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第四音
第四音⑦
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大和は最初こそ木村にペコペコと頭を下げていたのだが、その後大きく胸を反ると木村に何事かを訴えているようだ。
「大和くん、何を話しているのかな?」
「さぁ……」
琴音と鈴が頭をひねっていると、話を終えたらしい大和が意気揚々と教室に入ってきた。そして木村は来た道を戻っていく。それを見ていた三人はイヤな予感がした。
「やぁやぁ、『ルナティック・ガールズ』の諸君!」
「大和……。アンタ、木村と何を話していたのよ?」
カノンの疑問は三人とも共通だった。しかし更に共通することは、この質問の答えを聞きたくないという気持ちもある。そんな三人の気持ちとは裏腹に大和は誇らしげに応えた。
「俺もテストを受けることになった!」
「はぁ?」
カノンの反応はもっともだ。それに対して大和はまぁまぁ、と手を振る。
「『ルナティック・ガールズ』の三人の邪魔はしないからさ!」
聞けば大和は、三人のことが心配で教室をこっそり覗いていたところを木村に捕まった。ここまでは三人が見ていた通りである。そこで木村は大和にこう提案してきた。
『平野もテストを受けるか?』
それを聞いた大和は、始めは遠慮した。もちろん『ルナティック・ガールズ』の足を引っ張りたくないためだ。しかし木村は大和も勉強していたことを知っていた。知った上で、こう条件を出してきた。
『平野も目標点以上取ったら、あのバンドガールズたちの大会出場に加え、今後の活動を先生が支援してやる。どうだ?』
木村のこの条件を『ルナティック・ガールズ』のファン一号を自負している大和が断る理由はない。大和は二つ返事でテストを受けることを了承したのだった。
「マジ?」
鈴が呆然と呟くのに、大和は胸を張って応える。
「大丈夫だって、鈴ちゃん! 俺が受けるのは日本史だし! 俺、暗記は得意なんで」
大和の自信に満ちた態度に鈴が絶句していると、カノンが呆れたように口を開いた。
「アンタ、目標点は何点なのよ?」
「カノンとお揃いの七〇点!」
大和の自信はどこから来るのか。大きく胸を張って応える大和の様子に一抹の不安を感じる三人だった。
「ま、まぁ、大和がもし駄目だったとしても、私たちの条件に変わりはないし、ね?」
「ちょっと、カノン。それ、どう言う意味? 俺、絶対七〇点以上取るからね?」
場を取りなすようなカノンの言葉に大和が不服さをあらわにする。そんなことを話していると教室の前の扉が開いて木村が現れた。
「お前たち、始めるぞ」
その声に鈴たちは会話をやめる。その後、木村の指定した席に各人が座る。本番のテスト同様、机の上には消しゴムとシャープペンシルのみが置かれていた。それから四人の元に木村が用意した過去問が伏せて置かれていった。
一気に緊張感が増す。
「始めっ!」
木村からの鋭いかけ声で四人は伏せられた問題用紙と解答用紙を表にひっくり返した。
それから四人は集中して問題に取り組む。木村が用意した過去問は今回の期末テストの範囲にピッタリと当てはまり、まるで本番のテストを受けているかのようだった。しかし大和を除く三人はこの日のために毎日、放課後に勉強をしてきており、準備が整っている。そのため自分たちでも驚くほどにスラスラと問題を解くことができ、時間も余った。鈴はその余った時間で見直しを行う。
(こんなに余裕のあるテストなんて初めて……)
鈴はそう思いながら、計算ミスがないかを一つ一つ丁寧に見直していく。そうしているうちに時間は過ぎていき、
「やめっ!」
再び木村の鋭い声で鈴たちはシャープペンシルを置いた。緊張から解放されてどっと力が抜けていく。ふぅ……、と一息ついていると、木村から答えを取りに来いと言われた。どうやら答え合わせは自分たちで行うようだ。
「ちゃんと点数まで出すんだぞ?」
木村に言われ、四人は赤ペンを取り出して丸付けを始めた。
「うおっ! うわっ! あー!」
「大和、うるさい」
丸付けを開始した直後に大和の一喜一憂する声が響き、カノンがそれを注意する。
「どうだ? 点数まで出たか? じゃあ、順番に聞いていくぞ」
「先生! 俺、まだ計算途中なんで、最後にしてください!」
「それならバンドガールズたちから聞いていこうか。まずは清水」
「はっ、はい!」
木村に最初に指名されたのは琴音だった。琴音の目標点数は五〇点である。
「私は、六五点でした」
「すごいじゃん、琴音!」
苦手な教科での大幅な点数アップに、思わず鈴が声を上げる。
「じゃあ次、長谷川」
「七三点です」
「おぉ!」
カノンの目標点は七〇点だった。こちらも目標達成ということになる。その高得点に思わず鈴が感嘆の声を上げた。
「最後、桜井」
「私、は……」
鈴が恥ずかしそうに口ごもる。それから意を決して、
「私は、四五点です」
鈴の言葉に琴音とカノンがホッと胸をなで下ろした。鈴の目標点は三〇点だったのだ。こちらも大幅な点数アップである。
「先生、約束です。大会出場の許可をください」
