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第五音
第五音③
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和真が尾形の一件以来、鈴に対して恋愛感情めいた言葉を言ってはこないことを。
(もしかして、私が告白だと思ったあの言葉は、何かの間違いだったりする?)
そうだとしたら、あの一言に振り回されている自分はなんて滑稽だろうか。
しかし今更、和真に対しての普通が分からない。
(そもそも、普通って何?)
んー、んー、と唸っていると、五限目と六限目の間の短い休み時間が終わってしまうのだった。
放課後になり、鈴たちは過去問を受けたときと同様にカノンのクラスに集まっていた。そこには『ルナティック・ガールズ』のメンバー以外にも何故か大和と和真の姿もあった。
「『ルナティック・ガールズ』が公式大会に出る瞬間でしょ? そこは立ち会わないと、ファン一号失格ってものさ!」
大和は同席する理由をそう語った。大和らしい理由に三人は何も言えなくなってしまう。
そんな大和とは対照的に和真は涼しげな表情でこう言った。
「俺がいては、邪魔か?」
端整な顔立ちのポーカーフェイスでそう尋ねられては、鈴たちはもう何も言えない。そんな三人の様子に大和が不満そうな声を上げた。
「俺の時と態度が違うのは、和真がイケメンだからかっ? イケメン補正ってやつかっ?」
「当たり前でしょ」
カノンが当然という風を隠すことなく言う。他の誰でもないカノンに言われ、大和はショックを隠しきれない。そんな大和を、カノンはやれやれと言う風に眺めるのだった。
こうして賑やかに木村を待っていると、ゆっくりと教室の扉が開いて待ち人である木村が現れた。
「お前ら、テスト週間中だぞ? もう少し静かにしろ」
教室に入ってくるなり木村はそう言うと、鈴たちが集まっている机へと近付いてきた。
「それで、先生に用事ってことは、大会についてか?」
「はい」
木村からの問いかけに鈴がスマートフォンを片手に一歩前に出た。それから日曜日の昨日、琴音とカノンと三人で決めた、土曜にスタジオで録画した動画を木村に見せる。
木村の横には大和と和真もスマートフォンの画面を覗き込む形で立っている。再生中、二人の身体は自然と『ルナティック・ガールズ』が奏でる音色に合わせて、リズムに合わせて揺れている。それは鈴たちにとっては嬉しくもあり、しかしその光景に笑いを堪えるのに必死になるのだった。
そうしてあっという間に演奏時間が終わった。鈴たちが木村の言葉を待っていると、
「いいんじゃないか?」
その声はぶっきらぼうではあったものの、表情は口端が上がっている。木村からの許可に三人は小さくガッツポーズをする。
「応募するんだろう? 今できるようなら、済ませなさい」
木村の言葉に鈴はスマートフォンのブラウザを立ち上げると、ガールズバンドコンテストと書かれているウェブサイトを開いた。それから応募フォームを開くと必要事項を埋めていく。その間、カノンが木村へと下の名前を尋ねた。木村は黙って前の黒板に『木村誠《きむらまこと》』と書いた。
鈴はそれを見て学校関連の欄を埋めていき、木村にも内容の確認をして貰う。
「学校関連は大丈夫だが、お前たちの欄に不備はないか? しっかり全部の欄を埋めておけよ」
木村からの助言に鈴たち三人は記入欄を確認し、不備がないことを確かめてから動画を添付した。
「じゃ、じゃあ、送信するね?」
鈴が言うのにカノンと琴音が頷く。鈴はそれを見て、震える指で送信ボタンを押したのだった。
「送っちゃった……」
「グッジョブ」
鈴の言葉に琴音が返す。
「結果はいつ分かるんだ?」
「えっと……」
木村からの問いかけに鈴は再びスマートフォンを手にすると、ガールズバンドコンテストのウェブサイトから今後の日程を調べ、木村に伝えた。
「結果は来月の七月十五日で、予選通過者にメールが届くみたいです。その後の本選は夏休み中の八月一日です」
「そうか。じゃあまずは、木曜からのテストに集中しろ」
木村はそう言い残すとカノンのクラスを出て行くのだった。残された鈴たちは目の前に迫ってくる期末テストという現実に深いため息を吐き出した。
「テスト、かぁ……。ヤダなぁ……」
鈴が心底イヤそうに呟くのに、琴音が何かを思いついたように両手をパンと合わせた。それから全員にこう言う。
「ねぇ、勉強会、続けない?」
「え?」
「もちろん、みんなが良かったら、なんだけど……」
琴音の提案に鈴は考える。
勉強は嫌いだ。これは今でも変わってはいない。しかしみんなと放課後に集まってする勉強は違った。長時間でも集中できたし、何より分からないことはすぐに聞くことができた。一人で短時間集中してやる勉強も身についているとは思うのだが、一人はやはりどうしても、どうにかして勉強から逃げようと考えてしまう。
(そう考えたら、勉強会を続けるのは自分のためになるのかも?)
鈴がそう考えていると、
「俺は、続けてもいいぞ」
「ホントっ?」
和真の言葉に琴音の表情が明るくなる。カノンも、
「私も、続けていいって思う」
「カノンちゃん!」
カノンの賛同に琴音の声が弾む。それから二人は鈴の方を見た。カノンと琴音の視線を受けた鈴は、決断した。
「勉強会、続けよう!」
鈴の言葉にカノンと琴音がハイタッチをして喜ぶ。
「俺も、部活がない日は参加するぞ!」
「そうしな」
やる気に満ちている大和にカノンが返す。こうして五人は今後も授業後に勉強会を続けることになったのだった。
(もしかして、私が告白だと思ったあの言葉は、何かの間違いだったりする?)
