43 / 51
第七音
第七音①
しおりを挟む
球技大会翌日、鈴は身体が起こせないくらいの激痛に襲われていた。そのため学校はしばらく休むこととなった。
ギターを触るどころか身体を起こすのもままならない状態の鈴はベッドの中で一人、暇を持て余すのだった。そんな鈴へカノン、琴音、そして和真からメッセージが届く。学校を休んだ鈴を、三人は心配しているようだった。鈴はすぐに三人に返信をする。
『大丈夫だけど、身体が痛くて動けないの。お母さんが今週は休みなさいって言ってたから、月曜日になったら登校する』
鈴のこのメッセージに、三人はそれぞれ同じ反応を返す。カノンは、
『分かった。ゆっくりしておくんだよ』
琴音は、
『お大事にね。無理して悪化しないようにね』
そして和真は、
『早く治ることを祈ってる』
三種三様のその反応に、鈴はクスッと笑ってしまうのだった。
その翌日の金曜日になると、鈴の身体も少しずつ動くようになっていた。まだギターを弾くことはできなかったものの、身体を起こすことはできるようになった。そのため一人で食事も摂れるまでに回復していた。
しかし暇な時間は変わらず、鈴は手持ち無沙汰な様子で日中は自室に閉じこもっていた。そんな昼下がり。
ピロン!
鈴のスマートフォンが一通のメールを受信したことを知らせた。鈴がこんな時間になんだろうと思いメールを開く。そこには、
『おめでとうございます』
そう始まった文章を読んでみると、そこに書かれているのはガールズバンドコンテストからのメールであった。鈴はその文面に驚き、何度も読み返す。そして、自分たち『ルナティック・ガールズ』が動画審査を通過し、本選へと行けることを確信した。
(ホントに、通っちゃった……)
鈴は念のため、メールアドレスも確認する。そのドメインはガールズバンドコンテストのもので間違いがない。
しばらく呆然としていた鈴だったが、急いで『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージにメッセージを送った。まだカノンと琴音は授業中に違いなかったが、そんなことを構っていられないくらい、鈴は興奮していた。
(だって、本選だよっ? 東京かぁ……)
鈴の意識はもう、本選の東京へと向いているのだった。
それからしばらくして、カノンと琴音から返信が来る。二人とも信じられないようだったので、鈴はメールの内容のスクリーンショットを撮って、グループメッセージに載せた。それを見て、二人はようやく実感が湧いてきたようで、
『ホントに私たち、東京の本選に行けるんだ……』
『ヤバくないっ? 曲、どうするっ?』
琴音のメッセージにカノンが珍しく興奮した様子を見せている。
『本選って、八月一日?』
琴音の言葉に鈴がそうだよ、と伝える。
『鈴ちゃんのケガ、それまでに治るのかな……』
琴音のメッセージに、グループメッセージ内が一瞬だけ静かになる。しかしすぐに鈴は、
『何とかする! こんなチャンス、めったにないんだよ? 絶対回復させる』
そう宣言する。
『無理するなって言っても無駄だからね! 私、絶対この大会で優勝したい』
鈴の続けての言葉に、カノンも琴音も何も言えなくなってしまったようだ。きっと鈴は止めてもギターを持って東京へ行ってしまうに違いない。ならば、そんな鈴と一緒に大会へ出場することが自分たちの役割かもしれない。
カノンと琴音はそれぞれ、
『鈴が頑張るんなら、私も頑張るよ』
『そうだね。鈴ちゃんがやる気だから、私も心配だけど、頑張る』
そう鈴の意思を尊重してくれる。鈴はそんな二人へ感謝しながら、とにかくギターが弾けるまでに回復しなくてはと、焦る気持ちが出てくるのだった。
大会本戦まで、この時点で二週間と数日。
自主練習する時間やスタジオ練習、夏休みにも突入し、忙しくなる予感がする。
『そうだ! せっかくだから、大会は新しい衣装で出場しない?』
『新しい衣装?』
琴音のメッセージに鈴とカノンが反応する。琴音は、中間テストが終わった後から少しずつ『ルナティック・ガールズ』の新衣装を作成していたことを明かした。涼しげな衣装をイメージして作っていたそうで、秋にある文化祭で着られたら、と思っていたそうだ。
『でも、せっかくだし、大会で着てみない?』
琴音の提案に鈴は考える。
『琴音、負担にならない?』
『大丈夫だよ! 鈴ちゃんも頑張ってるし、カノンちゃんだって頑張るんでしょ? 私も頑張るよ!』
鈴の言葉に琴音が返す。その文面から、琴音が笑顔であることが伝わってきた。鈴はカノンの反応を待つ。カノンは、
『じゃあ、琴音に衣装は任せよう? でも、くれぐれも無理をしないこと!』
『はぁい!』
カノンの言葉で、『ルナティック・ガールズ』は新衣装でガールズバンドコンテストの本選に挑むこととなった。
その日の夕方。鈴の母親のスマートフォンに学校から連絡が入ったそうで、鈴を囲んで蹴っていた女子生徒たちの処分が決まったという。
彼女たちは月曜日から終業式まで停学処分となり、夏休みに出校し、夏休みの課題とは別の課題を行うこととなるそうだ。
「これで安心して、鈴を学校に行かせられるわ」
母親はそう言うと、鼻歌交じりに夕飯の準備を行うのだった。
月曜日。
鈴は球技大会以来の登校を果たした。一週間も休んだわけではないのだが、それでも久しぶりに感じる学校の空気はなんだか新鮮で心が躍る。更に驚いたことに、休む前まであった和真のウワサ話を聞くことがなくなっていた。
ギターを触るどころか身体を起こすのもままならない状態の鈴はベッドの中で一人、暇を持て余すのだった。そんな鈴へカノン、琴音、そして和真からメッセージが届く。学校を休んだ鈴を、三人は心配しているようだった。鈴はすぐに三人に返信をする。
『大丈夫だけど、身体が痛くて動けないの。お母さんが今週は休みなさいって言ってたから、月曜日になったら登校する』
鈴のこのメッセージに、三人はそれぞれ同じ反応を返す。カノンは、
『分かった。ゆっくりしておくんだよ』
琴音は、
『お大事にね。無理して悪化しないようにね』
そして和真は、
『早く治ることを祈ってる』
三種三様のその反応に、鈴はクスッと笑ってしまうのだった。
その翌日の金曜日になると、鈴の身体も少しずつ動くようになっていた。まだギターを弾くことはできなかったものの、身体を起こすことはできるようになった。そのため一人で食事も摂れるまでに回復していた。
しかし暇な時間は変わらず、鈴は手持ち無沙汰な様子で日中は自室に閉じこもっていた。そんな昼下がり。
ピロン!
