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第七音
第七音③
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「やっぱり、高速バスがいちばん安いかなぁ?」
鈴の言葉にカノンと琴音も高速バスでの東京行きを検索する。新幹線と比べるとやはり格安で東京へ行けることが分かる。
「もしかしなくても、夜行バスで行く気か?」
「うん、夜の方が安いから」
和真の言葉に鈴がケロッと返す。和真はその返答に眉根を寄せた。どうやら夜の高速バスは賛成しかねる様子だ。鈴がそんな和真の顔を見て、
「どうしたの?」
「いや、バスで行っても大丈夫かと思って」
鈴の問いかけに和真は渋面を作って返した。
「大丈夫じゃないかな?」
あっけらかんと返す鈴だったが、和真に続き大和もイヤそうな表情をしていた。
「夜のバスって、何かあったら逃げられないじゃん」
「新幹線の中だって逃げられないよ」
「そうかもしんないけど……」
カノンの返しに大和は言いよどむ。
「夜行バスなら、宿泊費も削れていいかも」
琴音の言葉に『ルナティック・ガールズ』のメンバーは高速バスで行くことに乗り気のようだ。しかし男子二人はそんな三人にイヤそうな顔をしっぱなしである。
「とりあえず、高速バスで東京に行くとして。問題は安いとは言え、その高速バスの資金をどう集めるか、だよね」
鈴の言葉に、んー、と悩む。
「あ、このバイトなら、怖くなさそう!」
その時、琴音が声を上げた。そんな琴音のスマートフォンを鈴とカノンが覗き込む。そこには、
『女性限定! 浴衣を着たアルバイト!』
と書かれていた。
業務内容は祭りの会場にて、浴衣を着て、祭りの会場へと着ている人たちに声をかけていく。そして呉服屋で夏の思い出の一枚をプロの写真家に撮って貰う、と言うものだ。
「これなら、祭りの時間内だからお昼から夕方まででもいいし、呉服屋なら変なことも起きないと思って」
「浴衣を着て、声かけるだけなら、できるかも」
「友達同士の応募もオッケーなんだ?」
鈴とカノンは乗り気だ。しかしその募集内容を見ていた大和はふくれっ面だった。
「どうしたの、大和」
「怪しい」
「は?」
「怪しいっ!」
大和は大きな声でそう言った。正面に座っていたカノンが顔をしかめる。
「大和、うるさい」
「うるさくてもいい! 『女性限定!』なんてうたい文句、怪しさしかない! 男女雇用機会均等法はどこにいったの!」
「男女雇用機会均等法って……。あんた、そんな言葉、どこで覚えてくるのよ……」
「学校!」
呆れ気味に言うカノンの言葉に、大和は胸を張って即答する。しかし、大和の言う言葉はもっともで、女性しかできない仕事と言うのは確かに怪しい。
「これ、日給が七千円も貰える」
和真の指摘によく募集要項に目を通すと、確かに日給で七千円となっていた。更に、出来高で呉服屋に連れてきて写真を撮ってくれた人の人数によって、日給にプラスされていく仕組みのようだ。
「ほら! こんなの、怪しいし! 浴衣も、呉服屋の浴衣を着られるよ! とか、怪しいし!」
どんな浴衣を着せられるのか分かったもんじゃない、と大和は主張する。
確かに大和の言うように、おいしすぎる仕事と言えなくはない。
鈴たちはどうしたものかと考えたが、その場での応募を見送り結局、
「お母さんに相談するしかない、かなぁ……」
そう結論づけるのだった。
ファミリーレストランから帰宅した鈴は、今回の話を母親に相談した。
「東京の本選に行くことになったんだけど、こんなバイトして資金集めして、夜行バスで行こうって話になってるんだけど……」
「どれ? ……祭り会場の呉服屋のバイト?」
母親は鈴のスマートフォンを覗き込みながら何事かを考えている。
「東京の本選って、いつなの?」
「八月一日」
鈴の言葉に母親は壁に掛けてあるカレンダーを見やる。今日を含め、一瞬間と数日しか猶予がない。更に、鈴が見せてきたアルバイトの日付は今週の土日である。こんなギリギリまで人員募集をしていることに、母親は眉根を寄せた。
ただでさえ、鈴は春に尾形の件で警察に世話になっている。それに母親は子供が巻き込まれる事件が増えていると、警察からも注意をされていたのだ。
「どうしてもっと早く、本選の話をしてくれなかったの?」
「だって、東京に行けるなんて思ってなかったし。それに、言っても助けてはくれないでしょ?」
鈴の言葉に母親は、はぁー……、と大きく息をついた。
「こんなこと、しょっちゅうある訳じゃないのよ? 助けないわけがないじゃない」
それに、と母親は言う。
子供に東京へ連れて行って貰えると考えたら、それは親冥利に尽きるのだと。
「だから、交通費のことや宿泊費のこと、考えなくていいわ。アンタは、本選で最善が尽くせるように身体の回復に専念しなさい」
母親はそう言うと、鈴に背を向ける。鈴からしたら意外だった母の言葉だ。
しかしそう思ってくれていると言うのは、鈴にとって嬉しいことだった。
「ありがとう、お母さん」
鈴は小さく、母の背中に呟くと自室へと戻るのだった。
自室に戻った鈴はすぐに『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージを開いた。そして先程の母とのやり取りを報告していく。するとすぐに既読がつき、グループ通話がかかってきた。
鈴がスマートフォンに出ると、
『あ、鈴?』
「カノン? どうしたの?」
『話した方が早いかなって思って』
通話をかけてきたのはカノンだった。カノンの話によると、経緯は違うもののカノンの親も交通費や滞在費を負担してくれることになったのだという。残るは琴音だけなのだが、琴音はまだグループ通話に出ない。
