27 / 51
第五音
第五音②
しおりを挟む
「大和から朗報。五限目、小林くんのクラスが木村の授業だって」
「和真くんのクラス?」
「五限目って言ったら、昼休みのすぐ後じゃん! 琴音、和真くんのクラスに案内よろしく!」
大和からもたらされた情報に鈴が急いで残っていた昼食をかき込む。それを見ていた琴音も慌てて残っていた弁当を平らげていく。
そうして急いで昼食を食べ終えた三人は琴音の案内で、教室棟にある和真のクラスへと急ぐのだった。
「ここだよ」
琴音の案内でやって来た教室は、教室棟の端だった。奥まった場所にあるこの教室は他の教室に比べて広いという噂だ。鈴たちはその教室の扉を開けると中を確認した。和真はと言うと、自分の席で突っ伏して居眠りをしている。
鈴たちは教室の出入り口付近でお喋りをしていた女子へと声をかけた。
「あの、小林和真くんを呼んでくれませんか?」
鈴の声に女子二人組は一瞬だけ嫌そうな顔をしたのだが、黙って和真を起こしに行ってくれる。女子二人に起こされた和真は寝ぼけ眼で鈴たちの立っている教室の出入り口を見た。目が合った鈴は一瞬だけドキッとしてしまったが、すぐに平静を装って、ちょいちょい、と和真を手招きした。
和真は緩慢な動きで立ち上がると鈴たちの方へと歩いて行く。そんな和真の様子に、彼を呼びに行った女子二人はたいそう驚いたようで、何やらヒソヒソとお喋りを再開した。
「どうした?」
出入り口まで来た和真が教室の外へと出ながら鈴たち三人へと声をかける。鈴たちは和真の場所を空けながら見上げて口を開いた。
「和真くんって、この後、木村先生の授業だよね?」
「あー……、確かそうだったはず?」
琴音の言葉に和真の返答は何故か疑問形だ。どうやらまだ少し寝ぼけている。
「放課後、カノンの教室に来て欲しいって、木村に伝えてくれないかな?」
上目遣いでの鈴からの頼みに和真の目が覚める。和真は鈴の様子に軽く目を見張ると、そのまま何も言わずにじっと鈴を見つめていた。その視線に鈴はドキドキしながらも尋ねる。
「ダメ?」
「ダメじゃない」
「良かったぁ~……」
和真からの即答に鈴は胸をなで下ろした。
「じゃあさ、木村へ伝言できたら、鈴にメッセージを送ってよ」
「それ、いい!」
カノンの提案に琴音が手を叩く。鈴が驚いて二人を見るが、カノンと琴音はそんな鈴にニヤニヤ笑いを返すだけだった。その間に和真は自分のズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、連絡先を交換する準備を進めている。それを見ていたカノンが鈴の脇腹を小突いた。
「ほら、鈴も早く」
カノンにそう言われ、鈴も胸ポケットからスマートフォンを取り出すと、和真との位置情報から連絡先を交換した。
「これで良し! じゃあ小林くん、木村の件、よろしくね!」
何故か鈴と和真の連絡先交換にカノンが満足げだ。カノンの言葉を受けた和真は、うす、と短く答えると鈴に向き直り、
「後で連絡する」
それだけを言い残して自分の席へと戻っていくのだった。
鈴たちも和真のクラスに背を向けると自分たちの教室へと戻っていく。その道すがら、カノンがウキウキした様子で鈴へと声をかけた。
「やったじゃない、鈴!」
「な、何の話?」
鈴はカノンの勢いに気圧されてしまい、思わずどもってしまう。そんな鈴へカノンは勢いを殺すことなく言った。
「小林くんの連絡先だよ! ゲット出来て良かったね、鈴!」
「後で連絡する、だって!」
カノンの言葉に続き、琴音がわざと低い声で言う。大方、和真の声真似をしているに違いない。その後、二人はキャッキャッと楽しそうにしている。
「もう、二人とも! 和真くんからの連絡は何も、私じゃなくても良かったじゃん! 琴音でも良かったじゃん!」
「私、和真くんの連絡先は知らないよ?」
「ウソっ?」
「ホント」
琴音からの言葉は鈴にとって寝耳に水であった。中学から仲の良い二人はもうとっくに連絡先を交換していると鈴は思っていたのだ。
「安心して、鈴ちゃん。この中で和真くんの連絡先を知っているのは、鈴ちゃんだけだから」
琴音はそう言うと、にっこりと微笑んだのだった。
五限目の授業が終了し休み時間に入ってからしばらくして後、鈴のスマートフォンが震えた。胸ポケットからスマートフォンを取り出して液晶画面を見てみると、
(あ、和真くん……)
そこに表示されていたのは和真の名前だった。鈴はドキドキしながら届いたメッセージを開く。そこには短く『放課後の件、木村に伝えた』と書かれていた。あまりにも短すぎるその文章に鈴はなんだか落胆してしまう。
(って、何を期待しているのっ? 私!)
