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第五音
第五音①
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テスト週間が始まって最初のスタジオ練習の日。鈴たち『ルナティック・ガールズ』はゴスロリ服に身を包んでいた。ヘアセット、メイクもしっかりと行っているこの日は、部活も学校も休みの土曜日だ。
そしてこの日がガールズバンド大会へ応募するための映像を記録できる最後の日だった。
「準備、オッケー?」
「オッケー!」
「大丈夫!」
鈴の言葉にカノンと琴音が笑顔を返す。鈴はスマートフォンのスタンドに自分のスマートフォンを置いてカメラを動画モードにするとスタートボタンを押した。それから自分の演奏するためのポジションにつく。
鈴が位置についたのを見たカノンが鈴と琴音に目配せをする。演奏前のピーンと張り詰めた空気がスタジオ内を包む。カノンからの目配せに頷きで返した二人を見て、カノンがドラムステッキをカン、カン、カンと三度鳴らす。
その後、ジャーンとギターが鳴り響いた。そのギターの音を追うようにドラムとベースがリズムを刻む。そのまま数小節の演奏の後、鈴がスタンドマイクの前に立ち力強い歌声で曲に彩りを添えていく。
笑顔で歌う鈴にリズムを刻むカノンも笑顔だ。そんな二人の楽しそうな様子に、ベースを奏でる琴音の表情も自然と柔らかくなる。
三人は自分たちの音が一つに溶け合うこの瞬間がたまらなく好きだった。自分たちの音と声が共鳴し、一つの世界を作っていく。
そうしてあっという間に一曲分の約三分半の演奏が終わる。音の余韻をじっくりと味わった後、鈴がスマートフォンに近付いて動画の撮影を終了した。
「オッケー! ちゃんと撮れてるかカノンと琴音も確認してー!」
「はーい!」
「分かったー!」
鈴の言葉に琴音とカノンが楽器とドラムステッキを置いて鈴の元へとやって来る。それから三人は先程の自分たちの演奏を確認していった。
「悪くないんじゃない?」
動画を確認し終えたカノンの一言目だ。琴音もそのカノンの言葉にコクコクと頷いている。しかし鈴だけはなんだか物足りなさそうな顔をしていた。
「これさ、映像審査を通過できるかな?」
「どういうこと?」
鈴の疑問にカノンが続ける。それに鈴が答えた。
「せっかくの大会だもん、やっぱり本選には出たいじゃない?」
そのためにはやはり、演奏技術はもちろんのこと、魅せる技術も必要になってくるのではないかと鈴は考える。演奏技術だけを問うのであれば、何も映像という審査方法ではなくても良いのだ。
「そこをあえて映像審査にしてるってことは、ライブでやったときの演奏が見たいってことだと思うの。つまり、お客さんへの『魅せるライブ』が映像に収まってないとダメってことで……」
「鈴ちゃんは、さっきの演奏にお客さんへのアピールが足りなかったって言いたいのかな?」
「そう、それ!」
琴音からの言葉に鈴が力強く肯定した。それを聞いたカノンが先程の動画を思い返しながら口を開いた。
「確かに、私たちは楽しく演奏できたけど、お客さんのことは意識してなかったかも」
「でしょ? 私もそう。だから今度はお客さんがいるって想定して、撮ってみない? まだスタジオの時間はあるし」
「そうだね。何回か撮ってもいいかも」
鈴の提案に琴音も賛同し、三人はその後に三本の動画を撮ることになる。一時間というスタジオ練習の時間内にはそれが限界だったのだ。そうして撮った動画は鈴のスマートフォンからカノンと琴音へと送られた。
「テスト勉強もあるけど、どの動画が良かったか決めて連絡して。それで決まった動画を月曜に木村に見せて、応募しちゃおう」
「分かった」
「了解」
鈴の言葉に琴音とカノンが返事をし、三人はスタジオを後にして地下鉄の駅へと向かう。
外は暖かいを通り越し、少し汗ばむ陽気だ。それでも時折吹く風はまだ乾いており、爽やかで涼しい。日の出ている時間もどんどんと延びていき、三人に夏の訪れを感じさせるのだった。
月曜日。
テスト週間中は職員室への生徒の入室が禁止されているため、鈴たちは授業の合間にある休み時間で木村を探した。しかしいざ探してみると見つからないもので、鈴たちはヤキモキしていたのだった。
「これはもう、木村先生の授業の後を狙うしかないかも……」
昼休みになり、三人は一緒に昼食を摂っていた。午前中を使った木村の捜索は失敗に終わってしまったため、午後はどうしようかと話をしていたのである。そこで琴音が提案してきたのだが、
「ウチ、午後に木村の授業ないよ?」
「私のクラスもない」
鈴もカノンも午後に木村の授業はなかった。もちろん提案した琴音のクラスも、午後の授業に木村が担当している教科の授業はない。
「なんで三人もいて一人も木村の授業がないのっ?」
「意識してなかったけど、月曜は見事に木村先生の授業がみんなないんだね」
