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第四音
第四音⑤
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作戦二日目の翌日。
鈴たち『ルナティック・ガールズ』は木村に会うため職員室の前へとやって来ていた。
「じゃあ、打ち合わせ通り行こう!」
鈴の言葉にカノンと琴音が頷く。
コンコン。
「失礼します」
鈴がノックをし、扉の向こうに声をかけてからゆっくりと扉を開ける。それから出入り口にいちばん近い場所にいた先生に声をかけた。
「木村先生をお願いします」
「木村先生? ちょっと待っててね」
鈴に声をかけられた若い女教師が職員室の奥、木村の席へと向かう。そこで何かしらを木村と話すと、鈴たちの方へと視線を投げかけてきた。その視線を追うように木村も視線を向けてくる。鈴たち三人はその視線を受けて、木村へと会釈をした。
木村はそれを見ると席を立ち、鈴たちの元へと歩いてくる。
「どうした? バンドガール」
「ガールズバンドの大会について、もう一度お話があります」
「ほう」
鈴の言葉に木村はため息のような相づちをすると、三人に先を促した。三人はそれぞれ、昨日話していたことを木村に告げていく。それはつまり、鈴は数学を、カノンは生物、琴音は英語のテスト対策を行い、テスト週間初日には去年の過去問を行うと言うものだ。
「私は赤点を取らないために、目標は三〇点でいきます」
「私は七〇点」
「わ、私は五〇点、です」
鈴の言葉を継いでカノン、琴音の順に目標の点数を告げる。それを聞いた木村の目が細くなる。その鋭い眼光に気圧されてしまうものの、鈴ははっきりとこう宣言した。
「過去問の点数がそれぞれの目標点を下回った場合、私たちは大会出場を諦めます! でももし、目標点を取ることができたときは……」
「私たちの大会出場を認めてください」
「お願いします」
鈴の言葉の後にカノンと琴音が続ける。そして三人は深々と頭を下げた。木村はそんな三人の様子を見ると、
「分かった」
「じゃあ……!」
「ただし、お前たちのやる過去問については先生が用意する。その過去問で、さっき言った目標点数を超えてみせろ」
木村の言葉に三人は絶句してしまう。しかし木村はこの条件を譲ろうとはしない。
「どうする? やめるか?」
木村からの問いかけに三人は顔を見合わせた。三人の目に迷いはない。小さく頷き合うと、
「分かりました」
「その条件でやります」
鈴とカノンの言葉に琴音も大きく頷いた。
「決まりだな。過去問をやる日程はお前たちが決めた、テスト週間初日でいいな?」
木村の問いかけに三人は頷く。木村は分かった、と言うと、
「テスト週間初日に長谷川の教室に行く。そこで過去問を一斉に受けてもらうからな」
そう言い残すと、職員室の中へと消えていくのだった。
「緊張したぁ~……」
木村が職員室の中へと消えてからしばらく後、琴音が全身の力を抜いてそう言った。
「お疲れ様、琴音。よく頑張ったね」
カノンはそう言うと琴音の背中へと手を回した。鈴もそんな琴音とカノンを見て、
「教室に戻ろう」
そう言うとカノンの教室に向けて歩き始めた。
教室に戻ってきた三人は誰からともなく机を付き合わせると、下校時刻まで一緒に勉強することにした。その日の授業の復習に課題、翌日の授業に向けての予習など、高校生はやらなくてはならない勉強が山のように積まれている。期末テストが終わるまでの間、鈴たち『ルナティック・ガールズ』は全てとはいかなくとも、これらの勉強を真面目にやっていくつもりだった。
机を突き合わせた後、
「あ、私、ちょっと席を離れるね! 先に進めておいて!」
琴音は何事かを思い出したのか、そう言うとカノンのクラスを後にした。
「琴音、どうしちゃったんだろう?」
「さぁ?」