鈴はブンブンと首を振るとすぐに和真へ『ありがとう』と返信を送る。その後、鈴も短文で『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージに木村の件を書いて送った。すぐにそのメッセージには既読が二件つく。それを見た鈴は一仕事終えた気分になる。
そうして考えてしまう。
「和真くんのクラス?」
「五限目って言ったら、昼休みのすぐ後じゃん! 琴音、和真くんのクラスに案内よろしく!」
大和からもたらされた情報に鈴が急いで残っていた昼食をかき込む。それを見ていた琴音も慌てて残っていた弁当を平らげていく。
そうして急いで昼食を食べ終えた三人は琴音の案内で、教室棟にある和真のクラスへと急ぐのだった。
「ここだよ」
琴音の案内でやって来た教室は、教室棟の端だった。奥まった場所にあるこの教室は他の教室に比べて広いという噂だ。鈴たちはその教室の扉を開けると中を確認した。和真はと言うと、自分の席で突っ伏して居眠りをしている。
鈴たちは教室の出入り口付近でお喋りをしていた女子へと声をかけた。
「あの、小林和真くんを呼んでくれませんか?」
鈴の声に女子二人組は一瞬だけ嫌そうな顔をしたのだが、黙って和真を起こしに行ってくれる。女子二人に起こされた和真は寝ぼけ眼で鈴たちの立っている教室の出入り口を見た。目が合った鈴は一瞬だけドキッとしてしまったが、すぐに平静を装って、ちょいちょい、と和真を手招きした。
和真は緩慢な動きで立ち上がると鈴たちの方へと歩いて行く。そんな和真の様子に、彼を呼びに行った女子二人はたいそう驚いたようで、何やらヒソヒソとお喋りを再開した。
「どうした?」
出入り口まで来た和真が教室の外へと出ながら鈴たち三人へと声をかける。鈴たちは和真の場所を空けながら見上げて口を開いた。
「和真くんって、この後、木村先生の授業だよね?」
「あー……、確かそうだったはず?」
琴音の言葉に和真の返答は何故か疑問形だ。どうやらまだ少し寝ぼけている。
「放課後、カノンの教室に来て欲しいって、木村に伝えてくれないかな?」
上目遣いでの鈴からの頼みに和真の目が覚める。和真は鈴の様子に軽く目を見張ると、そのまま何も言わずにじっと鈴を見つめていた。その視線に鈴はドキドキしながらも尋ねる。
「ダメ?」
「ダメじゃない」
「良かったぁ~……」
和真からの即答に鈴は胸をなで下ろした。
「じゃあさ、木村へ伝言できたら、鈴にメッセージを送ってよ」
「それ、いい!」
カノンの提案に琴音が手を叩く。鈴が驚いて二人を見るが、カノンと琴音はそんな鈴にニヤニヤ笑いを返すだけだった。その間に和真は自分のズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、連絡先を交換する準備を進めている。それを見ていたカノンが鈴の脇腹を小突いた。
「ほら、鈴も早く」
カノンにそう言われ、鈴も胸ポケットからスマートフォンを取り出すと、和真との位置情報から連絡先を交換した。
「これで良し! じゃあ小林くん、木村の件、よろしくね!」
何故か鈴と和真の連絡先交換にカノンが満足げだ。カノンの言葉を受けた和真は、うす、と短く答えると鈴に向き直り、
「後で連絡する」
それだけを言い残して自分の席へと戻っていくのだった。
鈴たちも和真のクラスに背を向けると自分たちの教室へと戻っていく。その道すがら、カノンがウキウキした様子で鈴へと声をかけた。
「やったじゃない、鈴!」
「な、何の話?」
鈴はカノンの勢いに気圧されてしまい、思わずどもってしまう。そんな鈴へカノンは勢いを殺すことなく言った。
「小林くんの連絡先だよ! ゲット出来て良かったね、鈴!」
「後で連絡する、だって!」
カノンの言葉に続き、琴音がわざと低い声で言う。大方、和真の声真似をしているに違いない。その後、二人はキャッキャッと楽しそうにしている。
「もう、二人とも! 和真くんからの連絡は何も、私じゃなくても良かったじゃん! 琴音でも良かったじゃん!」
「私、和真くんの連絡先は知らないよ?」
「ウソっ?」
「ホント」
琴音からの言葉は鈴にとって寝耳に水であった。中学から仲の良い二人はもうとっくに連絡先を交換していると鈴は思っていたのだ。
「安心して、鈴ちゃん。この中で和真くんの連絡先を知っているのは、鈴ちゃんだけだから」
琴音はそう言うと、にっこりと微笑んだのだった。
五限目の授業が終了し休み時間に入ってからしばらくして後、鈴のスマートフォンが震えた。胸ポケットからスマートフォンを取り出して液晶画面を見てみると、
(あ、和真くん……)
そこに表示されていたのは和真の名前だった。鈴はドキドキしながら届いたメッセージを開く。そこには短く『放課後の件、木村に伝えた』と書かれていた。あまりにも短すぎるその文章に鈴はなんだか落胆してしまう。
(って、何を期待しているのっ? 私!)
鈴はブンブンと首を振るとすぐに和真へ『ありがとう』と返信を送る。その後、鈴も短文で『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージに木村の件を書いて送った。すぐにそのメッセージには既読が二件つく。それを見た鈴は一仕事終えた気分になる。
そうして考えてしまう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる