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第五音
第五音⑤
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家に帰り着いた鈴は制服から私服へと着替えを済ませると、すぐにギターを手にし、毎日欠かすことのない練習を始めた。スマートフォンを手近のスマートフォン用スタンドに置き、何フレーズかの音色を奏でたときだった。
ピロン!
鈴のスマートフォンがメッセージの受信を知らせた。鈴はギターを抱え込むような形でスマートフォンへと手を伸ばす。液晶画面に表示されている名前は『小林和真』だった。
その名前を見た瞬間、鈴は放課後の出来事を思い出し、顔がボッと熱を持つ。鈴を水族館デートに誘ってきたときの和真の視線が脳裏をよぎったが、それは嫌な気分になるものではなかった。
(不思議……。あんなにも恥ずかしいのに、和真くんに見つめられるのはイヤじゃない……)
鈴は赤くなる顔をそのままに和真からのメッセージを開く。そこにはいつかのメッセージの時同様、和真らしい短文が綴られていた。
『明日、学校の駅に十時、待ち合わせでいいか?』
学校の最寄り駅を指定してきたのは、和真なりの気遣いだと鈴は分かった。和真が利用している地元の最寄り駅はきっと、中学が同じだった琴音と一緒だ。それは鈴の地元の最寄り駅とは反対方向にある。そして明日行こうとしている水族館は和真たちの最寄り駅方面にあるのだ。つまり和真は、一度学校の最寄り駅まで戻ることになる。
それが分かったためか、鈴は胸の辺りが暖かくなるのを感じた。
『和真くんの方の駅で待ち合わせでもいいよ?』
鈴がそう返信するとすぐに既読がつき、その後しばらくして、
『俺が鈴に早く会いたいだけだから。だから鈴は何も気にするな』
そんなメッセージが和真から届いた。嫌味のないストレートな和真の文章は、以前尾形から似たようなダイレクトメールを受け取っていた鈴の心を癒やしてくれるには十分だった。
(あの時は、ひたすら気持ち悪かったけど、今回は違う)
和真からの真っ直ぐな言葉は確かに恥ずかしさも感じる。しかしそれ以上に、
(嬉しい……)
鈴は自然に緩む顔を押さえられない。そのまま、
『ありがとう、和真くん。じゃあ明日の十時、学校の駅でね』
シンプルな文章ではあったが、鈴はそのまま送信ボタンを押すと鼻歌交じりでスマートフォンを置き、再びギターに向き合うのだった。
夜になり鈴は久々に勉強配信ではなくギターの弾き語り配信を始めていた。リスナーたちはこぞって鈴のテスト終了を祝ってくれている。
「ありがとう、みんな! みんなの応援もあって、何とか乗り切ることが出来ました! それと、皆さんが勧めてくれたガールズバンドの大会にも、無事に応募出来たので、これからまた、たくさん練習していきます!」
鈴はそう宣言すると、お疲れ様でした、と挨拶を行い配信終了ボタンを押す。久しぶりに出来たギターの弾き語り配信に満足していると、鈴のスマートフォンが着信を知らせるように震えた。鈴は急いでギターの片付けを済ませると、スマートフォンを手にし、電話に出る。
「はいはーい」
『あ、鈴? 配信、お疲れ様』
電話の相手はカノンだった。
カノンは鈴へのねぎらいの言葉をかけたあと、
『ねぇ、鈴。明日の、小林くんとのデートの準備、ちゃんと出来てる?』
「準備?」
鈴の返答にカノンは深いため息を吐き出した。
『そんなことだろうと思った』
カノンはそう言うと鈴にデートの準備について説明してくれた。いわく、デートに着ていく服を決めたり、その服に合ったメイクを決めたり、髪型を決めたり。
『デートはね、そのデートの日よりも前から、勝負は始まっているんだよ』
「勝負って……。ちょっと、大げさすぎない?」
鈴が笑いながら返すのをカノンは、甘い! と一喝する。
『甘すぎるよ、鈴! 初デートだよ? 初デートで手抜きする女を選ぶ男がいるっ?』
「確かに……?」
鈴は完全にカノンの勢いに気圧され気味だ。
『お節介かもしれないって思ったけど、やっぱり初デートは成功して欲しかったから、電話しちゃった』
だから鈴、カメラ起動して、とカノンが言う。鈴は言われるがままにカメラを起動させる。鈴のスマートフォンに部屋の様子が映る。それを見てカノンは、
『まずは服だね。最近暑くなってきたとは言え、水族館は冷房が効いているだろうから薄着になりすぎない方がいいね』
そう言うとカノンは鈴にクローゼットの中を見せて欲しいと頼んだ。鈴はそれに応じるとカメラでクローゼットの中を映す。クローゼットの中は衣替えも済まされており、夏服が多くある。
『やっぱり初デートはスカートがいいと思うんだよねぇ。でも小林くんの好みが全く読めない……』
カノンは鈴の服を見ながら、んー、と唸っている。
「じゃあさ、琴音も通話に呼ぶ?」
『それ、いい!』
鈴の提案にカノンが乗る。二人は一度、この個別通話を切ってから『ルナティック・ガールズ』のグループ通話を開始した。
『はいはーい!』
鈴の呼び出しにカノンがすぐに応じる。それから数度の呼び出しの後、
『もしもし?』
「あ、琴音? 急にゴメン、今、大丈夫?」
琴音も呼び出しに応じてくれた。鈴の問いかけに琴音は、大丈夫だけど、どうしたの? と尋ねてきた。その疑問に今度はカノンが答える。どうしても明日の鈴と和真の初デートを成功させたいのだと。
ピロン!
