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第五音
第五音④
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それからの日々はすぐに過ぎていき、木曜から一週間のテスト期間が始まった。テスト期間中は半日で学校が終わるが居残りでのテスト勉強は許されていない。そのため鈴たちはファミレスで勉強会を行ったのだが、一週間もの間毎日ファミレスへは通えない。結果、テスト期間中の勉強は一人で行うことになった。
肝心のテストはというと、過去問を受けた教科以外も『ルナティック・ガールズ』の面々はスラスラと解くことができ、そのことに鈴は特に驚いていた。
(毎日の勉強って、めっちゃ大変だったけど、凄く大事なことなのかも……?)
鈴は次々とやって来るテストの教科を前に、そんなことを思うのだった。
「終わったー!」
「休みだー!」
最後の教科のテストがようやく終わった。
その瞬間、教室内が生徒たちの喜びの声に包まれる。今までのし掛かってきていたテストという重圧からの解放と、次にやって来る休みへの期待に胸が躍る。
それは鈴たち五人も例外ではなく、この日ばかりは放課後の勉強会ではなくテストの打ち上げをするために集まっていた。
「終わったー! 終わったよー! 長く苦しい戦いだった!」
鈴は両手を挙げて、この解放感にはしゃいでいる。カノンも琴音もそんな鈴を温かく見守ってくれている。そしてテストから解放されてはしゃいでいる人物がもう一人。
「夏休み! 海だろ? 花火大会だろ? 夏祭りだろ? うおー! 夏、万歳」
そう言っているのは大和だ。大和の思考は一足早く、夏休みに入っているのだった。
そうしてはしゃぐ二人を、カノンと琴音、和真は机に広げたスナック菓子に手を伸ばしながら、
「私、こんなに真面目に勉強したの、受験の時以来かもしれない」
「私も! 和真くんは?」
「俺は……、あー……、うん。俺も、定期テストでここまで勉強したのは初めてかも」
そんなことを話しながらスナック菓子を口へと運ぶ。
「なぁなぁ、明日からテスト休みだろっ? 何するっ?」
大和が突然、勢い込んでカノンたちに話しかけてくる。
「そう言えば、木曜と金曜はテスト休みだっけか」
カノンの言葉に大和はブンブンと頭を縦に振る。
五人の通う学校には、期末テスト後にテスト休みと言うものが存在していた。今回は水曜の今日までがテストだったため、明日から月曜の学校が始まるまでの土日を含めた四日間がテスト休みと言うことになる。
「せっかくだし、みんなでぱーっと、ゲーセンでも……」
「俺、パス」
大和の言葉を遮って和真が言う。そんな和真を大和が驚いたように見やると、和真はじっと鈴を見つめていたのだった。
その視線に気付いた鈴が和真を見ると、真剣な和真の視線とぶつかった。
「な、何? 和真くん、どうかした?」
鈴がドギマギしながら尋ねても、和真はすぐに返してはくれない。しかし視線を鈴から逸らすこともせず、その視線は鈴の鼓動を速くした。
「え? 今、何が起きてるの?」
「さぁ……」
この状況に大和は小声でカノンに尋ねたが、カノンが答えられるわけがない。そのまま全員で和真の動向を窺っていると、
「鈴、水族館へ行こう」
「へ?」
唐突すぎる和真の言葉に鈴の思考が停止する。固まってしまった鈴へ、和真が言葉を続ける。
「テスト休み、二人で水族館へ行こう」
和真の話し方に嘘や冗談は感じられない。それが一瞬、場の空気を凍らせたのだが、
「これはつまり、鈴へのデートの誘い?」
「えっ?」
カノンの言葉に鈴が声にならない声を上げた。
「みんなの前でデートに誘うとか、お前、やるな!」
大和が和真の腕を肘でつつきながら言う。そんな大和にされるがままの和真は気分を害した様子もなく鈴からの返事を待っていた。
(デートっ? ど、どうしよう……)
鈴の思考は完全にパニック状態だ。
そもそも高校二年のこの時まで、鈴の世界はギターと歌だけだった。そのため浮いた話などはなく、もちろんデートに誘われたこともなかった。
「鈴ちゃん、和真くんのこと嫌いなの?」
「きっ、嫌いじゃないよ! 全然、嫌いじゃない! むしろ感謝してるくらい!」
鈴の言葉に嘘はない。
今回、テスト対策やテスト本番がうまくいったのは、ひとえに和真の尽力があってのことだ。和真の教えなしで勉強をしていても、きっと挫折していただろう。そう言う意味では鈴は和真に感謝をしていた。
「じゃあさ、ちゃんとお返事しないとダメだよね? 鈴ちゃん」
優しい琴音の言葉に鈴の思考も少しずつ落ち着いてくる。
(一緒に水族館へ行くだけ。一緒に水族館へ行くだけ……)
鈴は何度かそう心の中で繰り返すと、
「分かった! 和真くん、一緒に水族館へ行こう!」
その鈴の返答に和真の表情が和らぐ。普段ポーカーフェイスの和真の意外な一面に、その場にいた全員が目を見張る。和真の小さな笑顔を向けられた鈴だけは心臓がドクンと大きく跳ねた。
(その笑顔はちょっと、反則だし、ズルイと思います!)