残された鈴とカノンは顔を見合わせた。しかし琴音のことだ、心配はいらないだろう。二人はそう結論づけると、とりあえず今日やった授業の復習を始めるのだった。
それから数分後。
「お待たせ!」
「もう、琴音……、どこに行っていたの~?」
戻ってきた琴音の声にノートと向かい合っていた手を止めて、鈴が顔を上げた。しかしその顔はすぐに驚きへと変わってしまう。
「よう」
「和真、くん……?」
そう、琴音の傍に立っていたのは紛れもなく鈴へ告白をしてきた小林和真、その人だった。鈴はその存在を認識した瞬間、ガタッと音を立てて席を立つ。それから教室を飛び出そうとした。
「どこに行くの? 鈴」
「逃げるっ!」
「逃げない、逃げない」
カノンの言葉に鈴が即答するのを、その両肩に手を置いてカノンは鈴を逃がさない。
「カノンっ? ヤダ、ヤダ! 離して!」
「離しません。勉強するんでしょ? 鈴。おとなしく座って。それにその態度は、小林くんに失礼でしょ?」
「うっ……」
カノンに指摘された鈴はぐうの音も出ない。そのままストンと席に着く。鈴がおとなしくなったのを見て、カノンが琴音を見やった。
「それで、琴音。どうして小林くんが?」
「んと、あのね」
カノンの質問に琴音が答えていく。
和真はスポーツ万能な上、成績も優秀なのだそうだ。その上、教え方がうまいと周囲からの評判もある。
「だから、和真くんにもテスト勉強に参加して貰おうって思って」
それで琴音は和真を探し出し、連れてきたのだという。もちろん和真に用事があるときは不参加になってしまうのだが、そうでなければなるべく参加してくれるそうだ。
「そうなんだ。心強いね。よろしく、小林くん」
「うん」
「ほら、鈴も」
カノンに促される形で鈴もぎこちなく挨拶をした。
「よ、よろしくお願いします……」
「よろしく」
鈴の言葉に和真も言葉少なに返す。
こうして『ルナティック・ガールズ』に加えて和真という力強い味方と共にテスト対策を進めていくことになるのだった。
鈴たち『ルナティック・ガールズ』は木村に会うため職員室の前へとやって来ていた。
「じゃあ、打ち合わせ通り行こう!」
鈴の言葉にカノンと琴音が頷く。
コンコン。
「失礼します」
鈴がノックをし、扉の向こうに声をかけてからゆっくりと扉を開ける。それから出入り口にいちばん近い場所にいた先生に声をかけた。
「木村先生をお願いします」
「木村先生? ちょっと待っててね」
鈴に声をかけられた若い女教師が職員室の奥、木村の席へと向かう。そこで何かしらを木村と話すと、鈴たちの方へと視線を投げかけてきた。その視線を追うように木村も視線を向けてくる。鈴たち三人はその視線を受けて、木村へと会釈をした。
木村はそれを見ると席を立ち、鈴たちの元へと歩いてくる。
「どうした? バンドガール」
「ガールズバンドの大会について、もう一度お話があります」
「ほう」
鈴の言葉に木村はため息のような相づちをすると、三人に先を促した。三人はそれぞれ、昨日話していたことを木村に告げていく。それはつまり、鈴は数学を、カノンは生物、琴音は英語のテスト対策を行い、テスト週間初日には去年の過去問を行うと言うものだ。
「私は赤点を取らないために、目標は三〇点でいきます」
「私は七〇点」
「わ、私は五〇点、です」
鈴の言葉を継いでカノン、琴音の順に目標の点数を告げる。それを聞いた木村の目が細くなる。その鋭い眼光に気圧されてしまうものの、鈴ははっきりとこう宣言した。
「過去問の点数がそれぞれの目標点を下回った場合、私たちは大会出場を諦めます! でももし、目標点を取ることができたときは……」
「私たちの大会出場を認めてください」
「お願いします」
鈴の言葉の後にカノンと琴音が続ける。そして三人は深々と頭を下げた。木村はそんな三人の様子を見ると、
「分かった」
「じゃあ……!」