鈴と琴音が落胆している中、一人昼食を食べ終えスマートフォンをいじっていたカノンが突然、あっ、と声を上げた。鈴と琴音がカノンへと視線を向けると、カノンは二人に向かってニヤッと笑ってみせる。
そしてこの日がガールズバンド大会へ応募するための映像を記録できる最後の日だった。
「準備、オッケー?」
「オッケー!」
「大丈夫!」
鈴の言葉にカノンと琴音が笑顔を返す。鈴はスマートフォンのスタンドに自分のスマートフォンを置いてカメラを動画モードにするとスタートボタンを押した。それから自分の演奏するためのポジションにつく。
鈴が位置についたのを見たカノンが鈴と琴音に目配せをする。演奏前のピーンと張り詰めた空気がスタジオ内を包む。カノンからの目配せに頷きで返した二人を見て、カノンがドラムステッキをカン、カン、カンと三度鳴らす。
その後、ジャーンとギターが鳴り響いた。そのギターの音を追うようにドラムとベースがリズムを刻む。そのまま数小節の演奏の後、鈴がスタンドマイクの前に立ち力強い歌声で曲に彩りを添えていく。
笑顔で歌う鈴にリズムを刻むカノンも笑顔だ。そんな二人の楽しそうな様子に、ベースを奏でる琴音の表情も自然と柔らかくなる。
三人は自分たちの音が一つに溶け合うこの瞬間がたまらなく好きだった。自分たちの音と声が共鳴し、一つの世界を作っていく。
そうしてあっという間に一曲分の約三分半の演奏が終わる。音の余韻をじっくりと味わった後、鈴がスマートフォンに近付いて動画の撮影を終了した。
「オッケー! ちゃんと撮れてるかカノンと琴音も確認してー!」
「はーい!」
「分かったー!」
鈴の言葉に琴音とカノンが楽器とドラムステッキを置いて鈴の元へとやって来る。それから三人は先程の自分たちの演奏を確認していった。
「悪くないんじゃない?」
動画を確認し終えたカノンの一言目だ。琴音もそのカノンの言葉にコクコクと頷いている。しかし鈴だけはなんだか物足りなさそうな顔をしていた。
「これさ、映像審査を通過できるかな?」
「どういうこと?」
鈴の疑問にカノンが続ける。それに鈴が答えた。
「せっかくの大会だもん、やっぱり本選には出たいじゃない?」
そのためにはやはり、演奏技術はもちろんのこと、魅せる技術も必要になってくるのではないかと鈴は考える。演奏技術だけを問うのであれば、何も映像という審査方法ではなくても良いのだ。
「そこをあえて映像審査にしてるってことは、ライブでやったときの演奏が見たいってことだと思うの。つまり、お客さんへの『魅せるライブ』が映像に収まってないとダメってことで……」
「鈴ちゃんは、さっきの演奏にお客さんへのアピールが足りなかったって言いたいのかな?」
「そう、それ!」
琴音からの言葉に鈴が力強く肯定した。それを聞いたカノンが先程の動画を思い返しながら口を開いた。
「確かに、私たちは楽しく演奏できたけど、お客さんのことは意識してなかったかも」
「でしょ? 私もそう。だから今度はお客さんがいるって想定して、撮ってみない? まだスタジオの時間はあるし」
「そうだね。何回か撮ってもいいかも」
鈴の提案に琴音も賛同し、三人はその後に三本の動画を撮ることになる。一時間というスタジオ練習の時間内にはそれが限界だったのだ。そうして撮った動画は鈴のスマートフォンからカノンと琴音へと送られた。
「テスト勉強もあるけど、どの動画が良かったか決めて連絡して。それで決まった動画を月曜に木村に見せて、応募しちゃおう」
「分かった」
「了解」
鈴の言葉に琴音とカノンが返事をし、三人はスタジオを後にして地下鉄の駅へと向かう。
外は暖かいを通り越し、少し汗ばむ陽気だ。それでも時折吹く風はまだ乾いており、爽やかで涼しい。日の出ている時間もどんどんと延びていき、三人に夏の訪れを感じさせるのだった。
月曜日。
テスト週間中は職員室への生徒の入室が禁止されているため、鈴たちは授業の合間にある休み時間で木村を探した。しかしいざ探してみると見つからないもので、鈴たちはヤキモキしていたのだった。
「これはもう、木村先生の授業の後を狙うしかないかも……」
昼休みになり、三人は一緒に昼食を摂っていた。午前中を使った木村の捜索は失敗に終わってしまったため、午後はどうしようかと話をしていたのである。そこで琴音が提案してきたのだが、
「ウチ、午後に木村の授業ないよ?」
「私のクラスもない」
鈴もカノンも午後に木村の授業はなかった。もちろん提案した琴音のクラスも、午後の授業に木村が担当している教科の授業はない。
「なんで三人もいて一人も木村の授業がないのっ?」
「意識してなかったけど、月曜は見事に木村先生の授業がみんなないんだね」
鈴と琴音が落胆している中、一人昼食を食べ終えスマートフォンをいじっていたカノンが突然、あっ、と声を上げた。鈴と琴音がカノンへと視線を向けると、カノンは二人に向かってニヤッと笑ってみせる。
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