの呆れた声に大和は主張を曲げない。更にいつの間にか教室へと来ていた和真を見ながら同意を求めた。和真はジッと鈴を見つめている。
「な、何? 和真くん」
「鈴は、浴衣、だめ」
「えぇっ?」
短い和真の言葉に、鈴は驚きの声を上げる。まさか和真までが大和と同じ理由で駄目だと言ってくるとは思わなかったのだ。
「ほら! 和真もこう言ってるだろ!」
「横暴なんだけど!」
鈴は納得いかない様子だ。そんな鈴の頬に和真はそっと手を伸ばした。
「鈴。浴衣は帯を締めるだろう? まだ土曜だと傷が治ってない。本番前に傷がぶり返したりしたら大変だ。だから、浴衣は今回、諦めて欲しい」
「うっ……」
丁寧な和真の言葉に鈴は言葉が詰まってしまう。和真はいつも、鈴のことを考えてくれているのだ。鈴はそこに思い至って顔を赤らめてしまう。
「分かった……」
鈴はそう渋々返す。和真はその返答を聞いて表情を柔らかくするのだった。
「大和とは、全然違う理由だったわね」
カノンにじとっと横目で見られて、大和は焦ったように声を上げる。
「俺だって、『ルナティック・ガールズ』が変な男に絡まれたらって、心配したんだし!」
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「その目は、信じてないなっ?」
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