「ただし、お前たちのやる過去問については先生が用意する。その過去問で、さっき言った目標点数を超えてみせろ」
木村の言葉に三人は絶句してしまう。しかし木村はこの条件を譲ろうとはしない。
「どうする? やめるか?」
木村からの問いかけに三人は顔を見合わせた。三人の目に迷いはない。小さく頷き合うと、
「分かりました」
「その条件でやります」
鈴とカノンの言葉に琴音も大きく頷いた。
「決まりだな。過去問をやる日程はお前たちが決めた、テスト週間初日でいいな?」
木村の問いかけに三人は頷く。木村は分かった、と言うと、
「テスト週間初日に長谷川の教室に行く。そこで過去問を一斉に受けてもらうからな」
そう言い残すと、職員室の中へと消えていくのだった。
「緊張したぁ~……」
木村が職員室の中へと消えてからしばらく後、琴音が全身の力を抜いてそう言った。
「お疲れ様、琴音。よく頑張ったね」
カノンはそう言うと琴音の背中へと手を回した。鈴もそんな琴音とカノンを見て、
「教室に戻ろう」
そう言うとカノンの教室に向けて歩き始めた。
教室に戻ってきた三人は誰からともなく机を付き合わせると、下校時刻まで一緒に勉強することにした。その日の授業の復習に課題、翌日の授業に向けての予習など、高校生はやらなくてはならない勉強が山のように積まれている。期末テストが終わるまでの間、鈴たち『ルナティック・ガールズ』は全てとはいかなくとも、これらの勉強を真面目にやっていくつもりだった。
机を突き合わせた後、
「あ、私、ちょっと席を離れるね! 先に進めておいて!」
琴音は何事かを思い出したのか、そう言うとカノンのクラスを後にした。
「琴音、どうしちゃったんだろう?」
「さぁ?」
残された鈴とカノンは顔を見合わせた。しかし琴音のことだ、心配はいらないだろう。二人はそう結論づけると、とりあえず今日やった授業の復習を始めるのだった。
それから数分後。
「お待たせ!」
「もう、琴音……、どこに行っていたの~?」
戻ってきた琴音の声にノートと向かい合っていた手を止めて、鈴が顔を上げた。しかしその顔はすぐに驚きへと変わってしまう。
「よう」
「和真、くん……?」
そう、琴音の傍に立っていたのは紛れもなく鈴へ告白をしてきた小林和真、その人だった。鈴はその存在を認識した瞬間、ガタッと音を立てて席を立つ。それから教室を飛び出そうとした。
「どこに行くの? 鈴」
「逃げるっ!」
「逃げない、逃げない」
カノンの言葉に鈴が即答するのを、その両肩に手を置いてカノンは鈴を逃がさない。
「カノンっ? ヤダ、ヤダ! 離して!」
「離しません。勉強するんでしょ? 鈴。おとなしく座って。それにその態度は、小林くんに失礼でしょ?」
「うっ……」
カノンに指摘された鈴はぐうの音も出ない。そのままストンと席に着く。鈴がおとなしくなったのを見て、カノンが琴音を見やった。
「それで、琴音。どうして小林くんが?」
「んと、あのね」
カノンの質問に琴音が答えていく。
和真はスポーツ万能な上、成績も優秀なのだそうだ。その上、教え方がうまいと周囲からの評判もある。
「だから、和真くんにもテスト勉強に参加して貰おうって思って」
それで琴音は和真を探し出し、連れてきたのだという。もちろん和真に用事があるときは不参加になってしまうのだが、そうでなければなるべく参加してくれるそうだ。
「そうなんだ。心強いね。よろしく、小林くん」
「うん」
「ほら、鈴も」
カノンに促される形で鈴もぎこちなく挨拶をした。
「よ、よろしくお願いします……」
「よろしく」
鈴の言葉に和真も言葉少なに返す。
こうして『ルナティック・ガールズ』に加えて和真という力強い味方と共にテスト対策を進めていくことになるのだった。
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