カノンの言葉に琴音と鈴が頭を下げる。その瞬間、木村の硬かった雰囲気が一瞬だけ和らいだ気がした。
「大和くん、何を話しているのかな?」
「さぁ……」
琴音と鈴が頭をひねっていると、話を終えたらしい大和が意気揚々と教室に入ってきた。そして木村は来た道を戻っていく。それを見ていた三人はイヤな予感がした。
「やぁやぁ、『ルナティック・ガールズ』の諸君!」
「大和……。アンタ、木村と何を話していたのよ?」
カノンの疑問は三人とも共通だった。しかし更に共通することは、この質問の答えを聞きたくないという気持ちもある。そんな三人の気持ちとは裏腹に大和は誇らしげに応えた。
「俺もテストを受けることになった!」
「はぁ?」
カノンの反応はもっともだ。それに対して大和はまぁまぁ、と手を振る。
「『ルナティック・ガールズ』の三人の邪魔はしないからさ!」
聞けば大和は、三人のことが心配で教室をこっそり覗いていたところを木村に捕まった。ここまでは三人が見ていた通りである。そこで木村は大和にこう提案してきた。
『平野もテストを受けるか?』
それを聞いた大和は、始めは遠慮した。もちろん『ルナティック・ガールズ』の足を引っ張りたくないためだ。しかし木村は大和も勉強していたことを知っていた。知った上で、こう条件を出してきた。
『平野も目標点以上取ったら、あのバンドガールズたちの大会出場に加え、今後の活動を先生が支援してやる。どうだ?』
木村のこの条件を『ルナティック・ガールズ』のファン一号を自負している大和が断る理由はない。大和は二つ返事でテストを受けることを了承したのだった。
「マジ?」
鈴が呆然と呟くのに、大和は胸を張って応える。
「大丈夫だって、鈴ちゃん! 俺が受けるのは日本史だし! 俺、暗記は得意なんで」
大和の自信に満ちた態度に鈴が絶句していると、カノンが呆れたように口を開いた。
「アンタ、目標点は何点なのよ?」
「カノンとお揃いの七〇点!」
大和の自信はどこから来るのか。大きく胸を張って応える大和の様子に一抹の不安を感じる三人だった。
「ま、まぁ、大和がもし駄目だったとしても、私たちの条件に変わりはないし、ね?」
「ちょっと、カノン。それ、どう言う意味? 俺、絶対七〇点以上取るからね?」
場を取りなすようなカノンの言葉に大和が不服さをあらわにする。そんなことを話していると教室の前の扉が開いて木村が現れた。
「お前たち、始めるぞ」
その声に鈴たちは会話をやめる。その後、木村の指定した席に各人が座る。本番のテスト同様、机の上には消しゴムとシャープペンシルのみが置かれていた。それから四人の元に木村が用意した過去問が伏せて置かれていった。
一気に緊張感が増す。
「始めっ!」
木村からの鋭いかけ声で四人は伏せられた問題用紙と解答用紙を表にひっくり返した。
それから四人は集中して問題に取り組む。木村が用意した過去問は今回の期末テストの範囲にピッタリと当てはまり、まるで本番のテストを受けているかのようだった。しかし大和を除く三人はこの日のために毎日、放課後に勉強をしてきており、準備が整っている。そのため自分たちでも驚くほどにスラスラと問題を解くことができ、時間も余った。鈴はその余った時間で見直しを行う。
(こんなに余裕のあるテストなんて初めて……)
鈴はそう思いながら、計算ミスがないかを一つ一つ丁寧に見直していく。そうしているうちに時間は過ぎていき、
「やめっ!」
再び木村の鋭い声で鈴たちはシャープペンシルを置いた。緊張から解放されてどっと力が抜けていく。ふぅ……、と一息ついていると、木村から答えを取りに来いと言われた。どうやら答え合わせは自分たちで行うようだ。
「ちゃんと点数まで出すんだぞ?」
木村に言われ、四人は赤ペンを取り出して丸付けを始めた。
「うおっ! うわっ! あー!」
「大和、うるさい」
丸付けを開始した直後に大和の一喜一憂する声が響き、カノンがそれを注意する。
「どうだ? 点数まで出たか? じゃあ、順番に聞いていくぞ」
「先生! 俺、まだ計算途中なんで、最後にしてください!」
「それならバンドガールズたちから聞いていこうか。まずは清水」
「はっ、はい!」
木村に最初に指名されたのは琴音だった。琴音の目標点数は五〇点である。
「私は、六五点でした」
「すごいじゃん、琴音!」
苦手な教科での大幅な点数アップに、思わず鈴が声を上げる。
「じゃあ次、長谷川」
「七三点です」
「おぉ!」
カノンの目標点は七〇点だった。こちらも目標達成ということになる。その高得点に思わず鈴が感嘆の声を上げた。
「最後、桜井」
「私、は……」
鈴が恥ずかしそうに口ごもる。それから意を決して、
「私は、四五点です」
鈴の言葉に琴音とカノンがホッと胸をなで下ろした。鈴の目標点は三〇点だったのだ。こちらも大幅な点数アップである。
「先生、約束です。大会出場の許可をください」
カノンの言葉に琴音と鈴が頭を下げる。その瞬間、木村の硬かった雰囲気が一瞬だけ和らいだ気がした。
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