鈴のスマートフォンがメッセージの受信を知らせた。鈴はギターを抱え込むような形でスマートフォンへと手を伸ばす。液晶画面に表示されている名前は『小林和真』だった。
その名前を見た瞬間、鈴は放課後の出来事を思い出し、顔がボッと熱を持つ。鈴を水族館デートに誘ってきたときの和真の視線が脳裏をよぎったが、それは嫌な気分になるものではなかった。
(不思議……。あんなにも恥ずかしいのに、和真くんに見つめられるのはイヤじゃない……)
鈴は赤くなる顔をそのままに和真からのメッセージを開く。そこにはいつかのメッセージの時同様、和真らしい短文が綴られていた。
『明日、学校の駅に十時、待ち合わせでいいか?』
学校の最寄り駅を指定してきたのは、和真なりの気遣いだと鈴は分かった。和真が利用している地元の最寄り駅はきっと、中学が同じだった琴音と一緒だ。それは鈴の地元の最寄り駅とは反対方向にある。そして明日行こうとしている水族館は和真たちの最寄り駅方面にあるのだ。つまり和真は、一度学校の最寄り駅まで戻ることになる。
それが分かったためか、鈴は胸の辺りが暖かくなるのを感じた。
『和真くんの方の駅で待ち合わせでもいいよ?』
鈴がそう返信するとすぐに既読がつき、その後しばらくして、
『俺が鈴に早く会いたいだけだから。だから鈴は何も気にするな』
そんなメッセージが和真から届いた。嫌味のないストレートな和真の文章は、以前尾形から似たようなダイレクトメールを受け取っていた鈴の心を癒やしてくれるには十分だった。
(あの時は、ひたすら気持ち悪かったけど、今回は違う)
和真からの真っ直ぐな言葉は確かに恥ずかしさも感じる。しかしそれ以上に、
(嬉しい……)
鈴は自然に緩む顔を押さえられない。そのまま、
『ありがとう、和真くん。じゃあ明日の十時、学校の駅でね』
シンプルな文章ではあったが、鈴はそのまま送信ボタンを押すと鼻歌交じりでスマートフォンを置き、再びギターに向き合うのだった。
夜になり鈴は久々に勉強配信ではなくギターの弾き語り配信を始めていた。リスナーたちはこぞって鈴のテスト終了を祝ってくれている。
「ありがとう、みんな! みんなの応援もあって、何とか乗り切ることが出来ました! それと、皆さんが勧めてくれたガールズバンドの大会にも、無事に応募出来たので、これからまた、たくさん練習していきます!」
鈴はそう宣言すると、お疲れ様でした、と挨拶を行い配信終了ボタンを押す。久しぶりに出来たギターの弾き語り配信に満足していると、鈴のスマートフォンが着信を知らせるように震えた。鈴は急いでギターの片付けを済ませると、スマートフォンを手にし、電話に出る。
「はいはーい」
『あ、鈴? 配信、お疲れ様』
電話の相手はカノンだった。
カノンは鈴へのねぎらいの言葉をかけたあと、
『ねぇ、鈴。明日の、小林くんとのデートの準備、ちゃんと出来てる?』
「準備?」
鈴の返答にカノンは深いため息を吐き出した。
『そんなことだろうと思った』
カノンはそう言うと鈴にデートの準備について説明してくれた。いわく、デートに着ていく服を決めたり、その服に合ったメイクを決めたり、髪型を決めたり。
『デートはね、そのデートの日よりも前から、勝負は始まっているんだよ』
「勝負って……。ちょっと、大げさすぎない?」
鈴が笑いながら返すのをカノンは、甘い! と一喝する。
『甘すぎるよ、鈴! 初デートだよ? 初デートで手抜きする女を選ぶ男がいるっ?』
「確かに……?」
鈴は完全にカノンの勢いに気圧され気味だ。
『お節介かもしれないって思ったけど、やっぱり初デートは成功して欲しかったから、電話しちゃった』
だから鈴、カメラ起動して、とカノンが言う。鈴は言われるがままにカメラを起動させる。鈴のスマートフォンに部屋の様子が映る。それを見てカノンは、
『まずは服だね。最近暑くなってきたとは言え、水族館は冷房が効いているだろうから薄着になりすぎない方がいいね』
そう言うとカノンは鈴にクローゼットの中を見せて欲しいと頼んだ。鈴はそれに応じるとカメラでクローゼットの中を映す。クローゼットの中は衣替えも済まされており、夏服が多くある。
『やっぱり初デートはスカートがいいと思うんだよねぇ。でも小林くんの好みが全く読めない……』
カノンは鈴の服を見ながら、んー、と唸っている。
「じゃあさ、琴音も通話に呼ぶ?」
『それ、いい!』
鈴の提案にカノンが乗る。二人は一度、この個別通話を切ってから『ルナティック・ガールズ』のグループ通話を開始した。
『はいはーい!』
鈴の呼び出しにカノンがすぐに応じる。それから数度の呼び出しの後、
『もしもし?』
「あ、琴音? 急にゴメン、今、大丈夫?」
琴音も呼び出しに応じてくれた。鈴の問いかけに琴音は、大丈夫だけど、どうしたの? と尋ねてきた。その疑問に今度はカノンが答える。どうしても明日の鈴と和真の初デートを成功させたいのだと。
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