鈴の心の声が表に出ることはない。鈴だけではない。それはこの場にいた全員の心の叫びだった。
「水族館、明日でもいいか?」
そんな全員の心情など知らない和真がやわらかな声音で話を進める。その声に鈴は小さくこくりと頷いた。
「時間と待ち合わせ場所は後で連絡する」
「分かった」
和真の言葉に鈴が応える。
こうして明日、急遽鈴は和真と水族館デートを行うことになったのだった。
肝心のテストはというと、過去問を受けた教科以外も『ルナティック・ガールズ』の面々はスラスラと解くことができ、そのことに鈴は特に驚いていた。
(毎日の勉強って、めっちゃ大変だったけど、凄く大事なことなのかも……?)
鈴は次々とやって来るテストの教科を前に、そんなことを思うのだった。
「終わったー!」
「休みだー!」
最後の教科のテストがようやく終わった。
その瞬間、教室内が生徒たちの喜びの声に包まれる。今までのし掛かってきていたテストという重圧からの解放と、次にやって来る休みへの期待に胸が躍る。
それは鈴たち五人も例外ではなく、この日ばかりは放課後の勉強会ではなくテストの打ち上げをするために集まっていた。
「終わったー! 終わったよー! 長く苦しい戦いだった!」
鈴は両手を挙げて、この解放感にはしゃいでいる。カノンも琴音もそんな鈴を温かく見守ってくれている。そしてテストから解放されてはしゃいでいる人物がもう一人。
「夏休み! 海だろ? 花火大会だろ? 夏祭りだろ? うおー! 夏、万歳」
そう言っているのは大和だ。大和の思考は一足早く、夏休みに入っているのだった。
そうしてはしゃぐ二人を、カノンと琴音、和真は机に広げたスナック菓子に手を伸ばしながら、
「私、こんなに真面目に勉強したの、受験の時以来かもしれない」
「私も! 和真くんは?」
「俺は……、あー……、うん。俺も、定期テストでここまで勉強したのは初めてかも」
そんなことを話しながらスナック菓子を口へと運ぶ。
「なぁなぁ、明日からテスト休みだろっ? 何するっ?」
大和が突然、勢い込んでカノンたちに話しかけてくる。
「そう言えば、木曜と金曜はテスト休みだっけか」
カノンの言葉に大和はブンブンと頭を縦に振る。
五人の通う学校には、期末テスト後にテスト休みと言うものが存在していた。今回は水曜の今日までがテストだったため、明日から月曜の学校が始まるまでの土日を含めた四日間がテスト休みと言うことになる。
「せっかくだし、みんなでぱーっと、ゲーセンでも……」
「俺、パス」
大和の言葉を遮って和真が言う。そんな和真を大和が驚いたように見やると、和真はじっと鈴を見つめていたのだった。
その視線に気付いた鈴が和真を見ると、真剣な和真の視線とぶつかった。
「な、何? 和真くん、どうかした?」
鈴がドギマギしながら尋ねても、和真はすぐに返してはくれない。しかし視線を鈴から逸らすこともせず、その視線は鈴の鼓動を速くした。
「え? 今、何が起きてるの?」
「さぁ……」
この状況に大和は小声でカノンに尋ねたが、カノンが答えられるわけがない。そのまま全員で和真の動向を窺っていると、
「鈴、水族館へ行こう」
「へ?」
唐突すぎる和真の言葉に鈴の思考が停止する。固まってしまった鈴へ、和真が言葉を続ける。
「テスト休み、二人で水族館へ行こう」
和真の話し方に嘘や冗談は感じられない。それが一瞬、場の空気を凍らせたのだが、
「これはつまり、鈴へのデートの誘い?」
「えっ?」
カノンの言葉に鈴が声にならない声を上げた。
「みんなの前でデートに誘うとか、お前、やるな!」
大和が和真の腕を肘でつつきながら言う。そんな大和にされるがままの和真は気分を害した様子もなく鈴からの返事を待っていた。
(デートっ? ど、どうしよう……)
鈴の思考は完全にパニック状態だ。
そもそも高校二年のこの時まで、鈴の世界はギターと歌だけだった。そのため浮いた話などはなく、もちろんデートに誘われたこともなかった。
「鈴ちゃん、和真くんのこと嫌いなの?」
「きっ、嫌いじゃないよ! 全然、嫌いじゃない! むしろ感謝してるくらい!」
鈴の言葉に嘘はない。
今回、テスト対策やテスト本番がうまくいったのは、ひとえに和真の尽力があってのことだ。和真の教えなしで勉強をしていても、きっと挫折していただろう。そう言う意味では鈴は和真に感謝をしていた。
「じゃあさ、ちゃんとお返事しないとダメだよね? 鈴ちゃん」
優しい琴音の言葉に鈴の思考も少しずつ落ち着いてくる。
(一緒に水族館へ行くだけ。一緒に水族館へ行くだけ……)
鈴は何度かそう心の中で繰り返すと、
「分かった! 和真くん、一緒に水族館へ行こう!」
その鈴の返答に和真の表情が和らぐ。普段ポーカーフェイスの和真の意外な一面に、その場にいた全員が目を見張る。和真の小さな笑顔を向けられた鈴だけは心臓がドクンと大きく跳ねた。
(その笑顔はちょっと、反則だし、ズルイと思います!)
鈴の心の声が表に出ることはない。鈴だけではない。それはこの場にいた全員の心の叫びだった。
「水族館、明日でもいいか?」
そんな全員の心情など知らない和真がやわらかな声音で話を進める。その声に鈴は小さくこくりと頷いた。
「時間と待ち合わせ場所は後で連絡する」
「分かった」
和真の言葉に鈴が応える。
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