The Three Sounds

彩女莉瑠

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第六音

第六音②

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 翌日の火曜日。
 日中の授業では来週行われる球技大会の種目決めが行われていた。女子の種目はバレーボールとドッジボールから、男子の種目はバスケットボールとサッカーから選ぶことになっている。その日の放課後に集まった鈴たちの話題は、そんな球技大会についてだった。

「私バレーなんだけど、鈴と琴音はー?」
「私はドッジボールだよ。鈴ちゃんは?」
「私はカノンと同じ、バレーだよ」
「私だけドッジボールかぁ……」

 琴音ががっかりしたような声を上げた。
 そんな話をしながら勉強会の準備を進めていく。昨日は結局、勉強会をすることはなかった。そのため今日こそはやろうと三人は集まっていたのだ。
 鈴はと言うと、昨日自分の本音と向き合うと覚悟を決めてから、今までの挙動不審はなくなっていた。鈴の心の中は穏やかになったものの、学校に来てからは自然と和真の姿を探してしまう。しかし今まで学校で顔を合わせたことがなかったのだから、意識したからと言ってすぐに和真が見つかるはずもなくそのまま、放課後になってしまったのだった。

(私、いつの間にこんなにも和真くんのことが気になっているんだろう……?)

 和真のゴツゴツとした腕や低く聞き心地の良い声を思い出すと、まだ少し顔が赤くなってくる。それでもそれ以上に胸が締め付けられてくる。特に和真が鈴に見せたやわらかな笑顔を思い出すと、心臓がキュッとなってしまうのだった。

(いつからこんなに、なってしまったんだろう?)

 そんなことを感じてしまう。けれど今もっとも大事なことはその先の自分の気持ちだ。つまり和真の気持ちを受けとめて、和真と付き合いを始めるか、否か。

(まさか自分が、こんな風になるなんてなぁ……)

 鈴がはぁ……、とため息をついたときだった。カノンの教室の扉が開き和真と、何故かその隣には部活中のはずの大和の姿があった。

「あれ? 大和、部活は?」
「今日から球技大会まで休み! みんな練習あるからさ」

 カノンの言葉に大和が答える。その答えにその場にいた大和を除く四人が納得した。和真は鈴の方に顔を向けると、

「よう」

 短い和真の挨拶に、鈴もぺこりと頭を下げて応える。顔を上げた鈴はそのまま顔を和真から逸らしてしまったのだが、目の端にはしっかりと和真の姿を捉えていた。

「そっかぁ、放課後は球技大会の練習があるクラスが出てくるのか。じゃあ、球技大会が終わるまで、勉強会も中止、かなぁ?」
「今週は金曜にスタジオ練習もあるもんね」

 カノンと琴音の言葉を聞いた大和が何事か文句を言っている。そんな賑やかな声を聞きながら、鈴は目の端の和真に意識を向けた。和真の表情はいつもの無表情で、そこから何かを読み取ることは不可能だ。

(涼しそうな顔、しちゃってさ)

 ドキドキしながら意識しているのが自分だけのような気がして、鈴は悔しくなってくる。

「そういや、みんなテストの結果どうだった? 俺はもう、バッチリって感じ!」

 大和の言葉に、今日返された教科の点数を思い出す。鈴がテスト対策で重点的に勉強していた数学の点数は確かに上がっていた。

「私、数学の赤点、免れたかも」
「マジっ? 俺も、今回まだ赤点ないんだよね! やっぱ、日々の積み重ねが大事ってーの?」
「あんたはまだ、安心出来ないでしょ」
「まぁな!」

 胸を張る大和に、カノンが深いため息を吐き出す。大和は今日も、大和なのだ。そんな話をしていると下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

「あ、チャイム」
「もうこんな時間なんだね。じゃあ、次に集まるのは球技大会の後だね」

 和真と琴音の言葉にその場にいた全員が帰り支度を進めて行く。
 今年は少し遅めの梅雨入りだとかで、外はしとしとと一日中雨が降っている。心なしか校舎の壁も結露しているように感じられ、学校中がジメジメとしている感覚だ。
 そんな廊下を歩いて、五人は昇降口へと向かうのだった。
 それから五人は雨の中、学校の最寄り駅へと向かって歩いて行く。道中の話題は尽きることはなく、しかし他愛のないものばかりであった。それは来週の球技大会の話だったり、今話題の歌手の話だったり。
 そうしている間に駅は目の前にまで迫ってくる。五人はそれぞれICカードを取り出すと改札をくぐった。

「じゃあ、また明日!」
「うん、また明日!」
「またね」

 それぞれが別れの挨拶を交わす。必然的にカノンと大和、琴音と和真、そして鈴の三路線に分かれホームへと降りていった。
 一人電車の到着を待っている鈴は気付いていない。反対のホームから和真が自分のことを見つめていたことに。

「和真くん、本当に鈴ちゃんのことが好きなんだね」

 和真の隣に立っていた琴音の言葉に、和真がゆっくりと顔を巡らす。琴音は和真の顔を見上げてにっこりと笑う。

「うまくいくといいね!」

 その琴音の笑顔に、和真はそっと視線を外すのだった。
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