そうだとしたら、あの一言に振り回されている自分はなんて滑稽だろうか。
しかし今更、和真に対しての普通が分からない。
(そもそも、普通って何?)
んー、んー、と唸っていると、五限目と六限目の間の短い休み時間が終わってしまうのだった。
放課後になり、鈴たちは過去問を受けたときと同様にカノンのクラスに集まっていた。そこには『ルナティック・ガールズ』のメンバー以外にも何故か大和と和真の姿もあった。
「『ルナティック・ガールズ』が公式大会に出る瞬間でしょ? そこは立ち会わないと、ファン一号失格ってものさ!」
大和は同席する理由をそう語った。大和らしい理由に三人は何も言えなくなってしまう。
そんな大和とは対照的に和真は涼しげな表情でこう言った。
「俺がいては、邪魔か?」
端整な顔立ちのポーカーフェイスでそう尋ねられては、鈴たちはもう何も言えない。そんな三人の様子に大和が不満そうな声を上げた。
「俺の時と態度が違うのは、和真がイケメンだからかっ? イケメン補正ってやつかっ?」
「当たり前でしょ」
カノンが当然という風を隠すことなく言う。他の誰でもないカノンに言われ、大和はショックを隠しきれない。そんな大和を、カノンはやれやれと言う風に眺めるのだった。
こうして賑やかに木村を待っていると、ゆっくりと教室の扉が開いて待ち人である木村が現れた。
「お前ら、テスト週間中だぞ? もう少し静かにしろ」
教室に入ってくるなり木村はそう言うと、鈴たちが集まっている机へと近付いてきた。
「それで、先生に用事ってことは、大会についてか?」
「はい」
木村からの問いかけに鈴がスマートフォンを片手に一歩前に出た。それから日曜日の昨日、琴音とカノンと三人で決めた、土曜にスタジオで録画した動画を木村に見せる。
木村の横には大和と和真もスマートフォンの画面を覗き込む形で立っている。再生中、二人の身体は自然と『ルナティック・ガールズ』が奏でる音色に合わせて、リズムに合わせて揺れている。それは鈴たちにとっては嬉しくもあり、しかしその光景に笑いを堪えるのに必死になるのだった。
そうしてあっという間に演奏時間が終わった。鈴たちが木村の言葉を待っていると、
「いいんじゃないか?」
その声はぶっきらぼうではあったものの、表情は口端が上がっている。木村からの許可に三人は小さくガッツポーズをする。
「応募するんだろう? 今できるようなら、済ませなさい」
木村の言葉に鈴はスマートフォンのブラウザを立ち上げると、ガールズバンドコンテストと書かれているウェブサイトを開いた。それから応募フォームを開くと必要事項を埋めていく。その間、カノンが木村へと下の名前を尋ねた。木村は黙って前の黒板に『木村誠《きむらまこと》』と書いた。
鈴はそれを見て学校関連の欄を埋めていき、木村にも内容の確認をして貰う。
「学校関連は大丈夫だが、お前たちの欄に不備はないか? しっかり全部の欄を埋めておけよ」
木村からの助言に鈴たち三人は記入欄を確認し、不備がないことを確かめてから動画を添付した。
「じゃ、じゃあ、送信するね?」
鈴が言うのにカノンと琴音が頷く。鈴はそれを見て、震える指で送信ボタンを押したのだった。
「送っちゃった……」
「グッジョブ」
鈴の言葉に琴音が返す。
「結果はいつ分かるんだ?」
「えっと……」
木村からの問いかけに鈴は再びスマートフォンを手にすると、ガールズバンドコンテストのウェブサイトから今後の日程を調べ、木村に伝えた。
「結果は来月の七月十五日で、予選通過者にメールが届くみたいです。その後の本選は夏休み中の八月一日です」
「そうか。じゃあまずは、木曜からのテストに集中しろ」
木村はそう言い残すとカノンのクラスを出て行くのだった。残された鈴たちは目の前に迫ってくる期末テストという現実に深いため息を吐き出した。
「テスト、かぁ……。ヤダなぁ……」
鈴が心底イヤそうに呟くのに、琴音が何かを思いついたように両手をパンと合わせた。それから全員にこう言う。
「ねぇ、勉強会、続けない?」
「え?」
「もちろん、みんなが良かったら、なんだけど……」
琴音の提案に鈴は考える。
勉強は嫌いだ。これは今でも変わってはいない。しかしみんなと放課後に集まってする勉強は違った。長時間でも集中できたし、何より分からないことはすぐに聞くことができた。一人で短時間集中してやる勉強も身についているとは思うのだが、一人はやはりどうしても、どうにかして勉強から逃げようと考えてしまう。
(そう考えたら、勉強会を続けるのは自分のためになるのかも?)
鈴がそう考えていると、
「俺は、続けてもいいぞ」
「ホントっ?」
和真の言葉に琴音の表情が明るくなる。カノンも、
「私も、続けていいって思う」
「カノンちゃん!」
カノンの賛同に琴音の声が弾む。それから二人は鈴の方を見た。カノンと琴音の視線を受けた鈴は、決断した。
「勉強会、続けよう!」
鈴の言葉にカノンと琴音がハイタッチをして喜ぶ。
「俺も、部活がない日は参加するぞ!」
「そうしな」
やる気に満ちている大和にカノンが返す。こうして五人は今後も授業後に勉強会を続けることになったのだった。
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