鈴の言葉にカノンと琴音も高速バスでの東京行きを検索する。新幹線と比べるとやはり格安で東京へ行けることが分かる。
「もしかしなくても、夜行バスで行く気か?」
「うん、夜の方が安いから」
和真の言葉に鈴がケロッと返す。和真はその返答に眉根を寄せた。どうやら夜の高速バスは賛成しかねる様子だ。鈴がそんな和真の顔を見て、
「どうしたの?」
「いや、バスで行っても大丈夫かと思って」
鈴の問いかけに和真は渋面を作って返した。
「大丈夫じゃないかな?」
あっけらかんと返す鈴だったが、和真に続き大和もイヤそうな表情をしていた。
「夜のバスって、何かあったら逃げられないじゃん」
「新幹線の中だって逃げられないよ」
「そうかもしんないけど……」
カノンの返しに大和は言いよどむ。
「夜行バスなら、宿泊費も削れていいかも」
琴音の言葉に『ルナティック・ガールズ』のメンバーは高速バスで行くことに乗り気のようだ。しかし男子二人はそんな三人にイヤそうな顔をしっぱなしである。
「とりあえず、高速バスで東京に行くとして。問題は安いとは言え、その高速バスの資金をどう集めるか、だよね」
鈴の言葉に、んー、と悩む。
「あ、このバイトなら、怖くなさそう!」
その時、琴音が声を上げた。そんな琴音のスマートフォンを鈴とカノンが覗き込む。そこには、
『女性限定! 浴衣を着たアルバイト!』
と書かれていた。
業務内容は祭りの会場にて、浴衣を着て、祭りの会場へと着ている人たちに声をかけていく。そして呉服屋で夏の思い出の一枚をプロの写真家に撮って貰う、と言うものだ。
「これなら、祭りの時間内だからお昼から夕方まででもいいし、呉服屋なら変なことも起きないと思って」
「浴衣を着て、声かけるだけなら、できるかも」
「友達同士の応募もオッケーなんだ?」
鈴とカノンは乗り気だ。しかしその募集内容を見ていた大和はふくれっ面だった。
「どうしたの、大和」
「怪しい」
「は?」
「怪しいっ!」
大和は大きな声でそう言った。正面に座っていたカノンが顔をしかめる。
「大和、うるさい」
「うるさくてもいい! 『女性限定!』なんてうたい文句、怪しさしかない! 男女雇用機会均等法はどこにいったの!」
「男女雇用機会均等法って……。あんた、そんな言葉、どこで覚えてくるのよ……」
「学校!」
呆れ気味に言うカノンの言葉に、大和は胸を張って即答する。しかし、大和の言う言葉はもっともで、女性しかできない仕事と言うのは確かに怪しい。
「これ、日給が七千円も貰える」
和真の指摘によく募集要項に目を通すと、確かに日給で七千円となっていた。更に、出来高で呉服屋に連れてきて写真を撮ってくれた人の人数によって、日給にプラスされていく仕組みのようだ。
「ほら! こんなの、怪しいし! 浴衣も、呉服屋の浴衣を着られるよ! とか、怪しいし!」
どんな浴衣を着せられるのか分かったもんじゃない、と大和は主張する。
確かに大和の言うように、おいしすぎる仕事と言えなくはない。
鈴たちはどうしたものかと考えたが、その場での応募を見送り結局、
「お母さんに相談するしかない、かなぁ……」
そう結論づけるのだった。
ファミリーレストランから帰宅した鈴は、今回の話を母親に相談した。
「東京の本選に行くことになったんだけど、こんなバイトして資金集めして、夜行バスで行こうって話になってるんだけど……」
「どれ? ……祭り会場の呉服屋のバイト?」
母親は鈴のスマートフォンを覗き込みながら何事かを考えている。
「東京の本選って、いつなの?」
「八月一日」
鈴の言葉に母親は壁に掛けてあるカレンダーを見やる。今日を含め、一瞬間と数日しか猶予がない。更に、鈴が見せてきたアルバイトの日付は今週の土日である。こんなギリギリまで人員募集をしていることに、母親は眉根を寄せた。
ただでさえ、鈴は春に尾形の件で警察に世話になっている。それに母親は子供が巻き込まれる事件が増えていると、警察からも注意をされていたのだ。
「どうしてもっと早く、本選の話をしてくれなかったの?」
「だって、東京に行けるなんて思ってなかったし。それに、言っても助けてはくれないでしょ?」
鈴の言葉に母親は、はぁー……、と大きく息をついた。
「こんなこと、しょっちゅうある訳じゃないのよ? 助けないわけがないじゃない」
それに、と母親は言う。
子供に東京へ連れて行って貰えると考えたら、それは親冥利に尽きるのだと。
「だから、交通費のことや宿泊費のこと、考えなくていいわ。アンタは、本選で最善が尽くせるように身体の回復に専念しなさい」
母親はそう言うと、鈴に背を向ける。鈴からしたら意外だった母の言葉だ。
しかしそう思ってくれていると言うのは、鈴にとって嬉しいことだった。
「ありがとう、お母さん」
鈴は小さく、母の背中に呟くと自室へと戻るのだった。
自室に戻った鈴はすぐに『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージを開いた。そして先程の母とのやり取りを報告していく。するとすぐに既読がつき、グループ通話がかかってきた。
鈴がスマートフォンに出ると、
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通話をかけてきたのはカノンだった。カノンの話によると、経緯は違うもののカノンの親も交通費や滞在費を負担してくれることになったのだという。残るは琴音だけなのだが、琴音はまだグループ通話に出ない。
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