鈴のスマートフォンが一通のメールを受信したことを知らせた。鈴がこんな時間になんだろうと思いメールを開く。そこには、
『おめでとうございます』
そう始まった文章を読んでみると、そこに書かれているのはガールズバンドコンテストからのメールであった。鈴はその文面に驚き、何度も読み返す。そして、自分たち『ルナティック・ガールズ』が動画審査を通過し、本選へと行けることを確信した。
(ホントに、通っちゃった……)
鈴は念のため、メールアドレスも確認する。そのドメインはガールズバンドコンテストのもので間違いがない。
しばらく呆然としていた鈴だったが、急いで『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージにメッセージを送った。まだカノンと琴音は授業中に違いなかったが、そんなことを構っていられないくらい、鈴は興奮していた。
(だって、本選だよっ? 東京かぁ……)
鈴の意識はもう、本選の東京へと向いているのだった。
それからしばらくして、カノンと琴音から返信が来る。二人とも信じられないようだったので、鈴はメールの内容のスクリーンショットを撮って、グループメッセージに載せた。それを見て、二人はようやく実感が湧いてきたようで、
『ホントに私たち、東京の本選に行けるんだ……』
『ヤバくないっ? 曲、どうするっ?』
琴音のメッセージにカノンが珍しく興奮した様子を見せている。
『本選って、八月一日?』
琴音の言葉に鈴がそうだよ、と伝える。
『鈴ちゃんのケガ、それまでに治るのかな……』
琴音のメッセージに、グループメッセージ内が一瞬だけ静かになる。しかしすぐに鈴は、
『何とかする! こんなチャンス、めったにないんだよ? 絶対回復させる』
そう宣言する。
『無理するなって言っても無駄だからね! 私、絶対この大会で優勝したい』
鈴の続けての言葉に、カノンも琴音も何も言えなくなってしまったようだ。きっと鈴は止めてもギターを持って東京へ行ってしまうに違いない。ならば、そんな鈴と一緒に大会へ出場することが自分たちの役割かもしれない。
カノンと琴音はそれぞれ、
『鈴が頑張るんなら、私も頑張るよ』
『そうだね。鈴ちゃんがやる気だから、私も心配だけど、頑張る』
そう鈴の意思を尊重してくれる。鈴はそんな二人へ感謝しながら、とにかくギターが弾けるまでに回復しなくてはと、焦る気持ちが出てくるのだった。
大会本戦まで、この時点で二週間と数日。
自主練習する時間やスタジオ練習、夏休みにも突入し、忙しくなる予感がする。
『そうだ! せっかくだから、大会は新しい衣装で出場しない?』
『新しい衣装?』
琴音のメッセージに鈴とカノンが反応する。琴音は、中間テストが終わった後から少しずつ『ルナティック・ガールズ』の新衣装を作成していたことを明かした。涼しげな衣装をイメージして作っていたそうで、秋にある文化祭で着られたら、と思っていたそうだ。
『でも、せっかくだし、大会で着てみない?』
琴音の提案に鈴は考える。
『琴音、負担にならない?』
『大丈夫だよ! 鈴ちゃんも頑張ってるし、カノンちゃんだって頑張るんでしょ? 私も頑張るよ!』
鈴の言葉に琴音が返す。その文面から、琴音が笑顔であることが伝わってきた。鈴はカノンの反応を待つ。カノンは、
『じゃあ、琴音に衣装は任せよう? でも、くれぐれも無理をしないこと!』
『はぁい!』
カノンの言葉で、『ルナティック・ガールズ』は新衣装でガールズバンドコンテストの本選に挑むこととなった。
その日の夕方。鈴の母親のスマートフォンに学校から連絡が入ったそうで、鈴を囲んで蹴っていた女子生徒たちの処分が決まったという。
彼女たちは月曜日から終業式まで停学処分となり、夏休みに出校し、夏休みの課題とは別の課題を行うこととなるそうだ。
「これで安心して、鈴を学校に行かせられるわ」
母親はそう言うと、鼻歌交じりに夕飯の準備を行うのだった。
月曜日。
鈴は球技大会以来の登校を果たした。一週間も休んだわけではないのだが、それでも久しぶりに感じる学校の空気はなんだか新鮮で心が躍る。更に驚いたことに、休む前まであった和真のウワサ話を聞くことがなくなっていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる